2013年9月3日 商工文教委員会
「学生の学費負担軽減、奨学金の拡充についての請願」に関する質疑大要
【斉藤委員】
請願の全文に書かれてある「中等・高等教育の漸進的無償化を定めた国際人権規約第13条2項(b)(c)の留保を撤回した」とある。この中身について質問したら、堀江次長は中身を承知していないという驚くべき答弁だった。いわば請願の骨格に関わる国際条約である。この国際人権規約第13条2項(b)(c)というのはどういう中身か。
【堀江次長】
(b)については、さまざまな形態の中等教育がすべての適当な方法により、特に無償教育の漸進的な導入により、一般的に利用可能であり、かつすべての者に対して機会が与えられるものとすること。
(c)については、高等教育についても同様に、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること―とある。
【斉藤委員】
中等教育・高等教育の無償化を国際的に進める条約である。それを政府は今まで留保してきたが、昨年9月に留保を撤回した。これは大変大事な意義を持っていると思う。いわば、日本政府も中等教育だけでなく、高等教育についてもやはり無償化をめざすという方向を定めたのだと思うが、この国際人権規約第13条2項に基づいて、世界的な状況はどうなっているか。
【堀江次長】
世界的な状況についてまでは承知していない。
【斉藤委員】
こういう請願が出たときには、請願の背景を含めてしっかりあなた方が受け止めなければいけない。
基本的には、特にEUの場合は無償化である。授業料があった場合でも低額で、そして奨学金は基本的に給付制である。奨学金をもらいながら十分大学生活ができる。これが特にEUの実態で、国際人権規約第13条2項に基づいて広がってきている。EUでは、貸付型の奨学金というのは「教育ローン」と言われている。それは奨学金ではないと。日本の場合は、1999年に大きな転換点があり、貸付制度に有利子が導入された。こうなると、サラ金ローンである。教育委員会から渡されたガイドブックの中にも、4年間で400万円借りると総額で600万円返さなくてはいけないと。15〜18年かけて。大学卒業と同時に600万円の借金を抱える。我々働いていても600万円の借金は大変である。そして今青年の2人に1人は非正規雇用、低賃金である。ワーキングプアが1000万人を超えると言われている中で、奨学金という問題が新しい重大な社会問題になっていると思う。そういうところから出された請願である。
政府自身も、留保を撤回して無償化の方向を目指していると思う。これは前政権だったが、高校の授業料の無償化に踏み込んだというのは一歩前進だと。残念ながら自民党政権で所得制限を導入するという逆行現象があるが、所得制限が導入されて2割程度が対象になると言われているが、岩手県内の場合はどうか。
【堀江次長】
現在国の方でさまざまな所得制限を導入するかどうかの議論がなされていると承知している。我々の方でも、現在の高校生の状況がどうなっているか、実態を知る必要があるとは考えているが、まだ具体的な調査までには至っていない。
【斉藤委員】
無償化の流れの中で、所得制限を導入することは逆行現象である。もう1つは、現場の事務的負担も大変である。所得制限の方々をピックアップしそこから授業料を徴収しなければならない。現場も大変になる。
請願項目2の(1)、高校生・大学生・専門学校生向けの給付制奨学金の制度を創設すること―と。国際人権規約第13条2項から見たら当然の課題で、県教委も給付制奨学金の創設を求めてきたと思うがいかがか。
【堀江次長】
県でも、こういった給付制奨学金制度については国にお願いしてきたところである。
【斉藤委員】
岩手県も強く求めて、文科省も財務省に要請したが認めなかったと。文科省自身が必要性を認めている。そして東日本大震災の中で奨学金のC型というので、卒業時に年収300万円以下の場合には返済しなくてもいいという、実質給付型の奨学金制度というのは大震災の中で導入されたというのは一歩前進だと。しかしやはり制度として給付制奨学金制度というのが世界の流れで、文科省も必要性を認めているということなので、ぜひお願いしたい。
2の(2)だが、無利子奨学金の枠を増やすということで、いま無利子奨学金の割合、有利子の割合はどうなっているか。最近文科省が無利子の枠を広げるという方向を示したが、その中身はどうなっているか。
【堀江次長】
日本学生支援機構における有利子と無利子の貸与者数だが、無利子は約40万人、有利子は約91万7000人となっている。
現在の文科省の方針だが、国のあり方の検討会の中でもあり、原則は無利子に立ち返るべきではないかという議論もあったようである。そういった中で、いま我々が新聞等で把握している状況だが、文科省とすると、無利子枠を5万6000人ほど増やしたいというような検討を始めていると承知している。
【斉藤委員】
