2010年10月29日
簗川ダム問題学習会での報告(大要)


 実は、簗川ダムは二重の意味で大事なんです。国がダム事業を見直しをすると、「コンクリートから人へ」だと。それでこのダム事業見直しの対象に、簗川ダム、津付ダムの2つが対象になったわけです。そして国が、ダム見直しの基準というものを9月末に定めて、「ダム以外の治水案を出して検討しなさい」となっています。今、県がダム以外の治水案を検討していますが、これは11月半ばぐらいに示されて、それからパブリック・コメントをやって、県の大規模事業評価専門委員会で検討されるとなっています。簗川ダムを止めさせる絶好のチャンスを迎えています。
 もう1つは、来年は知事選、県議選、市議選がありますが、この選挙の最大の争点の1つ、県政の最大のムダ使いが530億円の簗川ダムだと思っています。そういう意味で、この問題で新婦人の皆さんが大変粘り強くずっと学習や現地調査などに取り組んでおられることに心から敬意を表したいと思います。
 資料をいくつか渡してあります。私のレジュメと関連資料、本邦初公開の資料もあるので後で見てもらうとタメになるというものもあります。それから「まるごと簗川」という資料を簗川ダム事務所からもらってきたのですが、全体像を見る上で大変わかりやすいものです。

1.住民不在、ダムありきで進められた簗川ダム事業

 まず最初に、簗川ダムというのはどういう形で進められたのかということからお話したいと思います。結論から言うと、先にダムありきで、我々の知らない間にダム計画が進められてきたと。もう1つは、行政というのは川を見ればダムをつくりたいんです。次々にダムをつくってきて、最後が簗川だったと。盛岡の川で上流にダムのない川というのは簗川しかない。ある意味でいくと、ダムのある川とない川を比較する上でも簗川には絶対ダムをつくってはならないと思いますが、資料の「簗川ダムの事業概要」というのがありますが、「ダムの事業経過」の4のところで、始まったのが昭和53(1978)年の4月です。県単独の費用で、予備調査に着手したと。このときからダムをつくるための調査が始まっているわけです。34年前です。そしてこれが国の事業として採択されたのが平成4(1992)年です。今から20年前に国の事業として採択された、事業としてここから出発するわけです。私たちはこの時点でまだ知らなかった。私たちが知ったのは平成13年です。事業が始まって10年経って、50億円を超える大規模事業は「再評価制度」をつくった。ちょうど10年経ったので、簗川ダムを再評価することになった。そのときは、実は340億円の事業が670億円になった。それで大問題になって皆に知れ渡ったのが平成13年です。ここから簗川ダムのたたかいが始まりました。それまでは知らなかった。土地の買収の対象になった地元の人は知っていたけれども市民的には知らなかった。簗川ダムのたたかいというのは、約10年余のたたかいになるわけです。
 2つ目の問題は、最初からダムをつくるための計画だということです。いろんな河川改修や治水対策を考えてダムが必要だということではなくて、最初からダムをつくる計画で始まったと。そのときのダムというのは、できるだけ大きいダムをつくりたいということで、多目的ダムだった。多目的ダムというのは、治水だけではなく、盛岡・矢巾の水も必要、農業用水も必要、発電もやると。こういう形で必要性が多ければ大きいほどたくさん水を貯めなければならない大きなダムになると。そういう大きいダムを計画したけれども、今どうなっているかというと、盛岡・矢巾は水余りです。減反で実は花巻の水田灌漑用水というのが入っていたのです。これはもういらないと。4割も減反しているので農業用水もいらないと。発電も採算がとれないと。残ったのは治水だけなんです。もう多目的ダムからほとんど治水専用のダムに変わってしまった。盛岡だけが、日量5000立方メートルの水を利用すると言っているのですが、実はこれはダム負担金を今まで出してきた分は水をもらうという姑息な話で、盛岡は今水が余っているのです。御所ダムがあって、あそこに水を確保していて1つも使っていない。だから簗川の水は全然必要がない。撤退すれば盛岡市はダム負担金を戻せるのです。そのことを堂々と本当は盛岡市は主張すべきだと思うんです。
 3つ目には、当初340億円でスタートしたのが、10年前に670億円に倍近くになって大問題になった。どこでもダムはこうなんです。最初は事業費を小さくして、始まったら大きくなると。670億円はあまりにひどいのではないかというので、今は530億円という事業費になっていますが、これは大変な岩手県の公共事業でいけば最大の公共事業です。

