2013年3月19日 予算特別委員会
農林水産部(農政部門)に対する質疑(大要)
・TPP問題について
【斉藤委員】
このTPP交渉参加の問題は、日本の農業、岩手の農業、地域経済、復興の死活に関わる問題だと思っている。
改めて、政府の試算では、農林水産物への影響は33品目で年間3兆円の生産額の減少と。農業の多面的機能も、1兆6000億円の損失と示されたが、岩手県内の影響について、品目ごとに、減少額・減少率を農林水で示していただきたい。
【企画課長】
<農産物>
米が312億円・50%の減少、
小麦が3億円・100%の減少、
牛肉が91億円・46%減少、
乳牛が214億円・100%の減少、
豚肉が163億円・70%の減少、
鶏肉が95億円・20%の減少、
鶏卵が21億円・17%の減少、
合計で899億円・37%の減少となる。
<林産物>
合板が10億円・6%の減少となる。
<水産物>
サケ・マス類が55億円・57%の減少
カツオ・マグロ類が12億円・27%の減少
ホタテが11億円・52%の減少など
合計で106億円・23%の減少となる。
農林水産物全体では、1015億円・33%が減少することとなる。
【斉藤委員】
米・小麦・乳牛・豚肉など岩手の農業の基幹品目が壊滅的な影響を受ける。水産もサケ・マスで57%と。復興どころではない。こういう影響が与えられるTPPというのは、絶対に撤回させて阻止しなければならない。
地域経済への波及効果はどうなるか。
食料品・製造業への影響をどのように把握しているか。
【企画課長】
地域経済への影響額については、現在担当部で試算中である。
食品・製造業への影響については、まだ試算は行っていない。
【斉藤委員】
食料品は、製造業の中で1、2を争う。岩手の製造業は食料品・自動車である。製造業の柱である。この問題も真剣に試算をして、地域経済への影響をしっかりつかむ必要がある。
いま農林水の品目ごとの試算が示されたので、全議員に資料を配布するようお願いしたい。
TPP交渉参加表明のウソ・ごまかし・欺瞞について。安倍首相がTPP交渉参加に前のめりになったのが日米首脳会談のTPPの共同声明だった。この声明に何と書いてあるか。冒頭には「両政府は日本がTPP交渉に参加する場合には、すべての物品が交渉の対象とされること。および日本が他の交渉参加国とともに、2011年11月12日にTPP首脳により表明されたTPPのアウトラインにおいて示された、包括的で高い水準の協定を達成していくことになることを確認する」と。「『すべての品目を対象に』関税の撤廃・非関税障壁の撤廃を審議する」と。
TPP首脳によって表明されたアウトライン、この中身はどういうものか。
【農林水産部長】
委員ご指摘の「聖域なき関税撤廃」が前提ではないかということだが、私どもは、一方的にすべての関税を撤廃することはあらかじめ約束していることを求められているものではないと認識している。
【斉藤委員】
共同声明に、「2011年11月12日、TPP首脳により表明されたアウトラインにおいて示された包括的で高い水準の協定を達成していくことになることを確認する」と。共同声明で確認しているのである。このアウトラインについて聞いている。
【農林水産部長】
先ほど申し上げた部分が公表されている政府資料として、私どもが承知している内容である。
【斉藤委員】
死活に関わる問題で、そんな不勉強ではいけない。共同声明でこう書かれているということは、アウトラインがあるということなので。それは文字通り「すべての品目の関税撤廃、非関税障壁の撤廃をめざす」ということである。それが「高い水準での協定の達成」という意味である。そのぐらいのことは共同声明で書いているのだから。一番大事なことを。だからこれは、「聖域なき関税撤廃が原則でないことを確認した」ということは真っ赤なウソである。「聖域なき関税撤廃が原則だ」ということを確認した。
実は国会審議でも重大な事実が明らかになった。昨年6月に、カナダ・メキシコがTPP交渉に参加した。参加表明したのはその前の年の11月だった。7ヶ月かかって示された念書がある。その念書はどういうものか、3つの内容がある。1つは、「現行の交渉参加9カ国がすでに合意した条文が全て受け入れ、9カ国が合意しない限り再協議は行わない」。2つ目に、「将来ある交渉分野について、現行9カ国が合意した場合、拒否権を有さず、その合意に従わないといけない」。3つ目、「交渉を打ち切る権利は9カ国にあり、遅れて交渉入りした国には認められない」と。9カ国で確認したことを前提に、新しく入る国は交渉に参加すると。「新しい国には拒否権がありません。交渉の打ち切りは9カ国の権利です」という中身である。部長は理解しているか。
【農林水産部長】
聖域なき関税撤廃に関しては、私どもが先ほど答弁した通りに認識している。
【斉藤委員】
