2014年3月18日 予算特別委員会
農林水産部(農業部門)に対する質疑(大要)
・TPP交渉と岩手の農林水産業への影響について
【斉藤委員】
2月22日から25日まで、TPP閣僚会合が開催され、合意に至らずと。次回会合の見通しさえ決めることができなかったという状況だった。こうした現状をどう見ているか。この交渉の中で、アメリカ政府がどういう要求をし、日本政府はどう対応しようとしたのか。
【企画課長】
今般行われたTPP閣僚会合においては、2度にわたり日米間の閣僚の会談が行われたところだが、合意に至らず交渉が継続されることとなったということ、またその交渉内容の詳細については、国の方から何ら資料が公表されていないので承知していない。
【斉藤委員】
岩手の農林水産業に死活的な影響を与えるので、よく情報を分析して対応しなければいけない。
アメリカ政府は日本政府にたいして、すべての農産物の関税撤廃を強行に要求し続けたと。コメ・麦・牛肉豚肉・乳製品・砂糖の農産物重要5品目の部分譲歩での合意を狙っていた日本政府との協議は成立しなかったと。いわば日本政府は、部分的な妥協を狙った。ところが、アメリカ政府が全然妥協しなったので決裂した。ここには2つの問題があると思う。アメリカ政府は、やはり関税撤廃が原則できているということである。もう1つは、日本は部分的譲歩をやろうとした。これは国会決議に反するものである。こういう日本政府の対応は許されない。国会決議にも公約にも違反する。
4月下旬の日米首脳会談が次の交渉の山場だとされるが、日本の一方的譲歩以外合意する見通しがないというのが大方の見方だが、アメリカがTPA(大統領貿易促進権限)法案というのが議会に提出されている。国会議員の4割がこれに反対しているというので簡単に通るような中身ではないと思うが、この法案の中身はどういうものか。
【企画課長】
「アメリカ政府が外国の政府と通商協定を結ぶ場合に、大統領が議会にたいして通商協定の合意内容について、修正なしで承認するか否決するかを要求できる権限」とされているものであり、現在アメリカ議会に提案されている法案には、農業のほかに、知的財産・投資などについて、基本的な目標が盛り込まれていると聞いており、具体的な内容については、これも英文でアメリカのホームページに掲載されているものであり、詳しい内容については承知していない。
【斉藤委員】
アメリカ政府が交渉に強行に出ているということは、そういう権限が今与えられていない。外交権限というのは、アメリカの場合は議会にある。だから中途半端な交渉をすれば議会で否決されるので、そういう交渉はできないというのが実態である。
ではそのTPA法案の中に、何が盛り込まれているのか。交渉相手国の関税を、米国当該産品と同じかそれより低い水準まで削減するとなっている。いわば、アメリカの水準にいかに関税を引き下げなければだめだということを原則にしている。コメの関税は、いまキログラム当たり341円、アメリカはキログラム1.4セント、アメリカ水準にすると1円ということである。小麦でも0.35セントでほとんどないような状況である。牛肉も同様である。だから、アメリカと話をつけようと思ったら、アメリカの関税に合わせると。こういう譲歩はやってはいけないと思うがいかがか。
【農林水産部長】
本県としては、従前から本県の農林水産業の持続的発展、あるいは震災からの復興に影響が生じないようにということで政府に要請している。
【斉藤委員】
傍観者ではいけない。TPPで決まってしまった、手の打ちようがないのだから。岩手県の試算でも、コメは半減、酪農は100%だめになる。肉牛も50%ダメ。TPP交渉の推移で、農林水産業は何の手だてもとれない。そういう意味では死活がかかって、今までいろんな議論をしているが、TPP交渉に参加したらこんな議論がまったく見えなくなってしまう。そのぐらいの重大な問題だから、やはり閣僚会合だとか首脳会談があるなら、その前に、きちんと北海道・東北6県なり力をあわせて行動を起こすと。
関税撤廃とあわせて補助金廃止というのがある。関税撤廃の影響が大きいが、補助金を廃止したら、今さまざまな補助金で何とかやっている農業、また復興も莫大な補助金で復旧している。こういう補助金が認められなかったら復興が成り立たないと思うが、改めて関税撤廃と補助金廃止による県内農林水産業、復興に与える影響をお聞きしたい。
【企画課長】
政府統一試算として、関税を即時撤廃し、国内対策を何ら講じないといった前提で行った国の計算方法を参考にして、本県への影響を試算した場合、農産物で899億円、林産物で10億円、水産物で106億円ということで、農林水産物の生産額の約33%に相当する1015億円が減少するというような結果となっている。本県の農林水産業の生産はもとより、農山漁村そのものに大きな影響が生じると懸念している。
