2017年10月19日 決算特別委員会
農林水産部(農業部門)に対する質疑(大要)
・東日本大震災津波・台風10号豪雨災害からの復旧状況について
【斉藤委員】
農地の復旧状況、作付の状況を示していただきたい。
【農村建設課総括課長】
東日本大震災津波からの農地の復旧状況について。沿岸部では、復旧対象農地面積561ヘクタールのうち、29年7月末までに504ヘクタールの復旧が完了している。今後、復旧を見込む57ヘクタールのうち、今年度中に7ヘクタールを復旧するとともに、陸前高田市の高田沖地区28ヘクタールの工事に着手することとしている。残る22ヘクタールだが、市のまちづくり計画と調整しており、29年度中に復旧対象農地を確定し、高田沖地区の復旧とあわせ、平成31年春の営農再開を目指したいと考えている。
今年度の作付状況は現在調査中だが、昨年度の実績では、復旧した482ヘクタールの約9割にあたる452ヘクタールで、水稲・麦・飼料作物等が作付されている。
台風10号豪雨災害による農地・農業施設の復旧状況は、復旧対象農地221ヘクタールのうち、29年9月末までに138ヘクタールの復旧が完了している。今後復旧を見込む83ヘクタールのうち、他事業との調整が必要な10ヘクタールを除く73ヘクタールについては、30年春までに復旧する見込みである。
作付状況については、復旧した138ヘクタールの約9割となる124ヘクタールで、水稲・麦・飼料作物等が作付されている。残る1割の農地については、今後復旧される農地も含めて来春には作付が再開されるものと考えている。
・コメ政策の見直しの実態と対応について
【斉藤委員】
28年度産米の生産費と相対取引価格はどうだったか。どれだけの農家がどれだけの赤字になったのか。
【水田農業課長】
28年産米の自己資本利子・自作地地代を含む全算入生産費は、60キロあたり作付規模別に、0.5〜1ヘクタールでは20253円、1〜2ヘクタールでは16290円、2〜3ヘクタールでは13805円、3〜5ヘクタールでは13368円、5〜10ヘクタールでは11241円、10〜15ヘクタールでは11271円、15ヘクタール以上は10901円となっている。28年産本県ひとめぼれの出回りから今年8月までの相対取引価格だが、60キロあたり13836円となっている。こうしたことから、2ヘクタール以上の規模で価格が生産費を上回るということになり、2ヘクタール以上の経営体数の割合は14%、作付面積の割合では58%となっている。一方で、2ヘクタール未満の経営体数は86%、作付面積の割合では42%となっている。
【斉藤委員】
結局農家の経営体で見ると、今の生産費だと86%が赤字だと。これは大変な事態だと思う。
29年産米については、県南・県北と幅広く農家の声を聞いたが、1反歩あたり1俵以上青米になるのではないかというものだった。実態をどのように把握しているか。
【県産米戦略監】
29年産水稲の農産物検査結果については、10月25日に公表予定であり、現在正確な数字は持ち合わせていない。また、一等米と判断されない、いわゆる落等の原因としては、整粒不足や充実度の不足などが挙げられ、青米については詳細なデータは公表されないと承知している。なお、JAの農産物検査機関に聞き取りをしたところ、昨年同期比で青米がやや多いという情報を得ている。
【斉藤委員】
県南・県北の農協関係者から聞いた話であって、共通して1俵以上は確実で、ひどいところは2俵ぐらい青米になるのではないかということだった。大変な減収になると思う。今でさえ86%の農家が赤字で、青米がこういう形で発生したら本当に成り立たない。来年辞めてしまうのではないかという危機感を農協関係者はもっているので、しっかり対応していただきたい。
直接支払交付金について、昨年度は30億2千万円交付されたが、これが来年度から廃止となれば、農家の赤字がさらに一層深刻になると。20ヘクタール規模の大規模農家、100ヘクタール規模の集落営農の場合、どのぐらいの減収になるか。
【水田農業課長】
直接支払交付金の廃止にともなう減収だが、経営面積20ヘクタール規模の場合では150万円の減少、100ヘクタール規模の経営体では750万円の減少と試算される。
【斉藤委員】
農家の86%が赤字の中で、直接支払交付金を廃止すると。これは平成25年までは倍の15000円だった。岩手では60億円以上の交付があり、それが半分になり、来年度からは廃止だと。こんな農家つぶしの政策はない。先ほど集落営農の法人化がなぜ進まないかという質問があったが、100ヘクタール規模でやっていて750万円減収になったら、法人化どころではない。自民党の失政そのものである。
