2017年3月10日 予算特別委員会
保健福祉部に対する質疑(大要)


・台風10号豪雨災害―社会福祉施設等の防災対策について

【斉藤委員】
 岩泉町のグループホームで大きな犠牲者を出した。この原因の検証はどのように行われているか。

【長寿社会課総括課長】
 先の台風10号については、短時間のうちに記録的な大雨になり、河川の水位が急激に上昇するなど、想定を超えた事態への対応の難しさがあったのではないかと思っている。
 また、当時岩泉町では、台風の上陸前から町内全域に避難準備情報を発令しており、この情報は、避難に時間がかかる高齢者や障がい者の方々に避難の開始を求めるものだが、被災した施設の職員にそのことが十分理解されていなかったこと。施設の非常災害対策計画では、水害について規定しておらず、水害に対応した避難訓練も実施していなかったことなども一因になったものと考えている。

【斉藤委員】
 この台風10号豪雨災害を踏まえた課題と対策について、国の検討会がかなりまとまった報告書を出している。
 「午前9時、避難準備情報の発令時に、町は要配慮者が避難すべき段階であることを伝達できていなかった」、「台風の接近とともに風雨が強まっていく中、町から小本川の氾濫域に対して、災害に関する注意喚起等が行われず、住民に危険性が伝わっていなかった。施設の管理者は、避難準備情報の発令を認識していたが、要配慮者の避難開始を知らせる情報だとは認識していなかった」と。重大なのは「避難準備情報や避難勧告が発令されたことをもって、避難を判断したグループホームはなかった。一方、地域での声かけで避難を決断したグループホームはあった」と。
 避難準備情報で避難の判断をしたグループホームは1つもなかった。小本川の氾濫で「楽ん楽ん」は大きな犠牲者を出したが、他でそういう災害があってもおかしくないような状況だった。この指摘をしっかり受け止める必要がある。
 この間、3回の分科会を踏まえ、県全体の報告書がまとまっているが、洪水浸水想定区域、土砂災害警戒区域に立地する施設と、その避難計画・避難訓練の作成・実施状況はどうなっているか。

【企画課長】
 昨年11月に市町村等を通じ、入所系の施設を中心として調査したところ、洪水浸水想定区域には527施設、土砂災害警戒区域には271施設が立地していることを把握した。
 この調査をもとに、水害・土砂災害に関する計画が策定されていないなど、改善を要する施設等に対し、県・市町村等指導監督権限のあるところで助言・指導を行ってきた。
 洪水浸水想定区域においては、非常災害対策計画について十分な計画を策定した施設は367施設・69.6%、計画不十分な施設と計画未策定施設は160施設・30.4%となっている。避難訓練について、訓練を実施した施設が274施設・52%、未実施施設553施設・48%となっている。
 土砂災害警戒区域においては、非常災害対策計画について十分な計画を策定した施設は175施設・64.6%、計画不十分な施設と計画未策定施設96施設・35.4%となっている。避難訓練については、訓練を実施した施設は178施設・65.7%、未実施施設93施設・34.3%となっている。

【斉藤委員】
 計798施設が危険な地域に立地している。改めて本当に大変なことだと感じている。
 そして、当初は計画をもっていたところは少なく、この間改善されて今答弁されたようなところまでいったと。しかし半年が経過し、それぞれ約30〜35%が計画が未定だと。これまた施設の鈍感さを示すものではないかと思う。危険な地域に立地しているわけだから、火事はもとより、洪水・土砂災害についてどういう避難計画をもつのか。
 そして実際に、今の人員ではとても避難できないというのがこういう施設の特徴である。だから、消防団との連携や地域との連携がなかったら、いざというときに避難できない。
 グループホーム「楽ん楽ん」について、「日勤の職員を早く帰した。夜勤の職員は風雨が強まったために出勤できなかった」と。実際に災害に直面するとこういうことになってしまう。そして早めに避難したところは、車の渋滞もなく避難できたという経験も紹介されている。そういう意味で、実態に合った計画を作り、そして訓練をしなければ実際には避難できないというのがこうした施設の特徴なので、そうしたことをしっかりやっていただきたい。
 今回の台風災害で、岩泉町には8人の災害関連死の申請が出ている。台風10号豪雨災害では助かったが、その後の避難生活の中で、申請だけで8人なので。私は東日本大震災津波の教訓が生かされていないのではないか。なぜそのようになったのか。福祉避難所の設定はどうだったのか。

【地域福祉課総括課長】
 岩泉町において福祉避難所指定されており、開設はされていた。ただ、「楽ん楽ん」の避難の際に福祉避難所が機能したかどうかと言われれば、ご指摘の通り機能はしていない。ただ、災害関連死と直接福祉避難所が関連づけられるかと言えば、詳細は把握していない。

【斉藤委員】
 まだ申請の段階で認定はされていないが、今回の台風10号豪雨災害でも8人の災害関連死の申請が出ていると。東日本大震災津波の教訓が生かされていないのではないかと。このことは是非検証していただきたい。助かったにも関わらず、半年の間にこれだけ申請があったので。やはり福祉避難所というのは、今回の申請が直接関連するかしないかは別にして、緊急避難をしたときに、要支援者の方々の避難はどうあるべきかと。やはり東日本大震災津波で痛苦の体験をしているのだから、それが生かされたのかどうかしっかり検証していただきたい。
 社会福祉施設の防災対策について、今後どのように強化しようとしているか。

