2016年11月22日 決算特別委員会
農林水産部(農業部門)に対する質疑(大要)
・東日本大震災津波、台風10号豪雨災害の被害・復興状況について
【斉藤委員】
農業の復興状況、復旧農地の活用状況、農業就業者の推移はどうなっているか。
【担い手対策課長】
被災した農地653ヘクタールのうち、市町村のまちづくり計画等との調整が必要なために工事着手できていないところを除き、482ヘクタールが復旧している。このうち450ヘクタールで水稲を中心に、野菜、飼料作物などが作付されている。
農業就業人口については、27年の農林業センサスでは、沿岸市町村の農業経営体数は4386経営体で、22年と比較し25%減となっている。
【斉藤委員】
復旧農地の活用状況は450ヘクタールで、これは復旧面積の93%ということで、ほぼ作付されていると。農業経営体数は25%減ということで、内陸市町村の場合には16.6%減なので、やはり震災の影響は大きいものがあった。
今回の台風10号豪雨災害も同じ被災地での被害となったが、農地・農業施設の被害と復旧状況はどうなっているか。来年の作付に間に合うのか。
【農村建設課総括課長】
被災面積625ヘクタール、1250箇所で44億4000万円、農業施設の被害は881箇所で41億9000万円、合計2131箇所86億3000万円となっている。
現在の復旧状況については、国の災害査定が10月31日から順次行われており、年内には約350件すべての査定の完了を予定している。また、査定前着工制度を活用し、すぐに着手した農道・水路3地区を含めた7地区で早期復旧を予定しているほか、査定を終えた地区については、ただちに工事着手することにより、可能な限り来春の作付に間に合うよう取り組んでいきたい。
【斉藤委員】
可能な限りということだが、現時点で見通しは立っているのかどうか。
【農村建設課総括課長】
今回もっとも被害が大きかった岩泉町の営農再開ということでは、被害の大きかった小本川流域については、11月28日から災害査定を実施する予定になっている。災害査定を終えた地区から順次工事に着手するが、災害査定がこれからなので、工事については災害査定が終わった段階で見通しがつくと思っており、今後の作付に間に合うようにしていきたい。
【斉藤委員】
大震災に続き、地域によっては二重の被害、特に岩泉町の場合はそれを超えるような大きな被害となっているだけに、来年の作付に間に合うように頑張っていただきたい。
・TPP協定が岩手の農業に与える影響について
【斉藤委員】
安い輸入農水産物が入ってくれば、国内生産量は減少し価格が低下するのではないかと思う。
この間の重大な問題として、輸入米の価格偽装問題が発覚した。2割安く売っていた、調整金として裏金で渡していたということだが、岩手県は米の影響について、独自試算で21億円の生産減少としたが、2割もSBS米が値引きされて売られていたとすれば、この試算も変わってくるのではないか。
【企画課長】
農林水産省では「SBS米の価格水準が国産米の価格等に影響を与えている事実は確認できなかった」と公表している。今後、調整金を禁止するといったような方針も示したところだが、国会における議論では、国産米の価格への影響があるのではないかという意見もあることから、国民に不信感が生じないよう十分に議論を尽くすことが必要であり、県としても引き続き動向を注視していきたい。
【斉藤委員】
21億円の減少という独自試算を岩手県は行った。この算出方法を見ると、「相対取引価格−輸入米の取引価格×業務用米の数量」となっている。そうすると、輸入米の取引価格が実態は2割安かったと。単純に試算できるのではないか。推計でいいので示していただきたい。
【企画課長】
SBS米の価格、これが国産米の価格に与える影響といったものは、国の見解では「そういう事実は確認できなかった」としていることから、県で試算することは困難だと考えている。
【斉藤委員】
国は調査をしなかっただけである。輸入業者は、ほとんどがごまかして輸入して、高い価格で政府に報告して、そして2割裏金で調整金を渡していたというのが事実ではないか。本来ならこの調整金というのは、関税で国に入るべきお金である。こういう問題について、TPPの米への影響は政府がゼロだと言ったにも関わらず岩手県は試算して21億円の減少と示した。かなり限定した試算でも21億円の影響があった。その算式に政府のごまかしがあったということだから、そのごまかしを試算すればよいだけではないか。試算していないのか。
【企画課長】
県では国の試算に基づき米は影響なしとしていたが、国内で安い輸入米の流通量が仮に増加し、国内において万全の対策が講じられなかった場合において、業務用米を中心に国産米の価格が下落するということで、県としても21億円の減少という影響を示した。
国では、「価格に影響を与えている事実は確認できなかった」としているので、国の基本的な考え方が変わらない中で、県として前提条件を改めて変えて再試算するということは現段階では考えていない。
