2011年8月11日 臨時県議会・最終本会議
復興基本計画案に対する反対討論
日本共産党の斉藤信でございます。議案第15号、岩手県東日本大震災津波復興計画の策定に関し議決を求めることについて反対の討論を行います。
復興基本計画(案)の中には、漁協・漁民自身の取り組みを踏まえ、漁協を核とした漁業・養殖業の構築や不十分な内容ながらも現実的な課題となった二重債務解消に向けた提案、震災孤児・遺児に対する給付制奨学金をめざす「いわて学びの希望基金」などの積極的なものが含まれています。
しかし、復興の理念に関わる問題や最大の課題とすべき被災者の生活再建と生活基盤の回復の位置づけが弱く、事実上「安全の確保」優先の内容となっていること。復興とまちづくりの中心的課題である被災した県立病院の再建整備が明記されていないなど、看過できない重大な問題も少なくありません。こうした弱点が、大震災津波から5カ月が経過したにもかかわらず、救援・復興の取り組みが遅々として進まない要因の一つであると指摘しなければなりません。
日本共産党は、7月27日、「被災者の生活基盤の回復を復興の最大の課題に―岩手県東日本大震災津波復興基本計画(案)に対する提言」を達増知事あてに提出しました。昨日の災害対策特別委員会の質疑でも、具体的に見直すべき問題点を指摘しました。しかし、知事等の答弁は全く不十分なものでした。
第一に、復興の基本理念として、被災者の生活基盤の回復を最大の課題に位置付けるべきです。ところが、復興基本計画(案)では、事実上「安全の確保」が優先させるものとなっています。
4月11日に示された「東日本大震災津波からの復興に向けた基本方針」では、基本方針を貫く二つの原則として、「被災者の人間らしい『暮らし』、『学び』、『仕事』を確保し、1人1人の幸福追求権を保障する」、「犠牲者の故郷への思いを継承する」ことを明記していました。この原則は、幸福追求権を明記した憲法13条、生存権を保障するとした憲法25条の精神に基づくものであり、復興基本計画(案)でも貫かれるべき原則です。ところが、復興基本計画(案)では、復興に向けた三つの原則として、「安全の確保」、「暮らしの再建」、「なりわいの再生」が提起され、事実上「安全の確保」を優先する原則、計画となっているのであります。
この問題は、ハード優先、大規模開発優先の計画のゆがみとして表れています。知事が真っ先に国に求めたのは「三陸縦貫道と東北横断道の早期全線開通」でした。三陸縦貫道が復興道路の役割を果たしたのは事実ですが、優先されるべきは、津波で破壊された地域住民の生活と交通の要である国道、鉄道、三陸鉄道の復旧と復興です。この復興は新たなまちづくりの中心的な課題です。三鉄の復旧には110億円、JR・鉄道の復旧には約1000億円かかると試算されています。国道45号線のかさ上げを含めた復興を優先して取り組むべきであります。ちなみに三陸縦貫自動車道は37.9キロメートルが供用されていますが、その事業費は1713億円で、1キロメートル当たり46億8000万円となっています。
海岸保全施設についても、津波対策とともに自然環境と景観、漁業・水産業との調和を図るべきであり、過大なものとすべきではありません。あくまでも住民合意に基づいて検討されるべきです。巨大な津波から人命を守る最大の課題は、速やかな避難であり、そのための避難通路、避難場所の整備です。防災教育と防災文化の継承も重要です。30年の歳月をかけ1200億円の事業費で完成したばかりの釜石湾口防波堤が破壊されました。大船渡の湾口防波堤も破壊されました。巨額の経費がかかる湾口防波堤について、その効果を費用対効果、自然環境への影響を含めてしっかりと検証すべきです。
第二の問題は、被災した県立病院の再建整備が明記されていないことであります。県議会の政策提言でも明記されていたものですが取り入れられませんでした。大震災津波を口実に県立病院の縮小統廃合を考えるというなら、被災地の復興に背を向けるものだといわなければなりません。
