2011年8月10日 災害対策特別委員会
復興基本計画(案)に対する総括質疑(大要)


・安全最優先の基本計画案について

【斉藤委員】
 日本共産党の斉藤信でございます。復興基本計画(案)について知事に質問します。
 日本共産党は7月27日に、基本計画案の見直しを求める提言を提出しました。その立場に立って聞きます。
 第一に、復興基本計画の最大の課題は、被災者の生活の再建であり、生活基盤の回復だと考えますがいかがですか。

【達増知事】
 そういう考え方も参考にさせていただきたいと思う。

【斉藤委員】
 4月11日の復興に向けた基本方針では、二つの原則として@被災者の人間らしい「暮らし」、「学び」、「仕事」を確保し、1人1人の幸福追求権を保障する。A犠牲者の故郷への思いを継承する―としていました。なぜ、基本計画案では、まず「安全」を確保しなければならないとして、安全最優先の原則、計画となったのでしょうか。

【達増知事】
 復興基本計画では、再び津波により人が亡くなることのない、より安全で暮らしやすい地域を作り上げるため、安全の確保、暮らしの再建、生業の再生という3つの原則を掲げている。このうち、暮らしの再建と生業の再生は、被災者が再び人間らしい日々の生活を取り戻し、希望をもって故郷に住み続けるために重要な視点であることから、原則として掲げたものである。
 また今回の大震災津波では、多くの尊い命と財産が奪われ、これまで数多くの災害に見舞われてきた本県にとっても、かつて経験したことのない大災害となった。
 今後の地域住民の暮らしと生業を守るためには、多重防災型まちづくりなどによる安全の確保が必要ということで、安全の確保を原則として掲げたものである。
 したがい、これら3つの原則は相互に関連しているところである。

【斉藤委員】
 基本方針で掲げられた2つの原則と、今度の案で掲げられた3つの原則はどのように関連しているのか。

【達増知事】
 2つの原則は、県の復興委員会スタートの時点でも、委員の皆さんに紹介され、それを踏まえて今回の3つの原則に基づく復興基本計画ができたところである。


・高規格道路より国道・JR・三陸鉄道の整備こそ

【斉藤委員】
 知事は、3月31日の知事インタビューで、真っ先に三陸縦貫自動車道などの高規格道路の整備を求めましたが、優先されるべきは、日常の交通の足であり、まちづくりの柱となるべき国道45号線、JR大船渡線、山田線、八戸線、三陸鉄道の整備ではないでしょうか。

【達増知事】
 三陸縦貫自動車道などの高規格道路等を本県が復興道路として国に要望している道路については、三陸沿岸地域の復興や将来にわたっての安全・安心の確保の点からも早期の整備が必要と考えている。
 一方、国道45号についても、地域の生活を支える道路としての役割は大きく、JR線や三陸鉄道は地域住民の日常生活の社会基盤であり、観光振興をはじめとした地域振興の基盤でもあることから、これらについて可能な限り早期に復旧する必要があると認識している。
 このため、復興実施計画において、国道45号の復旧やJRおよび三陸鉄道の復旧については、短期的な取り組みとして位置づけ、県としては3年くらいを目途に復旧させるべきものとしたところである。
 今後とも、復興道路はもとより、地域の復興を担う国道45号や三陸鉄道およびJRの復旧についても国に強く要望していく。

【斉藤委員】
 問われているのは限られた財政の中での優先順位である。三陸縦貫自動車道などの高規格道路の整備率、これまでの事業費、1キロメートル当たりの経費はどうなっているでしょうか。国道45号線の改修経費、JR、三陸鉄道の改修経費はどう試算されているでしょうか。

【達増知事】
 県外の三陸縦貫自動車道、三陸北縦貫道路、八戸久慈自動車道合わせて計画延長223キロ、これに対して47.3キロが供用済みとなっており、整備率は21.2%。これまでの事業費は、県の試算においては3路線合計で約2100億円となっている。3路線の事業完了区間における1キロあたりの事業費は、県の試算では約42億円となっている。
 国道45号の改修経費は、現段階では陸前高田市の気仙大橋、釜石市両石地区、山田町山田地区の3地区での災害復旧に要する費用について12億円余と国から通知があったところであり、今後その他の個所も含め復旧費の増加が見込まれると聞いている。浸水地域内の国道45号については、今後市町村で策定される復興まちづくり計画に合わせた改修も想定される。
 JRについては、JR東日本では、津波被害を受けた八戸・山田・大船渡・気仙沼・石巻・仙石・常磐の各路線ごとの復旧費用は示しておらず、当該7路線全体での復旧費用は概算で1000億円を超えるとの見通しを示している。
 三陸鉄道については、三陸鉄道株式会社では110億円の復旧工事費を見込んでいる。

