2010年11月4日
「簗川ダム建設事業の再評価にあたっての申し入れ」でのやりとり(大要)


【斉藤議員】
 今日は簗川ダム事業の再評価、今後の検証にあたって、知事宛と政策評価委員長、大規模事業評価専門委員長宛に、日本共産党県委員会と私、市議団を代表して神部市議が来ています。この後政策地域部長に申し入れも行います。県土整備部は所管の部なので、申し入れの内容については立ち入ったやりとりもしたいと思っています。
 簗川ダム事業は、平成13年に事業開始後、10年が経ち、条例に基づく再評価にかかったと。そのときに、340億円の事業費が670億円になるというので、盛岡市民にとってはそのとき初めて簗川ダム事業があったのだなと、そして事業費が倍近くになるというので驚いたというのが事の発端でありました。振り返ってみると、簗川ダムは昭和53年の4月、今から34年前に県単費で調査事業として着手されて、平成4年4月に国の事業として採択され始まった。だから最初からダムありき、簗川にダムをつくるという計画で進められたというのが経過です。10年後、5年後の再評価のときに、治水対策の代替案の検証もされていますが、ダム事業を進めるための治水対策の比較と、率直に言えばそういう中身になっているのではないかと思われます。
 具体的項目について立ち入って言いますが、第一は、「ダム建設が簗川・根田茂川流域の貴重な自然環境、河川の水質や生態系に与える影響を検討して、大規模な環境破壊となるダム建設は見直すこと」と。移植などの配慮を行うことから、再評価では環境等の状況および環境配慮事業についてaと評価されていることは全く不当だと。大規模に環境破壊を行うにもかかわらずa評価というのはどこから考えてもおかしい。今日は、簗川・根田茂川流域にどのような貴重な動植物が生息するかという資料を出していますが、大変なものです。重要種だけで112種、いわてレッドデータブック、日本のレッドリストに掲載されるような貴重種がたくさん生息しています。おそらく盛岡の中でももっとも貴重な自然環境が残されている地域だと思っています。もう1つの資料は、10月に「アユに聞いた全国清流度」というので、簗川の漁協の方々が急きょ参加したら、簗川のアユは準グランプリをとったと。アユの姿・香り・腸・身・総合の項目で川の清流度を測るコンテストで、40匹集めるのが大変だったという話をしていますが、急きょ応募した中で準グランプリに輝くような全国的な清流になっているし、NHKの「おば特」では、サクラマスが簗川の全ての支流に戻ってきて、60センチぐらいのサクラマスが産卵し生息していると。宝の川だとNHKでは放映されました。やはり豊かな自然環境、宝の川がダムがつくられることにより遮断、死滅してしまいます。そういう意味でいくと、移植すればいいということでは済まない大規模な自然環境破壊という問題も正面から、市民の目線でダム事業を進める立場ではなくしっかり検証する必要があるだろうと。早池峰ダムでは、ダムの下流では魚が住んでいないといわれる状況がすでに起きているので、アユも上流に登れない、サクラマスも戻れないことに実際になるので、そういう自然環境を破壊するダム建設というのはそういう意味でも第一に私たちは見直すべきだと思っています。
 第二は、「ダムに頼らない流域全体を考慮した総合的治水対策を検討すること」と。これは国の検証基準で実際に提起されています。その際、「河川改修事業費等を過大に積算せずに現実的な対案を検討すること」と。実は皆さんが出している治水対策の比較というのは、当初340億円に対応するときには河川改修事業費というのは378億円ぐらいだったと思います。それが530億円に落ち着いたときには六百数十億円の事業費になってしまうと。実際これを専門家に見てもらったら、堤防の面積は2倍になったが事業費は8倍になったと。なぜそうなるのか。まったくその根拠が曖昧だと。ダム事業費を超えるような過大な積算をしだだけではないかと。そのことを止めて鳥取県の中部県営ダムは知事のイニシアチブで廃止になった。必要のないところに堤防をつくるとか。ダムに頼らない治水対策、河川改修事業を検討するときには、恣意的な、過大な積算にならないようにすべきだと改めて提起しておきます。
 3つ目は、「簗川の特性を生かした治水対策を検討して具体化する」と。これは河川の専門家なら誰でも、それぞれの河川にそれぞれの特性・個性があって、その河川の特性に応じた治水対策を考えるというのは建前としては原則、当然です。簗川の流域の特性は何かと、ダムの専門家に何度も川をずっと見てもらい調査し報告書も出していただきました。だいたい12〜13キロ地点にダムが建設されるのですが、その上流、簗川の流域というのは、根田茂川流域の半分以下です。そういう点でいくと、これは皆さんも認めていますが、同じように雨が降った場合には、簗川の洪水が先に出てくる。根田茂川は長くて勾配もなだらかで、森林も守られていると。だから少しの雨では濁らないとも言われています。根田茂川はゆっくり流れてくる。簗川というのは自然のそういう特性で洪水のピークを調節している。合流地点にダムをつくったら、洪水のピークを合わせてしまう不合理なダムになってしまうというのがダムの専門家の指摘です。もう1つは、人口密集地帯というのが北上川合流地点から0.9キロ地点にありますが、ここは基本的には堤防がありますが、そして今まで事実上宅地嵩上げして100年に1回の洪水を流せる治水安全度が確保されています。問題は、堤防が破堤しないことです。破堤しない堤防の強化というのが、ダムがあってもなくても決定的で緊急な課題だと考えます。0.9キロから上流は、基本的に掘り込み河道、洪水があっても元に戻る。そして3.9キロから上流はほとんどが低位農地です。だとすると、そういう農地を活用する、掘り込み河道という特性を活用して必要なところは河道掘削で流量を増やすとか、農地は、堤防をつくるというのではなく、ここに洪水を貯めておくなどそういう位置づけで活用すれば十分洪水に対応できると。逆にダムをつくれば後は何もしないという計画です。ダムをつくれば、今の下流は何もしないと。しかし岩手町の局地豪雨を見ても、下流に集中豪雨があったらどうするのか、対応できないのがダムです。100年に1回を超えるような洪水があった場合に対応できないのがダムです。ダムの効果というのは本来部分的です。そういう意味でも、簗川の特性に合わせた総合的な治水対策を検討すべきだと。特に人口密集地帯の堤防の強化は、全国でも堤防の強化は最後のライフラインなので、ここを強化すべきだと提起しています。
 4つ目の問題は、「簗川ダムの再評価と検証の内容については、広く県民に明らかにして、県民の意見を踏まえた再評価と検証を行っていただきたい」と。今日は熊本県の知事の意見表明の資料も出していますが、熊本県では2003年から住民討論集会というのを県が主催してやりました。あれは国のダムなので、国交省とダムに反対する方々と一緒のテーブルで、9回にわたって行われました。意見の対立は簡単にはなくならないけれども、ダム問題の理解は深まったというのが熊本の経験です。インターネットでパブリックコメントをやってますというだけでは絶対に知らされない。関心は持っているので、再評価の中身、検証の中身を広く県民に明らかにして、市民レベルの討論集会も開催して、市民参加で行うべきだと。熊本の知事はかなり中身のある演説を議会でやっていますが、「基本高水の議論から脱却した」と言っています。いわば、基本高水流量を守るための治水だけではダム問題は解決しないということです。「ダムによって得られるメリット、デメリット、地域の将来像、将来の気候変動にどう対応するか、流域全体の総合対策をどう考えるか、河川工学の視点だけではなくて環境の観点からも検討することが大事だ」ということで、「そもそも治水というのは、流域住民の生命・財産を守ることを目的にしています。しかし守るべきはそれだけでしょうか。私たちは生命・財産を守るというときに、財産、個人の家や持ち物、公共の建物や設備ととらえがちです。しかし、いろいろな方からお話をうかがううちに、地域に生きる人々にとっては球磨川そのものがかけがえのない財産であり、守るべき宝なのではないかと思うに至った」と。簗川も全国に誇る市民の宝だと思います。盛岡ではダムのない川は簗川だけになっていますから。そういう意味ではかけがえのない宝です。そして、結論的に、「私は川辺川ダム計画は白紙撤回して、ダムによらない治水対策を追及すべきであると判断した」と述べています。こういう喧々諤々の県民的な議論を通じて、専門家の意見を通じて知事が判断したという画期的な中身だと思います。そういうことを岩手県もしっかり全国の到達点を踏まえて、すでに100以上のダムはこの間中止になっているので。そして国自身が「ダムに頼らない治水を検討しよう」という新しい状況の中で、今までの延長線上にとどまらない検討・対応をお願いしたいというのが今日の申し入れの趣旨です。

