2011年2月15日 2月定例県議会本会議
年末年始の暴風、波浪、大雪等による農林水産被害対策についての質疑(大要)
【斉藤議員】
日本共産党の斉藤信でございます。議案第1号、2010年度岩手県一般会計補正予算(第5号)について知事、関係部長に質問します。
年末年始の暴風、波浪、大雪等による農林水産被害は2月10日現在89億6300万円余のかつてない大きなものとなりました。被害を受けた方々に心からお見舞い申し上げます。
今回の災害対策の補正予算は今年度と来年度の予算に関わる補正予算となっています。補正予算の提出を評価するものですが、地元党地方議員団の調査と災害の大きさと深刻さからみてさらなる対策の強化を求める立場から質問します。
・岩手の水産業への影響、漁協、漁民に与える影響の知事の受け止めについて
達増知事に質問します。第一に、今回の被害のうち、水産関係で49億6514万円、漁港施設で19億1312万円、合計68億7826万円余となっています。特に岩手県の漁業の柱である定置網の被害が96ヶ統24億5100万円余、ワカメ、コンブ、ホタテ等の水産物の被害は19億5300万円余となっています。岩手の水産業への影響、漁協、漁民に与える影響をどう受け止めているでしょうか。
【達増知事】
今回の被害は、主に秋サケの漁獲を対象とする定置網やワカメ・コンブ等の養殖施設の流出や破損などの施設被害に加え、盛漁期を間近に控えたワカメ・コンブの流出などの生産物被害が宮古以北の海域を中心として広範にわたり、漁業者や漁協にとって非常に深刻な状況であると考えている。このため、被害を受けた漁業者や漁協が生産意欲を失うことなく安心して生産活動を再開していただくため、県として早急に対応していくことが必要と考え、今議会の開会日に補正予算を提案し、被災した養殖施設の整備や廃棄物処理、さらには流出したホタテガイ等の種苗の確保や、定置網の復旧等にかかる支援に取り組むこととしたところである。
・定置網被害への補助実現について
【斉藤議員】
第二に、定置網の復旧については、定置網復旧緊急支援資金貸付金、無利子の融資が提起されています。地震災害の場合も現在では住宅再建への補助が実現しています。定置網の復旧に対する助成を実施すべきではないでしょうか。
【達増知事】
今般の災害の復旧にあたっては、漁業者の方々の要望等をお聞きしながら県の支援策を検討したところである。定置網については、操業を再開するための融資制度の創設に対する要望を多くいただいたことから、無利子の融資制度を創設し、早急な復旧を図ることとしたものである。
・激甚災害指定の見込みと国の支援策について
【斉藤議員】
第三に、知事は1月20日、国に対して鳥取県、島根県両知事と連名で要望行動を行っています。激甚災害指定の見込みと国の支援策はどうなっているか示していただきたい。
【達増知事】
年末年始にかけての暴風、波浪、大雪等による被害が甚大であった鳥取県、島根県と連携し、激甚災害の指定要件の見直しや、特別交付税による措置および各種制度資金による対応などの財政支援について、民主党幹事長や内閣府、防災担当大臣および農林水産大臣へ要望を行った。
要望内容については、政府・与党の理解を深めることができたと思っているが、被害額について現在も調査を進めているところであり、今後さらに激甚災害の指定を含め国の支援策の実現に向けて働きかけていきたい。
・養殖施設への支援について
【斉藤議員】
農林水産部長に質問します。第一に、養殖施設の復旧支援の補助は、県単補助、国の補助事業による補助それぞれの件数と補助額の見込みはどうなっているでしょうか。
【農林水産部長】
養殖施設の滅失、大破など大きな被害を受け、新規整備が必要となる8漁協の養殖施設、約840台を助成対象として考えている。現在、漁協等においては新たな養殖施設の整備にあたり、より耐波性能が高く災害に強い施設とするためのアンカーやロープ等の検討を進めているところだが、県としては、こうした漁協等の検討の結果を踏まえ、国の強い水産業づくり交付金による整備を基本としながら、国の採択要件に合致しない部分については、県単事業による整備とし、漁協等の要望に対応していきたい。
・漁業系廃棄物の処理状況と処理への支援、処理施設の整備について
