2010年12月3日
障がいのある人もない人も共に学び共に生きる岩手県づくり条例案に対する質疑(大要)


【斉藤議員】
 日本共産党の斉藤信でございます。議員発議となる会派共同提案の発議案第2号、「障がいのある人もない人も共に学び共に生きる岩手県づくり条例」案に対して、提案者に質問いたします。
 まず、2008年6月県議会での請願の採択を受け、この間、条例案の検討と立案に努力されてきたことに敬意を表します。とくに、検討の過程で、「障がい者差別に当たると思われる事例」を把握し、明らかにしたことは重要な意義をもつものであると思います。また、条例案では、「専門的知識を有する職員の育成」や「財政上の措置」等を規定したことは積極的なものだと思います。
 しかし、条例案が全体として理念条例にとどまったことは、時間の制約があったとはいえ残念なことでありました。千葉県や北海道などの先行事例をふまえ、よりよい条例案にする建設的な立場から提案者に質問いたします。
 第一に、条例案の前文は、条例の趣旨、理念、目的を述べたものでありますが、何よりも、憲法に基づく障害者の基本的人権を保障するものであること。国連障害者権利条約の精神をふまえたものであることを明記すべきではないでしょうか。
 また、前文の記述が少し具体的な表現となりすぎているのではないでしょうか。「障がいのある人を区別する意識やこれに基づいた社会における制度が存在し」や「全国を上回る少子高齢化が進み、地域の担い手が減少していく中にあって、今後、本県が持続可能な社会を構築していくためには・・共に生きる地域づくりを早急に進めていく必要がある」などの表現は、その具体性と普遍性が問われるもので、前文にはふさわしい表現ではないと考えますがいかがでしょうか。

【及川幸子議員】
 条例の全文については、規範性をもつものではないが、この条例は県民の意識に働きかけていく要素が大きいことから、障がいについての理解促進と不利益な取り扱いを解消するための取り組みの意義や方向性について述べているもの。
 障がいのある人が有する権利の確認とその実現は当然に行われるべきものと考えている。また、この条例が憲法に規定する基本的人権の保障や、国連障害者権利条約の精神を踏まえていることは申し上げるまでもないところ。
 前文の記述が具体的な表現になりすぎているのではないかということだが、条例の制定にあたって県民からいただいた多くの意見等も踏まえ、この条例を制定することの意義や目的において、県民が理解しやすいよう記述したところであり、適切な内容であると考えている。

【斉藤議員】
 第二に、第3条が「基本理念」を規定していますが、「障がいのある人が、障がいを理由として差別を受けず、ありのままに、その人らしく、地域で暮らす権利がある」ことを明記すべきではなかったでしょうか。

【及川幸子議員】
 基本理念は、この条例で規定する施策を推進するに当たり、障がいについての理解の促進および障がいのある人に対する不利益な取り扱いの解消について、県・市町村および県民等が共有すべき理念、根本となる考え方を規定する趣旨のものとして規定している。
 「障がいのある人が、障がいを理由として差別を受けない」ことについては、別途第7条に「不利益な取り扱いの禁止」の規定を置いたところであり、また、「ありのままに、その人らしく、地域で暮らす権利がある」ことについては、基本理念として第3条第1項に、「障がいのある人自らが選択した地域において生活し、地域社会を構成する一員として社会、経済、文化、その他あらゆる分野の活動に参加する権利を尊重すること」を規定している。
 「障がいのある人自らが選択した地域において生活し、地域社会を構成する一員として社会、文化、その他あらゆる分野の活動に参加する権利」を有することを前提として、さらに一歩進めてその「権利を尊重する」としたところであり、いずれも議員ご提案の趣旨に沿ったものとなっている。

【斉藤議員】
 第三に、第4条では、「県の責務」が明記されています。「県は条例に基づき施策を総合的に策定し、これを実施する」としていますが、総合的な施策とはどういう内容を想定しているのでしょうか。

【及川幸子議員】
 この条例では、条例の実施全般について責任を持つこと、すなわち知事部局、教育委員会ほかあらゆる県の機関が個々に施策を実施するのではなく、相互に連携し、部局横断的に調整を行いながら、障がいについての理解を促進し、障がいのある人に対する不利益な取り扱いの解消に関する施策を「総合的に策定し、実施」することを定めたものである。

【斉藤議員】
 第四に、第5条では、「市町村の役割」が明記されています。千葉県の条例では、市町村は、県と対等・協力関係にある自治体であることから県の条例で「市町村の役割」を直接規定せず、「県と市町村との連携」と規定されています。こうした規定のほうが適切ではないでしょうか。

【及川幸子議員】
 議員ご指摘の通り、地方分権一括法施行以後、県と市町村は、対等・協力の関係とした中で、県条例では、市町村の役割を直接に規定せず、条例の具体的な内容を踏まえた役割を担うもの」として規定が設けられている。
 この条例の制定にあたって実施した障がい者関係団体との意見交換会や県民説明会などにおいては、県のほか、市町村の施策や福祉サービスについても様々なご意見をいただいた。
 議員ご指摘の通り、障がい者施策の推進にあたっては、市町村との連携は不可欠であり、こうした観点から、市町村についても、地域の特性に応じて、それぞれの立場において、障がいについての理解の促進と不利益な取り扱いの解消に取り組んでいただくよう規定するものである。