文科省も無利子の枠は5万6000人ということで増やす方向で検討していると、これは当然だと思う。無利子が有利子の2分の1以下という現状である。
2の(3)の「返済の際に税控除ができるようにする」というのは、制度として決してないわけではないと。これは住宅家賃の場合に、いろんな控除がある。これは低所得者対策である。今の奨学金問題というのは、600万700万という借金を大学卒業時に抱えると。だいたい大学新卒は初任給20万円いかない。そうした場合に、こういう低所得者に対する税額控除というのは、制度としてまったくあり得ない話ではないと。そういう低所得者に対する対策としてはあり得るのではないか。さまざまな形で税額控除というのは実際あると思うが承知しているか。
【総務室管理課長】
申し訳ありませんが承知しておりません。
【斉藤委員】
家賃の場合はそういう税額控除、例えば家族の人数とか子どもの数とか、いろんな形で税額控除している。今回の大震災でも特別減免があり、普通減免だと最低2万円までだが、月6000円まで低所得者は減免される。そういう意味で、青年が低賃金の中で、しかし莫大な奨学金を返さなくてはならないといった場合に、これは検討すべき課題ではないのか。
2の(4)だが、「返還が困難な人に対しての返済猶予期間(5年)を延長すること」―と。滞納者に対する延滞金、これは今まで10%だったが、これは下げるという方向も出ている。そして「個人信用情報機関への登録および債権回収会社を使った取り立てはやめること」と。まさにサラ金である。さすがに学生支援機構も見直しを進めていると思うが、見直しの内容を示していただきたい。どのぐらい滞納した場合にこういう延滞金がつくのか。そしてどのぐらい滞納した場合に個人情報機関への登録、債権回収会社を使った取り立てになるのか。
【堀江次長】
返済の方法等については、これは国の方でもさまざまな課題があると認識はもっているようであり、先ほど示した、あり方検討会の中でも返還方法について延滞金の賦課率の見直しや返還制度の柔軟な運用等について、今後考えていく必要があるのではないかという提言がなされているところである。
なお現時点における学生支援機構の債権回収の関係だが、機構に確認したところ、延滞3ヶ月となった債権について、債権回収業者に対して回収委託を行っていると確認している。
【斉藤委員】
返済猶予期間については延長の方向が出ている。そして10%の延滞金の金利も5%に見直すと。5%でも高利貸しのうちに入ると思うが、延滞3ヶ月で回収機構に取り立てさせると。まさにサラ金化したんだと思う。本当にこういう抜本的な改善を求めていく必要があるのではないか。学生支援機構も一定の見直しを迫られているし、こういうサラ金まがいの回収というのは抜本的に見直すべきである。延滞3ヶ月で結局延滞利息がつくわけである。本当に大変なことである。あっという間に600万円が倍になってしまう。そしてブラックリストに載せるということも青年の生活破壊に結び付くやり方というのは根本的な見直しを求めていく必要があるのではないか。
3は「県は、奨学金の滞納について実態調査を行うこと」を求めている。私も全国の状況を見たが、京都新聞、沖縄タイムスの社説でこの問題を取り上げており、昨年奨学金の滞納問題は大きな問題になり、奨学金対策全国対策会議というのが弁護士や大学の先生を中心につくられた。名古屋とか関西中心に。大きな社会問題になりNHKでも特集された。そういう深刻な青年の実態を、京都や沖縄でも把握すべきではないかと社説で提起していた。学生支援機構がやる調査と、岩手県がやる調査は性格が違うと思う。行政がやる場合には青年の生活実態調査である。青年の生活実態調査の中で奨学金の返済がどのぐらい比重を占めているかとか。こういう問題はいろんな形で実態を把握して、それにふさわしい対策を講じていくべきではないかと思う。その点について、奨学金の滞納問題の調査ということではなく、青年の生活実態調査の中で奨学金の返済がどのぐらい影響を与えているのかという形で、今行われている調査の中にこういう項目も入れていくべきではないか。
【堀江次長】
ただ今の件については、県教委で判断できないところもあるので、関係部局に委員のお話を伝え検討していただくようにしたい。
【斉藤委員】
今まで項目的に請願について、世界の動向、国の動向、県の対応をお聞きしてきた。
給付制奨学金制度の創設というのは、県も文科省も要求している課題である。無利子奨学金の枠を増やす点については、増やす方向で改善されようとしている。
返還が困難な人に対する返済猶予期間、延滞金の高金利についても見直しの方向が出された。まだまだ手がつけられていない問題もあるが、新しい青年の深刻な問題として、そして奨学金のあり方を根本から見直すという点で、今回の請願というのは大変重要な意義をもっていると。岩手県議会からこうした声を政府にあげることは大変大事な意義を持つということを述べて質問とする。