岩手県知事 達増拓也 様
2011年7月27日
日本共産党岩手県委員会
委員長 菅原則勝
県議会議員 斉藤信
被災者の生活基盤の回復を復興の最大の課題に
岩手県東日本大震災津波復興基本計画(案)に対する提言
岩手県東日本大震災津波復興計画―復興基本計画(案)が6月9日に決定されて、地域説明会が開かれるとともにパブリックコメントも行われています。県民からすでに様々な意見が寄せられていますが、復興基本計画(案)には、漁協を核とした漁業・養殖業の構築や二重債務解消に向けた提案、震災孤児等に対する給付制奨学金をめざす「いわて学びの希望基金」などの積極的なものがあるものの、復興の理念に関わる問題や最大の目的とすべき被災者の生活基盤の回復の位置づけ、まちづくりの中心となるべき被災した県立病院の再建整備が明記されていないなど、看過できない問題も少なくありません。こうした弱点が、4カ月余を経過したにもかかわらず救援・復興の取り組みが遅々として進まない原因の一因であると指摘せざるをえません。
以下の課題について県の基本計画(案)を見直し、充実させることを強く求めます。
1、復興の基本理念について―被災者の生活基盤の回復を最大の課題に位置付けること
基本計画(案)では、「はじめに」と「序章」、第2章で「復興のめざす姿と3つの原則」を示しています。「安全の確保」「暮らしの再建」「なりわいの再生」の3つの原則を提起していますが、「安全の確保」を最優先に位置付けています。これは基本計画(案)の全体を貫く特徴です。
第一の問題は、「安全の確保」を最優先することによって、最大の課題と位置付けるべき被災者の生活基盤の回復の課題が後回しになっていることです。1人1人の被災者が、破壊された生活の基盤を回復し、自分の力で再出発できるように支援すること。「人間の復興」こそ復興の最大の目的です。それは、憲法が保障する幸福追求権(13条)、生存権(25条)などに照らしても当然の責務です。
第二の問題は、「安全の確保」を優先することによって、基本計画(案)の構成が「安全の確保」から展開され、「暮らしの再建」「なりわいの再生」となっていますが、「暮らしの再建」「なりわいの再生」「安全の確保」の展開にすべきです。
第三に、復興の進め方については、「計画を作るのは住民合意で、実施は市町村と県・国が連携して、財政の大半は国の責任で」ということを原則にすべきです。真の復興は、民主主義と住民自治を貫いてこそ可能となります。
2、被災者の生活基盤の回復―暮らしとともに、仕事、雇用、産業の再建を特別に重視して
東日本大震災津波では、住宅はもとより仕事も漁業など産業の基盤も失ったことが被災地の困難を深刻なものとしています。それだけに義援金などの緊急対策とともに、緊急の雇用対策と地場産業の再建を早急に図り、仕事と雇用の確保に全力を挙げるべきです。そのために以下の点を具体化し明記すべきです。
第一に、義援金、被災者生活再建支援金、災害弔慰金など被災者の生活を支える支援金等は早急に支給すること。そのための体制を強化すること。
第二に、すべての仮設住宅に集会所・談話室を整備し、コミュニティの確立を図り、孤独死と孤立化を防止すること。仮設住宅の環境改善に取り組むこと。希望者が全員入居できる多様な復興公営住宅の整備を行うこと。
第三に、被災者生活支援法の拡充を求めるとともに、宮古市の取り組み(応急住宅改修助成52万円に、市独自に18万円上乗せ補助に10万円の住宅リフォーム助成も活用できる)を踏まえ、住宅改修への助成措置を講じること。住田町の木造仮設住宅の取り組みを踏まえ、安価で済みよい住宅の開発を進めること。
第四に、船の確保、養殖施設の整備、漁港・製氷施設、水産加工施設などを一体に、漁業・水産業の再建を基本的には国の責任で早急に行うこと。
第五に、中小商工業の再建に当たっては、すべての企業を対象する二重債務の解消の仕組みを構築するとともに、融資だけではなく立ち上がり資金について助成すること。仮設店舗・工場への希望には全面的に対応すること。グループ支援の設備整備費補助についても要望に対応できるよう予算の確保に努めること。