【企画課長】
 昨年12月以来、分科会を3回開催し、課題や取り組みについて取りまとめた。
 取り組みとしては、施設においては、水害・土砂災害のリスクが高い区域に立地している施設については、非常災害対策計画の策定や避難訓練の実施を徹底するとともに、継続的な改善に取り組むこと。また、市町村・消防・地域社会と連携し、非常災害対策計画の策定や避難訓練の実施を行い実効性を高めること。県内市町村においては、施設の特徴に応じて、具体的なマニュアルの策定、取り組み事例の情報提供等を行うこと。施設の指導監督に加え、施設の定期的な状況確認を行い、施設等の非常災害対策計画、避難訓練の実施の点検について指導・助言を行うことなどとした。
 県としては、市町村・関係機関等と連携しながらこれらの取り組みを進め、社会福祉施設における防災対策の強化に努めていきたい。

【斉藤委員】
 岩手県がこの間3回の分科会を行い、さまざまな実態を検証し今後の改善策も示したことは評価したい。そしてこれは全国的な教訓になるので、岩手こそ改善にいち早く取り組むということで頑張っていただきたい。

・東日本大震災津波と子どもの心のケアについて

【斉藤委員】
 今年度の状況を見ると、子どもの心のケア受診件数が増加している。この特徴、内容、増加の理由はどうなっているか。

【子ども子育て支援課総括課長】
 いわてこどもケアセンターの延べ受診件数等だが、開設した25年度については2063件、26年度4013件、27年度4620件、28年度は2月末で5720件となっている。
 本年度の延べ受診件数に占める年代別割合は、小学生が約4割、中学生・高校生それぞれ3割弱となっており、最近では新規患者に占める小学生の割合が半数程度になってきているなど高くなってきている。
 要因としては、依然として多くの子どもたちが震災そのものによるストレスに加え、その後の環境の変化や被災生活の長期化にともなうストレスを受けているものと考えられる。また、いわてこどもケアセンターによる診療体制が整備され、センターが認知されたこと等にともないより多くの子どもたちが診療を受けられるようになってきたことも要因と考えている。

【斉藤委員】
 丸6年が経過し、2月末で5720件、去年より1100件も多い。本当にこれが深刻な事態であるということと、こどもケアセンターが頑張ってやっていただいている、この両面があると思う。
 阪神淡路大震災でも、復興の目途がつきつつあるときに、今まで我慢していたものが出てくると。大塚先生が県議会で講演されたときに「中長期の取り組みが大切だ」と。この受診が進んでいる背景に、医療費の免除措置があるからだと思う。これは受診なので、大人の場合は「相談」だが、子どもの心のケアは「受診」=医療行為として行われる。だから安心して受けられると。大塚先生も「この点で医療費の免除措置は継続が必要だ」と言っていることは大変重要な指摘だと思うが、今後の取り組みを含めて、こういう状況の中で引き続き継続する必要があるのではないか。

【健康国保課総括課長】
 口腔健康保険の一部負担金免除の果たしている役割ということで、いずれ、仮設住宅等で不自由な生活を余儀なくされている現状を踏まえ、12月末までこれまでと同様の財政支援を継続したところであり、こうした方々の医療を受ける機会の確保に寄与していると思っている。
 平成30年1月以降の対応については、被災地の生活環境、被災者の受療状況等を総合的に勘案しつつ、市町村の意向を踏まえて改めて判断したい。
【子ども子育て支援課総括課長】
 いわてこどもケアセンターの今後の取り組みだが、引き続き、心的外傷後ストレス障害などの治療も含め、児童精神科医による専門的な治療を行うとともに、教員や保育士等を対象とした研修会や、保健・医療・福祉・医療教育機関等の多職種検討会を開催し、支援者の専門性の向上や、関係機関等との連携強化に取り組んでいく。
 また、児童相談所などの専門職員による家庭訪問や、学校・保育所への巡回訪問等により、子どもたちの状況把握に務め、個々のニーズを踏まえながら相談対応を行っていくほか、子どもたちがストレスを発散できるようNPO法人等と協力し、遊びの場や悩み事を分かち合える場を提供するなど、子どもたちの状況に合わせた支援を実施していく。
 時間が経過してから初めて表れるケースもあるので、県としては引き続き中長期的な視点に立ち、関係機関との連携を図りながら、子どもたちの心のケアを進めていきたい。

【斉藤委員】
 医師である医務担当技監の菅原先生もいるので所感をお聞きしたい。

【医務担当技監】
 心のケアということで、大人も被災後の心的外傷後ストレス障害ということも出たが、それも踏まえ、中長期的な視点での支援が必要だと思う。
 心のケアセンター制度は、宮城・福島ではやっていない制度で、岩手県独自の考え方で、しかも利用者が増えてきているということは、ますますその重要性は増していると思う。

