2011年3月10日 予算特別委員会
農林水産部(農業部門)に対する質疑(大要)


・TPP交渉参加問題について

【斉藤委員】
 食料自給率50%目標とTPP・関税撤廃は両立すると考えるか。なぜ食料自給率40%まで落ち込んだか、その主な要因をどう認識しているか。

【企画課長】
 農水省が行った試算によると、全世界を対象に関税を撤廃し、生産量の減少などに対し何らの対策も講じない場合、食料自給率は40%から14%程度に減少するとしている。
 TPPの具体的内容などが明らかになっていない段階にはあるが、これらが両立するかどうかについては懸念をもっている。
 食料自給率が40%にまで落ち込んだ主な理由だが、食生活の変化に伴い、国内で自給可能なコメの消費が減少する一方で、コスト面での制約などから国内で生産が困難な飼料穀物を利用する畜産物や、大豆などを原料とする食用油などの消費量が増加したことに加え、食の外部化が進む中で食品加工や業務用需要の高まりに国内生産が十分に対応しきれていないことなどが要因として考えられる。

【斉藤委員】
 懸念するという慎重な答弁だが、これは絶対に両立しない。食料自給率が40%というのは先進国で最低である。これは60年代以来、自由化が進んできた結果ではないか。
 岩手県が農水省の試算に基づき、岩手におけるTPPの影響試算を行った。1469億円農業生産が減少する。コメは95%、小麦100%、乳牛も100%なくなってしまうと。文字通り、これは岩手の農業が壊滅するという試算ではないか。自らこういう試算をしているのに、なぜ知事がTPP交渉参加に反対と言えないのか。部長は言えるか。

【農林水産部長】
 TPP交渉参加への問題というのは、協定の内容が今後の交渉によって決定されるということであり、その内容がまだ明確になっていない現段階において賛否を明確にすることは困難であると考えており、知事もそうした考えに基づいているものと考えている。
 県としては、いわて県民計画において、食と緑の創造県いわてを実現していくということで、担い手の育成だとか産地づくり、6次産業化等による高付加価値化など、これらを実現するための施策を明らかにし、重点的に取り組んでいるところであり、TPPの内容がこうした本県の取り組みを阻害し、農業・農村の振興が損なわれるという内容であれば、適切に提言等を行っていきたいと考えている。

【斉藤委員】
 TPP交渉というのは、原則関税撤廃である。中身がはっきりしている。
 開国フォーラムをやられ、これは開国フォーラムで配られている資料だが、ここに書いている。「物品の関税、原則すべての関税の撤廃を目標とする」と。「段階的な撤廃は認める(除外はきわめて限定的だ)」と。P4協定では、「全関税品目の8割、米国の既存の協定では8、9割が即時関税を撤廃」となっている。だからこういう試算ができる。残りは分からないというが、何が分からないのか。ここまではっきり出ているではないか。

【農林水産部長】
 開国フォーラムの際に提出された資料については拝見している。いろんな検討、課題の抽出など論点整理を現在やっているものと認識している。
 こういった国の基本スタンスは、情報収集を行い検討するということになっており、スケジュールについては、3月に中間整理を行い、6月に農業改革に対する基本方針を策定するというスケジュールが示されている。そういう内容を分析し、必要に応じて国に対して農林水産業の振興に向けた意見等を述べていきたい。

【斉藤委員】
 この開国フォーラムの資料にも、「6月を目途に交渉参加について結論を出す」と。あと3ヶ月そこそこである。10月1日に菅首相が言いだしてから、何にも中身が示されていない。そして交渉によって中身が決まるものではない。TPP交渉というのは、関税撤廃という原則が決まっている。原則が決まったところに入るから皆反対している。交渉で決まるのは2国間協定である。FTAとかEPAというのは、2国間交渉でどういう品目を除外するかはできる。
 そして開国フォーラムの資料のどこを見ても、農業をどう守るかが一言も書いていない。企業の利益になるということは書いている。驚くべき開国フォーラムである。
 先ほどの質問で、2度にわたり政府に提言してきたと。去年の7月・11月、この段階から時間をかけて慎重にというのはいいが、あと3ヶ月しかないこの時期に、中身が全く示されず、関税撤廃が原則のルールに入っていいのか。入るべきではないと言うべきではないか。ましてや岩手の農業にこれだけの打撃を与える、それについての対策など1つもない。部長いかがか。

