2015年10月16日 商工文教委員会
教育委員会(いじめ対策)に関する質疑(大要)


・岩手県いじめ問題対策連絡協議会条例案について

【斉藤委員】
 いじめ問題対策連絡協議会の条例案が出て、補正予算があるわけだが、この背景になったのは、7月5日の矢巾町内における中学2年生のいじめに関わる自殺だった。そして昨年4月末には、滝沢市内で中学2年生が、第三者委員会の報告でも示されたように、いじめが要因になった自殺があった。
 2年連続でこうした痛ましい事件が起こったということについて、私自身が痛恨の極みだが、いじめ対策法ができて、県がいじめ対策の基本方針を出して、そうした中でなぜこういうことになるのか。教育長や教育委員長、教育委員会自体の反省が率直に言って足りないのではないか。
 そして、矢巾の2度目の事件から、痛切な教訓を学ばなければいけないと思うが、いかがか。

【教育長】
 昨年の滝沢市での事案については、当初いじめとの関連性というのがなかなか明らかにならなかったという中で、第三者委員会での20回にわたる審議の中で、いじめとの関わりがあるという結論に至った。教育委員会としては、滝沢市の事案を全県で共有するということで、事案に至る経緯等についての啓発活動や情報教育を市町村教委とともにやってきた中で、矢巾町の事案が発生したということに対しては、教育委員会や私自身としても、きわめて痛恨の極みであり、真摯に反省しなければならないと思っている。このこと自体が繰り返すことがあってはならないという思いを強くしているところであり、今後再発防止に向けてできる限りの対策に取り組みたい。
 一方で、いじめは常に起こり得るという危機感も常に持ちながら、いじめの早期発見・対処ということで取り組んでいかなければならない。

【斉藤委員】
 滝沢市のケースと矢巾町のケースで共通性と違いがある。滝沢のケースは、学校の調査で自殺といじめの関連を認めなかった。このことが父母の不信を買い、第三者委員会の設置に至った。市教委も含め学校の対応がまずかったと思う。
 矢巾町の場合は、大変残念な事件が起きたが、矢巾町の教育委員会も、町長を含めた総合会議も翌日に開いて、いじめと自殺の関連を認めて、その上で学校も調査をすると。痛ましい事件が起こったが、矢巾町はそういう立場では、遺族や犠牲になった方に心を寄せた取り組みが基本的には行われてきたのではないか。
 共通した問題は、いじめが訴えられていても、いじめと認識できなかったという問題である。子どもたちや父母が、いじめがあると指摘しても、それをいじめと認識しない、学校として対応しない。矢巾町の場合はもっと特異で、生活記録ノートに1年前からいろんなことが書かれていて、担任教師もたしかにその時その時は対応しているが、深刻ないじめとして担任教師が受け止めず、学年でも学校でも共有せず、学校として対応できなかった。あれだけの訴えがありながらいじめと認識できなかったのが共通の大問題である。多くの学校にこれは当てはまると思う。からかいや、いじめの境界が分からずいじめとして受け止められていない。やはりいじめというのは文科省の提起にあるように、本人が心理的肉体的に苦痛と感じているものはいじめなんだと。そのことの立場で早期に発見して対応するということだと思うが、残念ながら、滝沢・矢巾だけではなく、いじめの認識というのが教師にも学校にも決定的に不足した、きわめてその認識に重大な問題があったのではないかと思うが、どう受け止めているか。

【教育長】
 両事案の違いについてはお話のあった通りと認識している。
 共通点としては、それぞれいじめられた方、いじめた方が存在すると。その判断というのがなかなか難しいということもあったのではないか。矢巾町の場合は、生活記録ノートがあったということと、担任が生徒との相談に乗っていたという中で、不幸にもああいう事態に至ってしまったのは極めて痛ましい事案であり、そういう中で我々は、学校組織としての情報共有というものが欠如していたということについて、両事案ともに大きく反省しなければならない。これを他山の石として全県で情報を共有して再発防止をやっていくということが強く岩手の教育界に求められていると認識している。