【斉藤委員】
 私は、まちづくりの中心となるべき、破壊された国道・JR・三鉄こそ最優先して整備すべきで、そうしてこそ復興が進むと。安全を優先するために従来型の大型開発優先ということになったら歪んでしまう。


・被災者の生活再建、生活基盤の回復の課題を第一に
 
【斉藤委員】
 第二に、被災者の生活再建、生活基盤の回復の課題を第一に位置付けて、それにふさわしい取り組みが必要と考えます。被災地での生活を確保してこそ、復興めざす取り組みも可能となります。基本計画案ではどう取り組むことになっているでしょうか。

【達増知事】
 被災者が一日でも早く安定した生活に戻れるよう、安全で良質な住宅および宅地の供給を進めるとともに、住宅再建確保に際してのさまざまなニーズに対応する各種支援制度および相談窓口を設置することとしている。
 また被災により雇用情勢が深刻化しているため、緊急的に雇用の維持・創出を図るほか、地域の産業振興を図り、女性・高齢者・障害者・若者を含め、安定的な雇用の場を創出することとしている。
 具体的には、義援金、被災者生活再建支援金等による生活支援、被災者の生活の安定に向けて住まいや生活全般に関するさまざまな相談に対応できる体制の整備、応急仮設住宅入居者等が早期に安定した住生活を営めるよう安全に安心して暮らせる恒久住宅の供給等を推進、被災した離職者を受け入れる確保などを推進することとしている。

【斉藤委員】
 仮設住宅のコミュニティの確立、被災者の雇用の確保を急ぐべきと考えますが、現状と対策はどうなっているでしょうか。

【達増知事】
 地域コミュニティの確立は、その地域で暮らす人々の自発的な取り組みを基本としつつ、まず市町村が担うことが求められているが、県では自治会等の組織化を支援するため、先般応急仮設住宅運営にあたってのガイドラインを提供したほか、応急仮設住宅団地内の遊具やベンチ等コミュニティスペースの確保を進めている。
 また、被災者に寄り添い、さまざまな相談に対応するための事例集の作成、NPOやボランティア等と連携協力した住民交流の実施などを通じて仮設住宅入居者のコミュニティ形成・維持に向け積極的に市町村を支援していく。
 バス等の取り組みについては、仮設住宅の中にはバス停留所までの距離が500mを超えるところや、道路が狭歪であるなどの問題から、現在の路線では対応できない地域などもある。路線の見直しや新たな路線の必要性についてバス事業者と検討しており、生活に必要な交通手段が早期に確保されるよう、今後とも必要な支援を行っていく。
 被災者の雇用確保については、これまで緊急雇用創出事業による雇用創出1万人をめざし、8月8日現在、5676人を求人し3552人の雇用を創出したところだが、こうした取り組みや復興需要による求人増などで、6月末の求人倍率は全県で0.47と回復が見られ、沿岸地域においてもおおむね改善傾向にあるところである。今後とも緊急雇用創出事業を活用し、雇用状況の改善に努めていく。

【斉藤委員】
 津波で助かった命を絶対に二次被害でなくしてはならないと思うが、この間自殺や災害関連死も少なからず発生している。実態をどう把握しているか。対策はとっているか。
 
【保健福祉部長】
 6月の自殺者については、災害関連で3名と把握している。
 災害関連死そのものについては、いろんな定義があるので、そういう形での調査というのはまだ承知していないが、そういうことを防ぐために、心のケアチームでのフォローや、ハイリスクの方についての相談事業といった仕組みを使いながら対応しているところであり、特に仮設住宅に避難者の方々が生活の拠点を移されるということで、そこの中に集会所を設けてそういうところに栄養士や保健師やその他いろんな相談員の方が入って、孤独にならないような仕組みを作って対応していくと。総合的な取り組みを進めているところである。

【斉藤委員】
 知事、私は災害関連死について何度も取り上げて、新聞報道でも341人が申請していると。県として真剣に調査して対応すべきではないか。

【達増知事】
 仮設住宅にほぼ避難所から移っていただく形になっているが、この避難所生活というのは人の体と心にとって大変きついものであり、その被災者支援に対しては高い緊張をもって行政は対応しなければならなかったわけだが、この仮設住宅での生活についても避難所とはまた違った形で高い緊張をもって取り組まなければならないと考えており、その点、市町村・県・国がフルセットで被災者・被災地に寄り添うという体制で臨まなければならない。またボランティアや新しい公共的な開かれた復興の中で取り組んでいきたい。


