2010年10月20日 決算特別委員会
農林水産部(森のトレー問題)に対する質疑大要


1、 森のトレー訴訟で明らかになったことについて

【斉藤委員】
 トリニティ工業に債務・日産50万個の製造を保障する「品質保証責務」と「数量保障責務」は存在しないという判決―これは組合にこそ責任があったということではないか。

【林業振興課総括課長】
 今回の判決は、組合の意図を適切に盛り込んだ契約書、使用書等が作成されていないということから、トリニティとの関係では、組合が主張するようなトレー製品の品質と数量を保障する合意の成立は認められないという内容で判決されている。
 そういったことから、この契約自体、実質事業主体であるトレー組合が本来行う業務であるので、トレー組合が適切に対処すべきである。これを適切に行わなかったという点でトレー組合に責任があると言わざるを得ないものである。

【斉藤委員】
 結局は、トリニティには債務の責任はなかったと。まさに森のトレー組合にこそ大きな問題があったということである。
 トリニティ工業となぜ、どういう経過で契約したのか、だれが紹介したのか。

【林務担当技監】
 平成11年6月ごろ、組合では製造ラインの自動化を図るべく、自動化ラインの設備を製作できる複数の業者に生産方式の提案を依頼したところ、トリニティ工業からトレー組合の意向に沿う製造ラインの自動化の提案があった。
 トリニティ工業については、トレー工場の設置・整備にあたり、車両関係の受注を受けようとして、トヨタ関係の販売店の営業マンが組合を訪れていた。この営業マンからトヨタ系列のトリニティを紹介されたと聞いている。
 いずれ最終的には、11年7月に組合の理事会において、トリニティ工業の規模や技術力等も高く評価できるということで、採用が決定されたと承知している。

【斉藤委員】
 自動化の必要性は誰が提案したのか。

【林務担当技監】
 この事業を実施するにあたり、コンサルタントの診断を受けている。そのコンサルタントから、発泡スチロール製のトレーとの競合になるわけなので、1円でも安く作るためには、人員をできるだけ減らすべきという指導があった。そういうところから自動化を図るものとなった。

【斉藤委員】
 ここがポイントである。どこのコンサルタントか。なぜ自動化が提案されたのか。ここに大きく計画が変わるポイントがある。

【林務担当技監】
 先ほど述べた通り、事業の実施にあたり計画内容を第三者に見てもらうということで、コンサルタントの診断を受けた。その経営診断の発注先は、全国林業構造改善協会というところだが、実際に助言等を行ったのは、株式会社MTカンパニーというコンサルタントである。

【斉藤委員】
 ここで東京がからんでくる。地元の発想から、東京がからんだ補助金食い物の作戦が始まる。
 今度の裁判で、100対0の判決が下ったということは、この事業が全くデタラメだったということを示している。だから改めてこの事業を総点検すべきである。あの裁判の結果は、訴訟に値しなかったということである。
 判決の中には、長内の立場・役割、長内という人が25カ所も出てくるが、長内という人はどういう人か。

【林務担当技監】
 久慈市の建築設計士だと記憶している。

【斉藤委員】
 長内さんは森のトレー事業でどう関わった人か。裁判で徹底してやられている。

【林務担当技監】
 長内さんは、この事業にあたり、工場等の設計を行った方である。

【斉藤委員】
 長内氏の名前が25カ所も出てきて地元もびっくりしている。
 判決では、「長内は単なる第三者ではなく、原告の代理人あるいは受任者として―」と。きわめて重要な役割を果たした。この彼がからんで東京との関係が作られていったと思う。
 新潟の本間組が、森のトレー組合の事務所建設を約6億円で受注した。なぜ新潟だったのか。

【林務担当技監】
 建物の受注者については、基本的に久慈市の市役所のほうで指導し、市の基準に準じて指名競争入札をしたとなっている。

【斉藤委員】
 市の指導でなぜ新潟の業者が受注するのか。結果は入札しただけの話ではないか。やはりこの森のトレーの補助金を食い物にした構図だと思う。


2、森のトレー事業が計画された経過について

【斉藤委員】
 平成10年6月に岩手林在(株)社長(森のトレー組合理事長)が森のトレーの事業化を久慈振興局に持ち込んできた。この経過はどうだったか。経済対策・林構事業を含めだれから持ち込まれた計画か。

【林務担当技監】
 平成10年6月に、現トレー組合理事長である、岩手林在の社長から木製トレーの製造について事業化したいという構想が久慈地方振興局に持ち込まれたのが最初である。その後、通常の林業構造改善事業を導入して実施すべく、7月から9月にかけて、岩手林在の社長さんを中心に事業計画の策定作業を進めた。その中には、関係者や振興局等も交えた検討会も設置して事業化について検討を進めていた。
 その後、国で景気対策・林構事業、これは補正予算で結果的に創設されたわけだが、そういった補正予算の話があり、それでは景気対策・林構事業を導入しようということで、あわただしく事業計画を詰めていったという経緯である。

