2016年11月14日 決算特別委員会
高田一郎県議の総括質疑(大要)


1.介護保険制度について

【高田委員】
 昨年は介護報酬が大きく引き下げられた。介護報酬引き下げによる(4,48%)県内事業所での減収の影響はどうなっているか。介護報酬引き下げの影響による廃止や休止となっている事業所数はどうなっているか。

【副知事】
 昨年、全国老人福祉施設協会が行った調査では、報酬改定前後の27年3月と4月の比較では、特養ホーム1施設あたり月額約54万円の減収となっており、県と介護保険施設の事業所団体との意見交換においても、事業所団体から「法人形態や運営規模にかかわらず、一様に厳しくなった」という声を聞いている。
 27年4月から28年3月までの1年間に、県内で廃止・休止を届け出た介護事業所124事業所のうち、経営法人主体の変更などの事務手続きな廃止を除く実質的な廃止・休止事業者は86箇所となっている。理由として、明確に介護報酬引き下げを挙げた者はなかったが、多くの事業所では経営悪化や介護人材不足を理由に挙げており、その背景としては介護報酬引き下げの影響もあったのではないかと考えている。

【高田委員】
 一層厳しくなったと。私はこの間いくつかの法人を調査しました。「前年比1500万円のマイナスで単年度も赤字になった」(一関市の社会福祉法人)、一関市立藤沢病院事業会計では、介護事業だけとってみても、800万円のマイナスとなり、実際何が起きたかというと、「退職看護師と介護士を正規から非正規で採用している」という実態がある。
 県として、法人運営や施設運営についての具体的な実態・影響を把握する必要があると思うが、どう把握されているか。

【副知事】
 そのような具体的な調査については、現在国においては、3年ごとに行われている介護事業経営実態調査や、毎年度行われている介護報酬改定の効果検証および調査研究にかかる調査などが行われており、このような調査は、対象を抽出して実施する標本調査ではあるが、県としても今後、対象となった施設から調査への回答を任意で提出していただくなどして、県内の状況を把握できないか研究したい。

【高田委員】
 昨年9月議会でも同じ問題を質問したが、「できるだけ事業者のみなさんに負担をかけないで実態把握を方法を考えたい」と述べていた。実際に現場で何が起きているのかということを具体的につかんで必要な対策を国に求めることが大事である。
 事業所運営が厳しさを増す中、施設整備もしっかり行っていかないといけないと思う。介護保険事業計画第6期計画の達成が本当に可能なのかどうか。進捗状況はどうなっているか。

【副知事】
 計画初年度である27年度末には、特養ホーム8207床、介護老人保健施設6038床、認知症グループホーム2325床が開設されており、27年度の計画目標量と比較すると、特養ホームと認知症グループホームはともに1.0%下回っているが、介護老人保健施設は計画を1.4%を上回っており、おおむね計画通りに推移しているのではないかと考えている。

【高田委員】
 午前中の議論で副知事は、29年度末に一定の対応が可能だという答弁だった。
 第6期整備計画が達成しても実際の待機者は解消しない。第5期でも特養ホームでも304床達成できなかった。介護老人保健施設もグループホームも達成できなかった。「介護保険料を払って必要なサービスが受けられない」ということになっては絶対にならない。
 最近建設された県南の特養ホーム(50床)を視察してきたが、総事業費12億円でわずか2億円の補助金だった。しかも、「介護士の不足で40床でスタートし満床で始められなかった」との施設長の話で、二重の困難を介護事業者を抱えているのではないか。かつては、特養ホームの施設整備には、4分の3補助があったが、実際今は5分の1や6分の1になっている。現在の補助制度・支援制度では特別養護老人ホーム等の介護施設整備が進まないのではないか。

