2014年12月8日 商工文教委員会
公契約条例、中小企業振興条例等に関する質疑(大要)


・岩手県の契約に関する条例の骨子案について

【斉藤委員】
 先ほどの説明で、本県の契約をめぐる現状の(2)のところで、「県内の建設業界等は、労働者の賃金水準が低く、労働者の社会保険加入8割程度、適正な労働条件の確保が求められている」となっている。3の(2)のところでも、「適正な労働条件の確保を図っていく」となっているが、今度の岩手県の契約に関する条例の骨子案では、労働者の賃金の還元額が明記されていない、保障されていない。いわゆる公契約条例の一番の要である賃金条項が明記されなかったのはなぜなのか。どういう手法で適正な労働条件の確保を図っていくものなのか。

【労働課長】
 賃金条項を盛りこまなかった理由だが、全国の状況を見ると、市区町村レベルでの条例制定が進んでおり、今後県内の市町村においても、条例制定が進む可能性があるのではないかということで、仮に、県と市町村の双方で賃金条項を盛り込んだ条例を制定したとなると、市町村の域内では県の還元額と市町村の還元額が現れてしまい、このような状況になると、働く方々も事業主も相当混乱が生じるのではないかということで盛り込まないことを考えた。
 労働者の労働条件の確保をどのような方法で図っていくかということだが、まず基本理念でそのことを謳ったうえで、それに向けて県は必要な措置を講じていくということにしており、その講じる措置・施策・取り組みについては、これまでは例えば、入札で金額ありきで金額がすべてで決めてきた物事を、顕在する部分だけではなく、労働条件の確保に配慮する事業主の努力の部分も考慮して、総合的に展開していくと。賃金還元額一点のところに焦点をしぼって労働条件の確保を図っていくということではなく、さまざまな施策を総合的に展開して図っていくという手法をとっていってはどうかという骨子になっている。

【斉藤委員】
 まったく説得力のない支離滅裂な答弁である。県の公契約条例は県発注の事業である。市段階は市発注の事業なのだから全然矛盾しない。入札制度でもみんなそうなっている。そして必要な措置などまったく中身がない。
 いま建設労働者は、設計労務単価に対してどういう実態にあるか把握しているか。

【労働課長】
 たしかに県は県、市町村は市町村の発注する業務に関してそれぞれ還元額を定めるということで、その意味合いではたしかに住み分けされているが、実際の建設業に従事する労働者の方々にしてみると、今日は県の現場、明日は市町村の現場、午前と午後で現場が違うなど、そうすると、ほぼ同一の労働に従事しながら適用される賃金が変わってくるという状況になる。そうするとやはり相当混乱が生じてくると。
 本県の労働者の方々の賃金の部分、全産業の平均を見ると、25年度は27万8400円、建設業の方々は25万8500円ということで低くなっている。

【斉藤委員】
 県発注と市発注の還元の基準を同一にすれば全然問題ない。いま全国で制定されている市・区レベルの公契約条例の多数は、賃金条項を明記している。ほとんどが公共工事設計労務単価の90%、これが圧倒的多数である。設計労務単価は現場の実質賃金なので、本来なら100%でいいが、入札制度があり、例えば90・95になれば100は割るということがあり得るので、全国はほとんど90%になっている。だから90%で県も市も同じように設定すれば全然問題ない。
 建設労働者の実態を私からも紹介したい。昨日建設労働組合の大会があり、そこで賃金実態調査のアンケート結果が紹介された。1877人の労働者のアンケート結果である。全体として設計労務単価は、大工の場合20800円に対して平均12221円、このぐらい落差がある。90%にすれば18000円以上保障される。これぐらいの落差があるのが実態なのだから、だから多くの労働者が求めているのは、設計労務単価はそのように設定されているのになぜ現場で受け取る大工さんの賃金がこんなに低いのかと。県発注の工事だけでも一定の保障をする必要があるのではないか。ワーキングプアをつくらないようにする必要があるのではないか。この実態を改善する条例でないと意味がないのではないか。

【商工労働観光部長】
 委員の方から実態についてご指摘があった。その結果については、相当大きな建設現場における賃金格差があるのだろうということは私も理解する。一方で、契約に関する条例、これをきちんと成案として施行していくということも必要なことだろうと思っており、そのためには、広く関係者のコンセンサスが得られる内容のものである必要があると考えているので、さまざまなご意見をいただく中で、意見をとりまとめ望ましい方向に成案化に向けて努力していきたい。

