2016年8月2日 商工文教委員会
教育委員会に対する質疑(大要)
・岩手県における主権者教育について
【斉藤委員】
参院選もあり、短期間だったが18歳選挙権が初めて実施された最初の取り組みなので、岩手における主権者教育の取り組みについて、教育長も記者会見で触れているが、全国よりは岩手県の若者の投票率は少し高かったということを評価しているようだが、どう受け止めているか。
【高校教育課長】
18歳・19歳の投票率について、抽出ではあるが、岩手県の状況、全国の状況が公表されている。それを見ると、前回の20代の投票率に比べ、高い状況となっていたので、今回初めてであるので、結果を踏まえ、これからも学校においては継続的・計画的に主権者教育に取り組んでいく。今回選挙に参加した若者を、今後さらに成長とともに政治的な教養も高まることが期待され、そういった興味関心を社会に出てからもさらに持ってもらえるものと、そうしたことを考えれば、今後の動きを見なければならないが、一定の成果は出ており、今後の成果につながる結果だととらえている。
【斉藤委員】
今回初めての18歳選挙権の導入ということで、マスコミ的にも社会的にも大変注目をされた。そういう点でいけば、関心が高い中でやられた。おそらく2回目3回目になると当たり前になってしまうので、逆に関心が低下することがあると思う。
日本の教育は長期にわたり政治教育がされていない。この弊害というのはかなり大きいものがあると思うので、系統的に主権者教育は今回を契機に積極的に取り組まれる必要がある。
・自民党の「学校教育における政治的中立性についての実態調査」について
【斉藤委員】
それできわめて重大なことがこの選挙戦の中であった。自民党が、公式ホームページで、「学校教育における政治的中立性についての実態調査」を呼びかけた。これは、「教師の授業や言動が政治的中立性を逸脱していないか、『監視、密告』を奨励する」ものであった。その中身は、たとえば、「子どもたちを戦場に送るな」という主張を、「政治的中立性を逸脱した教育の例」としていた。考えられないことである。憲法前文で、日本は戦争をしないと、戦前の侵略戦争の反省ということを明記して国民主権を打ち立てた。子どもたちを戦場に送るなという主張を、政治的中立性を逸脱した教育という形で、現場の教師や父兄や子どもたちに「密告を奨励する」という、本当に驚くべきことがあったのではないか。これは新聞各紙の社説などでも厳しく批判されていたが、この点について、県教委に反響なり意見などがあったかどうか。
【高校教育課長】
ご指摘の件については、報道等を通じては知っているが、具体的な事案について県教委に情報提供は今のところない。
【斉藤委員】
自民党は実態調査を終了したと言っているようだが、政権党がこういう教師や子どもたちや父母に、異常な中身で密告を奨励するようなやり方は絶対に許されない、逸脱だと。まさに、政治教育に対するきわめて重大な干渉、攻撃になるのではないか。
これは今後注意深く対応していく必要があるのではないか。
・高校における観点別評価の導入について
【斉藤委員】
以前にも観点別評価の問題を取り上げたが、いま学校が、特に教師が多忙化で、十分に授業の準備もできないと。残業が100時間を超えるような教師も少なくないという中で、観点別評価を国体が行われる今年度に導入するということは、二重にナンセンスだったのではないか。
今年の1月21日に、岩手県高等学校長協会から、実施延期の要望書も出ていた。この点について県教委はどう対応したか。
【高校教育課長】
観点別評価の導入については、23年度に導入を決定し、24年度から段階的に取り組んできた。その中で、国体の開催も決まり、国体の影響は読みかねるところはあったが、事前に入念に準備してきたし、国体についても、組織的に運営がなされているということで、考えていたが、ご指摘の通り1月に校長協会からも、多忙化・国体の影響への配慮や、観点別評価の導入と同時に、支援システムという正式処理を行うシステムを導入しているが、その操作についての習熟について不安があるということで、こういった状況を踏まえ、校長協会からは、学校の事情に応じて、28年度導入か29年度導入を学校の判断に任せてほしいという要望が出された。それを受けこちらとしても、それなりに重く受け止めなければならないと考え、校長協会とも協議しながら、最終的には学校の事情に応じて、28年度導入・29年度導入を学校で決めると対応してきた。その結果、28年度から導入した学校はおよそ6割、29年度に延期した学校は4割となっている。