【斉藤議員】
第二に、漁業系廃棄物の処理状況と処理への支援は補助率3分の1となっていますが、末端では全額補助となるのでしょうか。漁業系廃棄物の処理施設の整備の要望も出されていますがどう検討されているでしょうか。
【農林水産部長】
今回の災害により、定置網や養殖施設が被災し、破損して使用不能となった網漁具や養殖資材などが多量に発生している。破損の著しい定置網や養殖施設については、すでに陸上に引き上げられており、また修復可能な養殖施設は応急的に補修し養殖を継続しているところであり、これらの廃棄物の処理には時間がかかるものと見込まれる。
処理への支援については、昨年2月に発生したチリ地震津波被害時の支援と同様、市町村が廃棄物処理を実施する場合および市町村が漁業協同組合に補助する場合に、県は当該事業費の3分の1以内を補助することとしており、末端で全額補助になるかどうかについては、該当する市町村の対応によるものと考えている。
漁業系廃棄物の処理施設の整備については、漁業系廃棄物の処理については、岩手クリーンセンターや岩手第二クリーンセンターでの受け入れについて調整を行い、適切に処理していきたい。新しい処理施設の整備については、今後の需要の動向や事業としての収支のバランス等の課題を勘案しながら将来の課題として研究していきたい。
・種苗購入への支援について
【斉藤議員】
第三に、カキ、ホタテ等の種苗購入への補助が補助率3分の1で提起されています。市町村の補助の状況はどうなるでしょうか。ホタテなどは次年度出荷用の種苗も失うなど、必要な種苗の確保が困難な状況となっていますが、種苗の入手先の確保の見通しはどうでしょうか。
【農林水産部長】
養殖用種苗の購入に係る市町村への補助についても、先ほどの廃棄物の処理と同様、該当する市町村の対応によるものと考えている。
また、カキ、ホタテガイ等の種苗の入手は、おおむね県外から調達することとなることから、県漁連と連携し、種苗の入手先の確保に努めたい。
・共済の加入状況、共済金の実態への対応について
【斉藤議員】
第四に、共済等による支援対策ですが、水産物、施設等の共済の加入状況はどうなっているでしょうか。補償金支払いの見込みと対象者、補償額の見込みはどうでしょうか。
【農林水産部長】
養殖業を対象とした共済の加入率は、ワカメ・コンブ等の生産額が減少した場合に支払われる生産物の共済が95%、養殖施設の被害に対して支払われる施設共済が74%であり、定置漁業を対象とした共済の加入率は、漁獲額が減少した場合に支払われる漁獲物の共済が98%、全ての自然災害を対象とする定置網の被害に対して支払われる施設共済が3%となっている。
これらの補償金の支払いは、養殖施設または定置網にかかる施設共済については、現在漁業共済組合と被害を受けた漁業協同組合において確認中であり、損害額が確定次第、加入している漁業者に速やかに補助金が支払われるところである。生産物や漁獲物の共済は、生産または漁獲金額が確定する漁期終了後に支払われるものである。
・無利子の融資制度の実施について
【斉藤議員】
第五に、水産物被害が19億5300万円余となっています。入るべき収入が入らず、施設の復旧や種苗の確保にはさらに資金が必要になります。当面生活資金の確保が必要ですが、無利子の融資制度を実施すべきではないでしょうか。共済金が支払われるまでの融資だけではなく1年以上据え置きの無利子の融資制度が必要と考えますがいかがでしょうか。
【農林水産部長】
被害を受けた漁業者が、漁業を継続するための当面の運転資金や、生活資金のための低利の制度資金として、3年以内の据え置きが認められる農林漁業セーフティネット資金があり、その活用を促進していく。
なお、生活資金については、市町村社会福祉協議会が窓口となり、臨時的に必要とする生活費などの貸付を行う生活福祉資金制度があり、連帯保証人を立てると無利子での利用が可能となっている。
・パイプハウス、畜舎等への支援について
【斉藤議員】
第六に、農業関係の被害も13億9200万円余となっています。今回の補正予算には、いわて希望農業担い手応援事業費補助として9235万円余計上されています。パイプハウス(被害額5億2000万円余)や畜舎(6億2280万円余)等への改修費用の補助ですが、被害件数、補助対象件数、補助基準はどうなっているでしょうか。