【農林水産部長】
 現在、国の方では、食と農林漁業の再生本部、食の農林漁業の再生実現会議の中において、農林水産業のあり方についてさまざまに課題を検討している状況である。そういう検討情報を収集しながら、国の考え方を把握しているところである。
 委員からのご指摘の通り、内容については、どういう形で進めるということが明確に出されているものではない。いろんな課題は出されている。そういうことについて、一定の国の考え方が示されるという段階において、県としてもその内容を分析して必要に応じて国に対し、農林水産業の振興に向けた意見等を述べていきたい。

【斉藤委員】
 あまりにも慎重というか、そんなことをしていたら時期を失すると思う。食料自給率の向上とは絶対両立しない。
 政府が決めた、食料農業農村基本計画で食料自給率50%と決めた。小麦は88万トンから180万トンと決めた。関税撤廃したら100%なくなる。少なくとも増えるということはない。
 国会で菅首相がかろうじて言っているのは、規模拡大と所得補償である。しかし、規模拡大といってもアメリカが100倍、オーストラリアが1500倍である。これは競争にならない。所得補償―これは2007年に当時の農水省が試算しているが、すべての関税を撤廃した場合の価格補てんは2兆5000億円、この額は今の農林水産予算そのものである。こんなお金はどこからも出てこない。何の根拠もないと今の段階では言えるのではないか。

【農林水産部長】
 委員ご指摘の通り、国の検討については、さまざまな課題については論点が示されているところだが、例えば定量的な試算というものについて、どのような方向性として解決していくのかということについて、例えば金額的なものの試算だとか、そういうものまで含めたものが飛び出ているものではない。したがい、そういうことについて、どういう形で施策を打っていこうとするのかということを見定めつつ意見を述べていきたい。

【斉藤委員】
 10月1日に表明してから、何ヶ月経っても打ち出せていない。関税の撤廃と農業を守るという方向は両立しないから打ち出せない。
 関税撤廃という方向ではなく、いま世界の食料価格は10年間で2.3倍、食料危機の状況である。食料主権に基づいた貿易ルールこそ強く求めていくべきではないか。
 2回の提言を見ると、各国の事情に応じた多様な農業の共存を基本にするということを言っている。これは正確に言うと、食料主権に基づいた貿易ルールだと思う。食料主権といいうのは、その国の食料はその国の農業で生産するという原則、これは2001年から2010年の国連総会で毎回決議されている。いわば、TPPではなく、食料主権こそ世界の流れではないか。

【農林水産部長】
 基本的に、自国の食料は自国でまかなうという考え方から、食料自給率のパーセンテージも現在40%だが5割まで高めていくということを国が表明しているわけで、そういう意味において委員ご指摘の点については同感である。

【斉藤委員】
 食料農業県を標榜する岩手なので、知事や農林水産部長が先頭に立って「岩手の農業を守る、食料を守る」と。政府が出せない中身をいつまでも待って、態度を表明しないということは県民の期待に背を向けるものだと思う。


・コメの戸別所得補償制度について

【斉藤委員】
 県内のコメの生産費はどうなっているか。
 今回の戸別所得補償制度によりどこまで補てんされるか。生産費をまかなえるものになっているのか。

【水田農業課長】
 県内のコメの生産費は、農水省から公表されている直近の平成21年産米で申し上げると、60キロあたり14219円となっている。全国平均14434円と比較すると215円下回っている。
 モデル事業においては、全国一律で物財費の全額と家族労働費の8割までを見込んだ標準的な生産費と、標準的な販売価格の差額分が10アールあたり15000円と算定され、これが定額部分として昨年末までに支払われたところである。さらに22年産の1月までの全国の銘柄の平均相対価格、これに対して本年産の相対価格が下回ったことから、10アールあたり15100円、これが変動部分という形で先月単価が決定され現在支払いがなされている。
 こうした交付金が支払われることにより、県内のコメ生産農家の手取り額については、10アールあたり27500円ということで、前年比8500円の増加となる見込みである。

【斉藤委員】
 生産費で比較してどうかと。あなたが出した資料を見ると、収入は定額分・変動分を含めて、10アールあたり11万8020円、生産費は12万9542円である。10アールあたりで11522円低いということではないか。

