岩手県教育長 法貴 敬 様
2010年2月18日
日本共産党岩手県委員会
県委員長 菅原則勝
県議会議員 斉藤 信
今後の高等学校教育の基本的方向(案)に関する申し入れ
県教育委員会が昨年12月24日に公表した「今後の高等学校教育の基本的方向(案)」は、「概ね10数年先を展望して…今後の高校教育における基本的な考え方と方向性を示すもの」として極めて重要なものです。すでに各地域で行政、教育関係者から「意見を聴く会」や「住民説明会」が開かれ、貴重な意見も出されています。
昨年総選挙で自民党政治が退場に追い込まれ、教育政策も大きな転換が求められています。こうした中で、「概ね10数年先を展望」した「高校教育基本方針」を策定するというなら、これまでの自民党政治による教育政策の延長線上ではなく、県民の願いと県民的な議論を踏まえたものにすべきであります。
今回の「今後の高等学校教育の基本的方向(案)」には、看過できない重要な問題点が少なくありません。以下指摘する課題と問題点について検討し、「今後の高等学校教育の基本方向(案)」を抜本的に見直すよう求めるものです。
第一に、岩手の高校教育の状況の分析が極めて一面的で、教育政策上の問題も示されていないことです。「基本的方向(案)」では、教育を取り巻く環境が大きく変化し、「子どもたちに夢や目標を持ちにくくさせ、人間関係を取り結ぶ能力の低下や規範意識の希薄化、忍耐力・継続力の低下、自律性や学習意欲の低下などその心身に変容をもたらすとともに、基本的な生活習慣をはじめとした生活基礎力そのものを危うくしているなどの課題が指摘されている」と一面的で否定的な評価を下しています。ところがその教育政策上の要因・問題点は全く示されていません。さらに、「岩手においては、高校生をはじめとして子どもたちの変容は進んでいますが、地域や家庭、学校の努力により、実直で勤勉な県民性を受け継ぎ、素直でまじめな資質が培われています」と述べていますが、具体的根拠もなく矛盾した評価となっていることは問題です。とくに、「授業がよくわかる」「だいたいよくわかる」と回答した生徒が約4割にとどまっている要因と解決策を示すべきです。
第二に、高校教育の目的を「自立した社会人としての資質を有する人財(生徒)の育成」としていることは、「人格の完成」を教育の目的としている教育基本法の立場に反するものです。人材の育成が教育の目的ではありません。人財と書き換えても本質と内容が変わるものでもありません。一人ひとりの成長と発達を保障し、「人格の完成」を教育の目標としてしっかりと位置付けるべきです。
第三に、「目標達成型の学校経営の推進」を掲げ、PDCAサイクル企業経営の手法を導入して学校教育に市場原理主義を強めようとしていることです。学校経営の目標を校長が決め、学校の主人公である子どもが不在の上意下達の学校システムとなりかねません。新自由主義・市場原理主義に基づくこうした方向を改め、子ども、教職員、保護者、地域住民に開かれた民主的な学校運営こそ進めるべきです。
第四に、県民が最も心配している問題は、地域と結び付いた小規模校がなくなるのではないかという問題です。「基本的方向(案)」では、「望ましい学校規模を、1学年4〜6学級程度とします」と明記する一方で、「今後、1学年3学級以下のいわゆる小規模校の対応」については、「教員の相互派遣や校舎制など様々な可能性を検討する」として本校、分校として存続させることに否定的な方向を示しています。これは、「本校は全校で240人、分校は全校で100人を下らない」とする高校標準法にも反するものになりかねません。小規模校の積極的な成果と役割を正当に評価し、必要な教員配置を行い地域と結び付いた小規模校の位置づけを明記すべきです。
第五に、世界的にも異常な40人学級に固執することなく、少人数学級を展望し、踏み出すべきです。鳩山政権も2011年度から少人数学級に踏み切る方向を明らかにしています。 「政治を変えたい」「子どものための教育を実現したい」という国民の願いが自民党政治を退場に追い込みました。民主党中心の政権が誕生し、「高校授業料の実質無料化」や「OECD並みの教育予算(1.5倍か)と教員増」などの教育政策の転換が示されています。
今、高校教育の基本方針を検討するなら、これまでの貧困で反動的な自民党流の教育政策の延長線上ではなく、憲法と子どもの権利条約を踏まえた教育政策に転換し、すべての青少年に高校教育を保障するものにすべきです。競争主義、差別と選別、高校間格差を拡大する高校多様化政策を見直すべきです。
第六に、地域と結びついた高校と教育の問題は、医療の問題とともに地域の存立にかかわる重要な問題です。それだけに、地域住民、自治体との十分な議論と合意形成を踏まえて進められるべき問題です。
これらの提起した問題点について十分検討し、抜本的に見直しを行うよう求めるものです。