2014年10月22日 決算特別委員会
農林水産部(農政部門)に対する質疑(大要)


・米価暴落の影響と対策について

【斉藤委員】
 県の経営体聞き取り調査結果については、買掛金未払い金の支払いができないというのが57%、資材費・人件費の手当ができないというのが46%と大変深刻な状況だと思う。
 15ヘクタール規模の大規模農家、30ヘクタール規模の集落営農組織の具体的な減収はどう推計されるか。

【水田農業課長】
 15ヘクタール規模の大規模農家については、概算金で390万円の減収、ナラシ対策で約310万円ほど補てんされる見込みで、25年産米の収入額が1570万円となり、約80万円減収する試算になる。これに米の直接支払い交付金が減っているので、これが約110万円減収になり、計190万円の減収になると見ている。
 30ヘクタール規模になると、概算金で約780万円の減収、ナラシの補てん額が620万円、直接支払い交付金の減収額が約30万円になり、計390万円の減収になる。そもそも30ヘクタールになると、概算金と収入額が3500万円ほどになるので、それからの390万円の減収なる計算である。

【斉藤委員】
 文字通り、担い手農家、県が推進してきた集落営農組織が大打撃を受けるのが今回の米価暴落だと思う。
 県は5ヘクタール以上は再生産価格を上回ると言っているが、具体的な根拠がよく分からない。国政のレベルでは、60キロ16000円という生産費が出ているが、あなた方は13000円ぐらいで試算しているのではないか。なぜかい離があるのか。

【水田農業課長】
 実際に生産費には三種類あり、副産物価格を引いた生産費と支払利子や支払地代を加えたもの、全参入の三種類がある。県で試算で用いたのは、副産物価格を引いた生産費で一番低いところになるが、これが実際の現場で、どのくらいお金がかかったかというのが分かりやすいという判断で、こちらを使っている。

【斉藤委員】
 国会の議事録を見たが、16000円の生産費で議論されている。16000円の生産費だと概算金はまず半分である。全参入の生産費でやったらどこまで生産費が上回るのか。一番低いところで比較してもいけないのではないか。農家の実感にも合わないと思う。そもそも固定資産税も払っており家族労賃もそもそも算入されていないのではないか。

【水田農業課長】
 この生産費には家族労賃は入っている。
 全参入の場合の規模だが、10ヘクタールくらいのケースになる。

【斉藤委員】
 全参入16000円という生産費で比較すれば、10ヘクタール以上でないと再生産費を収入が上回らないと。やはりきちんと示す必要がある。農家の実感でも、5ヘクタール以上は再生産費を上回るといって、そうだと思う農家はいない。
 ナラシ対策でかなり補てんされるが、ナラシ対策は加入申請2070件である。そしてナラシ円滑化対策も34778件。ナラシ対策で、加入面積はたしかに39%を占めるが、件数で見たらどうなるか。

【水田農業課長】
 ナラシ対策の件数については、すべての加入対象の方がはっきりしていないということなので、面積でしか把握していない。

【斉藤委員】
 ナラシ対策の件数と円滑化対策の件数を足して2070件で割れば5.6%である。
 そして5ヘクタール以上で再生産費を上回るというが、5ヘクタール以上というのは1054経営体で販売農家の2.5%、10ヘクタール以上だったら371件、経営体なので集落営農も入るかもしれないが。農家全体から見ると、圧倒的多数の農家が大変な減収を強いられ、再生産が賄えないという事態になる。これをリアルに見て県は対応すべきである。
 2010年産米も大暴落だった。このときの国・県の対策はどうだったのか。今回は、過剰米の市場からの隔離が必要だし、安倍内閣が行った直接支払い金の半減の影響が大きい。この撤回をしないと暴落対策にならないのではないかと思うが、国の動向を含めて示していただきたい。