2.簗川流域の豊かな自然環境を破壊するダム建設

 大きな2つ目に、治水対策のダムになっていますから、治水対策のために本当にダムは必要かということです。戦後、高度成長のときは、ダムで治水をやってきた。あとは川があれば堤防をつくる、堤防で洪水を集めると。しかしこれが行き詰まってきた、なぜかというと、堤防だけで洪水を貯めると下流に全て流れてしまうと。ダムというのは、ダムをつくるから安全だというので下流の堤防の改修や治水対策をやらない。今の簗川ダムもそうです。10年に1回の洪水に対応する河川改修をやっているけれども、あとはやらないのです。そうするとダムの下流に大雨が降ったらどうするのかとなってしまう。そういう意味でいくと、ダムをつくれば安全だということにはならないわけです。局地的な集中豪雨があるので。
 ダムというのは何よりも、上流下流の広範囲にわたって環境・水質・生態系に影響を与えると。大規模な環境破壊です。これだけでも反対する価値があると思います。それで「流域に棲む動物・植物」、「簗川ダムの調査で確認された動物・植物」というので、表は簗川ダム事務所に出させたらあっさりした資料をよこしたのですが、この重要種というのは、岩手県のレッドデータブックに掲載されている貴重種です。それだけでも112種あります。その後をよく見てほしいのですが、自然保護課を通じてもらった資料ですが、112種というのはどういうものかというと、哺乳類でテングコウモリというのがVUとあります。環境省版レッドリスト、全国的なレッドリストからいうと、VUというのは絶滅危惧U類です。岩手県の場合はABCDで評価していますが、岩手レッドデータブック掲載種のA〜Cランクがどういうものかというと、Aランクは「絶滅の危機に瀕している種」、Bランクは「絶滅の危機が増大している種」、Cランクは「存続基盤が脆弱な種」となっています。例えば鳥類のところで、オジオロワシも飛んでいます。オオワシ、クマタカ、クマタカはあの場所で繁殖しているんです。イヌワシも飛んでいます。ENというのが、絶滅危惧の全国的にもIB類というもっとも絶滅の危険度が高いものです。NTが準絶滅危惧種となりますが、サクラマスは全国的には準絶滅危惧種なのです。これを見ていただくと本当に貴重な動植物がたくさん生息していることが分かると思います。昆虫類、植物も全部ここに載っています。このぐらい簗川・根田茂川流域は貴重な動植物が生息している。おそらく盛岡市で一番自然環境が豊で、守られているのがあの流域です。そこがダムで水没する、そういうことでいいのか。
 もう1つは、ダムをつくると、山から流れてきた土砂が止められてしまう。下流に行かなくなってしまう。栄養分が行かなくなるわけです。そうすると、下流の川が死滅してしまう。早池峰ダムがつくられたところで、早池峰ダムの下流は魚がいなくなってしまった。いま生息している貴重な動植物が水没したり破壊されるだけではなく、ダムをつくることによって、上流も下流も死んだ川になってしまうということです。
 もう1つおもしろい資料があるのですが、簗川がアユの全国清流度で準グランプリに輝いたと。これはびっくりしました。10月13日付の岩手日報ですが、「清流めぐり利きアユ会」という河川の水質を競うコンテストで、初めて簗川の漁協関係者がエントリーして40匹のアユを出したら、準グランプリをとった。評価基準は、アユの姿・香り・腸・身・総合と。それで準グランプリということは、記事にも書いていますが、「川魚だけではなく野鳥の宝庫とも言われており、豊かな河川環境が維持されている」と。アユを通じた清流度では、全国第2位の川だと。先ほどのサクラマスのビデオで「宝の川」というのがありましたが、サクラマスが戻る川も清流なのです。そして、アユが戻ってきているし、そこで食べている物、川の清流度が素晴らしいと。こういう川を死滅させていいのかというのが問題になってきます。そういう意味で、本来ダムというのは、いろんな治水対策を考えて最後の手段でなくてはならない、それが最初からダムありきで進んでいるところに一番の問題があります。