【斉藤委員】
観点別評価はすでに小中学校で導入され、これは何を目的に、何を根拠に、どういう手法で行われているのか示していただきたい。
【高校教育課長】
観点別評価については、前回の学習指導要領から導入が決まっており、学習指導要領に基づいて評価のあり方についても文科省から通知が出ており、小中高を含むことになっていたが、小中に比べて高校の取り組み状況は、通知表において観点別に成績を通知するといった、見える形での実施がなかなか進んでいなかった。そういうこともあり、文科省においても高校においても観点別評価をしっかり確実に進める必要があるという中教審の方針もあり進めている。
現在検討が進んでいる次の学習指導要領においても、その評価のあり方については継続する方向で議論が進んでいるので、今後とも観点別評価については、教員の理解を図りながら、学校にも進めていきたい。
具体的には、これまでテストの成績と平常点等で、主にテストの結果を踏まえて評価していたものを、もっと詳しく、教科によって多少表現は違うが、4つの観点―関心欲・態度、知識理解、知識技能、思考判断・表現を分析し、生徒の多様な部分を評価しようと。これは、根底には、学校教育法において、学力の3要素というのが規定されており、基礎的知識、理解、思考力・判断力・表現力、主体的に学ぶ態度といった3要素に分解してとらえており、こういった学力のとらえ方は、OECDなどの国際的な流れにも乗っているので、多様な学力を評価するという意味で、4観点に分解して学力の状況を評価するとなっているので、そいった評価のあり方については、しっかり我々も理解し教員も理解し、生徒を多様な面でとらえる、そして励ましていくという意味で、非常に今後ますます求められる評価だと考えている。
【斉藤委員】
小中学校ではすでに実施されている。いま言われたように、学力に3要素があると。しかし小中学校で何がやられているか、全国学力テストである。限定された教科で毎年学力テストをやって、そして学校別・都道府県別の平均点を出して競争させている。文科省のやっていることは全く矛盾しているのではないか。一方で観点別評価と言いながら、一方では全国学力テストに60億円もお金を使って競争をあおっている。学力の3要素に基づくというのなら学力テストなどやらなければよい。
根本的な矛盾だと思うが教育長いかがか。
【教育長】
生徒の学力については、課長から申し上げたとおり3要素、それも能力を育む上では大事なことだと。一方で、これからの社会を子どもたちが生き抜いていくためには、テストの結果だけではなく、相手との意思疎通を図る、これは表現力だとか意欲を相対的に育んでいく力をつけていく、これはきわめて大事だと。
全国学力テストとの関係は、これはまさにテストの結果で、それも学力の1つであるので、そういう中で岩手の子どもたちがそういう機会を失うことはあってはならないと思っており、文科省でも、各都道府県の競争をあおるということではなく、一人一人の力をつけていくためのツールとして提供しているということであるので、県教委としてはそういう有力なツールを十分に活用していきたい。
【斉藤委員】
私が言ったのは、観点別評価というのは学力の3要素に基づいてやっていると。そう言いながら毎年全国学力テストをやっていると。それがいま都道府県間、学校間、地域間の競争をあおっている。こんな矛盾したやり方はないと言っている。だから、国連子どもの権利委員会の勧告では、「異常に競争的な教育制度が子どもたちの発達を歪めている」と何度も指摘されている。
今度の観点別評価でいくと、小中学校ですでに観点別評価をやっているが、これはどういう形で評価できるものなのか。教科ごとに観点別評価をやるために、先生の仕事が増えただけで、とてもじゃないがそんな余裕も条件もない中で、これがやられている、実際は形骸化しているのではないか。
【義務教育課長】