特に、東日本大震災津波からの復興途上にある被災地域の活力を決して損なうことがあってはならない、そのように進めなければならないと考えている。
・安倍内閣の「農政改革」の県内農業への影響について
【斉藤委員】
すでにこのTPPと関連するが、国の農政転換による県内農業への影響、農業所得で16億円の減少と報道があった。大規模農家、集落営農、それぞれの地域ごと等への具体的な試算を示していただきたい。
【農業振興課総括課長】
国の農政転換による県内農業への影響について。本県農業には、地域の特色を生かしたさまざまな営農類型があることから、県内の地域ごとの代表的な営農類型における影響試算で、これによると、県南・県央部の水稲と小麦を生産する大規模戸別経営で16%減少、額でいくと平成25年度現状の660万円余が516万円余に減少する。
県南・県央部の水稲と小麦を生産する集落営農組織では、水稲と小麦を合わせて4ヘクタール規模だが、25年度現状の試算で1880万円余が1680万円余で11%の減と。
県北・沿岸部では、水稲と園芸品目との複合経営によると、水稲など65アール程度の経営で試算すると、25年度550万円余が530万円余ということで3%減少するものと試算されている。
【斉藤委員】
突然出された安倍内閣の農政改革で、農家は大幅な所得減である。これではやっていけない。
農政改革の目標として、農地の8割を担い手に集約すると。コメ生産コストは4割減で、60キロあたり9600円をめざすと。いま12500と言われているが5万の法人をつくっていくと。岩手の現状はどうなっているか。これに噛み合う計画はどうなっているか。
【担い手対策課長】
本県の農地の集積状況、国が8割というものにたいし、ここ5年間ほどで50%程度で推移している。
生産コストについては、今のところ詳細な数字については持ち合わせていない。
法人については、集落営農組織については、現在85法人という状況である。
【水田農業課長】
コメの生産費の現状について。直近の24年産米の生産費だが、60キロあたり13809円となっている。
【斉藤委員】
結局、TPP交渉に参加して、国内体制をどうつくるかというのが安倍内閣の農政改革である。農地の8割が集積など難しいと思う。ましてやコメの生産コストを4割削減と。これはコメが暴落しても対応できるという価格である。コメの暴落が前提になっている。
そして5万法人というのは、農地中間管理機構をつくったのがここに最大の理由があるが、いわば普通の企業を参入させるということである。岩手の農業の実態からして、農政改革というのは、岩手の農業の実態に合わないのではないか。
【担い手対策課長】
中間管理機構等を活用し、農地の集積を図っていくというような取り組みが始まるわけだが、やはり本県としては、規模拡大を図り農家を育成していくということが必要と考えている。その中で、企業が参入してくるというような懸念があるということは従前から言われているが、今回の機構の仕組みの中で、農地の貸付先については、市町村などからの情報を参考に、当該地域の担い手といった方々に優先配慮しながら受け手を決定するという仕組みについて、現在検討を進めているところであり、企業はどんどん各地域に入ってくるということについては、地域の優先性を考えた上で、大幅に入ってくるという状況にはなりにくいと考えている。
【斉藤委員】
担い手に農地の8割を集積するというが、担い手が減っているのではないか。なぜ減っているのか。集落営農も減っている。なぜ減っているのか。実態も含めて示していただきたい。
【担い手対策課長】
認定農業者の減少については、主に高齢化によるところの再認定を受けない方がいるということが大きな要因ととらえている。
集落営農の数そのものが減っているということだが、実際には集落営農を統合している部分もあるので、一概に全体の数が減少しているとは把握していない。
【斉藤委員】
数を示していっていただきたい。どう減っているのか。
【担い手対策課長】
平成21年から24年度までのデータで、平成21年は424集落経営体、22年は423、23年は421、24年が415ということで、大幅に減少しているという状況ではないととらえている。
認定農業者の推移は、平成22年3月末で8332人、23年8076人、24年7712人、25年7444人である。
【斉藤委員】
そういう実態こそ重要で、国がそういう実態を無視してそこに8割集約するとか、現実を無視したやり方だし、やらないんだったら結局企業になる。
中間管理機構の問題点について、当初は、耕作放棄地をこれで解消できるのではないかという期待があったが、産業競争力会議では、耕作放棄地解消の機関ではないと。再生できるところだけ借り受けるのだという議論になった。中間管理機構というのは、ある意味借り手があるところが前提になった借り受けではないか。耕作放棄地の解消にはつながらないのではないか。
