岩手県大規模事業評価専門委員会委員長 森杉壽芳 様
2011年1月26日
日本共産党岩手県委員会
委員長 菅原則勝
県議会議員 斉藤信
盛岡市議団長 庄子春治
陸前高田市議団長 及川一郎
改めて簗川ダム・津付ダムの中止を求める申し入れ
―「県の考え方」への反論と国の検証基準による県の検証結果の問題点について
1月14日開催された大規模事業評価専門委員会において、11月4日付で行った日本共産党岩手県委員会と県議、盛岡市議団の申し入れに対する「県の考えと対応」が示されました。その内容は、申し入れの内容について具体的・科学的な検討を回避するものとなっています。
また、県が11月15日に示した簗川ダムと津付ダム建設事業の国の検証基準による検証結果は重大な問題点と矛盾を示しており、改めて簗川ダムと津付ダムの中止を以下の通り申し入れるものであります。
1、 簗川ダムに関する党の申し入れに対する「県の考え方と対応」の問題点について
(1) 簗川ダム建設事業による大規模な自然環境破壊と河川と水質・生態系への影響の検討について、県は何等の具体的・科学的な分析と検討をすることなく、「周辺環境調査検討委員会」の指導・助言を受けて対応しているから、環境対策は「a」評価で妥当と答えています。しかし、「周辺環境調査検討委員会」はダム事業を進めることを前提に、最小限の指導・助言を与えているのであって、ダム建設による河川や自然環境への影響を明らかにしているものではありません。
県は、この間、独自に「鷹生ダム建設魚類生息環境影響調査」(平成18〜21年度)を北里大学水産学部の専門家に委託して「ダム下流域の魚類生息環境調査」を行っています。調査研究報告書によると「試験淡水による流量低下による影響が大きい」「盛川水系では瀬淵構造が消滅しつつある」「水生昆虫層に影響を及ぼしている」「夏季の水温上昇の遅れがアユ漁場に大きな影響を与え、鷹生川では不漁となった」など、ダムが河川と環境に重大な影響を与えていることを示しています。 サクラマスやアユが昇る清流簗川は市民の財産です。ダム建設が河川と環境に与える影響をこれまでの調査研究結果をふまえて検討すべきです。根田茂川の美しい渓流も市民の財産です。水没することによる環境に与える影響を明らかにすべきです。
熊本県では蒲島郁夫知事が、「ダムが環境に与える負の影響は否定できない」「人吉球磨地域に生きる人々にとっては、球磨川そのものが、かけがえのない財産であり、守るべき宝なのではないかと思うに至った」と述べ、川辺川ダム計画の白紙撤回を表明しました(2008年9月11日、熊本県議会での知事演説)。こうした観点からダムが河川と環境に与える影響を検討すべきです。
(2) ダムに頼らない流域全体を考慮した総合的な治水対策の検討を求めましたが、「県の考え」では「国から示された26の治水対策案の中から、実現性等を考慮して検討」したとしていますが、国が示した「破堤しにくい堤防」さえ実現性がないと棄却していることは、結論先にありきの矛盾した手法です。
簗川の治水対策で最も重要なことは人口が集中している下流部での堤防の強化です。これは平成14年(2002年7月10日、台風6号)の台風によって堤防が決壊寸前にまで陥ったことからも明らかです。国のダム事業の推進政策が堤防の強化を怠ってきたことこそ問われるべきです。
重大なことは、県の検証結果では、「宅地かさ上げと河川改修案」の事業費が332.6億円となっていることです。これは530億円の事業費より200億円も少ないものです。はじめからこうした事業費が示されているならダム建設事業が進められることはなかったことになります。332億円の事業費についても精査が必要です。また、河川改修の場合54年も工事期間がかかるとしていますが、これはダム事業優先のこれまでの実績に基づいたものであり、ダムに頼らない治水対策に転換した場合、河川改修事業費が増額されると考えるべきです。河川改修の場合、治水安全度を固定的に考えるべきではありません。河川の状況に合わせて検討されるべきです。
(3) 「ダムに頼らない治水対策」に転換をめざすとした国の検証基準は、その目的に反し、ダム建設事業費の残事業費で代替案とコストを比較するというごまかしの基準となりました。本来、簗川の河川の特性をふまえた最も合理的で効果的な治水対策こそ検討されるべきです。全国のダムを調査研究している国土問題研究会は、簗川の精密な現地調査をふまえ、治水対策としては最下流部での堤防の強化と、0.9〜3.9キロメートル区間は掘り込み河道の特徴を生かし、3.9キロメートルから上流は農地であり、税制面や災害の保障制度などによるソフト的な対応をするほうが効果的と指摘しています。
ダムは超過洪水には効果がなく、土砂をせき止め河川の生態系に大きな打撃と影響を与えるとともに、県のレッドデータブックに掲載されている112種の動植物など豊かな自然環境を破壊するものであり、最後の手段として考えるべきものです。
(4) 盛岡市と矢巾町の利水については、1994年の簗川ダム取水事業再評価時の推計値からみても、計画給水人口が8816人減少し、計画最大給水量と実績最大給水量の差は29971?/日と大きなかい離が生じており見直すべきです。これまで支出したダム負担金の分だけ利水参加するという姑息なやり方ではなく、ムダな事業は見直すべきです。
2、 自然環境破壊と過大な事業費となる津付ダム事業は見直すべき
津付ダム事業についての国の検証基準による検証結果は、当面の整備計画(30年確立の洪水に対応)で評価することになっており、残事業費での比較でも、堤防かさ上げと河川改修案が93億円でダム事業費の116億円よりも安くつくとされています。ダム建設による大規模な自然環境破壊を考えれば、2重3重にダム建設事業を見直すべきです。
そもそも、津付ダムは気仙川の支流である大股川上流に建設されるものですが、ダム上流の流域面積は全体のわずか10%程度で、洪水対策に効果が見込まれないものです。他の流域に洪水があった場合は全く効果がありません。国道の改良のために計画されたダム建設事業というべきものです。
気仙川の水害の大きなものは陸前高田市内の内水被害です。水害の実態に合った対策こそ求められています。
河川改修事業では工事期間が長期にわたるというのは、これまでのダム事業優先の考え方で、ダムに頼らない治水対策を今後の基本方向とするなら河川改修事業をこれまで以上に推進することは可能です。また、県は河川改修による掘削の土砂量を過大に見積もっていますが、河川改修事業の場合、専門家の意見と河川の特性をよく知っている地元業者が実施すれば河川環境に与える影響を最少減に抑えることは可能です。
県財政が1兆5千億円余の県債残高(決算総額比で全国第2位の借金)を抱えているときに、不要不急の公共事業は根本から見直すべきものです。
3、 簗川も気仙川も住民の貴重な財産であり、限られた一部地域住民だけでなく、熊本県が実施したように住民説明会・住民討論集会を開催して、住民に情報を公開し住民の意見を聞くべきです。
また、ダム問題の専門家の団体である国土問題研究会の上野鉄男氏から「簗川ダム建設事業の検証にかかる検討について」の意見書が提出されており、意見陳述を含め検討されるよう求めるものです。
以上わが党の申し入れに対する「県の考え方と対応」への反論と合わせて簗川ダム・津付ダム建設事業について、地域住民と専門家の意見をふまえた科学的で徹底した検討・審議を行い、ダム事業の見直しを行うよう申し入れるものです。
以上