【斉藤委員】
 平成10年8月、6億円の事業だった。1ヶ月後の9月には40億円の事業にしようとなった。11月には24億円の事業計画で予備協議に至っている。最終的には26億9千万円の事業に(平成11年7月6日)なった。この6億円から40億円の事業になったという背景は何か。

【林務担当技監】
 事業費の金額の推移については、委員ご指摘の通り我々も承知しているが、そういった事業費が増減したというのは、補助事業を導入すべく計画を詰めていった段階で、その都度いろいろ動いたものだと思っている。

【斉藤委員】
 その都度動いたのではない。6億円の事業のときには庄内鉄工が対象で、ある意味でいけば堅い計画だった。1ヶ月後に40億円でやるとなった。そしてそのシナリオに基づき事業化の話が出てくる。当初は岩手県も「40億円はムリだ」と、15億円で交渉していた。林野庁は「もっと縮減すべき」と言っていた。この40億円という発想がなぜ出てきたのか。

【林務担当技監】
 6月に構想が持ち込まれ、8月の打ち合わせでは、当時の県庁の木材振興課と久慈振興局も交えた打ち合わせの中で、その時点では6億3千万円という話に、そして9月には24億円の要望が出された。
 実際に林野庁に対しては、委員おっしゃる通り15億円で県としては持っていった。ただ、15億円でも国からは「事業規模を縮小せよ」という指導があった。そしてその後10月には、今の組合の理事長から、発泡スチロールのトレーとの競合になるということで、スケールメリットを追求しなければいけないということで、40億円の事業費でやりたいという希望が出された。11月には、さらにそれが24億円に圧縮され、国との協議はその24億円で予備協議がなされたということで、事業がその通りまだまだ固まっていない中で事業費がそのような経緯をたどったと承知している。

【斉藤委員】
 計画変更が失敗の転換点だった。6億円の事業を庄内鉄工とやろうとした。庄内鉄工は実績があった。それが40億円、最終的には24億円になったが、そうなったら庄内鉄工ではできなくなった。いろいろ手を使い、自動化が必要だと。そして知らない間に全然木材と関係ないトリニティが出てきた。これが失敗の転換点である。
 最初は林野庁もまじめだったと思う。15億円でも多すぎると指摘したので。しかし途中から対応が変わる。林野庁は、平成10年10月8日には、15億円でも事業縮小を求めたが、10月26日には、「実施可能な事業は極力前倒しで実施してほしい」「とにかく多少の無理をしても始めること」と言う対応を行った。林野庁が転換するにはそれなりの理由があったと思う。そういう形でこの計画は変質していく。
 その後の手続きはもっとひどい。12月11日付で事業計画協議の回答(1月4日)の前に内示が先に来た。こんなことはあり得ることか。

【林務担当技監】
 事業費の推移のところで付け加えさせていただきたいのは、平成10年の段階においては、トリニティということは一切出てきておらず、庄内鉄工で進めるという中での計画である。トリニティが登場したのは、翌年の6月であるので、その通り事業計画の規模が動いたのだが、それはあくまで庄内鉄工での計画ということでご理解いただきたい。
 平成10年10月27日付で、林野庁からの「景気対策臨時緊急特別枠にかかる事業の組み換えとなるさらなる事業の掘り起こしについて」という文書の中で、林野庁から事業の掘り起こしを検討するよう通知があり、この時点から事業費の縮小に関しては林野庁は言及も指導もなくなったと受け止めている。
 その後11月10日、県は林野庁と予備協議を行い、平成10年度の補正予算における林業構造改善事業と、11年度以降の通常の林業構造改善事業に分けて実施することとなったものである。
 事業計画の協議の回答前に内示があったことについては、当時補正予算による景気対策事業として、拙速にこの事業実施を進める中で、そのような日付の整合性がとれないものとなったということで、これはまったく異例というか、これだけのことだと受け止めている。

【斉藤委員】
 最後の答弁が大事である。こんな異常なことはこの時しかなかったと。本当にこれは重大だったと思う。つまりこの事業の破たんは林野庁がらみなのである。そのことは、はっきり報告書にも明記しなければならない。


3、森のトレー事業の問題点について

【斉藤委員】
 破たんすべくして破たんしたと、これは判決でも指摘しているが、事業計画の妥当性がなかった。事業計画が拙速で、技術的にも根拠がなかったのではないか。
 資金計画にも根拠がなかったのではないか。だから農林金融公庫は融資しなかった。
 販売計画に根拠があったのか。日産50万個の販売について、兼松日産農林(株)が50%買い取る契約は本当に存在したのか。その後これはなくなった。
 事業計画、資金計画、販売計画について、まったく根拠がなかったのではないか。