【河川港湾担当技監】
 申し入れを受けて、当方では基本的には文書で回答したいと思っています。いずれ、評価が始まったばかりですので、その中でいろんな議論がされていくと思いますが、真摯にルールに則りながら評価を進めていきたいと思っています。
【河川課総括課長】
 1については、環境アセスに則った調査をやっているので、専門家の意見をいただきながら、さまざまな影響や今後の対応も逐一適切にやっていくという形になると思います。
【河川開発担当課長】
 2については、今回の再評価にともない、検証の要請もあったので、新しい川作りの基準のようなものもあるので、それに基づいて少し計画も見直して、事業費も現在の単価でもってはじいています。
【河川課総括課長】
 河川改修の手法も、国から示されているような、現在の個所を掘り込むという手法は、だいたい60センチ程度を目安にしなさいと示されているので、そのような最新の情報を入れながら、適時適切な河道計画をやって積算していくということになると思います。
【河川開発担当課長】
 3については、ご指摘のように、簗川の本川と言いますと、簗川・根田茂川の合流点よりも上流は、どちらかというと根田茂川だと。実態的には、簗川本川のほうが支川的な位置づけになると思いますが、いずれダムの計画は流域特性と言いますか、ピークのズレというのも考慮の上になっています。
 今回の検証で、農地のところも貯留効果はどのぐらいかということも含めて検討しています。低位農地そのままだとおそらく効果としてはいくらでもないので、遊水地的なことで考えると最大の効果をどう見込むかということになります。
 破堤しにくい堤防の強化については、ご指摘の通り重要なことだと思っており、過去の被災も踏まえて災害復旧等をやっていて、現在の基準としては、それなりの強度はあるのではないかと考えており、国から新たな基準がまだ示されていないので、そういう国の動向も注視しながら必要であればやっていくことになると思います。現段階では、破堤しにくい堤防というのも技術基準が国から示されていないことから、すぐということにはならないと思います。
【河川課総括課長】
 岩手町で起きた局地豪雨の場合でも、今回そういったものも含めて考えていきます。評価委員会の場でしっかり説明していかなければいけないと思います。
【河川港湾担当技監】
 4については、基本的には再評価とか検証のルールがあるので、そのルールにきちんと則ってやりたいと思いますが、住民討論集会というのは、特にそういう記載がないので、今やるという考えではありません。ただその中には、パブリックコメントや関係住民の意見を聞くというのはあるので、そういうものはしっかりやっていきたいと思います。