【斉藤委員】
 文科省はこの間2度の通知を出して、いじめの認知について厳しくやっている。それが欠落していたから、いじめゼロ件ということを重大視して再調査を求めた。矢巾町の場合は去年今年はゼロだったが三十数件にのぼった。そういう形になると思う。
 特に指摘したいのは、去年のものはまだ発表されていないが、一昨年のいじめ状況については全国的に発表されて、岩手の場合は、25年度で837件のうち学級担任が発見したのは49件・5.9%しかない。担任以外の教職員の発見が34件・4.1%、学校で発見した率が一番多いのは、アンケート調査などの学校の取り組みにより326件・38.9%と。アンケートを含めて、学校がいじめを発見したのは50.4%である。一番多いのは保護者からの訴えで22.6%、本人からの訴え20.7%。先生はほとんど気づかないのが実態である。隠れてやるということもあるが、担任教師が気づけない。だとしたら、先生が気づいた時には重症になっている。このように受け止めて対応しなければならない。私たちの申し入れで「様子見してはならない」としているが、いじめかからかいか分からない段階でも、いじめを疑って対応することが矢巾町の教訓である。
 いじめの認識というのは、すべての学校であって当たり前、早期発見・早期解決できる学校をつくることが一番素晴らしい学校だと思う。今の子どもたちの置かれている状況で、いじめをなくすということは難しい。しかし、いじめが起きたら早期に発見して、教職員や父母や子どもの力で打開していくことが一番大事な課題。
 もう1つ共通した問題は、学校が情報を共有できずに学校の取り組みができなかったと。これはいじめの認識が弱いというのと合わせて、情報を共有するシステムがない。信頼関係がない。いじめ対策会議のような組織をつくっている。機能していない、できない。先生方の余裕もない。学校が情報を、一人の先生に任せないで、共有して対応できるような実効性のある組織・システム、そのための教師集団の信頼関係を日常的につくっていかないといけないと思うがどう受け止めているか。

【生徒指導課長】
 ご指摘の通りいじめの認識については、各都道府県によってもかなり差があったという実態が25年度の調査でもあったので、それを文科省では再調査という形で8月に通知があったということで、いまそれを集計しているというところである。
 ご指摘のいじめに関わる組織については、どの学校でも法によって義務付けられているのだが、今回の矢巾の事案については、組織が十分機能しなかったという実態があるというのもその通りであり、県教委としてもこの点については大きな課題だということで、各学校で定めているいじめ防止基本方針の実効性がどのようになっているのかということの調査をした中においても、組織として機能していなかったという実態もあったので、それも学校に返しながらいじめを認知できるようなシステムと組織を活用できるような対応をしていかなければならないと思っている。

【斉藤委員】
 課長の話は当事者意識が弱いと思う。文科省の8月17日付の通知はどこから始まっているか。「先日、岩手県矢巾町で中学2年生が自殺した事案では、亡くなった生徒がアンケート調査にいじめを受けている旨を記載したものの、学校は人間関係上のトラブルととらえ、しかもそのトラブルは解決済と判断し、結局いじめととらえませんでした。全国的にもこの事案と同様、いじめとして認識されず…」となっている。矢巾町の事件の痛切な反省を踏まえて、文科省はかなり立ち入ったいじめの認知に対する考え方を具体的に指摘した。その弱点は矢巾町の学校の調査でも出ている。学校の調査で13件のいじめがあったが認定されたのはたった6件だった。なぜその他がいじめと認識されないのか。実は滝沢もそうである。第三者委員会がかなり丁寧にやったが、すべてのいじめが認知されたわけではない。そういういじめの認知は矢巾の調査の中にも出ていたと思う。
 私が聞いたのは、学校でなぜ情報共有されず、学校としての対応ができなかったのかと。いくつか指摘したが、学校として一番大事な問題なので答えていただきたい。

