2016年3月17日 予算特別委員会
農林水産部(農政部門)に対する質疑(大要)
・TPP協定―戦後最悪の農業破壊、撤退を求めるべき
【斉藤委員】
TPP協定は、全品目で95%、農林水産物で81%、重要5品目で30%の関税撤廃という協定である。まさに戦後最悪、こんな全面的な関税撤廃の協定はなかったのではないか。WTO協定や牛肉・オレンジの自由化があったが。それだけに、これが与える影響はきわめて重大だと受け止めることが必要だと思うがいかがか。
【農林水産企画室企画課長】
本県農林水産業にとって非常に大きな影響を与えることが懸念されている。関税撤廃、いま善し悪しが議論されているが、国でしっかり議論していただきたいと考えている。
【斉藤委員】
国会で議論されるのは当然で、問題は、岩手は農業県なので、その農業県がどれだけ大きな打撃と影響を受けるのか。その具体的、実態的な把握を踏まえて、国や政府に物を言わなかったら、県の役割は果たせないのではないか。戦後最悪の協定、これについて国会で慎重な審議をという程度で済むのか。必要な影響調査もやって、岩手の農業を守るという点で、しっかりと国会論戦反映するように意見をあげるべきだと思うがいかがか。
【農林水産部長】
TPPについては、本県の農林水産業に非常に大きな影響を与えることが懸念されている。したがい、大筋合意以降県としては、たびたび国にわたり詳細な影響の分析と情報の開示、十分な対策、協定の締結にあたっては国会で十分に国民的議論を踏まえた審議を尽くすようこれまでも要望してきており、今後も引き続き要望していく。
【斉藤委員】
要望がまだ抽象的である。慎重審議求めるという程度では要望にならないし、国が3年前の試算と全く違うデタラメな試算を出しているので、それに対してきちんとした反論を含めた試算をしなければいけない。
協定の具体的な中身について。今後、TPP協定というのは、全面的な関税撤廃に進んでいく仕組みになっている。重要5品目も「除外」ではなく「例外」と。例外というのは、関税見直しの対象になる。
TPP協定第二の4条―「現行の関税を引き上げ、または新たな関税を採用してはならない」「斬新的に関税を撤廃する」「関税の撤廃時期の繰り上げについて検討するため協議する」と。具体的には、7年後に関税の撤廃、関税の割り当て、セーフガードについて再協議となっている。
今はごまかしで「例外」としたが、それでも30%・15品目は一気に撤廃される。他のものも、このTPP協定では、「引き上げてはならない」「斬新的に関税を撤廃する」「関税撤廃の時期を繰り上げる」となっている。関税が撤廃されたら、政府の試算は成り立たないのではないか。そういう協定ではないか。
【農林水産部長】
協定の内容については、委員が申し上げた通りと県でも認識している。したがい、当然国会で審議するにあたっては、それらの諸条件も踏まえた議論が必要だろうと考えており、また国に対しても、なかなか国自身が対策を講じない場合の影響がセーフガード等もあり困難だと、こちらでも要望しているが、そういう回答が国から来ているが、県としては引き続きそれらも含めて要望していく。
【斉藤委員】
政府の対応は、ごまかしで早くTPP協定を批准するという作戦である。国民に知られないうちに早く国会で批准したいと。まじめに情報公開しようとか問題点明らかにしようという姿勢が全くない。ごまかしてやろうとしている。そこを踏まえて私たちは対応せねばならない。
「物品の貿易に関する小委員会」「農業貿易に関する小委員会」が設置されるが、小委員会をつくって、例外をどうやってなくすかという審議が始まる。
「現代のバイオテクノロジー生産品の貿易」(第2章)―遺伝子組み換え食品の扱いが貿易促進条項に含まれている。いま日本は遺伝子組み換え食品は表示義務があるが、これがTPP協定違反になってしまう。日本の食品の安全もアメリカ任せだと、これがTPP協定の中身である。
どこから見ても、重要5品目は「除外」または「再協議」という国会決議に反することは明らかであり、このTPP協定がもし批准されたら、岩手の農業も日本の農業も壊滅的な打撃を受ける。岩手の農業の死活に関わる問題だと思うが、どう受け止めているか。