岩手の農業がなくなるかもしれないというときに、もっと真剣に、TPP交渉というのは何なのか、今の到達点は何なのか、部長が先頭になって研究して把握して、知事に報告しなければいけないのではないか。先ほど、知事の出席を求めるということが出たので、ぜひ知事を呼んでいただきたい。部長のそういう姿勢ではTPPの問題に対応できない。岩手の農業が守れない。
北海道の知事は、参加表明前に政府に出向き、参加表明直後にもまた政府に抗議・撤回の申し入れをした。岩手県の知事も、「懸念を表明する」「反対だ」と言っているのだから、具体的な行動を起こすべきではないか。行動を起こすべきだと進言していないのか。
【農林水産部長】
県としては、今の政権が発足した直後、1月8日に、TPP交渉参加に慎重に対応するようにという趣旨の要請はしている。それと合わせて、3月にも北東知事会で連名で要請もしている。そういった要請活動を通じて、政府に対しては県の考え方を示してきた。
【斉藤委員】
日米首脳会談を前後して情勢は大きく変わっているわけなので、本当に知事が先頭に立って、目に見える形でTPP交渉の撤回を求める取り組みを進めるべきだと思う。参加表明しても、アメリカ国会の審議で約3ヶ月かかる。そしてこのTPP交渉は、7月9月に交渉が予定されている。おそらく9月10月が最後だと言われている。年内にまとめるというのだから。そうすると、うまくいっても1回ぐらいしか交渉参加できない。その交渉の中身も先ほど言ったように、9カ国の合意が前提で、今までの合意を覆すようなことは議題にもならないと。聖域なき関税化を求めるということは無理である。そういうTPPの実態をあなた方が先頭になって県民にも国民にも知らせて、岩手のかけがえのない農林水産業を守っていく、復興を前に進めると。サケ・マスが5割も減って、米が5割も減って復興などできるか。この影響額は岩手の農林水産業にどういう影響を与えると部長は考えているか。
【農林水産部長】
企画課長から答弁した通り、おおむね本県の農林水産物の3分の1が失われるということなので、生産だけでなく農山漁村の維持といった面でも大きな影響があると考えている。
【斉藤委員】
本当に岩手の農林水産業だけでなく、地域経済の存立が脅かされるような状況だし、本当に戦後最大の大災害である東日本大震災の復興の最大の障害になる。体を張って頑張っていかなくてはならない。これはぜひ知事を呼んで、改めて知事としっかり議論したい。
・被災農地・農業の復旧状況、被災農家の再開状況等について
【斉藤委員】
被災農地・農業の復旧状況、被災農家の再開状況、農地海岸保全施設の復旧状況はどうか。
【農村建設課総括課長】
内陸部では、平成24年12月までに、復旧対象農地473haすべての復旧が完了している。一方沿岸部では、復旧対象農地717haのうち、当面復旧可能な311haにおいて復旧を進めており、平成25年5月までに、原形復旧を中心に259haの復旧が完了する見通しとなっている。平成25年度は、復興に向け、被災した農地と周辺の被災していない農地を一体的に圃場整備を進めることを本格化させることにより、平成26年の作付時期までに、さらに約200haの復旧を進めることとしている。
被災した農地海岸保全施設10海岸あるが、この復旧については、野田村の野田海岸が平成24年8月に復旧が完了し、山田町小谷鳥海岸ほか7海岸ではすでに復旧工事に着手している。残る陸前高田市の小友海岸は、実施設計や用地の取得、道路等の取り付けなどの協議調整を現在進めている。
【担い手対策課長】
農家の再開状況だが、平成24年は復旧事業等で復旧された農地のうち、102haで営農が再開されている。また25年の春先の見通しだが、259haが農地復旧されるということだが、この1月末に調査して取りまとめたところ、ほとんどで営農再開される予定となっている。
【斉藤委員】
農地の復旧は急いでほしいのだが、陸前高田市から、「高台移転事業などで膨大な残土が出る。かさ上げしても東京ドーム6杯分残る」と。「とりあえずの残土の置き場、できれば農地に一時残土を置けないか」と。ただ、災害復旧の期限があるので、その期限が延長されないとできない。そういう相談を受けていると思うがどう対応できるか。
【農村建設課総括課長】
陸前高田市からそういった復旧に関連した土地利用と農地の復旧について、農林水産省の大臣宛に要望されたということは承知しており、その際に、原形復旧工事は通常3年ということでこれまで進めてきているが、そういった事情を勘案して、復旧工事をその残土の処理が済んだ後に引き続き行うということについては可能だと聞いているので、そういった対応をしたい。
・放射能汚染被害状況、対策について
【斉藤委員】
JAグループで180億円の請求、森林組合が8億600万円、県漁連関係で1億9300万円、計190億8500万円の請求額になっているが、全体では65%程度の支払率になっているのではないか。特にJAで180億円だが、支払率を見ると、廃用牛だとか妊娠牛だとか牧草などが40%台にとどまっている。これはなぜ半分も支払われないのか。遅れている理由は何か。