・被災した県立病院の再建が明記されていない問題について

【斉藤委員】
 基本計画案の最大の問題は、被災地のまちづくりの中心的な課題である県立病院の再建整備が明記されていないことです。8年計画といいながら、なぜ、県立病院の再建整備は明記されなかったのでしょうか。

【宮舘副知事】
 被災した高田・大槌・山田の県立病院については、まずは外来診療機能の回復に向けて仮設診療所を整備したところであり、その後については、復興基本計画案において新たなまちづくりに連動した、災害に強く質の高い保健・医療・福祉提供体制を整備するということにしている。

【斉藤委員】
 県立高田病院の院長、職員全員が、地域住民、市長が県立高田病院の早期の再建を強く求めていますが、その願いが知事には届いているでしょうか。

【達増知事】
 要望は受けているところである。そして6月には、高田病院が医療を考える懇談会を4回開催して、病院に対する各地域の要望をうかがったわけで、その際高田病院の復旧・復興に関しては、同じ規模での高台への移転新築が必要、高田病院の良さを生かした特色ある医療を提供してほしいなどの意見をいただいた旨、医療局から報告を受けている。

【斉藤委員】
 基本計画案では、「人口集積の状況や高齢者等の支援ニーズに対応した保健・医療・福祉施設の整備」と明記されています。人口が減少したら病院の再建は必要ないということでしょうか。

【達増知事】
 被災者の心身の健康を守るために、質の高い保健・医療・福祉提供体制を整備していくには、被災市町村が復興に向けて町をどのようにデザインするかという、まちづくりの議論を踏まえて施設整備を進めていくことが何よりも肝要と考えている。
 このため、被災市町村の人口集積の状況や高齢者等の支援ニーズ、市町村における新たな町の姿を踏まえつつ、限りある医療資源を有効に活用し、保健・医療・福祉の連携による地域包括ケアシステムの構築や、ICTの活用によるネットワークの再構築等の取り組みを進めていくことにより被災地における保健・医療・福祉提供体制を整備できるものと考えている。
 こうしたことから、県が中心となりそれぞれの地域ごとに、医療資源の有効活用や病院・診療所および福祉施設の機能分担等に関して十分に議論を重ねて施設等の基盤整備を図っていきたいと考えている。

【斉藤委員】
 8年計画の基本方針案である。それに明記されないのはなぜなのかと。県立高田高校の整備は、復興実施計画に盛り込まれた。平成26年度以降までにとなったが、なぜ県立病院は明記されないのか。県議会の提案でも、被災した県立病院の再建整備を提起している。知事はどう受け止めているか。

【宮舘副知事】
 被災した医療施設等の復旧や移転整備については、復興実施計画案の中において、仮称だが「医療施設等復旧復興支援事業」として盛り込んでいる。この中に県立病院も含まれるものである。

【斉藤委員】
 知事に確認したい。実施計画で県立病院の再建整備は進めると理解していいか。仮設診療所は2、3年しかもたない。その後どうするのか。

【達増知事】
 先ほど申し上げたように、病院・診療所・福祉施設の基盤整備については、それらの施設の機能分担等に関して、県が中心となりそれぞれの地域ごとに十分議論を重ねて整備を進めていくものである。

【斉藤委員】
 なぜ基本計画案には高田病院と書かれないのか。実施計画にも高田病院・大槌病院・山田病院とは書いていない。高校は書いている。違いは何か。

【宮舘副知事】
 病院の整備については、これから地元市町とも十分連携を図りながら、被災地域の医療体制が確保されるように取り組みを進めていく必要があり、まちづくりと連動した整備ということが必要になってくると考えている。

【斉藤委員】
 知事に改めてお聞きする。役場、学校、病院、これは復興とまちづくりの中心である。この再建の方針が示されてこそ市町村の復興計画が立てられる。県立病院が3年後どうなるか分からない。どうしてそれで市町村の復興計画が立てられるのか。県の責任で明記すべきではないか。

【達増知事】
 例えば陸前高田市のケースでは、陸前高田市においても県立病院という病院の施設のみならず、福祉施設だとか学校のような教育施設とも関連させた新しいまちづくりの中での病院の位置づけというのを考えていきたいと聞いているので、そうしたことを市と県としっかり意見交換しながら今後整備を進めていきたい。