【農林水産部長】
質問のあった小委員会の設置だが、これは例えばEPAなどにおいてもこれらの小委員会が設置され、そこで審査されていると承知している。この小委員会は、いずれTPP協定が締結された場合に設置するということで、あくまで締結後の話と理解している。
輸入食品の件だが、国においては、TPP協定により、残留農薬、食品添加物の基準、遺伝子組み換え食品等の安全性審査や表示を含め、日本の食の安全安心に関する制度変更は行わないと説明しているので、そのようになるものと理解している。
【斉藤委員】
小委員会のことで一言付け加えると、EPA協定を14カ国と結び、WTA協定にも参加したが、全部除外協定がある。除外協定がある中での協議である。TPPは除外協定がない。これは国会でも石原大臣がはっきり述べたが、「TPPというのはそもそも例外なき関税撤廃というのが大原則です」と。いわば、「例外なき関税撤廃」という原則で協議されるところに、今までの小委員会と全然違う中身がある。TPP協定に参加したら、例外が結局はなくなってしまう。安倍首相は「再協議に応じる」と言っている。しかし今は合意しないと言っている。アメリカいいなりの安倍さんがそうなるわけがない。だいたい自民党は「TPP断固反対」というポスターまで貼ってTPP協定に参加したのだから。
本当にそういう意味で、国会決議違反は明白だし、農協組合長の92%が国会決議違反(1月4日・日本農業新聞)だと。最近しんぶん「赤旗」も北海道の組合長にアンケート調査を行い、8割が国会決議違反、そうでないという人はゼロだった。
そういう点で、通ってからでは遅いので、通らないように、どのように具体的に行動するか、このことを強く求めたい。
・TPP協定―あまりにもずさんでお手盛りの影響試算
【斉藤委員】
2010年の試算のときには「経済効果3.2兆円」、今回は「13.6兆円」と4倍に増えた。農林水産業の損失額は「3兆円」が「1300〜2100億円」に20分の1に減った。ペテンではないか。なぜこういう試算になるのか。
【農林水産部長】
前回の試算だが、これは国が何らの対策も講じない場合の試算であり、今回は国が対策を講じた場合の試算と理解している。
【斉藤委員】
国の対策というが、補正予算で3122億円。このうちまったくの新規はいくらか。今までの対策に毛の生えた程度の予算である。これで戦後最大の関税撤廃に対応できるのか。対策の中身を示していただきたい。
【農林水産企画室企画課長】
新規はどうかということだが、産地パワーアップ事業505億円、革新的技術開発緊急展開事業100億円、畜産クラスター事業関連610億円などとなっている。
【斉藤委員】
その程度の対策である。それでなぜコメへの影響がないとか牛肉への影響がないとなるのか。これで関税撤廃に対応できるとあなた方が考えていたらとんでもない。
例えば、国内対策でどういうことを前提にしているか。体質強化対策で生産コストの低減、品質向上や経営安定対策などの国内対策で生産や農業所得が確保されると言っている。これは農家に責任転嫁している。農家がそうしなれば対応できないということである。
19品目の農産物、14品目の林水産物に今回の試算は限定された。野菜・果樹は試算の対象外で、重要5品目の調製品も対象外になった。これは農業生産額の半分近くを占める。だから一部の試算しかされていなかった。その通りですね。
【農林水産企画室企画課長】
国が前回の試算と同様に関税率10%以上、また国内生産額10億円以上である33品目を今回対象として試算している。
【斉藤委員】
前回は、関税撤廃が14品目で、一定の影響の方向性が示された。今回は92%が関税撤廃である。もう分かっているのだから、果樹も野菜も調製品も関税撤廃である。これは農業生産額の4割を占める。4割が試算の対象外になっている。大変なことである。