【農林水産部長】
農林関係施設の被害件数は、2月10日現在、園芸用等のパイプハウス792件、畜舎232件、倉庫等220件、シイタケ栽培施設等69件、合計で1313件となっている。
このうち、いわて希望農業担い手応援事業の補助対象件数は、園芸用パイプハウス183件、畜舎10件、倉庫等21件、シイタケ栽培施設20件など計234件となっている。その補助基準は、事業主体は3戸以上の農家が組織する団体、市町村、農協等、また事業内容は、園芸・畜産等の産地育成に必要な農業機械・施設の整備支援、さらに補助率は県が3分の1、市町村が6分の1、合わせて2分の1となっている。
・市・県民税の猶予措置、国保税等の減免措置について
【斉藤議員】
総務部長に質問します。国・税務署等は今回の被災者に対して所得税、法人税の納入の1年猶予する措置を取ると聞いています。もちろん延滞金もつきません。市・県民税についても猶予措置を速やかに取るべきではないでしょうか。その他国保税等を含めた減免の措置はどう指導されているでしょうか。
【総務部長】
国税と地方税、根拠となる法令は違うが、猶予制度のスキームは全く同じである。したがい、被害を受けられた方々それぞれの実情に応じて適切に対応していきたい。
また、国保税の関係は、今回の災害に限らず、災害等により納付が困難となった被保険者に対し、納付相談にきめ細かく対応するとともに、減免措置を適切に講ずるよう担当部において市町村等に会議等の場で要請しているところである。
≪再質問≫
・定置網被害の補助実現について
【斉藤議員】
我々の調査では、この要望が一番強い。定置網の被害というのは、96ヶ統24億円を超えると。ほとんどが漁協経営で、本当に漁協の存在にかかわる、地域の漁業にかかわる被害だと受け止めており、融資の要望だったというのは、実は国が補助対象にしないからである。
先ほど述べたが、地震の際の住宅再建というのは、当初は個人の資産だから対象にならなかった。しかし、鳥取県が片山知事の時に初めて集落の維持という立場で助成をしてから、いま被災者生活再建支援法という形で300万円補助が出るようになった。だから個人の資産だからできないということにはならない。今回の漁業被害のときには岩手県からそういう新しい制度が実現したと、こういう対策が必要ではないか。助成ができない理由があるのであれば示していただきたい。
実際に農業の分野では、経営体育成交付金という資金でも3割の補助を実施する制度もあるので、ぜひ定置網の補助については実現していただきたい。
【達増知事】
定置網は、岩手の漁業の主力であるサケを獲るために使われるわけで、大変重要なものだと思っている。そういう中で、操業再開のため融資制度を創設してほしいということで、無利子の融資制度の創設をいち早くしなければならないということで、この2月定例会開会日に他の補正予算から独立させた緊急のものとして議会にお願いしているところであるのでよろしくお諮りいただきたい。
・養殖施設への支援について
【斉藤議員】
ネットやロープ、浮き玉等の被害というのも補助の対象にすべきではないか。野田村では、村で半額補助をすると。これは1640万円の被害ということだが、820万円は村が出すと。全体の被害が厳しいものなので、施設の上物は個人の資産だということで対象にならないが、今回の災害の状況から見て、市町村のこういう取り組みを支援する対策が必要ではないか。
【農林水産部長】
共同施設の部分のほかに、上部部分の浮き玉等も対象にしたらどうかということだが、今回の養殖施設の復旧対策だが、共同利用施設を対象とするということを前提のもとにせっけいさせていただいているところであり、その共同施設にすることにより生産力が上がり生活なりの安定につながるという一定の考え方の基に対象としている。
これを個人施設部分までということだが、考え方そのものを再検討していくことになる。こういった今回の制度については、今までのいろんな設計の考え方のもとに復旧対策を組んでおり、
それは昨年2月28日のチリ地震津波災害のときも同様の考え方のもとに個人施設の部分と共同利用施設の部分と切り分けをして、それぞれについて例えば激甚災害の指定をしたりといった形での考え方の住み分けを行っている。現在そういう形で制度設計を行わせていただいており、議員ご提案の趣旨については、今後の課題ということでいろいろ検討させていただきたい。