第六に、緊急雇用対策事業については、仮設住宅のコミュニティの確立や高齢者世帯への給食サービスなど被災者の生活を支える事業や産業の再建にかかわる事業も対象とするなど、早期に必要な雇用の確保に努めること。
3、県立病院の早期再建整備を柱に地域医療の確保を
基本計画(案)の最大の問題点の一つは、被災した県立病院の再建整備について明記していないことです。大震災津波を口実に県立病院の縮小・統廃合を進めようとするなら、被災地の復興の障害となりかねません。早期に被災した県立病院の再建整備に取り組むべきです。県立病院の再建整備は新たなまちづくりの中心的な課題です。
第一に、地域医療の中核である県立高田病院、大槌病院、山田病院の早期の再建整備を明記すること。県立高田病院については、仮設診療所に入院病床を整備すること。
第二に、地域医療を支える民間診療所の復旧・再建についても、特別の助成措置を講じること。
第三に、災害関連死を防止するためにも、要介護高齢者に対する介護施設を早期に整備すること。訪問介護・訪問看護の体制を強化すること。保健師の体制を強化し1人暮らし高齢者、高齢者世帯などの訪問体制を強化すること。
4、被災した学校の早期再建整備でゆきとどいた教育を
被災地の復興を進める上で、将来の担い手となる子どもたちの教育は特別に重要な課題です。被災した学校の再建整備を急ぐとともに、仮設校舎等の整備に取り組むこと。被災前以上の教育環境の回復・改善に取り組むことは、復興への希望を子どもたちに示すことになります。経済的な理由で十分な教育を受けられないことが絶対にないように取り組むべきです。
第一に、被災した学校の早期の復旧をはかること。県立高田高校については3年以内の再建整備をめざすこと。仮設校舎の整備はもとより、運動場の確保などにも取り組むこと。
第二に、学校の教育環境の回復・改善に取り組むこと。
第三に、給付制の奨学金(「いわて学び希望基金」)とともに、就学援助の拡大などで経済的な理由で十分な教育が受けられない、修学旅行に行けない子どもを絶対つくらないようにすること。
第四に、子どもたちの心のケア・心のサポートについては、中長期的な取り組みとし、家族の経済的な安定・仕事の確保と結んで取り組むようにすること。
第五に、地域の文化と歴史、伝統芸能の保存と継承にあらゆる支援を強め取り組むこと。
第六に、被災した市町村の行政機能の回復のため、県・市町村からの人的支援はもとより、思い切って必要な職員の増員を図ることができるよう措置すること。
第七に、県立病院や学校施設など津波被害による新たな用地の確保と建設に特別の国の補助を実現すること。公共施設の解体に対する補助も求めること。
5、なりわいの再生―水産業、地場産業の再生で地域経済と雇用を確保する
被災者、被災地域の暮らしの再建のためにも、地域経済と雇用の柱となっている水産業と地場産業の再生を図ることが必要です。これまでにない大規模な被害となっていることから、事業者自身の努力だけではなく、全面的に国の責任で復旧・復興をはかることが必要です。
第一に、漁協を核とした漁業、養殖業の再生・構築に当たっては、船の確保や養殖施設の整備など、漁協・漁民の希望に全面的に応える取り組みを行うこと。
第二に、海のガレキの撤去を急ぎ、地盤沈下している漁港の応急対応とともに、すべての漁港の再建に取り組むこと。それぞれの湾ごとに漁業があり漁村が形成されていることを重視すること。
第三に、漁業、養殖業の構築は、産地魚市場を核とした流通・加工体制の構築と一体的に進めること。特に流通・加工体制の再生には特別の支援・助成措置を講じること。
第四に、地場産業・中小企業の再建に当たっては、すべての企業を対象とする二重債務の解消の制度・仕組みを構築するよう国に強く求めること。
第五に、仮設店舗・工場、グループ支援の設備整備費補助について