平成14年度から、目標に準拠した評価というものに切り替わっている。それまで相対評価だったものが絶対評価にすると。その目標に準拠したと言った場合、目標とは何か、学習指導要領の指導事項・指導内容ということになるが、それに沿って授業が組み立てられ、さらに授業の内容が学習定着として身についているかどうかというものを見るために、観点というものに基づきながら、高校課長が述べた4つの観点に基づき、教科ごとにさらにその観点は具体化されている。授業を組む場合に、1時間ごとの授業形態というよりも、数時間まとめて1つのくくりで授業を進める場合が多いかと思うが、その時間をどう進めていくかという指導計画を評価するためにも、その観点があった方が、ブレることなくしっかりした学習内容を子どもたちに身につけさせていくことができるだろうということになる。
よって、観点別評価のポイントは2つあり、きめ細かい子どもたちの状況把握、教師自身の指導がしっかり行われているかどうかということから見る点でも観点別評価を有効に活用しながら進めている状況にある。
ご指摘の「負担」ということについて、さまざまな形で問題視されているのも事実である。現在の中教審の中で、次の学習指導要領に向けての取り組みにおいて、学習評価をもう少しシンプルにできないのかという声もあがりながら、学力の3要素にマッチした形で、現在の観点別評価は、学習指導要領の内容と学力の3要素のところで少し合わせにくい部分もあるので、そこを整理した形で先生方が評価できるということで進んでいくのではないかと思っている。
いずれ、学習の仕方、学習定着ということに教師がどう責任を持つかという部分でも評価は欠くことはできないと思うので、そのツールとして使っていくことは大事ではないかと。その際、いかにシンプルにやりやすく実施していくかは今後の改善点だと県教委もとらえている。
【斉藤委員】
建前としては言われるが、実際にこれで生徒に対する学習指導や評価、授業の改善がされているかと言ったら、かなり困難がある。建前と実態はかなり乖離している。
学習指導要領にあるから高校でも導入すると。全国ではどれだけ導入されているか。東北ではどれだけ導入されているか。
【高校教育課長】
各都道府県の観点別評価の取り組みは、文科省において平成21年度に委託調査を行ったものがあるが、それによると、観点別評価の趣旨を踏まえた実施状況については、小中ほど芳しくないという結果が出ているが、数年前の調査なので、その後、変更の学習指導要領になってからはそういった調査はしておらず、岩手県においては、観点別評価を決定して取り組んでいるという状況にはなかったので、今後の求められる学力を生徒にしっかり身につけさせる上でも、必用な取り組みだということで取り組んでいる。全国的な具体的な数字については把握していない。
【斉藤委員】
おそらく全国的にはあまり進んでいないと思う。少なくとも、現場からの要求のない課題だと思う。結局、多忙化にはなっても、今の状況では学習指導にも評価にも授業の改善にも結びつかない。ますます多忙化になってしまう。
たとえば、各教科ごとに観点別評価すると。国語でいけば、関心・意欲・態度、話す・聞く能力、書く能力、読む能力、知識・理解、これ全部の教科にこういう観点がある。先生が教えながら、観点別に子どもたちを一人一人評価する、これはムダなことである。そして主観的になる。この評価の基準は100点満点で最終的に評価する。その100点満点は学校ごとに割合が違うと、何の統一性もない。こんなムダなことをなぜ、多忙化の問題が言われている中でやらなければいけないのか。
いま必要なのは、先生を増やして、本当にゆとりを持って一人一人の子どもたちに寄り添った教育ができるかどうかである。何よりも教師の一番の要求は、授業のための準備の時間である。授業の準備ができないというのが小中高の先生方の一番の悩みである。そういうときに、教科ごとに観点別評価しなさいと、こんなことになったら、今でさえ子どもたち一人一人が見えないのに、ますます見えなくなってしまう。
これは学校教育室が作った学習評価の手引きの中にも書いているが、「できるだけ多様な教科を行う。他方、このことにより評価に追われてしまえば十分に指導ができなくなる恐れがある」と。まったくその通りである。「1時間単位の中で、4つの観点すべてについて評価基準を設定して、そのすべてを評価し学習指導の改善に生かしていくことは現実的には困難である」「1単元の中で各観点をバランス良く評価できるよう、指導と評価の計画を作成することが望ましい」と。実際には難しい、できないと言いながらやらせている。