【斉藤委員】
 答弁になっていない。明記しないということは、再建整備の意欲がないということである。これはきわめて重大だと指摘したい。


・漁業再建の課題について

【斉藤委員】
 漁港を核とした漁業・養殖業の構築は重要な課題です。船の確保、養殖施設の整備、秋サケめざす定置漁業の準備状況はどうなっているでしょうか。ほとんどの漁港が破壊され、地盤沈下していますが、漁港の復旧と応急修理の取り組みはどう進められているでしょうか。

【達増知事】
 漁船の確保については、5トン未満の小型新造船約2600隻と中古船や修理して活用する船を合わせて約3700隻の確保を図っているほか、ワカメ・コンブを中心に約11000台の養殖施設を整備し、震災前の約4割の水準の回復や定置網整備への支援により、秋サケ漁期を迎える10月までには全漁場の約6割の操業再開を見込んでいる。
 また漁港の岸壁・護岸などの仮復旧工事を84漁港で進めており、地盤沈下対策も含めた本格復旧に向けて、現在国による災害査定が行われているところであり、査定終了後順次工事に着手し漁港の早期復旧に取り組んでいく。

【斉藤委員】
 すべての漁港の復興に取り組むということを基本計画案にも明記すべきだと思うがいかがか。

【農林水産部長】
 被災した漁港は、原油の漁港市町村管理を含めて111港あるが、被災した漁港は108港である。少なくとも原形復旧は進めていく。


・放射能汚染対策、自然エネルギーの本格導入について

【斉藤委員】
 復興基本計画案には、福島原発事故による放射能汚染対策・安全確保対策が補強され、盛り込まれました。福島原発事故は、いまだに収束の見通しも立たず、その被害は、岩手県においても肉牛の出荷停止に至る畜産の危機的状況をもたらしています。子どもたちへの影響も強く心配されます。知事は福島原発事故とその本県への影響、これへの対応についてどう認識されているでしょうか。本来、一つの章を設けて、福島原発事故に関わる放射能汚染対策が明記されるべきではなかったでしょうか。

【達増知事】
 今回の原発事故は、県民の安心・安全に関わるきわめて重大かつ異例な事態と受け止めている。
 県内でも牛肉から基準値を超える放射性物質が検出される事案が確認されるなど、県民生活への影響の広がりが懸念されるところである。
 県民の安全・安心の確保や、風評被害の防止を図るため、県として全力をあげて放射線影響に関わる測定および迅速適切な公表を行い、本県への影響等を把握し、適切な対策を速やかに講じる必要があると認識している。
 章だてについては、放射能汚染対策については、復興基本計画における復興に向けた具体的な取り組みに位置付けた10分野の取り組みのうち、4つの分野それぞれの取り組みと密接に関係していることから、それらの分野の施策と一体的に記載するべきものと整理した。

【斉藤委員】
 国の責任が一番大きいが、全頭検査にしてもコメの全市町村調査にしても、岩手県の対応はきわめて遅かったのではないか。農家や農協や関係者が強くそのことを指摘しているが知事はどう受け止めているか。

【達増知事】
 より迅速な対応を求める声については重く受け止め、しっかり対応していきたい。

【斉藤委員】
 原発からのすみやかな撤退を知事としても決断し、自然エネルギーの先進地をめざす本格的な導入をはかるべきではないでしょうか。

【達増知事】
 原子力発電については、今回の原発事故の速やかな事態の収束と検証を行いつつ、国民的な合意のもとに国としてのエネルギー政策が決定されるべきものと考えている。
 本県はこれまでも再生可能エネルギーの積極的な導入に取り組んでおり、今回の東京電力の原発事故を契機に、再生可能エネルギーへの期待が高まっていることを踏まえて、復興計画に再生可能エネルギーの導入促進の考え方を盛り込み、国に対して再生可能エネルギー導入促進特区を提案するなど、一層推進することとしている。

【斉藤委員】
 福島県の知事・県議会が脱原発を打ち出した。このことを知事はどう受け止めているか。

【達増知事】
 福島県民の負託を受けた知事・議会の行動として重く受け止めたい。

【斉藤委員】
 福島の危険性は岩手も同じではないか。

【達増知事】
 福島県で起きている事態については注意深くフォローしていくとともに、岩手で起きている事態に対しては、先ごろ発足した対策本部を中心に取り組んでいく。