いま、農家の経営が成り立つということを最優先にした農政を実現しないと、農家は辞めざるをえないというところまで追い詰められるのではないか。
【農政担当技監】
現状においては答弁申し上げた通りだが、私ども今年の5月に、5ヶ年の水田農業推進方策を策定しており、この中で、田圃を使ってどうやって農家の収入を上げていくかということで基本的な考えを取りまとめている。そしてそれを受けて、各地域再生協議会が、田圃の状況や担い手の状況など、その地域に合った所得向上のやり方について、これから皆さんと意見を交わしながら進めていきたいと考えており、いずれそのような方針に基づき、農家が今後も米を中心にした水田農業を展開していくような形で取り組んでいきたい。
【斉藤委員】
農家切り捨て・農家つぶしの農政そのものが根本的に転換が求められていると思うが、生産調整の廃止の対応として、県は農業再生協議会を立ち上げて、水田農業の推進方針を5月に決めた。私もじっくり読んだ。しかし一方で農家の所得を減らしながら、今の状況でやりましょうという方針である。
県農業再生協議会は、どういう形で来年度の作付面積の指標を示すのか。地域農業再生協議会は、どういう形で生産者向けの作付目標を示すのか。
【水田農業課長】
県農業再生協議会では、今後国が示す来年度産米の需要見通しを基に、平成30年産の米の県全体および市町村別の生産目安を12月末までに算定し、地域農業再生協議会に情報提供することとしている。これを受けて、各地域農業再生協議会では、30年産米の作付面積を来年3月末までに取りまとめていただき、各地域で作付計画を作っていくとしている。
それから、各地域農業再生協議会が生産者へ生産の目安を示すか示さないかについては、各地域農業再生協議会に判断をゆだねているが、多くの地域農業再生協議会では、生産者ごとの作付の目安を示す方向で検討していると聞いている。
【斉藤委員】
岩手県は比較的しっかり対応していると思うが、ただ、全農に預ける米は生産量の半分だと。そして4分の1は個別に取引していて、4分の1は自家販売と。比較的規模の大きい農家が自主的な取引をしているので、ここの理解を、もしくは再生協議会の参加をどう勝ち取るかということがカギになると思うが、この対策はどうなっているか。
【水田農業課長】
水田農業の推進方針の策定にあたっては、系統組織のみならず、系統外の集荷団体は直接お米を販売している大規模な生産者の方々にも参加いただき、その理解を踏まえながら方針を策定したところである。意見交換をした中では、そういった系統外の集荷団体の方、あるいは大規模な生産者の方々も一緒にやっていこうというような意見をいただいており、そうした方々と連携をとりながら今後もしっかり取り組んでいきたい。
【斉藤委員】
国が本当に責任をもって、主食である米の生産に責任を持つという政治に戻さなければいけない。
・日欧EPA大筋合意の影響と対応について
【斉藤委員】
日欧EPA大筋合意の内容と予想される具体的な影響について県はどう把握しているか。
【企画課長】
大枠合意の内容については、品目により関税の撤廃や引き下げの割合、あるいはそれに至るまでの期間等がさまざまな状況になっている。
例えば、チーズ等の乳製品、ソフトチーズだが、関税割当額を設定し、税率を段階的に引き下げながら16年後に撤廃する内容である。
豚肉においては、価格が高い部位と安い部位を分けて、10年後に関税の撤廃あるいは引き下げを設定する内容となっている。
影響については、本県においては、安価な乳製品の輸入量が増加した場合に、北海道産の加工原料乳は、飲用向けに供給されることにより、本県酪農への影響、あるいは輸入品と競合する県産材製品等への影響などが懸念されている。
一方で国においては、この秋を目途に取りまとめる国内対策を踏まえ、影響分析を公表する考えとしており、その詳細は現段階では本県への具体的な影響を推し測ることは困難と考えている。
【斉藤委員】
この日欧EPAはTPPを上回ると言われている。答弁あったように、影響分析は大筋合意したにも関わらず何も示せない。TPPであれだけ大問題になったときにこんな無責任な話はない。
相手のEUは、きちんと試算をしていて、最大1.3兆円、日本への食肉・乳製品・加工食品の輸出が拡大すると。TPPのときは、アメリカの政府系機関の影響試算では4000億円の輸出を増やせるというものだった。それと比べても日欧EPAというのは大変な規模である。それを全くの秘密交渉で、影響分析も示さない。本当にこれは知事先頭に抗議の声をあげなければいけない。こういう交渉は許されないと思うが、EUの試算を部長はどう受け止めているか。