【斉藤委員】
 公契約条例は、市区レベルから始まった。その圧倒的多数が賃金の還元額を設定する、そのほとんどが公共工事設計労務単価の90%というものである。いま先行事例で実施している到達点である。県がそのように実施すれば、市町村もそういう基準で進んでいく。そういう形で、県の契約に関する条例で、労働者の適正な労働条件の確保をめざすというのであれば、実効性のある公契約条例にすべきだと。これは請願採択をした労働団体、関連労働者の圧倒的多数の声である。これに応える条例にすべきだと思う。
 先ほどの説明で、特定県契約というのがあった。「設計額が一定金額以上で特定の種類の契約」となっているが、これは基本的には契約額で5000万円以上とか1億円以上という形の基準ということになるのか。特定の種類の契約というのは何を想定しているのか。

【労働課長】
 契約の種類とすると、いま手元にあるのは、工事、業務委託のうちの人件費割合の高い(  )の関係、指定管理といったものを念頭に置いている。そしてそれを一定金額で縛って、それ以上のものというような線引きをしたいと思っている。望ましくはすべての契約を対象にすればいいわけだが、条例の運用の実効性を考えると、どこかで一定の線引きをしなければならないという結論になり、具体的にはそこはこれから、最後は規則で規定するわけだが、そこに至るまでに議論を重ねていくが、いま事務局とすればそういうイメージをもっている。

【斉藤委員】
 できるだけ公契約の対象は広くすべきだと。佐々木博委員が、消火器の検査で、予定価格の大変低い形で契約がされているということも告発された。被害を受けるのは労働者なので、できるだけ幅広く公契約が対象になるようにきちんとしていただきたい。
 これはパブリックコメントでもたくさん意見が出ると思うので、きちんと県民の声や要望に応えた条例に改善していくという方向でよいか。

【商工労働観光部長】
 労使あるいはさまざまな関係者が広くコンセンサスが得られるようにという観点から、幅広く意見をうかがいながら成案化に努めていく。


・岩手県商工業振興条例の素案について

【斉藤委員】
 これは6月議会で、高橋省三議員の一般質問に知事が答えて、質問は中小企業振興条例を制定すべきというもので、これに答えて条例の制定に向けて検討を進めていきたいと、ここから本格的に始まったと思う。ただ、素案を見たら、「商工業」振興条例。これは産業振興条例である。高橋議員が質問した趣旨とも完全にずれてしまったのではないか。名は体を現すというが、中小企業振興条例を求めている県内の運動があり、私も何度も県政要望でもいろんなところでも求めてきた。それが素案が出たとたんに「商工業」振興条例とはどういうことなのか。すり替えではないか。中小企業団体、県議会のそれぞれの委員が求めてきたものと、皆さんが出したものはまったく意図する中身が違うのではないか。

【商工労働観光部長】
 仮称・商工業振興条例の骨子案に至るまでの経緯を申し上げると、高橋議員から一般質問において、制定に向けて検討してはいかがかという提言を踏まえてというのはご指摘の通りである。それぞれこれまで先行している31県を超える中小企業振興条例という名のもと、あるいは産業振興と広くとらえた県もある。そのようなことを比較検討する中にあって、本県特有の事情、中小企業が占める割合というのは全国とあまり変わらない比率で99.8%ぐらいの高い割合だということは承知している。その中にあって、本県では人口減少問題への対応、さらには東日本大震災津波からの復興を、産業として生業としてどう復興していくかという観点を加えて検討すべきだということになり、さまざまな主体が参画するという形の中で、一方議会においては、食と農林水産業の振興に関する条例についても検討されていると聞いており、岩手県全体として産業振興分野、商工業振興、食と農林水産業という産業単位としての振興策を考える中で、中小企業あるいは小規模企業振興対策を考えていく必要があると。広く県民の参画を促すということを考えての商工業振興条例案としたものである。

【斉藤委員】
 これは中小企業家同友会、岩手県商工会議所、商工会連合会といった経済団体がこの間毎年中小企業振興条例の制定を求めて、さまざまな集会をやって、我々県議会議員も県の担当者も参加してきた。要望してきたのは「中小企業振興条例」である。それが素案になったら、まったく中身の違う商工業振興条例になってしまった。これはすり替えである。全然中身が違う。
 全国の動向を見ても、中小企業振興型は26県、産業振興型は6県である。圧倒的に中小企業振興条例が多数である。こういうすり替えは大問題である。
 中小企業家同友会や商工会連合会から厳しい意見が出ていると思うが、どういう意見が出ているか。