【斉藤委員】
21億円の減少という県の試算、これは結果的にはさらに大きな減少額になると言うことは認めるか。
【企画課長】
現時点ではその判断はできない。
【斉藤委員】
政府のごまかしに追随していたらダメである。政府はごまかして、嘘をついて、情報を出さないでTPPをやろうとしている。我々は実態に基づいてこの不当性を明らかにしていかなければならない。
県内の米価の相対取引価格はどうなっているか。県内の作付規模別生産費はどうなっているか。圧倒的に今の米価でも赤字だと思うが、実態はどうか。
【水田農業課長】
27年産ひとめぼれ―27年9月〜28年8月までの相対取引価格は、60キロあたり12930円となっている。
26年産の作付規模別の全参入生産費は、0.5〜1ヘクタール規模では20307円、1〜2ヘクタール規模では16589円、2〜3ヘクタールでは14511円、3〜5ヘクタールでは14216円、5〜7ヘクタールでは12054円、7〜10ヘクタールでは12366円、10〜15ヘクタールでは12046円、15ヘクタール以上の規模では11484円となっている。
先ほどの相対取引価格にナラシの補填金と米の直接支払い交付金を加えて試算すると、5ヘクタール規模以上で収入が生産費を上回ると試算される。
農林業センサスのデータで、5ヘクタール以上の規模の経営体の割合は3%となっており、面積では28%となっている。逆に5ヘクタール未満の規模の経営体は97%、面積では72%となっている。
【斉藤委員】
今の米価でも、生産費を償っているのは経営体のわずか3%、作付面積で28%である。岩手県の圧倒的多数の農家は今でも赤字生産、さらに安い輸入米が入ってくることになれば死活問題である。
実は、アメリカ国会でこういう報告があった。アメリカ国際貿易委員会が提出した影響調査では、「農業だけプラスで、その最大の輸出先が日本になっていて、4000億円を超える」と。日本に対して4000億円農産物の輸出を増やせると。TPPというのは、まさに日本の農業、岩手の農業に壊滅的打撃を与える。今でも赤字なのに、ますます家族経営が死滅するような状況に追い込まれるのではないか。
【農林水産部長】
TPPについては、国の方で万全の措置を講じていただくということもあり、どの程度の影響があるかというのはなかなか試算できない状況である。
我々としては、影響が出ないように国でしっかり対策を講じていただきたいと思っている。
【斉藤委員】
今でも赤字で、さらに安い輸入農水産物が入ってきたら立ちゆかなくなるのではないかと。アメリカ自身が、日本に4000億円も日本に輸出を増やせると言っている。こういうTPPに断固反対しないでどうするのか。
このTPPは、食の安全を破壊してしまう。非関税障壁の問題で、地産地消の学校給食さえ認められない。これは韓米FTAで実際に行われた。ソウルの学校給食条例は廃止になった。韓国では、200の法律・条例が廃止になった。要はアメリカの基準に合わないと。遺伝子組み換え食品を使っても問題ないと。これが非関税障壁である。岩手で、県産品を学校や病院や保育所やホテルなどに積極的に推進しているが、県内農水産物の各施設への活用状況はどうなっているか。
【流通課総括課長】
県独自に、県内の施設にたいし2年に1度、県産食材の利用状況調査をしている。26年の調査においては、511施設から回答があり、学校・保育所・県立病院・公立病院・社会福祉施設・社員食堂でトータル41.1%県産食材を利用している。
【斉藤委員】
いま頑張って41.1%が県内の食材を活用していると。しかし非関税障壁が撤廃になれば、地産地消ができなくなってしまう。
ではアメリカ産の輸入農産物はどういう物か。遺伝子組み換え食品を使っているのはその通りで、牛肉に成長ホルモン、エサには成長促進剤を使っている。これは、癌の疑いがあるということで、EUは断固反対している。フランスの大学で実験したら、遺伝子組み換え食品を与えたネズミは癌だらけになった。実は今の遺伝子組み換え食品の影響調査というのは3ヶ月ぐらいしかやっていない。2年3年5年食べたらどうなるかという検査は全然やられていない。
食の安全をこのようなアメリカ任せにしてはならないと思うが、そして県内の新鮮なおいしい農水産物を、学校や病院やホテルなどでもっと活用すべきではないか。その点でこのTPPは障害になると受け止めているか。
【企画課長】
遺伝子組み換え食品、安全審査、表示といったものも含め、「TPP協定によって日本の食の安全安心に関する制度変更は行われない」と国は言っているが、一方で国会において、食の安全安心に影響があるのではないかという意見もあると承知している。こうしたことから、先において国に提出された意見書の趣旨なども踏まえながら、国民に不信感や不安が生ずることのないよう、十分に議論を尽くすことが必要と考えている。