この観点別評価ということの教育的な根拠はまったくないと思うし、いま教師が置かれている深刻な多忙化、学校の困難な状況の中でこんなことをやったら、矛盾だけが拡大されると思うが、現場を知っている課長が矛盾を感じないか。前の教育次長は、盛岡一高に赴任し、校長会の会長になり、実施延期を求めるという矛盾したことになってしまう。現場感覚からいって、こういうムダなことに今力を入れるときなのか。そうではないのではないか。岩手らしい教育のあり方を知恵を出して進めていくことの方が、岩手の教育にとって求められている課題だし、ましてや高校再編計画が示され、高校のあり方も示されている。こんなときに観点別評価の導入なんかしたら、高校改革にも逆行することになりかねないと思うがいかがか。
【高校教育課長】
教員の多忙化については、いろんな視点から改善を図る必要があると考えているが、観点別評価については、生徒一人一人に向き合うツールであると義務教育課長が述べたが、たしかにこれまで十分な取り組みがされていなかった点では、新たに今までやってこなかったことに取り組むわけなので、それは多忙化ととらえられかねない面はあるが、授業を計画する段階で観点というのは4観点というのは、これまでの授業の組み立てと評価を踏まえて、授業を組み立てる際にその4観点が必要だということで抽出されたものだと考えているので、当然授業を組み立てる上で4つの観点で授業を組み立てるのは当たり前のことであり、そして授業をした以上、生徒の理解はどうだったのか、自分の指導がどうだったのか、これは指導と評価の一体化と言っているが、そういった観点で自分の授業を見直す、そして次の授業の向上につなげるという意味では、その評価は教員の本来業務であるので、多忙化という観点ではなく、教員の指導力の向上の上でも必要な取り組みと考えており、多忙化につながらないよう、校務支援システムを有効に活用しながら、当たり前に評価ができるようこれから取り組んでいきたい。できれば、5年後10年後を見て評価していただければ幸いである。
【斉藤委員】
いまの教育の優先課題は何なのか、ゆとりのある学校の現場をつくることである。いま残業が100時間を超える先生は何人いるか。異常な事態がいま起きているときに、小中学校は平成14年から実施されていて、聞いても明確な成果が出てこない。5年後10年後なんていう無責任な話ではないし、全国の実施状況も東北の実施状況も分からない。そんなときに、なぜ岩手が文科省の言うとおりにやらなければいけないのか。もっとこういうことは慎重にやるべきである。優先課題は何なのかを考えてやるべきである。
・新昇給制度について
【斉藤委員】
「新昇給制度への理解を深めるために」というのが県立学校長会議で周知・徹底を図るという資料が出された。新昇給制度は導入時に、小中学校・高校の校長会も強く反対し、しかし現場の声も踏まえて進めるということで、結論的には玉虫色の形で決着して進められてきた。
いま新昇給制度はどういう精神で、どういう中身で行われているのか。教育の現場に成果主義が導入されてはならない。教師というのは、共同の取り組みこそ学校現場で一番大事なことだと思うので、決して民間企業のような成果主義賃金の導入には絶対にならないと思うが、県立学校長会議で周知された新昇給制度について、どういう精神で、どういう中身で行われているのか。
【教職員課総括課長】
県立学校長会議で、今年からということではなく、平成22年当時から毎年周知させていただいている。趣旨としては、いずれこの新昇給制度の趣旨を正しく管理職に理解していただき、適切に運用していただくという趣旨で毎年周知を図っている。
中身については、単に短期的な成果でもって給与に差をつけるということではなく、各教職員と管理職が仕事に取り組んでいくにあたった対話のツールとして活用してもらおうということであり、いずれ学校がチームワークで運営されているということで、教職員すべてが努力し取り組む観点に留意し制度を運用してほしいということである。また、生徒が短期間で表れにくい仕事も当然あるので、短期間だけでの評価だけでなく、長い目での評価といった観点も十分踏まえながら運用してほしいという趣旨である。