【農産園芸課総括課長】
 平成22年の下落のときかと思うが、国においてはちょうど戸別所得補償制度がスタートしたときで、その際には戸別所得補償での適用があったものと考えている。県としては、その際に農家の資金繰りに対する対応、特に緊急融資を実施しており、あわせてその際に新たな米の生産販売戦略を立てながら低コストなり需要拡大の取り組みを進めるということで対応してきた。
 国の動向だが、県内26年産米の米価下落については、国では10月15日現在の作況を見て必要な対策を検討するとしており、現在過剰米対策等の対応についての国の情報はない。県としては、今回の米価下落は、全国的な需給の緩和によるものと考えており、まず国による対策が必要だということで、北海道・東北知事会等を通じて、国に対して飼料用米の隔離等の要望をしてきている。また、県独自でも経営体策として、米価下落緊急対策資金を措置したほか、今後生産対策、消費拡大対策等、国の動向を見ながら必要な対策を講じていきたい。

【斉藤委員】
 2010年産米は所得補償制度があって救済されたと。今回は何もない。直接支払い金も半減である。だからこそ、国に対しても、県も、2010年産米以上の対策をとらないと、米価暴落対策にならないのではないか。

【農林水産部長】
 今回の米価下落はご指摘の通り、米の直接支払い交付金が半分にされたということで、これも踏まえ非常に大きな影響を及ぼしている。これについて国では、交付金自体が、なかなか他産業の従事者や他作物を生産する農業者に納得していただくことが困難ということで減額し、多面的機能支払いの創設に費用を回したと国では説明している。しかしながら、農家の影響は非常に大きいと。現在これに代わるものとして、国では新たなセーフティーネットの構築ということで、収入保険制度を検討しているので、農業経営全体の収入に着目した収入保険制度はどういうものなのかと、それらの状況等を踏まえ、県としていずれ万全なセーフティーネットの構築を引き続き求めていきたい。

【斉藤委員】
 収入保険制度は18年・19年の話で、いまの暴落対策には全くならないので、根本的には主食である米の需給に国が責任を放棄したというところに一番の根本問題があって、ヨーロッパなどが手厚い補償政策をしている。これは再生産費を保障するということを原則にしているからである。それを投げ捨てたことはきわめて大きいと思う。


・認定農業者、集落営農の状況・推移と農地の集約について

【斉藤委員】
 認定農業者、集落営農組織のこの間の状況・推移はどうなっているか。

【担い手対策課長】
 認定農業者数は平成23年度末で7712経営体、24年度末7444経営体、25年度末は7312経営体となっている。
 集落営農組織数については、23年度末421組織、24年度末415組織、25年度末で415組織となっている。

【斉藤委員】
 岩手県の農業を担うべき認定農業者が減少していると。集落営農組織も減少しているのはきわめて残念な事態である。
 担い手に対する農地の集約はどうなっているか。
 農地中間管理機構の取り組みはどうなっているか。賃借の申請状況はどうなっているか。

【担い手対策課長】
 農地の集積だが、最近だとここ5年間8万ヘクタールほどで推移している。
 農地中間管理機構では、事業の初年度であるので、まずは農業者等への周知徹底を図るため、県内各地域で事業説明会を開催するとともに、事業の円滑な実施を図るために、機構業務の市町村への委託、県内各地域への農地コーディネーターの配置など、体制整備を行ってきた。さらに整形し農地集積に取り組む地区において、地域の話し合いの促進等の支援を進めてきた。8月1日から県内33市町村・49地域を対象にし、事業開始後初めてとなる借り受け希望者の募集を始めたところであり、10月19日現在で581経営体・延べ面積11228ヘクタールの希望となっている。貸し手については、9月末現在で434件・445ヘクタールとなっている。

【斉藤委員】
 現段階だとミスマッチで、いまの米の暴落の中でどれだけ借り受けが進むかという不安もあるが、意外と貸し手がもっと増えると思っていたが、意外と面積的には少ない感じがする。
 いずれ担い手に対する集約は8万ヘクタールで推移しているというが、リアリズムでいくと81000から79000台に減っていると言わなければならない。


・東日本大震災津波および豪雨・台風災害からの農地・農業の復興状況について

【斉藤委員】
 農地の復旧状況、作付の状況はどうなっているか。
 被災地の農家の減少の実態、経営体の状況はどうなっているか。
 昨年の豪雨・台風災害からの農地の復旧状況、作付状況はどうなっているか。