【副知事】
 県では、介護保険施設の整備を進めるため、法人等に対する補助制度を創設しており、現在の補助単価は、特養ホームを例にとってみると、定員29人以下の施設については1床あたり427万円、定員30名以上については1床あたり350万円となっている。
 具体的には、定員29名以下の地域密着型特養ホーム等地域密着型サービスの整備に対する補助については、国が示した基準単価の上限額を採用し、順次単価を引き上げてきたところである。
 定員30名以上の特養ホームの施設整備に対する補助については、かつての国庫補助金等の一般財源化にともない、平成18年度以降県単補助として行っているが、現在本県が設定している単価は、他県の調査ではあるが、回答のあった38道府県のうち、上から4番目である。
 施設整備に関して、市町村からは、介護保険事業計画に基づき行う公募に対し、介護人材不足等の理由により、事業者が対応できない状況にあるという話も聞いており、補助制度以外の問題もあるのではないかと考えているところだが、今後とも事業者の方々のお話を聞きながら、また、他の都道府県の状況も確認しつつ、必要に応じ補助制度の見直しも行っていきたい。

【高田委員】
 たしかに岩手は上位の方にはなっているが、独立行政法人福祉医療機構の調査では、震災以降の建設単価が被災3県はものすごく高騰し、岩手は1平米当たり20万9000円→26万9000円になっている。盛岡市内では、入札不調になる事例もある。予定価格と最低入札価格で2億円の乖離があって入札不調になると。しかし、震災前から県の補助金は変わっていないので、ぜひ早急に県として対応していただきたい。
 認定された高齢者の23.8%にあたる要支援1・2の通所介護や訪問介護の生活援助について、これは来年4月から保険給付から外れて市町村の地域支援事業に移行する。この間の予防介護の事業の成果と役割はどうか、県としての評価についてお聞きしたい。

【副知事】
 予防介護日常生活支援総合事業は、現行の訪問介護、通常介護相当のサービスに加え、多様な訪問型・通所型サービスや、その他の生活支援サービスを充実することにより、要支援者等に対する効果的かつ効率的な支援を目指すものと考えている。
 本県ではこれまで9市町村が総合事業に移行しており、その他の市町村は来年4月からの以降に向けて準備を進めている。
 総合事業のメニューのうち、現行の介護予防訪問看護、通所介護に相当するサービスについては、各市町村とも実施または実施予定だが、たとえば、すでに移行した住田町では、現行相当のサービスに加え、その他の生活支援サービスとして新たに栄養改善を目的とした配食サービスを開始しているほか、今後実施予定の市町村を含め、来年4月からは18市町村で、多様な訪問型・通所型サービスやその他の生活支援サービスが実施される見込みと考えている。

【高田委員】
 介護の重度化にならないような重要な役割をこの制度は果たしている。しかし、市町村事業となることにより、事業者が参入をためらう事態になっているのではないか。一関広域行政組合が実施した事業者へのアンケートでは、「参入可能」が通所で37%、訪問で46.4%と。少なくない自治体では現行の7〜8割の単価で検討している、そういうことからである。現在の単価が本当に4月以降維持されるのか。一般質問では「ほぼ維持される」という答弁だったが、改めて確認したい。

【副知事】
 地域支援事業の単価については、先ほど述べたとおり、本県では各市町村において、現行の介護予防訪問看護、通所介護に相当するサービスを実施または実施する予定だが、その単価については、ほぼ現行の水準に設定されることとなっている。
 ご紹介のあった一関広域行政組合による事業者アンケートについては、本年8月に行われたもので、調査内容は、現行相当のサービスについてではなく、多様な訪問型・通所型サービスの緩和した基準によるサービスについて、現行単価の7割の単価を示した上で、介護サービス事業者に対して参入できるか否か質問したものと承知している。
 国においては本年10月に、「緩和した基準によるサービスなどの多様なサービス単価については、サービス内容や時間・基準等を踏まえ、ふさわしい単価を定めることが必要である」との注意喚起の通知を発出し、県においては各市町村に周知したところであり、今後とも通知に沿った取り扱いが行われるよう必要に応じて助言していきたい。

【高田委員】
 ほぼ単価は維持されるということだったが、実際は7割ぐらいの単価で、「さまざまな加算措置をやれば何とか現行単価に近づける」と、非常に市町村は難儀している。実態をよく調査し、国の通知もしっかり提起して、現行制度を絶対後退させない立場で支援をお願いしたい。

2.地域医療構想について

【高田委員】
 3月に策定された地域医療構想は、10年間で3164床削減し在宅医療を推進するという大変驚くべき内容となっている。「地域医療構想」における必要病床数はどのような考え方で定められているのか。