【担い手対策課長】
機構が借り入れる農地については、「遊休農地など農地として利用することが著しく困難な農地を除く農地」ということで、それらの農地については、あらかじめ借り手がもしいない場合であっても、一定期間は借り受ける制度となっている。
耕作放棄地について、機構が事業の対象とする耕作放棄地については、所有者が機構への貸付意思を示し、それを農業委員会が再生利用可能と判断した農地である。機構がこうした農地を再生し、担い手へ貸し付けることにより耕作放棄地の解消は図られるだろうと考えている。
【斉藤委員】
そんな単純な話ではないと思うが、昨日、県内市町村長と東北農政局の意見交換会が県南部を中心にやられたと。首長からは、「市町村が事務量増加に耐えられない。行革で市町村職員に余力がない。また制度変更かと農家の間では戸惑いがある。被災で向こう数年耕作ができない農地もある中で、新制度のいっせい導入は厳しい」と。
今回の農政改革は、まともな検討も議論もなく、実態を無視した方針が突然出てきたと言わざるを得ないが、そう思わないか。
【農林水産部長】
本県の農業振興については、従前から地域農業マスタープラン、地域で農業の将来の姿を描きどう実現していくかと、そういったものを基本にしながら振興してきた。
国の農業政策の転換が今回あったわけだが、それらも生かしながら、我々が元々描いていた姿の実現に向けて努力していきたい。
【斉藤委員】
行政なので、悪法も法で、これに基づいてやらざるを得ない側面もあるので、新たな障害が加わった、農家も減少せざるを得ないという中で頑張らなくてはならない。
そしてこの悪法に消費税が加わる。岩手県内で消費税対象になる農家(1000万円以上)はどのぐらいあるか。
【農業振興課総括課長】
平成22年の農業センサスのデータによると、2627戸である。
【斉藤委員】
国際家族農業年の意義と県の取り組みについて、国連が国際的に家族農業を重視してやるということを示しているのは大変重要だと思うが、この意義をどうとらえ、岩手県としてどう取り組もうとしているか。
【農業振興課総括課長】
国際家族農業年は、国連が家族農業の果たしている役割の重要性を広く世界に周知するために提唱しているものと承知しており、家族経営体は農業生産や農業農村の多面的機能の維持などに大きく貢献しているものと考えている。
国においては、途上国等における家族農業の果たす役割を評価し、あわせて途上国の農業振興の重要性を訴えていく方針と聞いており、国連食糧農業機関(FAA)とも協力しつつ、国際家族農業年に関する取り組みを国外に紹介することとしていることから、県としても必要に応じてこれを機に対応していきたい。
【斉藤委員】
国連がこういう形で打ち出しているので、岩手県もこれに呼応した取り組みを進め、いま家族農業に光を当てて、岩手の農業の再生を図る必要があるのではないか。
・大震災津波からの農地・農業用施設の復旧状況について
【斉藤委員】
450ヘクタールを対象にし、5月までには405ヘクタールが復旧すると。実際に再開する見通しはどうか。農地の8割という答弁があったが、2割は復旧しても使われないということになるのか。
この間陸前高田市小友地区の調査に行ってきたが、就農する農家が激減していると。それで生産組合をつくってやると。やはり農業就業者をどう確保するかが大変大事だが、農業就業者の状況をどう把握しているか。
【農林水産部長】
営農再開は、調査時点での営農再開の意向であり、ただ農家個々により、機械の都合などさまざま事情があるので、必ず約2割が営農再開しないという意味で申し上げたものではない。
【農業普及技術課総括課長】
国の農業経営体の被災経営再開状況調査のものしか具体的な数字は持ち合わせていない。市町村の全体の就農者ということになれば、次回の2015年のセンサスの数字を待たざるを得ない状況である。
【斉藤委員】
国の調査だと480戸が260戸に減っているということだった。小友地区に行ったときもこういう実感だった。そして、216ヘクタールがまちづくりとの関わりですぐ復旧できないと。時間が経てば経つほど復旧は難しい。こういう方々に対する補償、これはどうなっているのか。補償があって期間が延びるのはいいが、補償なしだったら農地としての復旧は難しくなってしまうのではないか。
【担い手対策課長】
被災地の農家が経営再開に向けて取り組む支援としては、被災農家経営再開支援事業というもので支援している。例えば、水田作物については10アールあたり35000円、露地野菜だと10アールあたり40000円といった経費を農家に支援し、復旧までの間、草刈りやがれき処理といった取り組みに支援するという事業を導入して支援している。