2013年11月19日
いわて東北メディカルメガバンクについての申し入れでのやりとり(大要)
【斉藤議員】
今日は、いわて東北メディカルメガバンクに関する申し入れということで、決算特別委員会でも取り上げたが、12月議会を前にして、これは県はもとより被災地、被災自治体、被災者に関わる重要な問題だということで、きちんとした申し入れを行いたい。
いわて東北メディカルメガバンク事業が、被災地においてすでに実施されているが、この事業の中身は、地域住民の健康調査とともにゲノム情報を含む地域住民のコホート、三世代コホートを形成して、全国のゲノムコホート他バイオバンク研究機関と連携しながらバイオバンクを構築しつつ、ゲノム情報を解析しようとするものと、これはメディカルメガバンク機構の中で概要として事業の目的も示されている。
ゲノム=遺伝子情報というのは、文字通り究極の個人情報で、病歴から体質からいろんな情報がこれにより解析されるということで、議会でも聞いたし被災地からも聞いたが、それだけ重要な調査のわりには丁寧な説明がされていない、そして被災者・被災自治体との関係でも、こうした究極の遺伝子情報をどうやって安全に確保するのか、セキュリティ、そういう体制も示されていない。そういうことで、大変私はこの問題はきわめて重大だと。それが震災復興というどさくさ紛れに行われるということは二重の問題だと思っている。
日本学術会議の分科会で7月26日に提言を出しており、倫理的配慮、社会との接点、倫理的課題とその対策、倫理審査という問題を特別に提起している。「本研究においては、事業参加者から提供資料の使用目的を限定しない包括同意や将来の健康情報の提供についての了解を得ておくことが不可欠である。本研究の活動には、厳格なセキュリティ管理と組織の継続性が必要であり、かつ個人情報保護法などの関連法規制に従って実施されるため、実際に際してこれらの倫理的問題について十分に検討し、適切なプロセスを構築しておく必要がある」となっている。包括的同意というのは、こうした遺伝子情報が将来どういう形で利用されるかというのが現段階で分からない課題が多い。それだけに、ただ皆さんの血液をとりますというだけでは済まない。それが将来どう使われることも含めて、包括的同意ということになっている。
ところがもちろんこのような説明はほとんどされていない。議会で聞いた範囲でも、本当によく分からないリーフが示されているだけで、被災者は今健康で困っており、健康調査をしてくれるのならということで、逆にいけばそういうやり方がヘルシンキ宣言に反する。弱者にたいしてそういう医療の研究を行ってはならないというのがヘルシンキ宣言である。
ゲノムコホートの先行事例である滋賀県長浜市では、京都大学の大学院医学研究科から提起して、2年間27回の検討を経て、長浜ルールという条例を制定した。そこでは、大学での遺伝子情報の厳密な管理だけではなく、住民も参加した形での審査も行うと。包括同意なので、将来こういう研究に利用したいというときには、そのときにまたそこで合意するかどうか審査すると。それが長浜ルールの中にも示されている。だから、それだけ厳密なことをやらないと、本来ゲノムコホート研究というのはやってはならないことではないか。
具体的な要望項目として、1つは、ゲノムコホート研究の実施にあたっては、事業に参加する被災者と被災自治体に丁寧に説明するとともに、包括的な合意を得ることを前提として取り組むべきだと。
2つは、長浜ルールの取り組みを踏まえて、究極の個人情報である遺伝子情報の保護など厳格なルールを岩手医大と関係市町村で確立するように県として取り組むべきだと。これに県が入るか入らないかは要検討課題だと思うが。
3つは、いわて東北メディカルメガバンクの取り組みが、被災地における医療の再生と医療機関の復興にどのような役割を果たすのか具体的に明らかにすべきだと。いわばこれが建前であってはならないと。ある意味でいくと、こういう被災地の医療の再生に取り組むということを入り口にしてやっている。しかしどれだけのことをやってくれるのか。被災した病院に医師を派遣するのか。健康調査のときだけ行くだけであれば医療の再生にならないならないので、これが建前でカモフラージュであってはならない。きちんとこのことを明らかにさせるべきである。
4つは、被災者の健康診断の取り組みの中で、どさくさ紛れにゲノムコホート研究の調査が行われないようにすべきだと。やはりきちんと区別して、長浜市がそうしているので。何十ページという事前の問診をとってやっている。本来そういう形である。だから、単なる健康調査ではない。いま被災地でやられているのは、健康調査の一環である。こういうやり方は正しくない。
