2013年10月18日 決算特別委員会
保健福祉部に対する質疑大要
・介護保険事業について
【斉藤委員】
平成24年度の1人当たりの介護サービス利用料(費用額)はどうなっているか。
在宅介護サービスも含めて全国最低クラスになっているのではないか。その要因について示していただきたい。
【長寿社会課総括課長】
デイサービスなどの居宅サービス、認知症グループホームなどの地域密着型サービス、特養などの施設サービスの3つの区分になっているが、介護サービスの費用額は、厚労省が発表した25年3月サービス分の介護サービス受給者1人当たりの費用額は、施設サービス・地域密着型サービスはおおむね全国平均に近い水準となっているが、居宅サービスは全国に比較すると割合で88.3%だが、順位としては全国46位となっており、これが要因して介護サービス全体も46位となっている。
居宅サービス利用が低調な理由としては、本県は山間地が多く、サービス事業者・利用者とも訪問・通所にかかるコストがかかるなどの地理的要因、あるいは効率性の問題、家族が自分で頑張るという気持ちがあり、他人を家に入れたくないという意識的な問題があると考えている。
【斉藤委員】
要因もあるが、いずれ全国最低クラスというのを直視して本当に使いやすいものにしなければならない。
3月末の特養ホームの待機者は6542人、うち在宅待機者が2300人、早期入所が必要な待機者は1233人となっているが、今年度の整備数は239床、来年度613床となっており、待機者は解消されないのではないか。
厚労省は、介護度1・2の高齢者は特養の入所者から外そうとしているが、県内の実態はどうなっているか。
【長寿社会課総括課長】
特養待機者は委員ご指摘の通りの状況にあり、うち早期入所が必要と判断されている在宅の待機者1233人にたいし、本年度と来年度の第5期計画では計852床の整備計画である。この他、認知症グループホームが279床計画されているので、これにより一定程度の対応は可能であろうと考えている。なお待機者が多い各市町村から、そのことに対してどのような対応をとるのかを聞いたが、まずはショートだとか在宅サービスを組み合わせて何とかしのいでいこうというところであり、今後は施設整備と合わせて、地域包括ケアシステムの観点を強めて在宅サービスに力を入れていこうと答えている市町村もある。県としては、必要な施設整備はもちろん、地域包括ケアについても十分力を入れていきたい。
要介護1・2の特養入所者の状況は、平成25年6月の特養ホーム、これは広域型だが、介護サービスを受けた利用者は、要介護1の方が126人、要介護2の方が396人の計522人となっており、特養ホーム入所者の約7.8%となっている。
【斉藤委員】
特養を申請しても入れない、これからは要介護1・2の方々は特養にも入れない。本当に深刻だと思う。要介護1・2といっても、認知症だとか家族の介護がなかったらダメなのである。
政府は、要支援者を介護保険サービスから外そうとしている。要支援1・2の高齢者はどうなっているか。
【長寿社会課総括課長】
県内の要支援1・2の方だが、平成25年8月時点で、要支援1の方が8739人、2の方が7965人の計16704人となっており、要介護・要支援認定全体での割合は23%が要支援となっている。
【斉藤委員】
23%の方々が介護保険サービスから外されると。特養にも入れない、サービスも受けられない、保険料は上がる、これは保険かって介護なしではないか。まさに大改悪ではないか。こんなことをやったら高齢者は長生きできないということになる。こういう大改悪を許していいのか。高齢者の実態から、こういう大改悪にたいして声をあげる必要があるのではないか。
【保健福祉部長】
国の社会保障制度改革に関しては、プログラム法案がいま、その詳細については介護保険部会で介護保険制度については審議されると聞いている。県としてもその状況を注視しながら、国に対して言うべきことは言っていきたい。
【斉藤委員】
やはり高齢者の深刻な実態を踏まえて、この間介護保険利用料は倍である。払えない介護保険料をとりながら、必要な介護サービスを受けられないというのはどういうことか。本当にこういう大改悪を安倍政権が進めるとしたら許されない。
・医師・看護師確保対策について
【斉藤委員】
今年度分を含めて医師確保の奨学生はどうなっているか。岩手医大からの県立病院や県内医療機関への医師派遣数の推移はどうなっているか。
【医務課長】
奨学生の状況だが、現在市町村医師養成事業、医療局医師奨学金貸付事業および県医師就学資金貸付事業の3つの奨学金で計55名の貸付枠を設定しており、平成25年度の奨学金の貸付者は全体で46人、20年度からの貸付者の累計は264人となっている。
岩手医大からの医師派遣件数の推移だが、県立病院への派遣状況は、統計のある平成13年度から減少傾向だったが、ここ5年の推移では、平成21年度が245人、平成23年度が239人、平成25年度が245人とほぼ横ばいとなっている。県立病院を除く市町村等の公立医療機関への派遣状況は、地域医療支援センター事業を委託した平成24年度分の数値しか把握できていないところだが、5医療機関に30人の派遣となっている。
【斉藤委員】
岩手医大にはさまざまな形で補助を出し、事業も委託してやっているので、本当にこの役割も評価していただきたい。