【林務担当技監】
 事業計画の妥当性だが、森のトレー事業の構想が平成10年6月に事業者から久慈地方振興局に申し込まれてから、経済対策の事業を実施することになるまで約半年しかないと、そういった形で拙速に事業計画が策定されるなど、こういったことについてはやはりまずかったということは否めないと思っている。技術については、庄内鉄工において、単体においては木製トレーができるという技術は確立されていたが、今回の事案のように大量生産するまでの技術は果たして確立されていたかということについては、立証が不十分だったと受け止めている。
 資金計画については、本事業はおよそ27億円、これに土地代を含めるともっと大きくなるわけだが、その通り事業費が大きい中で、自己資金が設立で1000万円ということで少なかったため、補助残融資について当時の農林漁業金融公庫からは借入金が大きすぎることを理由に融資が断られるなど、金融機関からの借り入れも難航した。したがい、事業計画策定時の資金計画に相当無理があったと考えている。
 販売計画の根拠だが、兼松日産農林(株)との間で、同社がトレー生産数量の50%を販売するという販売提携契約が締結されていることは事実である。ただ、その通りトレーが順調に生産されなかったために、結果としてこの販売計画は最後まで実現されることはなかった。

【斉藤委員】
 指摘したように、事業計画、資金計画、販売計画に全く根拠がなかった。それを市を通り越して組合と県が進めた。久慈市が知ったのは半年後である。そのときには、計画書は久慈市の名前を使ってやられていた。これは久慈市議会でもはっきりしている。あなた方はパートナーシップなどと言っているが、久慈市をミスリードした。そういう責任があるから、3分の2の返還を免除した。裁判が本当の理由ではない。そこをはっきり報告書に示すべきである。


4、国・県の責任と国への返還金の問題について

【斉藤委員】
 森のトレー事業破たんの責任の度合いは、国、県、市、事業者にそれぞれどうなるか。責任の度合いに応じて返還すべきではないか。県民には責任がない。裁判が負けたから、15億円は県民に負担してもらうということにはならない。県警の不正経理2億1500万円、県警は2000万円返した。この不正に関わらない幹部職員も返している。県の不正支出のときもそうである。今度は15億円である。
 処分したというが、減給額はいくらか。知事・副知事・出納長の減給処分額はいくらか。処分といっても、減給処分はたった2人、戒告8人である。処分のうちに入らない。
 それから理事長の資産について、久慈市議会で明らかになったのは、28カ所の資産のうち事業中断前後に19カ所の資産が処分されている。これは重大である。徹底して調べるべきではないか。

【林業振興課総括課長】
 平成16年当時の処分にかかる職員の減給額については、実額というものは把握していないが、減給処分を受けた者2名のうち、1名は10分の1の減給3ヶ月のほかに期末勤勉手当等でも減額処分されている。もう1名は10分の1の減給1ヶ月についても同様だが、詳細な金額については把握していない。
【農林水産部長】
 責任の度合いだが、組合については、今回の契約において、契約の意図を適切に盛り込んだ契約書あるいは使用書を作成しなかったというようなことで組合に責任があると考えている。
 県についても、そういうことについて適正な指導監督あるいは業務遂行上の必要な検証を行わなかったということで責任があると考えている。
 久慈市については、関わり合いは委員ご指摘の通り非常に薄いわけだが、これも久慈市としての完了責任調査などについて指導監督の責任があると考えている。
 しかしながら、それぞれどのぐらいの度合いかについては、負担割合というものは定められるものではないと考えている。ただし、3分の1返還、3分の2返還にあたっては、関わりの度合いに応じて負担の割合についていろいろ検証しつつ、財源的な先行返還の負担を決めた。
 組合の資産について。久慈市と組合との関係できちんと確認してもらう形になると思う。

【斉藤委員】
 15億円の県民負担については、部長は職責から答弁する立場でないと思う。平成17年に処分したといっても、減給処分になったのはたった2人である。戒告などというのは処分に入らない。そして知事の処分は、これだけで処分したわけではない。そういう意味では明日きちんと知事に出ていただき、この15億円の負担のあり方、処分が妥当だったのか、現段階で県の責任はどうあるのか、行政には継続性があるので。これは県民にはまったく責任のない話である。15億円もあったら大変な仕事が県民のためにできる。この問題については、知事の出席を求めて、15億円の負担問題について審議すべきである。

【農林水産部長】
 私が答弁する権限がないというお話だったので、私の答弁の基になっているのは、今回先の総括質疑で、宮舘副知事が「この件に関して国庫補助金の返還命令を受ける原因となった、いわて森のトレー生産共同組合への指導監督等が不十分だったことについて、すでに関係者の処分等が行われているところであり、さらなる処分は考えていない」と答弁していることを受けた答弁である。

【斉藤委員】
 まず15億円の県民負担は認められないということである。その点について部長は答えられない。そして平成17年の処分で済んでいるということにも妥当性がない。そんな甘いことではいけない。
 県の不正支出ときでももっと額は小さかった。関わっていない県職員も負担した。今回は15億円である。まったく負担しない、責任を負わないということはあり得ない。
 そういう趣旨できちんと検討して、知事の出席を求めていただきたい。