【教育長】
 昨日の一般質問でも触れさせていただいたが、相当数の学校において、「いじめの認知件数はできれば少ない方がいい」と。思うところは、いじめのない学校・社会という気持ちが先に出てしまい、認知を消極的に受け入れた結果、正確な認知の把握ができなかったという課題が、両事案を通じて明らかになったと強く思っている。
 全県のいじめ防止対策基本方針の取り組み状況がどうかということ、これはやるべきことは、学校全体としての情報共有、そしていじめを積極的に認知する、そういう事案が出た場合には、いじめた方、いじめられた方双方の話を十分に聞いて適切な対応をするということが、基本方針の中に全学校で盛り込まれているわけで、それに沿った具体的な活動がなされていなかったということが出てきたので、それをきちんとやっていくということが大事だと思っている。
 いずれ今回の事案を十分反省し、組織全体としての情報共有をすることにより、適切な事実関係を明らかにしていくことが大事だと。一方で、なかなか、いじめた・いじめられたという現実的な白黒がはっきりしない難しい事案があるのも事実だと思う。ただその時に、いじめられた方が積極的に取り上げて、課題の解決に向けて寄り添って話し合いをしてくことがきわめて大事だと思っている。そういう面での市町村に対する指導・助言等を行っていきたい。

【斉藤委員】
 実は矢巾町の学校における調査報告書の問題点というのは、いじめとして認知できなかったことと、もう1つは、学校として対応できなかった、しかしこのことについてはなぜかということが書かれていない。そこまで残念ながら立ち入って調査・対応ができなかった、これが弱点である。教育長もそのことは率直に述べていた。
 この間二度にわたり矢巾町の教育長さんからも、さまざまな取り組み状況や対応策を聞いてきた。いま矢巾町は3つの取り組みをしていると。
 1つは、いじめを疑って対応すると。その結果いじめの修正報告が0から三十数件になったが、いじめ情報というのは、基本的にいじめを疑って対応すると改善している。だから白か黒ではなく、対応で解決する。
 2つは、学校で情報共有できなかったという反省を踏まえ、カードでメモして学年の教員が共有できるようにする。1つ1つはいじめかどうか分からない。しかしそれが経過で見ると分かってくる。そういう意味で、気になることはきちんとカード化して教員で共有される、毎月1回校長や管理職が必ず目を通すと。
 3つは、いじめ担当をはっきりさせると。広報でも父兄にもお知らせし、担当者をはっきりさせる。こういう形ですぐさまざまな情報が学校にも父兄にも届くようにしている。
 またこの間の取り組みの教訓として教育長さんは、「いじめの認識というのは根本問題だった。もう1つは、スキル不足もあった」と。これは先生の声のかけ方で、いじめられている子どもに「大丈夫か」と聞いて「大丈夫」と言われたら終わりというのはとんでもない。これはスクールカウンセラーや専門家からさまざまな意見をいただき、先生方もそういう生徒に対する対応、スキルをきちんと身に付けなければならないと。
 昨年のいじめ調査で、教師の8〜9割は「本人か保護者からだった」と。教師が把握する件数は圧倒的に少なかったと。やはり教師に届くときは事態が深刻化している。そういう形できちんと対応しないと、いじめ対策基本方針というのはひな形があって簡単に作れるので。それをどんなに確認しても実効性あるものにならない。今度の問題でしっかり教訓を深めてやらないと、全体のものにならない。

・岩手県いじめ問題対策委員会条例案について

【斉藤委員】
 条例案についてお聞きしたいが、今度の条例は問題があると思う。いじめ問題対策連絡協議会の設置は問題ないと思うが、いじめ問題対策委員会の設置について、これは間口が広すぎる。これは「いじめ防止のための実効的対策を推進する」と。そして「重大事態等が起きた場合、第三者機関とした機能も発揮する」と。行政の下に置いた附属機関が本当に第三者機関になるのか。矢巾の教訓からも、矢巾が第三者機関を設置しようとしたら、遺族の方が「遺族の意見も入れてほしい」ということで設置し直した。知事の下、また教育委員会の下に置かれる附属機関が、遺族から見て第三者機関に見えるのか。この点では疑義がある。やはり重大事態が発生したときに、その事態にふさわしい第三者委員会を設置すべきではないか。
 結局ここでは、10人以内で委員を決めるが、県の場合には、県立学校が対象になる。どちらかと言えば、義務教育の方が事例も頻度も多いので、実効性があるのか。恒常的に決めていて、そして重大事態が起きたときにもその人たちが対応する、こういう形で本当に対応できるのか。重大事態が発生したときに、それに相応しく人選をされて、機動的に選んで、遺族の希望を含めて選んだ方が実効性も客観性もある調査機関になるのではないか。