【農業普及技術課総括課長】
 本年9月末時点で、復旧対象のうち717ヘクタールのうち430ヘクタールが復旧している。そのうち368ヘクタールで水稲などの作物が作付されており、復旧された農地での作付再開率は86%となっている。経営体数については、高齢化で耕作を継続できないという方々が担い手に農地を頼んだり、あるいは陸前高田市の小友や大船渡市の吉浜など、新たな集落営農組織ができ、そこに農地を集積するという状況が進んできているので、経営体数で把握するということはなかなか実態としてあまり適切でないというか、農地での作付状況で復旧状況を確認するのが妥当ではないかと考えている。
【農村建設課総括課長】
 昨年の豪雨・台風災害からの復旧状況だが、被災した1400ヘクタールのうち、9月末時点で98%にあたる1373ヘクタールが復旧し、残る27ヘクタールは河川工事との調整等のため現在も復旧工事に取り組んでいるが、27年春の作付時期までに復旧する見込みである。


・日豪EPAの合意内容と県内農業・畜産への具体的な影響について

【斉藤委員】
 県はこの合意内容と県内農業・畜産への影響をどう把握しているか。

【企画課長】
 日豪EPAにおいては、牛肉の関税率の引き下げなどが合意されたと承知している。この牛肉の関税率の引き下げにより豪州産の牛肉と品質の競合する乳用種だとか乳用廃用牛の価格低下が懸念されるところであり、本県の肉用牛生産や酪農などへの影響を懸念している。牛肉以外の品目については、豪州産の輸入割合が少ない、あるいは県内で生産されていないという状況があるので、大きな影響はないのではないかと考えている。

【斉藤委員】
 すごく認識が甘いと思う。冷凍牛肉は38.5%から19.5%に削減される。そして3年間で冷凍牛肉も冷蔵牛肉も約10%前後下がる。この影響が小さいということにはならない。まさに岩手の畜産の成否がかかる問題である。
 乳製品の問題でも、ナチュラルチーズは4000トンから20000トン。20000トンといったら国内生産量に匹敵する規模である。いま国会でこの批准が議論されているが、日豪EPAというのはTPPの第一段階というか、日豪EPAをさらに拡大させてTPPというシナリオなんだと思う。重要5品目を除外するという国会決議に反しているのではないか。具体的な試算もすべきではないか。

【農林水産部長】
 牛肉の関税の引き下げの影響については、影響額が15年ないし18年にかけ段階的に行われるということが1つある。また輸入量が一定量を超過した場合は、セーフガードが講じられるといったような状況から、国でも影響額等の試算をしていない。このような状況で、本県独自に試算することはなかなか難しいととらえている。
 国会決議との整合性だが、EPA協定案については、国会に承認を求めることが10月10日に閣議決定されたと聞いている。したがい、国会決議との整合性については国会において判断されるものと考えている。

【斉藤委員】
 畜産県岩手とすれば危機感が少し足らない。たしかにセーフガードはあるが、毎年セーフガードになる、そうすると形骸化してしまう。3年間で10%一気に下げるのである。そこをリアルに見てやる必要がある。


・TPP交渉について

【斉藤委員】
 10月25日からTPPの交渉が始まる。そして11月にはAPECの首脳会議も行われるが、「事務レベル協議では一部乳製品の関税撤廃を求める姿勢にアメリカは転じた」という報道もある。TPPは、アメリカ自身が関税撤廃を譲らないと。妥協しようと思えば、日本の全面的な譲歩しかない。10月25日、さらにAPECに向けて、東北・北海道の知事会でもタイミングよく対応すべきではないか。

【農林水産部長】
 TPP交渉については10月25〜27日に閣僚会合が行われると聞いている。いずれ本県においては、このような交渉の動向については情報把握に努め、知事会と連携し国益にそぐわない交渉は行わないようさまざまな機会をとらえ要請しており、今後も引き続き要請していきたい。