【達増知事】
 今後、高齢化の進展等に伴う医療需要の変化に対応するため、急性期の医療から在宅医療に至るまで、切れ目のない良質な医療提供体制の構築が求められていることから、将来の目指すべき医療提供体制を定める地域医療構想を策定した。
 必要病床数は、医療法をはじめとした関係法令にしたがい、将来の人口推計や25年度の入院医療の実績等を基に、平成37年の医療需要を算定したものであり、今ある病床をこの必要病床数までただちに減らすものではなく、将来の医療需要に応じた地域における必要な医療提供体制の整備などを検討するための方向性を示すものである。

【高田委員】
 県と二次医療圏ごとに設置されている「地域医療構想調整会議」では、「地域医療構想の達成を推進するための必要な事項について協議する」の場と説明がされている。調整会議の性格と所掌事項は何か。

【達増知事】
 この会議は、医療法に基づき、県・市町村・医療関係者等が地域医療構想の実現に取り組むための協議の場として設置している。
 県内9つの構想区域ごとに設置する調整会議においては、区域内の医療機関の病床機能報告制度による情報等を共有した上で、病床機能の分化と連携に向けて各医療機関が担うべき病床機能などについて協議を行うものである。
 また、全県レベルで設置する岩手県地域医療構想調整会議においては、県全体の取り組み状況の把握や、必要に応じた構想区域間の病床機能の連携に係る調整等を行うものである。

【高田委員】
 両磐医療圏構想区域では、急性期515床、慢性期57床が過剰で、回復期116床不足するとしており、全体で31%・380床の過剰病床地域になっている。しかし、両磐医療圏では、10年後も高齢者人口はむしろ増加する。ここ数年、在宅医療を担う医師が減少している現状にもある。医療現場からも「独居老人が増加し在宅整備が困難だ」と不安の声も出ている。
 この地域医療構想は、地域医療の実態から乖離しているのではないか。地域の実情にもとづいて、県民が納得できるものにすべきだが、「調整会議」において変更・見直しはありえるのか。

【達増知事】
 地域医療構想で定める必要病床数は、平成37年の医療需要を算定したものであり、関係法令に従い、平成37年における推計人口や平成25年度における入院医療のレセプトデータなどを用いるとともに、慢性期病床の需要の一部を在宅医療等に移行する前提で推計している。
 この構想の実現に向け、地域医療構想調整会議の協議を踏まえて、地域の実情に応じて病床機能の分化と連携や、在宅医療等の体制整備取り組んでいくわけだが、地域医療構想の見直しについては、次期保健医療計画および次期介護保険事業支援計画の策定の際に、両計画の整合を図っていく必要があることから、地域の医療提供体制に係る情勢や国の動向を踏まえて、その必要性についても検討していくこととしている。

【高田委員】
 今後のさまざまな検討を経て、見直しもあり得ると理解していいか。
 「地域医療介護総合確保基金」について、この基金の性格を見ると、地域医療構想を達成するための医療施設の整備などに対応すると。これは、病床規制のための病床転換を促す基金で誘導する、ベットを削減することはないのか。

【達増知事】
 必要病床数については、たとえば、10年かけて将来のあるべき医療提供体制の構築に取り組むための方向性を示したものであるので、構想区域間の入院患者の流入や流出が大きく変化することが見込まれる場合など、今後の医療計画の見直しの際に、岩手県地域医療構想調整会議において、変更の必要性について検討することも想定している。
 病床転換の促進ということだが、地域医療構想は、病床の削減を目的とするものではなく、高齢化の進展などに伴う医療需要の変化に対応した将来のあるべき医療提供体制の構築を目的としたものである。
 地域医療構想の実現に向けては、病床機能の分化と連携を進める必要があることから、医療機関が地域医療構想調整会議における協議等を踏まえ、将来、地域で不足する病床機能への転換などに自主的に取り組む場合においては、地域医療介護総合確保基金を活用した補助による支援を行うとしている。

【高田委員】
 在宅医療の体制整備、中でも医師確保が前提であって、それが具体的に示されない中で、ベットの削減はあってはならない。地域の実態に即して対応していただきたい。