【斉藤議員】
 環境の問題では、ダムをつくったところは環境が激変しているのです。一番の問題は、土砂が下流に行かないと。これは河川の水質を完全に変える。海岸に近いところだと、海岸が毎年50m〜100m浸食されている所が出ていると。河川環境に致命的な影響を与えるというのはその通りで、水没することによって動植物が死滅してしまうと。移植できるものはあるかもしれないが、自然環境というのはそこにあるから貴重なのであって、環境アセスの限界というのは、公共事業を進めるための対応策になっているところに今の限界があるのです。今の貴重な自然環境の価値と、ダムをつくってそれが影響を与えるデメリットというのを正当に評価するところがない。そういう意味でいくと、熊本県知事も「球磨川は宝だ」と。地域住民にとって簗川はまさに盛岡市民の宝だと。そうしたときに、そういう宝の川を死滅させていいのかと。全国に誇れるサクラマスやアユの価値というのは改めて見直さなくてはならないと思います。そういう大規模な改変をするにもかかわらず再評価でaはあり得ない話です。
 それから、ダムに頼らない治水を検討しなさいというのが今回の検証なので、一番の問題は、ダムを進めているあなた方が対案を考えるところにあります。そういう意味でいくと、かなり発想を転換して、本来はダムに頼らない治水が本筋です。ダムに頼らないでどう治水を確保するかと。熊本県知事も言っていますが、「限界まで考えたとは思えない」と。私たちもそう思います。やはり簗川の特性を生かして、本当にダムに頼らない治水を真剣に考えると。そして今、流域全体の総合的治水というのは溢れることを前提にして考えているのです。今までは溢れさせない、溢れても大きな被害を与えない、人命が守られるというのが総合的治水なので、その辺りの発想の転換をしないといけないと思います。
 そして、ダムをつくるときと河川改修に取り組むときの基本高水というのは一致しなくていいのです。河川改修というのは、やればすぐ効果があがってくる。そしてダムは100年に1回の洪水に対応するから最初から規模が決まるのですが、河川改修の場合には、10年20年でどのように整備していくか、危険なところから改修すれば早く成果が出てくると。熊本県知事が「基本高水の議論から脱却した」というのはそういう意味です。これが唯一の基準ではないと私たちは思うし、そういう意味でいけば、だいたい河川審議会でも河川法の改正でも、そういう考え方にはなっています。しかし、現実の事業ではそこまで変わっていない。治水の考え方は変わっています。例えば、堤防の問題でも、技術基準は示されないもしれませんが、フロンティア堤防だとかハイブリット堤防だとか、破堤しにくい堤防というのは提起はされています。やはり治水と言ったら堤防なのです。ダムがあっても、こないだのように10年に1回の雨で破堤寸前までいったというのは、堤防が弱かったらダムがあっても守られないということです。堤防の強化というのは、残念ながら国交省も真剣に検討してなかった。それを測る基準もない。そこが1つの問題です。本当に破堤しにくい、スーパー堤防のようなムダな堤防をつくれとは全然言わないけれども、越水しても破堤しにくい堤防であれば基本的には住民の生命・財産は守られると。そういうことを含めたのが総合的治水なので、そこまでよく考えてやっていただきたい。
 ダムをつくった場合に、100年に1回というけれども、100年に1回あるかないか分からない。100年経ったら堆砂で使えなくなったと。少なくとも300年経ったら完全に埋まって廃棄物になります。そのときにダムをどう処理するのか、ダムは後世に莫大な財政的負担を残すのです。未来永劫ダムというのは使われません。四十四田ダムがそうです。限界いっぱいになり、上流にまたダムをつくる話になっています。そういう意味でいけば、ダムというのはきわめて部分的、そして100年200年経ったら使えなくなると。そうしたときの環境破壊、将来の環境破壊も考えなくてはいけいない。
 そういう意味で、ぜひ再評価、検証にあたって、今の全国的な到達点を踏まえて、そしてその中身は、住民にも明らかにすると。パブリックコメントというのは、インターネットで関心のある人が見て、やっと分かる程度なので。いろんなやり方があると思います。今評価になっているから評価委員会をどうやるかというのはあるし、私は県知事のイニシアチブでやるべきだと。熊本県は知事のイニシアチブです。国のダムについて県が住民討論集会をやった。ルールに則ってと言いますが、やはり市民の目線で、ダムのメリット、デメリットをよく分かった上で判断していくという絶好の機会だと思うので、そういう勇気を持ってやっていただきたい。