看護師対策で、看護師の需給状況、具体的にどういう対策をとっているのか。岩手労働局も入ったさまざまな会議・研修会も行われているので、看護師の苛酷な勤務環境の状況の打開策についてどう取り組まれているか。
【医務課長】
これまで岩手看護職員確保定着アクションプランに基づき、さまざまな取り組みを進めているところであり、看護職員の養成・確保対策として、県内就業への効果が見込まれる看護職員就学資金について、貸付単価の増額だとか、返還免除となる医療機関等の要件の緩和、新規貸付枠の拡充などに取り組んでいる。また、大規模改修を行う県立宮古高等看護学院の定員の増員の検討なども進めている。
看護職員の県内への定着対策として、看護学生の現場の体験セミナーや県内の就職ガイダンスの開催、潜在看護職員の活用対策として、職場復帰のための研修会やナースセンターによる再就業支援などの事業を行っており、今後もその団体等と連携しながら安定的な確保・定着に努めていきたい。
特に、勤務環境改善というところで、看護師が働き続けられる職場環境づくりを推進するために労働部門・関係部門と連携して、看護管理者や労務管理者を対象とした多様な勤務形態の導入、労務管理や職場の風土改善のための研修会の実施というものをやっており、県内における勤務環境改善の他県における勤務環境改善の先進事例などの紹介なども行っている。さらに若年層の早期離職防止ということも課題であり、新人看護職員への研修なども実施している。
その他、看護師の業務負担の軽減を図り、看護の質を向上するために、看護補助者の活用のための研修会なども今年度から開催している。
需給状況については、平成22年度に策定した第7次の看護職員の需給見通しにおいて、平成27年度には需要数が17170人にたいし供給数が16433人と推計されており737人が不足するという推計がされている。今後とも、さまざまな対策に力を入れていきたい。
【斉藤委員】
医師確保と合わせて、看護師確保はこれからの医療の充実にとって重要な課題だと思う。今言われたように、需給見通しでも平成27年には737人不足すると。看護師がいないわけではないが、あまりにも過酷で途中で辞めざるを得ないと。ここの抜本的な改善を図らないと、どんどん条件のいい関東方面へ引っ張られていってしまうと思うので、この取り組みは県をあげてやっていただきたい。
・福祉灯油・被災者支援灯油の実施について
【斉藤委員】
知事は総括質疑で、請願の採択を「重く受け止める」と。重く受け止めるだけではいけないので、すでに厳しい寒さが到来して暖房を使わざるを得ない状況である。
灯油価格は昨年と比べてどう推移しているか。被災者の生活実態は去年と変わらないどころか悪化しているのではないかと思うが、こうした状況をどう受け止め、請願採択についてどう対応しようとしているか。
【地域福祉課総括課長】
県民生活センターの調査によると、今年度の灯油価格は、春先から18リットル当たり1800円前後で推移しているところ。
被災者の実態については、本年9月30日現在、応急仮設住宅やみなし仮設住宅で生活している方が35516人と、今なお被災された多くの方々が不自由な生活を余儀なくされていると認識している。また岩手復興ウオッチャー調査では、平成25年8月時点で、被災者の生活の回復度について、「回復した」「やや回復した」と答えたのは42.7%となっている。
請願の採択を重く受け止めるという知事答弁についてだが、灯油価格が急騰した平成19年・20年度は、特別交付税による国の支援策が示されたことから、全市町村を対象として補助を実施した。23・24年度は、灯油価格が平成19・20年度の水準までは高騰せず、国の支援がなかったものの、東日本大震災津波により甚大な被害を受け、財政状況がきわめて厳しい中で、福祉灯油を実施しようとする沿岸部の市町村が多数あり、これらの市町村に対しては手厚い財政支援が必要と判断し、被災地福祉灯油等特別助成事業費補助を実施した。今年度は、9月末時点でほとんどの市町村が福祉灯油を実施するかどうか検討を始めていない段階と聞いており、先に採択された請願も踏まえて、灯油価格の推移や国による支援の動向を注視し、実施主体である市町村の意向を十分確認しながら、県の補助の必要性を検討していきたい。
【斉藤委員】
皆さんの調査で、すでに大船渡市・大槌町・野田村・葛巻町・九戸村は実施する方向だと。さらに二戸市・野田村・北上市・九戸村は被災者支援灯油を実施する方向で考えていると。検討していないというが、あなた方の調査は「今後検討予定」が27市町村である。岩手県は今回もやってくれるのだろうかと見ている。岩手県がやるのだったらやりたいと。これは被災地の声である。去年は12月の補正予算があったが、そういう点では厳しい寒さが例年になく早く来ているので、良いことは早く県が決断してやるようにしていただきたい。
【保健福祉部長】
請願も踏まえ、被災地の状況や灯油価格の推移もある。市町村の意向もあるので、その辺も十分に確認しながら県の対応を検討していきたい。
【斉藤委員】
良いことは早くやっていただきたい。本当にこういうときは、被災者を励ます支援をぜひやっていただきたい。
・東北メディカルメガバンクによるゲノムコホート研究について