【生徒指導課長】
 第三者性の確保については、例えば医師会や弁護士会といったところに、こちらからの指名ではなく、職能団体の方から選んでいただくというところでは第三者性は確保できるものと判断している。
 事案が起こってからということになるが、例えば滝沢の場合は、事案発生から第三者委員会の最初の会合まで4ヶ月ほどかかっている。矢巾町の場合は、2ヶ月かかっているというところで、迅速に機動的に対応するためには、あらかじめ常設しておきながら、事案が発生した場合には速やかに対応するというところで常設化を考えたところである。

【斉藤委員】
 滝沢が4ヶ月かかったというのは、学校がいじめを認めずに遺族が第三者機関の設置を求めたから延びた。矢巾のときは2ヶ月なのでそれほど延びたとは思わないが、最初から遺族に寄り添ってやっていればもう少し早くなったとは思うが、2ヶ月程度であれば遅れたうちには入らないのではないか。
 大事なのは、いじめ対策委員会の任期は10人以内で2年。専門家にそんな暇な人はいないと思う。何かあったら集中的にやる。滝沢の場合は20回やられている。矢巾もそれぐらいになるかもしれない。3ヶ月ぐらいで20回というのはかなりの頻度である。やはり事件が発生したときに、対応できる適切な専門家を、だから「設置することができる」と条例制定いればいい。そして重大事態があったときには、それにふさわしい委員をすぐ選任して、もちろん遺族の意見も聞いてやれば、速やかに対応できると思う。あらかじめ2年の任期で決める委員が対応できるのか。それ自身はきわめてストレスが高く、逆に実効性がないのではないか。実効性あるように、「設置できる」としていれば遅れることはない。その方が第三者機関として、遺族から見ても誰から見ても理解されると思う。
 この規定には無理があるのではないか。矛盾があるのではないか。

【教育長】
 今回条例案として提案させていただいている。これはさまざまな方途があるだろうという中で、いろんな議論をした中でこの条例案を提案するのがベストだと。
 上位法規として、いじめ防止対策推進法がある。その中で、大津の事件を教訓に、その後にさまざまな取り組みが本県の事案もあった。そういう中で、国全体として機動的な対応を図ることが教育行政側の大きな責任だという前提で、そういう助言も国からいただいており、岩手の教育に責任をもつ者としてこういう体制を敷くというのは自分たちの責務を果たすことになると思っている。

【斉藤委員】
 大津の事件というのは、教育委員会ぐるみでいじめを隠したから、市長の下に第三者委員会をつくった。そういう事態の深刻さがあって、丁寧な調査があって、その中身は今でも教訓になると思う。だから教育委員会の下に置くのが第三者委員会に見えるかという大きな問題がある。そしてこういう重大事態が発生したときには、滝沢でも矢巾でも5人程度で2ヶ月3ヶ月集中して調査や検討会がやられる。それをあらかじめ任期2年で、いつ起こるか分からない、こういう形の選び方は合理性に欠くのではないか。遺族から見ても、それが第三者委員会に当たるのか。2年の任期でお願いするということも、10人以内ということも、あまり実態にそぐわないのではないか。もっと吟味すべきではないか。

【教育長】
 第三者性の確保という観点で附属機関を教育委員会に置くのはどうかということだが、まさに運用の話も大きいと思う。岩手で連続して事案が起きたということは我々将来に向かっても大きく受け止めていかなければならないと思っており、会議の運営にあたり、教育委員会と附属機関の距離はきちんととった形で運営されるということに十分配慮する必要があると思っており、そういう意味でそういう思いを強くすることにより第三者性が確保されると考えている。

【斉藤委員】
 私が指摘している問題点について残念ながら噛み合う答弁はなかった。やはり重大事態に対しては、機敏性をもって集中的に対応できるようなそういう体制を構築すべきであり、恒常的な組織が第三者委員会というのは、遺族の立場から見ればなかなか理解しがたい側面があるのではないか。
 その点で、私は議案20号については、現時点では保留する。