【河川港湾担当技監】
 そもそも評価委員会は、知事がどうやって皆さんに分かりやすくするかという観点もあって作った仕組みなので、その場を通じて県民の皆さまにお知らせしながら評価を進めていくということです。
 それから、総合的治水というのは、我々としてはそういうものをこれまでも考えてきているということなんですが、今回新たに検証してということで、その辺も真摯に検証してやろうと思っています。そういう意味では、今の案が適切な案だと思っていますが、その辺はこれから評価委員会の中でということだと思います。
 長期的な堆砂の話も、その辺も今の計画の中では問題がないという考え方ですが、そういう長期スパンの話というのはなかなか難しい、評価しにくい話なのかとは思いますが、いずれ評価委員会等にかけて、あるいは検証の内容についてはオープンにしながら進めていきたいと考えています。

【斉藤議員】
 検証案はだいたいいつ頃までに出す見通しですか。

【河川開発担当課長】
 最終案というのは、委員会の議論も出来上がっていくのではないかと思いますが、まずは11月15日の大規模事業評価委員会のときには、あらあらの案を出したいと思います。
【河川課総括課長】
 基本高水の議論がありますが、熊本県知事の発言がどうかということは、私たちの勉強不足でちょっと把握していませんが、計画論からするとなかなか信じがたい。

【斉藤議員】
 ダムをつくるときにはどうしてもそれが基準になります。しかしダムに頼らない治水といったときに、基本高水を最大の基準にするだけでは足りないということを熊本県知事は言っています。河川工学的にはダムの必要性はあると。しかし熊本県では、「守るべき生命・財産と言ったときに、それだけではないだろう」と。環境の観点なども考えれば、基本高水だけを最大の基準に考えることはできないという意味なので。熊本県知事に100%賛成するわけではないですが、しかし行政の長としては、住民討論集会や専門家の意見を踏まえた1つの到達点を示していると思います。

【河川港湾担当技監】
 検証のルール・要項がきていますので、それに則って粛々とやっていきたいと思います。
【河川課総括課長】
 県民集会を奥参道問題のときに行って聞いてきましたが、協議になりすぎてなかなか深まらないのですね。

【斉藤議員】
 しかし開催すれば市民も違いが分かってくるんです。そこで意見が一致する性格のものではないけれども、やはりどう主張が違うのかということは浮き彫りになってくるわけです。奥参道のときに住民討論集会をやった経過もあるわけなので、県民の知らない間に決まってしまったというのではくて、今回は市民がこの問題について、国の見直しの意味も分かって、大方の合意を形成しながら判断していくということが大事だと思います。盛岡に残された唯一のダムのない川なので。