【農林水産部長】
本県の基幹産業である農林水産業をはじめ、県民生活、経済活動など幅広い分野において大きな影響を及ぼす懸念があると承知している。これまでも国に対して万全の対応を求めてきたところだが、今後においても、情報の速やかな公開、対応について引き続き要望していきたい。
【斉藤委員】
本当に怒りを込めて対応しないと大変な事態になるので。自民党政府に農業を語る資格はないと、本当にひどいものである。TPPが頓挫したにも関わらず、それを上回る日欧EPAは全くの秘密交渉で、影響試算も示さない。TPPのときは「影響なし」とごまかしの影響試算を出した。今回はその試算さえも出さない。酪農への影響が大きいが、乳製品が輸入されると、北海道産が岩手の酪農にも影響を与えると。岩手の酪農は持ちこたえられないぐらいの影響を受けるのではないか。
そしてワインも関税撤廃だと。いま岩手県はワインで地域づくりをやろうとやっているときに、本場のワインが関税なしで入ってきたら大変である。地方創生とか地域振興など語る資格がないような中身だと思うがどう受け止めているか。
【企画課長】
ワインについては、関税撤廃により低価格な輸入品の増加による国産市場への影響などが懸念されているが、一方で、東北産のワインにおける差別化といった話もあり、今後どのような影響があるかということについては、国においての詳細な分析がない現段階では具体的な影響を試算することは困難だと思っている。
【斉藤委員】
もっと真剣に岩手の酪農やワインを守るんだと、そういう気構えで対応しないといけない。今の答弁を聞いたら現場の農家はがっかりすると思う。第三者的な話をしていてはいけない。この日欧EPAは本当にやめさせなくてはいけない。
・主要農作物種子法の廃止について
【斉藤委員】
なぜ廃止されたのか。具体的な影響と対策はどうなっているか。
【水田農業課長】
主要農作物種子法廃止の理由だが、国の資料によると、種子法に基づいて普及すべき優良な品種を奨励品種として指定するための試験を都道府県が実施し、稲の奨励品種では全国で合わせて444の品種が指定されているが、この中に民間企業が育成した品種が指定されていないという状況がある。一方、民間企業が開発した稲のハイブリット品種で、奨励品種には指定されていないものの、農家に対して米の販売先を紹介しながら種子を供給しているという事例があると。こうしたことから、民間活力を最大限に活用した種子の開発・供給体制を構築するため、民間の品種開発意欲を阻害している種子法を廃止するものとされている。
影響と対策だが、種子法の廃止により、都道府県に義務づけられていた原種の生産や、種子生産法の審査等の業務が行われなくなることにより、発芽率の低い種子などの流通のほか、原種量が不足することによる種子の生産供給量の不足などが全国的に懸念されている。このような懸念を払拭するため、種子法廃止後においても、種子の品質が維持されるよう、これまで定めていた種子生産の基準を種苗法の基準として新たに定めた。さらに、これまで種子法で定めていた都道府県の役割や、種子の安定供給を行ってきた種子協会の位置づけについても、新たに種苗法のガイドラインに定める予定と聞いている。
こうした国の動向も踏まえながら、県では今後も優良な種子を安定的に生産・供給する体制を維持していくこととしている。
【斉藤委員】
種子法の廃止はなぜやられたか。岩手県が関わっているのに意見を求められなかった。これは規制改革推進会議で、民間委員・財界の意見により突然種子法の廃止が出された。こんなことが許されるのか。
種子というのは、農業の土台・根本である。この種子を商売にしているのは、いわゆる多国籍企業などで、これに種子を売り渡すと。まともな調査もせず、意見も聞かずに一方的に決めた。安倍流の暴走、農業破壊と言わなければならない。
稲・麦・大豆などの優良な種子を県が開発し、だから「銀河のしずく」や「金色の風」など頑張ってやっている。その土台を崩すようなことを許してはならない。この悪法の撤廃と、県の研究機関の取り組み、そしてこれがなくなれば、民間の種子は何十倍もするので、とても農家は買えない。それで辞めざるを得ないという事態になるので。
種子法の廃止と、岩手県の試験・研究のためにも、予算が来年度から切られたらやれなくなってしまうので、絶対にそういうことがないようにしていただきたい。
【農林水産部長】
産地間競争が厳しい中で、特にも稲・麦・大豆の優良な種子の安定供給については、本県にとって大変重要なものだと認識している。
今後についても、農業者に不利益が生じないよう、優良な種子を県が安定的生産・供給する体制をしっかりと堅持していきたい。