定置網の共済は、全体として例えば加入をしたときに、加入の形態が大きく3つぐらいに分かれており、8割の被害を全体が被った場合の掛け金と、全体が3割被った場合の掛け金と、部分的にそれぞれ8割被った場合に出るときの掛け金とそれぞれ金額が違っている。実態に応じていろんな加入の仕方ができるので、そういうものを選択していただくことが必要と考えており、そういう制度についての普及を漁業者、漁協と協議しながら加入促進を図っていきたい。
この定置網についても、国庫予算が入っており、そういうことも踏まえ加入促進を進める形での支援をしていきたい。
・共済の加入状況、共済金の実態への対応について
【斉藤議員】
共済の加入状況、特に施設共済はきわめて低い。これは共済金の掛け金が高いからである。だから今回施設の場合には、ほとんど共済金の対象にならないといっても過言ではない。水産物の場合は、全額出ても約6割程度である。
そういう点では、生活再建、経営再建への対策が特別に必要である。そういう意味で先ほど無利子の融資制度(据え置き期間は1年以上のもの)を提案した。こういうものがないと当面収入が断たれる。そして復旧に資金がかかるという中で、先ほどセーフネット資金という紹介もあったが、ぜひこれを無利子にできないかという提起をした。
また、施設共済の加入率が低い中で、田野畑村では先日の臨時議会で、漁獲共済掛け金の補助を10%から50%に引き上げたという話も聞いた。全体として県が補助をして、施設共済への加入も引き上げる必要があるのではないか。
【農林水産部長】
生活資金の活用、農林水産業のセーフティネット資金というものの活用をまずはおすすめしつつ、必要に応じてニーズ等を把握しながら既存の制度で対応できない場合、さまざまに検討をさせていただきたい。
・台風等による流木、ごみの処理費用への支援について
【斉藤議員】
今回に限らず、台風等では、大量の流木やごみ等が漁場に流れ込み、この処理について大変漁協は困っている。この処理費用についても県として助成の対象にすべきではないか。
【農林水産部長】
これも昨年2月28日のチリ地震津波の際の廃棄物の処理の考え方に準じて今回制度設計させていただいている。議員ご提案の趣旨については、どういう形でそういった対応ができるのかについてはいろいろ協議をしつつ適切に対応できるように県としても取り組んでいきたい。
・パイプハウス、畜舎等への県単補助について
【斉藤議員】
パイプハウスの場合、被害件数792件のうち補助対象は183件でわずか23%、畜舎の場合は10件のみで4.3%である。これは3人以上の特定農業法人とか特定農業団体という形でないと補助対象にならないと。この要件が厳しくてほとんどが対象外になってしまう。この要件も緩和すべきではないか。運用で改善されるべきではないのか。
全体として、やはり被害額に応じて今回の助成が対象になるようにすべきではないか。
【農林水産部長】
パイプハウスの対象というのは、3戸以上の農業者が組織をして、前向きに再建に取り組むということに対して、生活なり生産手段としての復興を図るための措置として計上しているものである。これも従前あった平成17年の災害時と同様の考え方でパイプハウスの再建に支援したところである。
こういった制度設計をする場合に、どこまで個人の施設に対して助成をするかというのは一定の住み分けが必要であろうと考えており、今回は前向きに施設の復興に取り組む農業者を支援する形で設計させていただいている。あとは共済などで4割程度の方は再建したいという方がいるので、そういう実態を踏まえながらいろんな形で再建策を支援していきたい。
≪再々質問≫
【斉藤議員】
対策が機敏に提案されたことは評価をしている。
ただ、今回の水産被害というのは、過去に例がないほど甚大だと。こういう立場から考えると従来の延長線上ではない対策を検討すべきではないか。これからさらに状況も把握されると思うし、取り組み状況を見ながら従来の延長線を超えるような対策を求めたい。
【達増知事】
貴重なご意見としてうかがっておきたいと思います。