被災した県立病院の医師、看護師、職員は、被災直後から自らの家族に犠牲者を出しながらも献身的に被災者の命を守る医療活動を行ってきました。県立高田病院も大槌病院、山田病院も地域医療の中心です。県立病院の再建整備は、役場、学校の再建と合わせて復興と新たなまちづくりの中心的課題でもあります。
県立高田病院の外来患者数は、1日平均167人となっています。石木院長に聞いてきましたが、「毎日入院が必要な患者が来ている」「仮設診療所にも入院べットが必要だ」「高田病院は気仙地区には絶対必要な病院だ」と述べていました。大槌病院も山田病院も同じです。仮設診療所は2年から3年程度とのことですから、今から県立病院の再建整備に取り組まなければ間に合いません。県立病院の再建整備は県の責任であり、被災地、被災者の復興めざす希望となるものであり復興基本計画に明記されるよう求めます。
第三の問題は、被災者の生活基盤の回復の取り組み・計画が不十分で弱いことであります。
「津波から助かった命を再び犠牲にしてはならない」―これは緊急で重要な課題です。すでに自殺者が出ています。災害関連死も東北3県で524人と指摘されていながら、県として調査も対策も講じていないことは問題です。
大震災津波の被害の最大の特徴は、住宅、財産とともに仕事も産業も失ったことであります。住みよい住宅の確保とコミュニティの確立とあわせ、仕事の確保・被災地の産業の再建、中小商工業者の再建がすみやかにはかられなければなりません。
仮設住宅については、玄関網戸や風除室、道路の舗装などが行われますが遅すぎます。すべての団地に集会所・談話室を整備し、地域の復興の土台となるコミュニティの確立に取り組むべきです。仮設の空き家も最大限集会所や談話室に活用すべきです。
新たな住宅の確保については、被災者生活再建支援金の大幅な引き上げを求めつつ、住宅再建、住宅の改修に対する県独自の助成を行うべきです。住田町の木造仮設住宅の経験を踏まえ、低廉で良質な住宅の開発にも取り組むべきです。希望者が全員入居できる多様な復興公営住宅建設の方向性を早く示すべきです。
大震災津波から5カ月が経過して、仕事の確保は特別に重要な課題です。被災地で仕事ができ、生活が確立してこそ、被災地での復興に取り組めます。救援・復興に関わるあらゆる雇用の確保に取り組むとともに、産業・中小商工業の再建に取り組むべきです。
産業・なりわいの再生に当たっては、再建を希望するすべての事業者の要望にこたえる取り組みを行うべきであります。
漁協を核に漁業・水産業の再建の取り組みが進められていますが、船の確保、養殖施設の整備、水産加工施設の整備などの要望に予算の枠で調整するのではなく、全面的にこたえるようにすべきです。
仮設店舗・仮設工場、グループ企業への施設整備補助など予算の枠を大幅に超えて要望・申請が出されています。国の第三次補正予算への要望を含め事業再建への要望に全面的に答えられるようにすべきです。
第四に、被災した県立高校・学校の再建整備を早期に行うとともに、市町村への支援を強化すべきです。
県立高田高校については、新入生が新校舎で卒業ができるよう3年以内の整備をめざすべきです。他の学校・施設等で授業を行っている学校の早期整備を進めるべきです。
陸前高田市や大槌町など職員も行政機構も大きな被害を受けた市町村には、職員派遣をさらに強化し、あらゆる支援を行うべきです。これまでの公務員の削減は見直すべきであります。消防職員の基準人までの増員(約1000人)を早急に図るべきです。
第五に、福島原発事故は、岩手県においても稲わらの放射能汚染、肉牛の出荷停止など畜産の危機をもたらしています。学校・保育園等でも高濃度の放射線が測定され、県民の不安も広がっています。
福島原発事故対策については、一つの重要な柱として、復興基本計画に明記すべきです。福島県が「脱原発」を打ち出したように、岩手県も原発からのすみやかな撤退を求め、自然エネルギー活用の本格的な導入で全国の先進地をめざすべきです。
以上申し上げ、復興基本計画の見直しを求めつつ反対の討論といたします。ご清聴ありがとうございました。