【経営支援課総括課長】
 骨子案発表後に、商工団体にお集まりいただき意見交換会をさせていただいた。商工連からは「名称に中小・小規模企業を盛り込んだ方が良い」、同友会からは「縦割りではなく横断的に中小企業支援にすべきである」などの意見もいただいているが、一方で「商工業振興を目的とする条例は大変良い」とか、商工団体の中にもいろんな意見があり、そういったご意見をうかがっている。

【斉藤委員】
 同友会も商工会連合会も全体にわたり厳しい意見を出している。率直に言うと、彼らが求めているものとは中身が違ったということである。とんでもないことである。本来なら、今までそういう条例制定を求めてきた期待に応えるのが条例である。それがすり替えられて、大変怒りに満ちた意見が出ている。
 例えば、商工業振興条例と中小企業振興条例の何が違うか。大企業と中小企業を一体にしていることである。求めているのはそうではない。日本の経済においても、岩手県経済においても、中小企業が果たしている役割、これは国の中小企業憲章でも小規模企業の振興法案でも、「日本経済の柱」だと、「地域社会を支える役割を果たしている」と思っている。それを大企業と一緒にして産業振興というごちゃ混ぜにしたような条例では性格がまったく違ってくる。いま大企業はどんどん海外進出し、古里を持たない企業。中小企業というのは、地域に根を張って、地域で雇用を守って、さらに地域の文化も担っている。そういう社会的役割を果たしている。だからそういう中小企業の役割を明記した、地域経済の柱としての本格的な振興策を求めているのが同友会や商工会連合会の第一の意見である。これは決定的に違っている。大企業と中小企業を一緒くたにするような条例では、本当の意味で中小企業の方々の要望・期待に応えられないと思うがいかがか。

【商工労働観光部長】
 大企業と中小企業が一体になっているので問題ではないかというご指摘もあった。我々は、この骨子案の中では十分説明し切れていない部分があることは承知しているが、内容的には、中小企業の振興、小規模企業への配慮ということもしっかり位置づけさせていただいているので、ご理解をいただけるのではないかと考えているが、委員からのご意見等については十分今後成案化への過程の中で検討させていただきたい。

【斉藤委員】
 名は体を表すで、名称に一番の問題が表れているし、そのことが各条例の項目・素案にも出ていると思う。例えば、いま小規模企業に対する「配慮」と言ったが、これは旧中小企業基本法の考え方である。いまは「配慮」ではない。「支援」である。そして持続的な経営を保障する対策を講じると、今年6月の小規模企業振興基本法でそのように明記されている。持続的な経営を支援する、それが国の到達点である。だから「配慮」という古い感覚ではなく、やはり中小企業憲章、小規模企業振興法に基づいた中身に変えていかないと、県は何を考えているのかということになってしまう。
 そもそも基本施策の中で、中小企業振興というものがない。7項目のところに別枠に立っているということも変な話である。
 そして、関係団体の役割のところで、大企業の役割がない。やはり大企業が果たす役割というのも明記しないと、いま大企業の下請け単価切り下げで中小企業が悲鳴をあげている。岩手県内だってそうである。6割7割が赤字である。トヨタ自動車はボロ儲けしているが、下請け関連は7割以上赤字である。トヨタは毎年下請け単価切り下げている。自分だけ儲けている。これが大企業である。だから大企業の役割を明記しないと、片手落ちの条例になってしまう。きちんと明記すべきではないか。

【経営支援課総括課長】
 条例の用語の使い方だったり、盛り込むべき項目などについては、まさに今パブリックコメントしており、また議会でのご意見、商工団体からもご意見をいただいているので、そういったことを踏まえて検討していきたい。

【斉藤委員】
 基本計画と立てるとなっているが、大変大事なことだが、私は千葉県の例も紹介したし、高田一郎県議は横浜市の例も紹介した。基本計画に基づいて、毎年の事業の実績を公表する、こういうことが大事だと思う。基本計画に基づいて中小企業振興施策を定め、そしてその実績を毎年公表し、そして次年度へと、そういうことが盛り込まれるような条例にすべきである。
 これは三重県がきちんと明記しているが、中小企業・小規模企業振興推進協議会というのを設置し、そこで中小企業関係者の声も含めて今後の推進策を考える、検証するという協議会の設置というのも、やはり県だけでやるのではなく、関係者と一緒になって知恵を出し、そして推進するという体制がつくられるべきではないか。