以上の4つの対策の点を求め、これらの課題が解決されないままでのゲノムコホート研究は中断すべきだと。きちんとそういう必要な手立てをとって、合意を得て必要な協定も結んだ上でこうした遺伝子情報の調査・研究は行われるべきである。そうしないと、弱者にたいしてこういう医療の研究は一方的に行われてはならないというヘルシンキ宣言に反することになりかねない。被災地で行う場合には、二重にも三重にもそういうことを踏まえた対応が必要なのではないかというのが今日の申し入れの趣旨である。
県としてきちんと、県は関わらないというのではなく、県民が対象になっているわけなので、どう関わるか含めてきちんと対応していただきたい。
【保健福祉部長】
この事業に関しては、私どもとしては、まずは岩手医大が関係自治体を訪問して、きちんと説明したうえで、それで岩手医大からも首長あてに事業の趣旨や個人情報の保護といったことも含めた協力要請を行ったと。その上で、自治体が同意しながら進められているものとうかがってきている。
その中で、いろいろな申し入れのようなこともあるので、岩手医大にはこういった申し入れがあるということはお伝えしながら、これについてどのように対応するのかということは確認していきたいし、関係の市町村からもご相談等々あればそれも含め対応は考えていきたい。
ただ、県が主導的に指示する話までできるかどうかは、なかなか事業を進めている当事者同士がやはり第一だとは思うので、そこのところはいろいろお話をうかがいながら考えていきたい。
医療の再生の復興にどんな役割を果たすのかについては、我々としてもできるだけそういう方向で、いい影響が出るということを願っている。その辺はもう少しいろいろ話をうかがいたい。
学術会議の提言についても、県としてどのようにやればいいか考えていきたい。
【斉藤議員】
おそらく岩手医大は関係市町村に説明をしたのだと思う。ただ、被災自治体が今どういう状況かというと、猫の手も借りたい、復興で職員不足で、一方で仮設住宅で被災者の命と健康が脅かされている。こういう状況の中で、健康調査してくれるなら助かるという対応なのだと思う。
本当の目的はゲノムコホートとはっきり書いている。健康調査というのは、付随した二次的なもので、これもどれだけの中身があるか疑問だが、ところがゲノムコホート研究ということについて、被災者の遺伝子情報の長期の三世代にわたる調査をやろうというのである。本来どさくさ紛れでやる課題ではない。そして被災自治体がそういうことも含めて、きちんと深く考えて対応する条件にない中で、おざなりの説明をして、形的には了解を得てやったというやり方は、厳密にいったらヘルシンキ宣言に反すると。
長浜市が2年かけてゲノムコホート研究をどうやるかと、京都大学がそういう提起をして、これは簡単にできないのできちんとしたルールを決めなくてはならないと。条例にまでして、逆にいけば積極的にそういうルールの下で健康を守る町という押し出しをしている。そういう先行事例があるわけだから、そういうことも紹介して、それだけ大変なことなんだと。今今の健康調査1年2年やってくれる話ではないので、三世代にわたる研究である。
今までやりたかったというのがあり、これは宮城県知事が東北大学と一緒になり国家プロジェクトを導入した経過があり、岩手医大もその下請けになっていると思う。ただ、国家プロジェクトなだけに5億5千万円など莫大な予算がついている。去年は10億円である。これは大学側にしてみれば、いろいろ議論が内部ではあったと聞いているが、それでやっていると。それだけの事業だけに、慎重にやらないといけない。
アメリカでは実際に事件が起きており、例えば病歴だとか癌の情報が漏れた場合に、保険に入れない、保険から排除すると。だから本当に究極の個人情報と言われている。それだけ一番厳密な対応をしなくてはならない課題なので、そういうことが被災自治体も被災者も理解して、必要なルールをつくってやると。ゲノムコホート研究そのものに反対しているわけではないが、本当に重大な情報だけに、厳密なルールや体制で進められるべきだと。
県がどこまで関わるかは県自身の判断だが、県民が関わっているのは事実なので、関係市町村にも県からもきちんと説明するし、医大にもどういう議論と説明がされているかも含めてしっかりやっていただきたい。
【保健福祉部長】
申し入れの趣旨は了解しました。