【担い手対策課長】
支払いが遅れている理由だが、廃用牛については、だいたい今43%程度だが、廃用となる理由がさまざまあり、その確認作業に時間を要しているという状況である。稲わらについては、一部地域で汚染稲わらの数量確認が必要と聞いているので、時間を要していると聞いている。牧草についても、現場での数量の確認に時間を要している。
【斉藤委員】
来年度、放射性物質被害畜産総合対策事業が全体で81億円で、牧草地の再生対策、岩手型牧草再生対策、集中管理の廃用牛対策も行われるが、現状がどうなって、来年度どこまで対策が講じられるのか。
【畜産課総括課長】
飼料の暫定許容値を超えた牧草地の除染について、今年度の除染実施面積は6170haとなっており、除染が必要な全体面積15272haから耕起不能箇所は、今年度除染した面積を差し引くと、平成25年度以降の除染面積は6879haとなり、牧草地を早期に再生するため、十分な除染効果が発揮できるよう丁寧に牧草地の除染を進めていきたい。
市町村が行う利用自粛を要請していない牧草地の放射線物質対策については、実施面積は6町村で172haとなっており、25年度については、20市町村から約2500haの要望があり、引き続き市町村の取り組みについて支援していきたい。
汚染牧草等の保管については、牧草等の焼却処理が行われるまでの間、農家の負担軽減のため、一時保管施設なり集中保管施設の設置にかかる経費を照合しているが、保管牧草の保管の長期化に対応するための乾燥・圧縮処理、いわゆるペレット化対策を来年度の当初予算に盛り込んだ。
廃用牛の適正出荷等については、出荷できずに滞留している牛については、今年の2月末現在で3000頭と推定しており、県内3ヶ所に設置している廃用牛の集中管理施設への買い直し並びに生体推定法の導入を行いながら、25年度内には滞留を解消していく予定である。
【斉藤委員】
岩手型牧草再生対策というのは、風評被害対策だと思うが、これは損害賠償請求はこれからということになるのか。これは県が2分の1負担なので。県と市町村それぞれ賠償請求するということになるのか。
損害賠償請求で遅れているのが産直施設だと思う。産直施設での損害賠償請求はされているのか。どういう対策を県として講じているのか。ここの対策をどのように進めようとしているのか。
【流通課総括課長】
県で把握している県内の有人産直施設は277あるが、すべてを対象とし原発事故による影響を調査したところ、17%・47施設において被害を受けたと回答を受けている。具体的には、出荷制限等の措置や風評により、来客数の減少が37施設、販売額の減少が45施設となっている。
損害賠償請求の請求状況は、県では産直施設の損害賠償請求において、東京電力を出席させての説明会や個別相談の開催等を支援している。これまで一関市や北上市、遠野市など10施設において、遺失利益や生産者の販売損失等を請求したほか、11施設で請求の準備をしている。なお、10施設の請求額は1700万円余、受領は3施設で600万円ほどとなっている。
【畜産課総括課長】
市町村が行う利用自粛を要請していない牧草地の放射性物質低減対策にかかる経費については、損害賠償請求になり得るのかといった質問だが、現在国の主催による会議の場において、利用自粛を要請していない牧草地の除染を風評被害対策として損害賠償請求の対象にしてもらえないかと、他県と連携して国に対して要請しており、国からは風評被害を受けている裏付けが必要などといったような指導を受けているところなので、引き続き他県と連携しながら国と協議を続けていきたい。
・青年就農給付金事業、地域農業マスタープランについて
【斉藤委員】
青年就農給付金事業の申請、認定状況、地域農業マスタープランの作成状況はどうなっているか。
【農業普及技術課総括課長】
青年就農給付金事業だが、最終とりまとめとしている2月末までの申請者は171人で、この方々は認定要件を満たしてすでに給付済み、もしくは年度内に給付予定であり、所要額は2億1762万円余となっている。内訳としては、就農前の研修期間中に給付する準備型が42人であり、所要額は6725万円、就農後に給付する経営開始型が129人で所要額1億5037万円余となっている。
【担い手対策課長】
地域農業マスタープランだが、本県ではマスタープランを平成25年度までの2カ年間で、県内全域において作成するよう推進しているところであり、1月末現在で18市町村98地区で作成されている。25年度末までに、約700のマスタープランを作成見込みで、今春の作付時期までには、その約7割の作成を見込んでいる。
市町村から聞くと、24年度の作成がピークを2月から4月に迎えるということで、いま一生懸命やっているところで、引き続き地域の合意形成や市町村のプラン作成を支援していきたい。