【水田農業課長】
 先ほど述べた試算については、国の考え方と同様に、過去の平成14年から20年まで7年間のうちの5年間の生産費をもとに試算した。21年産の生産費をもとに、22年産の試算をすると、31751円ということで、これについても手取りとしては確保できると考えている。

【斉藤委員】
 21年産米の生産費が60キロあたり14219円、今回の戸別所得補償を加えた収入は60キロあたりでいくらか。

【水田農業課長】
 22年産の試算については、昨年の概算金がひとめぼれ60キロあたり8700円だが、今回試算に用いたのは、1月までの岩手ひとめぼれの販売代金であり、60キロあたりの収入としては、税抜きで9522円を試算として用いている。

【斉藤委員】
 今回、戸別所得補償を含めて農家の収入はどうなるかと聞いた。9500円なのか。

【水田農業課長】
 今まで述べたのは10アールあたりであるので、60キロあたりで手取りという風なことだと思うが、10アールあたり27526円であるので、これを60キロあたりに換算した数字ということで若干計算に時間をいただきたい。
 約3330円と試算される。

【斉藤委員】
 3330円というのは、8700円に足せばいいということですね。

【水田農業課長】
 概算金の8700円が、現段階での農家の収入にあるわけだが、それに今回のモデルの交付金を支払うことにより8700円+交付金ということで、最終的な農家の手取りの試算が1俵あたり3330円ということである。

【斉藤委員】
 そうすると12030円ということである。結局生産費を償えない。農家の多数が赤字になるというのが現状である。戸別所得補償の一定の役割は認めるが、こういう制度では再生産の意欲は出てこない。
 戸別所得補償は、今回の暴落の中では昨年と比べてだいたい昨年+αぐらい補てんをされたのではないかと。これ自身は一定の役割を果たしたのではないかと。しかし、暴落が続けば補償も下がる。そして生産費を償えないと思う。現場の農家の話を聞くと、8ヘクタール規模の農家の話だが、「やっと戸別所得補償で暴落分の減収が補てんされる程度だ」と。しかし今深刻な時期で、戸別所得補償を申請するときに何の名目になるかというと「雑収入」になる。雑収入で100万円200万円で、肩身が狭いと。やはり基本は、再生産を保障する価格補償があって、それに適切な所得補償を組み合わせるという風にしないと、農家の再生産の意欲が出てこないのではないか。

【水田農業課長】
 22年産のコメ価格低落については、景気の低迷等により21年産の持ちこし在庫が増加したことによる需給ギャップが生じたことによるものと考えている。
 米モデル事業については、生産費を補てんする定額部分、価格の下落分を補てんする変動部分が確実に支払われることにより、コメ生産農家の手取り額を確保できるものと考えている。
 今後、販売価格の推移というのは依然予断を許さない状況だと考えているので、販売あるいは生産面について、先般策定した新たな戦略に基づいて、特に低コスト生産といった取り組みを強化することにより、所得確保を支援していきたい。


・農業の担い手対策について

【斉藤委員】
 2010年農業センサスでは、農業就業人口が5年間で23852人・20.9%も減少している。新規就農者の確保も含め、農業の担い手をどう確保するのか。岩手の農業にとってきわめて重要な課題になっていると思うが、その担い手の確保の目標、取り組みはどうなっているか。

【担い手対策課長】
 認定農業者は、平成21年度末で目標の98%にあたる8332経営体が育成されている。ただし、高齢化が進行していることから、若い認定農業者の確保が必要と認識している。
 このため、新規就農者を毎年200人確保するとともに、意欲と能力のある若い農業者を認定農業者に誘導することにより、8500経営体の目標を確保していくこととしている。
 また、農業・農村は、多くの農業者が共存し、維持・発展しているものであり、小規模農家や兼業農家等にあっても、それぞれの営農志向や地域での役割分担によって、地域の営農への参加を期待しているところである。

【斉藤委員】
 私が聞いたのは、5年間で20%も就業人口が減った中で、新規就農者の目標が200人程度でいいのかと。
 いま市町村では、さまざまな担い手確保、特に新規就農者確保の取り組みをしている。八幡平市では月額10万円を1年間、夫婦なら13万円、洋野町であれば月額12万円、夫婦なら16万円、これを3カ年補助するという形で取り組みが進んでいるが、こういう取り組みを岩手県でも支援することが必要ではないか。その目標と具体策について改めてお聞きしたい。