【斉藤委員】
もう1つ重大な問題はISDS条項である。アメリカの基準に合わなければ日本政府を訴えることができると協定に入っている。まさに日本の主権を脅かす、日本のさまざまな生産を守り安全を守る諸制度を脅かすものだと思う。
たとえば、北米自由貿易協定では、69件提訴されており、うち72%が米国企業である。まさにアメリカの多国籍企業の権利で、自分の利益に反したら他の国が訴えることができるものである。こんなものは絶対に許してはならないし、衆参の国会決議にもあったと思うが、どのように受け止めているか。
【企画課長】
ISDS条項については、「食の安全などに関する制度変更は行われない」と国は言っているが、遺伝子組み換え食品の表示義務により損害を被るといった外国の企業から日本が訴えられるのではないかという懸念もあると承知している。
こうしたことから、国民に不信感や不安が生じることのないよう十分に議論を尽くしていただきたいと考えている。
【斉藤委員】
TPP協定には、今でも重要5品目でさえ3割が即時撤廃、7割は全部大幅な関税引き下げだった。ところが、7年後に日本だけが再交渉を義務づけられている。いわば7割の大幅な関税引き下げでも足りないと。7年後に必ずやるし小委員会をつくったら直ちにその協議に入ると。
集散の国会決議は何を決めたのか。
【企画課長】
7年後の関係だが、アメリカから要請のあった場合には、関税率やセーフガードの適用について再度協議するとなっているが、そうした条項も念頭に起きながら、国会の決議等も踏まえながら議論していただきたいと考えている。
【斉藤委員】
質問に答えなかったが、衆参の決議は何を決めたか。
1.米・麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの農林水産物の重要品目について、引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象とすること。十年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めないこと。
2.残留農薬・食品添加物の基準、遺伝子組換え食品の表示義務、遺伝子組換え種子の規制、輸入原材料の原産地表示、BSEに係る牛肉の輸入措置等において、食の安全・安心及び食料の安定生産を損なわないこと。
3.国内の温暖化対策や木材自給率向上のための森林整備に不可欠な合板、製材の関税に最大限配慮すること。
4.漁業補助金等における国の政策決定権を維持すること。仮に漁業補助金につき規律が設けられるとしても、過剰漁獲を招くものに限定し、漁港整備や所得支援など、持続的漁業の発展や多面的機能の発揮、更には震災復興に必要なものが確保されるようにすること。
5.濫訴防止策等を含まない、国の主権を損なうようなISD条項には合意しないこと。
6.交渉に当たっては、二国間交渉等にも留意しつつ、自然的・地理的条件に制約される農林水産分野の重要五品目などの聖域の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合は、脱退も辞さないものとすること。
7.交渉により収集した情報については、国会に速やかに報告するとともに、国民への十分な情報提供を行い、幅広い国民的議論を行うよう措置すること。
いま紹介したこの決議の内容は、1つもやられていないのではないか。
【企画課長】
決議については、今後も国会で議論すべきものと考えている。
【斉藤委員】
先日、知事は記者会見で、「アメリカ大統領選挙の結果も踏まえて慎重に対応すべきだ」と述べた。トランプ氏は「大統領就任の日にTPPから離脱を表明」というのが公約だった。こんなときに、8400ページにおよぶTPP協定のうち2400ページしか公開しない、真っ黒な資料しか出さない、まともに議論せずに絶対に通すべきではない。今の世界の流れを見て、慎重に徹底して審議して、批准するなという声をあげるべきではないか。
【農林水産部長】
知事の記者会見でのコメントを踏まえ、日本としても慎重姿勢で臨むことが適当だということだと思っている。
・農協解体問題について
【斉藤委員】
規制改革推進会議のワーキンググループが、農協解体提言を出した。自民党の中でも「これは大変だ」となっているが、TPP協定を推進しながら、一方で農協解体すると。こういうやり方は許されないと思うがいかがか。
【農林水産部長】
規制改革推進会議の農業ワーキンググループが、農協改革に関する意見を取りまとめ、11月11日に公表し、その提言内容について議論されていることは報道を通じて承知している。
一方、県内総合農協においては、4月1日の改正農協法施行を受け、農家組合員の所得増大を目標に自己改革に取り組んでいると承知している。
今回の提言を受け、国がどのように農協改革を進めていくか、情報収集するとともに動向について注視していきたい。