【斉藤議員】
 第五に、第6条では「県民等の役割」が規定されています。県民及び事業者を一体としていますが、区別したほうがそれぞれの役割が明らかになったのではないでしょうか。また、第3項では、「障がいのある人の家族に対して必要な配慮をするように努める」と規定されています。家族についてはここだけの規定ですが、特別な理由はあるのでしょうか、ここだけでいいのでしょうか。

【及川幸子議員】
 県民と事業者の役割を区別すべきとのご提案についてだが、この条例において規定しようとしている「障がいのある人自らが選択した地域において生活し、地域社会を構成する一員として社会、文化、その他あらゆる分野の活動に参加できるよう支援に努めること」や、「障がいについての理解の促進」、「障がいのある人に対する不利益な取り扱いの解消」、そのための「県および市町村が実施する施策への協力」などは、県民・事業者それぞれが同様に果たすべき共通の役割であることから、これを一体として規定したもの。
 第3項についてだが、ご指摘の通り、「家族に対する配慮」は、すべての主体に求められるものではあるが、その発生が個人レベルでの場面で多く見られるものであることから、一義的には「県民等の役割」として規定することで足りると考えたところである。

【斉藤議員】
 第六に、第15条で「不利益な取扱い等に関する相談、助言等」が規定されています。一番大事な規定でありますが、千葉県の条例では、知的障がい者相談員等ともに、地域相談員、広域専門指導員が配置され、「障がいのある人の相談に関する調整委員会」が設置され、個別事案解決の仕組みがつくられています。条例制定後3年間の成果がまとめられていますが、差別に関する相談がこの間約800件、対応した回数は延べ8763件と報告され、大きな成果をあげています。また、だれもが暮らしやすい社会づくりを議論する仕組みとして「障がいのある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり推進会議」が設置されています。
 不利益な取り扱いを具体的に解決する仕組みと体制、条例上の規定が必要ではないでしょうか。

【及川幸子議員】
 第15条では、県に、障がいのある人に対する不利益な取り扱いおよび虐待に関する相談に応じ、これに対する助言および調整等の必要な措置を講ずるよう求めている。
 条例を具体的に運用していくのは、執行機関としての知事であるので、不利益な取り扱いがあった場合、具体的に問題を解決するための仕組みと体制づくりについては、知事が責任をもって主体的に取り組むよう、県に必要な措置を講ずる義務を課す形としたところである。
 なお、我々としては、障がいのある人の便宜、実効性等を考慮する立場から、居住する市町村の地域内で相談等を受け付けた後、専門的な見地から助言を行ったり、必要に応じて関係者間の調整などを行うことができるような体制とすることが望ましいと考えているところであるが、制度設計等の詳細については、条例施行までの間、条例の趣旨を踏まえて執行部において検討されるべきものと考えている。

【斉藤議員】
 第七に、障害者の参政権の保障に関する規定も必要と思いますが検討されたのでしょうか。

【及川幸子議員】
 この条例においては、障がいのある人の政治参加については明文の規定は置いていないが、障がいのある人も障がいのない人と平等に自己の自由な意思により政治参加の機会が実現されるべきであることは申し上げるまでもない。
 障がいのある人の政治参加については、この条例の基本理念の中で、「障がいのある人自らが選択した地域において生活し、地域社会を構成する一員として社会、文化、その他あらゆる分野の活動に参加する権利を尊重すること」を定めており、障がいのある人が政治参加する権利の保障については、この規定により担保されるものと考えている。

【斉藤議員】
 次に保健福祉部長に関連して質問します。
 今回の議員発議による条例案の提案は、平成20年の6月県議会で「障がい者への差別をなくすための岩手県条例の制定について」の請願が採択されたことに応えたものであります。本来、請願の採択を受け県自身が、障がい者団体等と協議し、条例の制定を検討すべきであったと思いますがいかがでしょうか。
 今回の条例案も制定されれば県が実施することになります。その際一番大事なことは、障害者・団体の方々と協力・連携して、総合的な施策と個別事案解決の仕組みを具体化し、ともに取り組むことであります。その体制構築が求められていると思いますがいかがでしょうか。
 以上でありますが、環境福祉委員会での審査を通じてさらに充実されるよう期待するものであります。

【保健福祉部長】
 この条例案の制定に関しては、当該請願の採択後、約1年余において県議会において、障害者権利条約や障がい者制度改革などの動向も注視しながら、内部検討を進められたものと承っている。
 昨年度後半から条例制定に向けた本格的な作業に入られ、本会議での発議に至ったことについては、また、この条例案の検討・立案にご尽力いただいた県議会の先生方に対しては改めて敬意を表する次第である。
 この条例案の施行にあたっての県の取り組みについてだが、この条例案については、障がい者関係団体の期待もきわめて大きいものと承知している。
 我々としては、現在策定事務を進めている新しい岩手県障がい者プランの素案において、条例が制定された場合を想定し、障がい者に対する不利益な取り扱いの解消についても盛り込んでいる。
 条例が制定されると、我々のほうで所管させていただくことになるが、施行までの間約半年あるので、障がい者関係団体や市町村等のご意見も伺いながら、この条例の基本理念や立法趣旨等を踏まえ、個別事案解消のための助言・調整を行う仕組みの構築などを行い、条例施行に万全を期していきたいと考えている。
 特にその仕組みの構築にあたっては、その制度設計にあたり特に岩手型の仕組みの構築を志向していきたいと考えている。