3.国道343号の新笹ノ田トンネルの整備について

【高田委員】
 先ほど、「施設の整備費が多額になる。慎重な判断が必要で、必要性・重要性について検討していく」という答弁があったが、ここ2年3年ぐらいの答弁書を見たが、全然変わっていない。整備に向けたこれまでの検討状況は具体的にどうなっているか。必要性・重要性のあるトンネルだと思うが、知事はどのような認識か。

【達増知事】
 この新たなトンネルの整備については、多額の事業費を要することが見込まれることから、より慎重な判断が必要であると考えている。
 整備にあたっては、事業予算を確保するとともに、県の公共事業評価制度に基づいた必要性・重要性・緊急性などの評価を経なければならないが、現在進められている復興道路の整備にともない形成される道路ネットワークによる物流の変化や、ILCの立地構想実現に向けた進捗もにらみ、今後、必要に応じて所要の検討を行っていく。
 また、整備にあたっては、公共事業予算の動向、県の公共事業評価、復興道路整備後の物流の変化、ILC立地構想の進捗状況など、さまざまな要素を総合的に判断していく必要があるが、その中でも、公共事業予算の動向が特に重要な要素だと考えている。
 なお、公共事業予算確保を目指し、道路利用者や県民と道路整備の重要性や緊急性を共有することを目的とした大会を10月に開催したところであり、この中で、産業の生産性向上や県民の安心・安全を確保するための新たな道路整備への投資が可能となるよう、予算を大幅に拡大することを決議し、市町村長や関係団体とともに国に要望した。
 今後とも、道路整備に必要となる予算枠の拡大に向けて、機会あるごとに国に対し働きかけていきたい。

【高田委員】
 数年前から必要性・重要性の検討をしていきたいということだったが、この間の必要性・重要性に対する検討状況はどうなっているか。

【達増知事】
 国道343号は、内陸部と気仙地区を結ぶ幹線道路であり、産業振興や観光振興などに大きな役割を果たしている。
 東日本大震災津波発災時には、内陸部からの救援ルートとしての役割を果たしたことから、県では復興計画において同道路を復興支援道路に位置づけ、一関市渋民工区、一ノ通工区において精力的に整備を進めている。
 公共事業評価では、事業別に評価する項目として設定しており、必要性としては、幅員狭小や急カーブ、渋滞などが解消されること、重要性としては、広域的なネットワークとしての位置づけや地域振興へ寄与すること、緊急性としては、関連事業があることや防災危険箇所が解消されることなどを指標として評価している。

【高田委員】
 いま陸前高田市とJRの間では、地域交通網についてさまざま協議をしている。この協議の中で、JRは一関までのBRTを提案しているが、しかし実際に委託をしている県交通からは笹ノ田トンネルの通行は難しいと拒否されたということだった。トンネルが実現すれば、BRTも実現可能になるということで、陸前高田市からも相当強い要望があると聞いている。
 三陸沿岸道路が完成すれば、三陸地域の交流人口は仙台圏に取り込まれるのではないかと思うがいかがか。やはり戦略的に対応していくべきではないか。

【達増知事】
 三陸沿岸道路の整備により、時間距離の短縮など交通環境が大きく向上することから、水産物等の販路拡大や物流の活性化、三陸沿岸周遊の利便性が高まることによる観光客の増加や旅行消費の拡大などが期待される。
 このような広域的なアクセスの向上による効果は、すでに宮古・室蘭間の定期フェリー航路や、釜石港の国際コンテナの定期航路の開設が発表されるなど、物流におけるダイナミックな展開や企業集積の促進にもつながっている。
 交流人口の面でも、人の流れの変化や活性化によるプラスの効果を生かしていく必要があり、このことは、首都圏やインバウンドを含めた仙台圏からの誘客の拡大を図るチャンスととらえている。
 県においては、復興道路の整備や今後の三陸鉄道の一貫経営などの環境の変化を踏まえ、復興のその先を見据えた総合的な三陸振興の推進体制の整備の一環として、本年4月に、公益財団法人さんりく基金を母体に、「三陸DMOセンター」を設置し、観光客の流れなどの具体的なデータに基づく戦略を練りながら、地域と一体となり三陸地域の交流人口拡大に取り組んでいきたい。