3.簗川の特性に合った流域全体での治水対策を

 治水対策はどうあるべきかということになりますが、簗川の特徴に合わせた治水対策が必要です。資料の一番最後のところに、「簗川ダム計画の問題と簗川の治水対策」というのを載せています。これは大変大事な資料で、6年前に簗川ダムの問題に取り組んだときに、「国土問題研究会」という全国のダムを調査している専門家に頼んで、科学的な調査をしていただきました。川を丹念に調査して、洪水の危険が高いところ、過去に洪水があったところなど川の流れを全て調べていただき、簗川はそういう実態から、どういう治水が必要かという報告をまとめていただきました。これは今でも通用するバイブルです。今日はそのエッセンスだけをコピーしてきました。「簗川の治水対策のあり方」と書いていますが、「20世紀の治水における主要な矛盾―連続堤防方式と超過洪水時の危険性の増大」というので、何でも堤防に閉じ込める治水というのは失敗したということで、「20世紀の終盤には、このような問題に対する反省がなされた。すなわち、河川審議会によって1977年に、都市河川に対する総合治水対策が、1987年に超過洪水対策が、2000年には総合治水対策というのが提起されて、一般の河川に適用する流域治水というのが答申された」と。いわば、流域治水というのは、簗川全体の流域で洪水対策を考えるということです。総合的治水というのは、いろんな治水の対策を組み合わせるものです。そして超過洪水というのは、簗川は100年に1回の洪水に対応するように検討されていますが、200年に1回の雨が降るかもしれない。ダムの場合は100年に1回の洪水を超えたらあふれてしまう。そしたら超過洪水に対応できない。もう1つは、ダムの下流でそういう雨が降ったら全く対応できない。だから予想を超えた雨が降っても被害を軽減できる対策というのが超過洪水対策です。
 そういうことを考えたときに、簗川の場合はどういうことが必要かということで、@河川にはそれぞれ特有の個性がある。その河川に合った治水対策を考えるA過去の洪水時の流況や水害の実態を重視B適切な基本高水流量を設定するとともに計画を超える規模の洪水が発生した場合にもりんちゅう堤の整備や的確な計画避難体制の構築など、いわゆる超過洪水対策を考える必要があるC総合的治水対策の基本に、土地利用計画を適正に組み込むことが必要だと。危険なところには住まないとか、農地は遊水地として活用するとか、そういう土地計画が必要だと言っています。そして「ダムは水質の悪化を招き、河道や海岸にまで大きな影響を及ぼす。また貯水池周辺の動植物もさまざまな影響を受ける」と。だから、ダムは本来最後の手段であるべきだということを言っています。
 簗川の特徴ですが、「終わりに」というところで、「簗川の地形的特徴とダム計画」とあります。「簗川は流域面積148.3平方キロメートル、流量延長37.1kmの一級河川で、下流から約13キロ地点で根田茂川が合流している。合流点上流の簗川の流域面積は35.1平方キロメートル、根田茂川の流域面積は82.1平方キロメートルある」と。いわば、根田茂川流域が簗川流域の倍以上あるのです。そして簗川流域というのは勾配が急で、根田茂川は距離も長いし流域面積も大きいのでゆっくり流れています。根田茂川は多少の雨が降っても濁らないと言われています。つまり、同じように雨が降ったときには、簗川の洪水が先に来て、根田茂川の洪水が後に来るのです。自然の流れで洪水を調節できる川です。ところが合流地点にダムをつくったら、洪水のピークを合わせてしまう、こんな不合理なダムはないということです。
 「まるごと簗川」という資料をお配りしていますが、流域面積の地図を見てみると、根田茂川が分かれているところがあります。根田茂川というのは毛無森まで続いています。本当に奥深い川で、資料を全部見開いて見ると、北上川があって、点線で囲んでいるところが人が住んでいるところです。あとはほとんど農地や山です。この点線で囲んだところが洪水から守られれば人命は守られるということです。
 簗川で一番大事なのはそういう特性、もう1つは、人口密集地帯の北上川合流地点から約3キロ、特に1キロ地点が東安庭の堤防で守られている一番人口の多いところです。ところがあそこの川幅は基本的に100年に1回の洪水を流せる川幅です。堤防が決壊しない限り大丈夫なのですが、平成14年の台風で堤防は決壊寸前までいきました。あのとき降った雨量は335ミリで10年に1回の雨だった。それで堤防が壊れたらどうしようもない、だからダムよりまず堤防が決壊しないように強化するということは、ダム賛成派も反対派も共通した認識です。
 もう1つ簗川の河道の特徴というのは、簗川は0.9キロより上流は掘り込み河道だと言っています。掘り込み河道というのは、住宅地よりも下を流れる、だから溢れても戻る川なので大きな洪水にはならない。洪水で危ないのは、堤防で守られていて住んでいるところが低いところです。そして0.9キロより上流は、10年に1回の洪水に対応するように河川改修されていますが、河道を掘削したりすればさらに安全度を高めることができると言われています。そうした簗川の特性に合わせた治水対策というのが大切だということです。
 「ダムに頼らない治水対策」というところで結論を述べていますが、1つは、人口密集地帯の最下流部、これは北上川から0.9キロ区間ですが、ここは破堤しにくい堤防に強化することが決定的に重要だと。0.9キロから3.9キロの区間というのは、護岸天端高が1〜2m、護岸天端高というのはだいたい余裕高があります。10年に1回の洪水よりもさらに治水安全度は高まっていると。さらに安全度を高めようとすれば、必要な河道掘削をすればもっと安全度を高められるということです。3.9キロからダム地点というのはほとんどが農地で、だから逆に言うと、洪水のときに農地に溢れた方がいいのです。そうすれば下流への流量を減らすことができる。そういう意味で、遊水地的な役割を与えて、洪水のときには補償するとかそういう契約で土地利用計画を考えれば、簗川というのは今の自然の流れを生かした治水対策ができる川だということです。