【経営支援課総括課長】
 いま基本計画の姿やあり方、関係機関との検討の仕方等についても検討していきたい。

【斉藤委員】
 いくつかに限定して、しかし条例の基本に関わる問題を提起した。今の素案だったら県議会は同意できない。本気になって、どういう条例が求められたのかということを、頭の中で考えずに、現場の実態・要望に踏まえた、そこに応えるような条例の制定を、パブコメや関係団体の意見も聞いていると思うので、しっかりやっていただきたい。
 小規模企業振興法も制定されたので、「中小企業・小規模企業振興条例」というのが一番いまの状況ではふさわしい名称になるのではないか。これは三重県がそうなっている。国も全体として悪い政治ばかりだが、この点ではかなり認識が発展してきていると思うので、地方もしっかり踏まえたものにしていただきたい。


・震災復興の取り組みの現状・課題について

【斉藤委員】
 被災地の中小企業の復興状況、二重ローンの解消、仮設店舗の状況はどうか。
 グループ補助は、最初はグループ補助が決まっても自己繰越や再交付ということもあったが、その後の状況はどうなっているか。
 雇用の状況については、私が把握している段階では、労働者の数は増えているが、地元の食産業、とりわけ水産加工業は1400名ぐらい震災前と比べて不足しているという深刻なものもあるが、雇用の状況についてどうなっているか。

【経営支援課総括課長】
 二重債務の債権買取決定数は、岩手産業復興相談センターが98件、東日本大震災事業者再生支援機構が、債権買取や出資を合わせて128件となっている。
 仮設店舗は、362ヶ所で区画数は1811である。
 グループ補助については、トータルで交付決定しているのは115グループ・1248社・782億円となっており、現在各事業者も事業執行中であるので、年度末に向けて今年度終了できるかどうか随時確認していきたい。
【雇用対策課長】
 ハローワーク沿岸4地区の、水産加工業を含む食料品製造業の被雇用保険者数を見ると、震災前の23年1月が6556人、26年7月現在は5066人と、人材確保という面ではいまだ道半ばという状況だと思う。

【斉藤委員】
 雇用の問題で言いたいのは、事業復興型雇用創出事業で申請が多くて、10月21日までの受付の予定が、9月17日で終了してしまったと。申請が多いのだったら、復興の最中なのだから、補正予算でも組んで対応すべきではなかったか。昨年もそうだった。去年から対象になるはずだった事業者は今年からしか対象になっていない。そういう状況はどうなっているか。
 緊急雇用創出事業で、県は支援員を配置しているが、市町村は仮設団地に支援員を配置している。いま仮設団地には、被災者がピーク時の7割生活している。これが徐々に災害公営住宅に移行するが、災害公営住宅は集会所は整備したが、人もいない、机・椅子もない。仮設団地も被災者がいる限り必要な支援員の配置は必要だし、災害公営住宅にも2年3年と必要な支援員を配置してコミュニティを確立する、絆をつくっていくという特別の体制が必要ではないか。阪神・淡路大震災では、昨年までで1000名を超える孤独死が出ている。去年46人孤独死が出ている。こういうことを絶対に繰り返してはならない。こういう緊急雇用創出事業は継続されるべきだし、そういうところにも配置すべきではないか。

【雇用対策労働室長】
 事業復興型については、今年度までという形になっており、認定できる枠は全部使い切ってしまった。非常に使い勝手が良く、要望も高いと思う。いま県としては、ぜひ来年度も継続してほしいということを国にお願いしている。
 緊急雇用創出事業については、いま基金はある程度ある。したがい、期間を延ばしてもらえるのであれば、来年度もある程度はできる。ですから国に対しては、積み増しをお願いするというよりも、期間の延長をお願いしている。もちろんまだまだ仮設の方々への支援は必要性もあると思っている。もう1つ言われているのは、緊急雇用と言いつつも、同じ人が雇われているという指摘もされており、それだと緊急だと言えるのかと言われており、ある程度どういう人が雇われているかということもメスが入れられるのではないかということは聞いている。
 いずれの事業も県では必要という認識でもって国に要望していきたい。