【農業普及技術課総括課長】
 市町村の取り組みについては、委員ご指摘の通り、地域の産業構造や営農条件に応じて、就農奨励金というものや家賃助成という形でいろいろ独自の支援対策を講じていることは承知している。
 県では、こうした取り組みと県の就農相談会といった場を活用し、就農希望者に対して情報提供し、就農地の選定などに役立てていただこうということで、市町村と連携しながら新規就農者の確保に取り組んでいる。
 県としては、そういう方々の営農基盤を確実なものにする、経営の安定という視点での支援をしている。そういう取り組みをさらに今後とも続けていき、新規就農者の確実な確保、定着を努めていきたい。

【斉藤委員】
 私が聞いたのは、8500の認定農業者、新規就農者200人の目標程度でいいのかと。これを達成すればいいのか。新規就農者は実際200人を超えている。しかし結果は5年間で20%就業人口が減ると。プラスマイナスで間に合わないのではないかと聞いている。

【農政担当技監】
 20%減少しているというのは、規模の小さい人も大きい人も含めトータルで減少しているということである。我々が言っている新規就農者200人というのは、岩手県の農業を担う中心となる人を確実に毎年200人育成しようというもので、この方々が大きく育って認定農業者になっていただくことにより、岩手県の農地を最大限活用できる、農業で食べていける人が8500人ということで目標値を掲げている。
 この他にも、農水にはいろんな志向の方がいるので、こういう方々にも志望に応じて農業に就いていただこうという考え方である。


・競馬事業について

【斉藤委員】
 4年間で発売収入はどう推移したか。賞典費はどう推移したか。
 11年度の計画では、さらに発売収入が179億円余と11億円も減少する計画である。コスト削減も限界を超えているのではないか。どういう影響が出るのか。
 JRAとの相互発売でも、この間の実績から見ると、決して発売収入が増えるという実績になっていないのではないか。

【競馬改革推進室特命参事】
 岩手競馬の発売額は、19年度は対前年比82.2%の233億800万円、20年度は対前年比94.7%の220億6600万円、21年度は対前年比93.9%の207億2300万円となっている。22年度は、現時点の最終見込み額で対前年比91.9%の190億4900万円となる見込みである。新計画策定前の18年度対比では、67.2%となるものである。
 賞典費については、22年度は最終見込み額で17億1700万円となっており、18年度の33億1500万円と比較し、51.8%となるものである。
 コスト削減についてだが、岩手競馬は新計画の下で、競馬事業で得られる収入で全ての支出をまかない、単年度ごとに収支均衡を達成することが事業存続の条件とされている。発売収入額に見合った事業運営が可能となるよう、年度当初あるいは年度途中でも必要なコストの調整等を行ってきている。コスト調整が限界かどうかについては、各取引先等の状況にもよるものであり、一概に言えるものではないが、コスト調整の対応が年々厳しくなってきていることは事実と考えている。しかしながら、新計画に掲げるコスト管理を徹底することで収支均衡を実現していくという基本的な対応については、関係者の理解が得られているものと考えており、今後もこれまでと同様、関係者との協議を深めながら必要な対応をしていきたいと考えている。また、19年度から22年度までの4カ年のコスト調整の合計額は、18億2700万円となっているが、極力売り上げやファンサービスに影響が及ばないよう、また馬資源や競争水準を確保できるよう工夫を重ねながら実施してきたところである。
 JRAとの相互発売については、JRAの電話投票システムによる地方競馬の発売については、24年度中の開始をめざし、今後対象となるレース等の条件について、JRAと地方主催者との間で協議・調整を進めることとしている。現時点では、具体的な効果を見通すことは難しい状況だが、JRAのネット発売の会員数は約308万人いるとされており、岩手の南部杯などダートグレード競走への関心も高いと見込まれることから、岩手競馬のマーケットの拡大や発売額の増加につながるものと期待している。JRAとの相互発売が、岩手競馬の将来の経営改善に着実につながるよう、今後の調整など必要な取り組みを進めていきたい。