4.簗川ダムは今からでも中止できる―川辺川ダム中止の経験を踏まえて

 最後ですが、今からでも簗川ダムは中止できます。ダム本体工事はこれからです。いま立派な付け替え道路、106号の簗川道路がほぼできています。あとは根田茂に行く県道もできています。平成24年開通の予定なので、あと2年後には開通します。いわば付け替え道路ができなかったらダム本体に手を付けられない。川も切り替えなくてはいけないので、川も切り替える工事が必要です。だからやはり数年先、数年はダム本体には手をつけられません。そのうちに中止させればいいわけです。
 事業費でいくと530億円のうちだいたい半分以上、280億円ぐらいは使っています。しかしダム本体はこれからなので、事業が進んでいるように見えてもう止まらないのではないかと思っていしまいますが、そうではありません。ダム以外の工事をやっているわけです。道路そのものは9割以上できているので、今さら止めろと言っても仕方がないので、逆に簗川道路を使ったら今の106号に溢れても全然問題がなくなります。そういうことも使えばもっと治水対策の幅は広がってくると思います。ダム本体を止めるだけで100億円以上は節約できます。
 もう1つは、ムダなダムと環境を守る住民運動と世論構築が決定的に重要です。せっかく国が「ダム見直し」というので見直しの作業をやっているわけですから、それを最大限活用して、そもそも治水対策にとってもムダなダム、そして大変な自然環境破壊です。この自然環境を破壊するダムはいらないと。こうした世論と住民運動をどう広げるかが決定的課題です。そして今パブリック・コメントをやっているので、今日みなさんに用紙も配っていますが、これは岩手県が作った用紙なので、どんな用紙でもいいです。皆さんが簗川について感じていることを率直に述べて、ぜひ声をあげていただきたい。実はパブリック・コメントは2回やります。国のダム事業見直しに間に合わなくて、通常の簗川ダムの再評価をやっています。そして11月に、国の「ダムに頼らない治水対策」を示して、どっちがいいかということをまた行います。今は前哨戦といったところで、前哨戦でも簗川ダムはいらないと、ダムに頼らない案が出たらさらにいらないという二段構えの取り組みになるのでやっていただきたいと思います。
 住民が知らないことが一番の問題です。知らせないで、知らないうちに進めるというのが行政の手法です。全国の経験を見ると、例えば熊本の川辺川ダム、これは国のダムですが、340億円から始まって3300億円のダムになりました。2000年の段階で、ダム本体を残して全部やってしまった、それでも住民が反対してこれはほぼ止まりました。中止になりました。2000年の段階でダムを残してほぼ事業をやったけれども、やはりムダなダム、自然環境を破壊するということで食い止めたと。これには2つ教訓がありました。住民討論集会というのを県に開かせた。国のダムだけれども、ダムの反対派と国の側で一緒に討論させる、これを5回6回やった。これに1000人近い人が集まり、やればやるほどダム反対の世論が広がりました。もう1つは、農業用水というのがあったんですが、農家の同意をとらずに農業用水をダムに入れたというので訴訟になり、勝利しました。そういうたたかいも含めて、ダム本体を残すところになっても止めさせることができると。全国百数十のダムが今中止になっています。国の治水対策も「ダムに頼らない治水」と方針は変わったのですが、今やっているところを変えるところまではいかない。これは我々の運動次第だということです。

5.ダム建設の背景にある利権政治について

 最後の最後ですが、ダムが止まらない最大の理由は、利権政治にあります。胆沢ダムで、小沢事務所が「胆沢ダムは小沢ダムだ」とゼネコンを恫喝して、下請けに入った水谷建設から5000万円のヤミ献金を2回、小沢氏の秘書に渡したと。これは渡した人がそう言っています。全日空ホテルで2回、大久保秘書らに。下請けに入っただけで1億円です。簗川も、県道に入るところのトンネル工事、このトンネルは「西松トンネル」と言われています。24億円のトンネルですが、小沢事務所の天の声で西松建設がとったのです。簗川も利権の対象となりました。おそらく本体工事も本命が決まっていると思います。20年前から始まっている事業なので。やはり止まらない最大の理由は小沢利権政治です。これも徹底して政治とカネ問題を究明して、そういう利権政治を止めさせることと一体で、ムダと自然環境破壊のダムは止めさせなければならないということで、私からの問題提起にしたいと思います。