JA長野中央会が、関税撤廃19品目以外の生産減少額を試算したら74億9000万円になった。ブドウだけで39億2000万円である。そういう点でこの試算というのは、きわめて一部に限定された、全体像を示さないものだと思うがいかがか。
【農林水産企画室企画課長】
国が33品目を対象に試算しているが、それ以外にも、例えば、それぞれの地域で重要品目と掲げている果樹等もあるので、そういう試算等も必要とは考えている。
【斉藤委員】
ぜひJA長野がやったように、岩手もしっかりやっていただきたい。実は今日の新聞に、JA秋田中央会の試算で、287億円と出ている。
コメの影響額について、国もゼロ、岩手県もゼロだと。これでみんな驚いている。安いコメが入ってくるのに、価格が下落すると言っているのに、なぜ生産減少しないのか。所得は守られるのか。毎年8万トン消費が減少している。生産量が減少している。ミニマムアクセス米の77万トン+7万8400トンの輸入になる。すでにミニマムアクセス米の10万トンはSBSで試食用に入っている。今回もSBS米である。これは輸入はすぐに買い上げられるのではなく、市場に入ってから、その分を買い上げるだけである。だから市場に大きな影響を与える。これでなぜ生産量も額も減らないとなるのか。
【農林水産企画室企画課長】
国は、新しい国別枠の輸入量に相当する国産米を備蓄米に買い入れるとしており、その影響は見込み難いとはしているが、ご指摘の通り、国が万全の対策を講じなければ、安いコメが当然入ってくるということになれば、流通量が増加するわけであり、国産米価格の下落は当然懸念されるところである。
【斉藤委員】
今日の河北新報に、秋田県中央会の試算公表で、コメは67億円減少すると。青森県も試算しており24億円減少すると。コメは基幹産業なのだから。そして備蓄と言うが、1万トン備蓄で20億円かかる。78000トンだったら156億円毎年かかる。関税があるから財源はあるが関税なくしたら財源が出てこない。こんなことは続かない。こういう点でもきわめて重大である。
牛肉の問題でも、輸入牛肉で価格下落は確実だと思う。特に乳用種は直撃する。酪農家が打撃を受ける。酪農家は2割ぐらい子牛生産で維持している。酪農家がダメになったら畜産がダメになる。そして何よりも牛肉の調製品が試算の対象外になっている。豚肉の場合は、カツは調製品である。この影響はきわめて重大だと思うがいかがか。
【農林水産企画室企画課長】
本県の主要産業であるコメ・畜産については、やはり安い牛肉等が入ってくるようになれば、相当の影響が出るものと考えている。
【斉藤委員】
政府の試算の最大の問題は、いま農業者の置かれている実態を無視していることである。農業者の49%におよぶ70歳以上の高齢化、後継者のいない販売農家が6割、毎年4万戸が離農し、農業機械の買い替えのときにみんな辞めていく。今でさえこうなっている。酪農家は牛舎の建て替えのときにもうやっていけず辞めてしまう。ヨーロッパ並みの北海道の酪農家が今2割も減少している。いま瀕死の状況になる農業・農家の実態を踏まえたら、生産量がゼロとか生産額がゼロというデタラメな影響試算をそのままにしていたらいけない。
今日の農業新聞の資料をいただいたが、昨日、安倍首相にノーベル賞経済学賞のスティグリッツ教授が、「消費税を上げない方がいい」と言った。実はもう1つ、TPPについて、「米国での効果はほとんどなく、米国議会で批准されないとの見方を示した。米国で批准されないなら日本は急ぐ必要はない」という指摘である。安倍首相がわざわざ呼んだらこのように言われた。アメリカ大統領選挙で、候補はみんなTPP反対である。アメリカが批准しなかったら成り立たない協定である。そういう状況なのに、日本政府は慌てて、情報も公開しないで、試算もごまかして、これを通すことは絶対にあってはならない。
こんなデタラメな試算をそのままにしないで、しっかり試算もし直して、TPP協定は批准すべきでないということが必要ではないか。
【農林水産部長】
国の試算については、なかなかセーフガード等がある中で計算が非常に難しいと言っているが、県としては引き続き詳細な影響分析を求めることとしている。