【斉藤委員】
これは遺伝子情報の継続的な調査ということである。東北メディカルメガバンクの目的は何か。財源はどうなっているか。
【医療政策室長】
事業を実施している岩手医大の説明によると、「医療関係人材の派遣や健康増進等を通じた地域医療の復興とともに、東北初の予防医療、個別化医療等の次世代医療の実現と、新たな産業の創出等をめざすもの」とされている。
財源については、文科省から交付されている補助金を財源として事業が運営されており、平成25年度は、岩手医大に約5億5000万円が交付されると聞いている。
【斉藤委員】
その程度の説明ではとんでもないことになると思う。個人の遺伝子情報の継続的な調査というのがゲノムコホートという意味である。
この最大の問題は、個人の遺伝子情報という保護をどのようにやるかである。先行事例で、滋賀県長浜市がこの取り組みを京都大学医学部と連携してやっている。長浜市はどういう形で取り組んだのか。どういう長浜ルールをつくったのか。
【医療政策室長】
長浜コホートについて。京都大学および滋賀県長浜市により、市民の健康づくりおよび医学の発展への貢献をめざす「長浜0次予防コホート事業」を実施していると聞いている。これは、尿や血液、DNAなどの遺伝子情報、検診結果などの蓄積およびその管理・運用にあたり、事業に関わる全てのものが順守すべき事項や事業の基本的な仕組みを定めていると聞いている。この中で、市長の責務として、個人情報管理者の設置や、大学の責務として個人情報の匿名化、市長への報告義務、インフォームドコンセントの徹底、市民意見の反映、倫理委員会による研究計画の審査などがルール化されていると聞いている。
【斉藤委員】
長浜の資料を読んだが、「このプロジェクトを進めるうえで一番大きな課題は、市民一人一人の検診データや、病歴遺伝子情報など、取り扱いに配慮が必要な個人情報をどのように保護していくかということだった。例えば研究の成果により、病気になる可能性があると判明した個人の遺伝子情報が万一外部に漏れてしまったら、差別に発展することや就職や結婚に不利になるなど、人権に関わる重大な問題を引き起こしてしまう可能性がある」と。それで長浜市は、約2年間27回のルールをつくる策定委員会をつくって、ゲノムコホートを進めるためのルールをつくった。それは主には5点あり、研究よりも人権を尊重、二重の倫理審査、包括的インフォームドコンセント、二重匿名化による個人情報の保護、ルールの定期的な見直し、2年間でこれだけやってゲノムコホートを進めている。
ところが、肝心の遺伝子情報の調査をやるのに、まともに被災地の住民に説明していない。市町村と協定も協議もない。県もそれにまったく関わっていないというのはどういうことか。重大な人権侵害になる。そういう認識はあるのか。
【医療政策室長】
こういった倫理的配慮が必要な研究については、関係者間できちんと合意をして進めていくというのは十分同じ認識である。今回の関係者間の協議・合意等については、岩手東北メディカルメガバンク機構においては、昨年10月から11月にかけて、関係市町村等を訪問して事業の概要等をあらかじめ説明した上で、本年5月に岩手医大学長およびメガバンク機構長の連名により、関係自治体宛に事業の趣旨・目的・個人情報保護等について記載された協力依頼文を発出したと聞いている。この協力依頼文を受け、関係自治体では本事業に同意済みと聞いており、関係者間における合意のもと、本事業が進められているものと理解している。
【斉藤委員】
医学研究の倫理指針であるヘルシンキ宣言というのがある。その第17項に「不利な立場または脆弱な人々あるいは地域社会を対象とする医学研究は、研究がその集団または地域の健康上の必要性と優先事業に応えるものであり、かつその集団または地域が研究結果から利益を得る可能性がある場合に限り正当化される」と。
いわば被災地で困っている方々を対象にしてはいけないということである。それなのに、まともに被災者に説明なしに、検診という形でやっている。岩手県がしっかり中に入って、関係市町村としっかり協議して、遺伝子情報というもっとも重大な個人情報保護の必要な協定を結んでやるべきである。どさくさまぎれに、被災者を相手にやるような研究事業ではないと思う。
長浜の例を踏まえて、こんなどさくさ紛れのやり方はやるべきではないのではないか。
【保健福祉部長】
岩手東北メディカルメガバンク機構だが、事業の実施にあたっては、個人情報保護、倫理面の対応も行われていると承知しているが、一方で、長浜市における取り組みのように、地元との連携による取り組みも重要だと認識している。今後関係市町村からの相談などについて、岩手東北メディカルメガバンク機構との調整など、県としても適切な対応をしていく。
【斉藤委員】
まず被災者にまともな説明がされていない。このコホート研究というのは遺伝子情報の検査・研究・継続的な調査である。それを被災地が困っているから健康検診をやるという形でやるべきものではない。重大な遺伝子情報という個人情報がどう保護されるのか、協定もなしでどう保護されるのか。まったく今は無法状態でやられていると思う。
長浜市が2年間かけて、協定をしっかり結んで、そういう中で1万人の調査をしている。
この調査の中断を含めて、県が責任ある対応をとるよう強く求めたい。