は、すみやかに希望する企業の要望にこたえられるように予算の大幅な増額を行うこと。中小企業に対する立ち上がり資金の助成措置を講じること。
6、住民合意を貫き安全なまちづくりを―安全の確保を総合的に検討を
津波災害に対応した多重防災のまちづくりが提起されています。被災した住宅地や集落については高所移転も提起されています。しかし、「安全の確保」というなら、津波災害だけではなく、大雨洪水や内水被害、土砂崩れ・土石流の危険なども総合的に検討されるべきです。高所移転はあくまで住民合意を貫いて進めるべきで、大規模な高所移転は大規模な土地造成によって新たな災害の危険を広げます。奥尻島の経験にも学ぶべきです。
第一の問題は、被災者の生活再建と雇用の確保を最優先にしないと、「安全の確保」の前に復興の主体となるべき被災者が元の地域で暮らせなくなりかねないことです。被災者の生活再建、生活基盤の回復を大前提に、「安全の確保」「安全なまちづくり」に取り組むべきです。
第二に、今回の巨大地震津波のような災害に対しては、避難を基本に対応すべきです。そのためには、避難路の整備と避難場所の確保、避難しにくい高齢者等の災害弱者の具体的な対策を講じるべきです。
第三に、「安全の確保」「安全なまちづくり」に当たっては、巨大津波だけでなく、大雨洪水や内水被害、土砂崩れや土石流被害など、総合的に検討されるべきです。日常的な災害に対応した「安全の確保」を検討すべきです。
第四に、「災害に強い交通ネットワークの構築」の名のもとに、三陸縦貫道など従来から求めていた高規格道路の整備を最優先しようとしていることです。三陸縦貫道が災害時に重要な役割を果たしたのは事実ですが、今優先すべき課題は、津波で破壊された国道45号線、JR大船渡線、山田線、八戸線、三陸鉄道など地域住民の生活の基盤の回復です。また、復興のまちづくりの中心的な課題です。限られた財源をどう優先して活用すべきかを考えるべきです。高速道路の無料化も見直しを求め復興財源に回すべきです。
第五に、巨額の経費が必要となる湾港防波堤は、今回の被害を総合的に検証して、費用対効果も含め見直すべきです。
第六に、巨大津波を含めた災害については、ハード、ソフト、防災教育と伝承を組み合わせて取り組むべきです。
第七に、災害廃棄物・がれきの撤去が遅れています。地元業者、県内業者の力を総結集するとともに、新たなプラントの設置も急ぎ、がれきの撤去・処理に取り組むこと。
7、福島原発事故による放射能汚染対策の徹底と、原発からのすみやかな撤退を
福島原発事故は、いまだに収束の見通しが立たず、放射能汚染は岩手県内の牧草、稲わら、学校の校庭などにも及んでいます。肉牛の出荷停止要請によって岩手の畜産の危機的状況まで引き起こされています。国の責任で放射能汚染対策を講じさせるとともに、全頭検査体制など安全対策と全面的な補償を速やかに実施させること。
安全性の未確立な危険な原発については、今こそ原発からのすみやかな撤退を求め、自然エネルギーの本格的な導入をはかるよう求めるべきです。自然エネルギーの大きな可能性を持つ岩手県こそ、その先進地として自然エネルギー活用の先頭に立つべきです。
第一に、県内の放射能汚染の調査を徹底すること。稲わら汚染による肉牛出荷自粛については、県として全頭検査を実施し安全の確認を行うこと。国に対し、牧草、稲わらの放射能汚染による損害について全面賠償を速やかに求めること。
第二に、子どもの放射能汚染対策を特別の重視し、すべての学校、保育園、幼稚園で放射線測定調査を継続的に実施し公表すること。必要な場合、除染の対策を講じること。
第三に、福島原発事故を踏まえ、原発からのすみやかな撤退を県として国に求めること。福島原発事故の原因と被害の状況について全面的な情報公開を求めること。
第四に、県として、自然エネルギーの本格的な導入を進め、被災地はもとより県内全域で風力、太陽光、小水力、地熱、バイオマスなどの自然エネルギーの活用を図ること。