・子どもの貧困問題について

【斉藤委員】
 盛岡市と県立大学が「ひとり親世帯の子どもの生活実態調査」を行ったが、県は把握しているか。

【子ども子育て支援課総括課長】
 今年度盛岡市が行っている、児童扶養手当受給資格者である母子家庭を対象に、保護者の経済状況や子どもの成育環境、教育的文化的環境等について、調査を行っていることは把握しているが、その結果がまだ公表されていないので、内容については承知していない。

【斉藤委員】
 1173件の回答で、驚くような内容だった。
 ひとり親世帯の母親の就業は91.6%、うち土日の勤務があるのは76%、朝8時以前の早朝勤務が27.9%、夕方6時以降の夜勤勤務が57.6%と。子どもと過ごす時間がないというのが実態である。朝食・夕食を子どもだけでとっているのが29.5%。「子どもが病院にかからなければならないのに受診しなかった」25%、その理由の70%は「時間がなかった」と。
 いわば、こういう母子世帯は朝から晩まで働きづめ。だから子どもの3割近くが1人で朝食・夕食をとっている。まさにここに子どもの貧困が示されているのではないか。こういう実態を明らかにしてこそ、土台の目標・方針も出てくるのではないか。

【子ども子育て支援課総括課長】
 県においては、親の帰宅時間だとか子どもに関する悩み等、ひとり親世帯の方々が困っていること、親の就業状況や就労収入の状況については5年に1度、岩手県母子世帯等実態調査を行い、そういった調査を行いながら、県として把握に努めている。
 今後、盛岡市の調査結果が公表された場合には、その内容を参考にさせていただきながら、いろいろ取り組みを進めていきたい。

【斉藤委員】
 こうした調査をしたから、深刻な生活実態が浮き彫りになる。
 岩手県の母子世帯等実態調査もいただいたが、数で実態を示しているだけで、生活実態、子どもの実態が見えてこない。それでも、生活保護世帯の子どもの大学進学率は29.6%(全国32.9%)、子どもの高校卒業後の就職率は56.5%(全国46.1%)となっており、進学できていない。全県的にも親の就業率は91.9%(全国80.6%)である。岩手県のひとり親世帯は、全国の10ポイント以上働きづめになっている。これだけ働いて収入基準で一番多いのは10〜15万円である。数字的なものだけでもこうした実態が明らかになったら、きちんと具体的な対策を示すべきではないか。
 県が方針を出したのを見たが、国が大綱を示し、岩手県も「岩手の子どもの貧困対策推進計画」というのを作ったが、本当におざなりなもので中身がない。例えば、目標が出ているが、生活保護世帯の子どもの大学等進学率、平成26年29.0%を平成31年に29.1%に。母子家庭の収入月額15万円以上の者の割合30.2%を平成31年31.5%と。こういうのは目標と言えるのか。ほとんど現状維持ではないか。子どもの貧困を打開する目標がない。この目標では子どもの貧困は5年間で全然変わらないのではないか。そしてこれを今後どのように進めるつもりか。体制はどうなっているか。

【子ども子育て支援課総括課長】
 岩手の子どもの貧困対策推進計画については、将来の関係部局等がいろいろ協議し具体的にどういう形で進めたらよいか、どういった形で指標を上げていくかということを協議しながら進めた計画だが、こういった計画に掲げる目標、例えば生活困窮世帯の子どもを対象とした学習支援だとか、低所得世帯の教育負担を軽減するための奨学給付金の給付、岩手県ひとり親家庭就業自立センターの就業相談員による支援等、こういったことを関係部局が連携し、総合的な取り組みを推進し、少しでも子どもたちの貧困対策を進めていく、目標を上げることについても事業を進めながら取り組んでいきたい。
 推進体制については、この計画は28年3月に策定したので、今年度の取り組み等を29年度に継承し、次の事業の実施等に向けて取り組んでいきたい。

【斉藤委員】
 率直に言って、岩手県の子どもの貧困対策推進計画はまともな目標になっていない。
 そして来年度予算の説明書、子ども子育て会議で出された子どもの貧困に関わる予算は、ひとり親家庭等セルフサポートが4500万円減額である。これしか紹介されていない。これで子どもの貧困対策ができるのか。
 高田県議の一般質問で、岩手県として調査すべきと提起したが、沖縄県は独自に調査し、実態を明らかにして、打開の目標を決めて取り組んでいる。実態を明らかにして、そしてしっかりした目標を決めて、子ども食堂の取り組みも新たな取り組みだが県の方針には中身がない。力を集中して、体制もとって、子どもの貧困対策に取り組むべきではないか。

【保健福祉部長】
 セルフサポート事業の減額については、28年度においては、3年間の貸付原資を一括予算計上し、県社協に交付、29年度はその予算がないということでトータルでは減額になっているものである。
 ひとり親世帯への支援については、当部のみならず、教育・商工労働部など庁をあげて取り組むべき課題である。昨年度策定した計画に基づき着実に進めつつ、事業を進める中で新たな課題などが出てきたならば、それについても関係部局で検討の上、実施に向けて頑張っていきたい。