2018年3月14日 予算特別委員会
農林水産部(農業関係)に対する質疑(大要)


・TPP11、日欧EPAの影響試算について

【斉藤委員】
 TPP11については、8日に調印式が行われたと。まったく国会にも国民にも知らせずに、これは極めて重大だと思う。
 国の試算では、TPP11の影響試算は約900〜1500億円とされている。牛肉・豚肉・乳製品で輸入量はどう試算されたか分かるか。

【企画課長】
 国が公表した資料によると、2016年度におけるTPP11参加国からの輸入量は、牛肉が約32万トン、豚肉が約29万トン、牛乳・乳製品は生乳換算で約277万トンとなっている。

【斉藤委員】
 生乳が277万トン輸入される。大変なことである。これでなぜ国内の生産量は維持されるのか。農家の所得は維持されるのか。食料自給率は維持されるのか。

【企画課長】
 国からは、体質強化対策による生産コストの低減、品質向上や経営安定対策など国内対策により、生産や農家所得が確保され、国内生産量が維持されるとの説明しか受けていない。

【斉藤委員】
 乳製品が277万トン入ってきたら、国内生産量は縮小するのではないか。北海道の加工乳が全部本州にまわってしまうと。そうすると大変な下落である。それでなぜ生産量が維持されるのか。酪農は崩壊の危機に陥ってしまうのではないか。岩手の実態から考えていただきたい。

【企画課長】
 乳製品、特にチーズについて見ると、本県で生産される生乳の約7割が飲用向けであり、チーズ向けの割合は0.3%だが、仮に協定が発効され、安価なチーズの輸入が増加した場合には、国産チーズの価格の低下や加工原料乳が飲用向けにまわることにより生乳価格の低下などにつながることが懸念されている。

【斉藤委員】
 県内の7割が飲用向けだと。だからそれほど影響がないとは言えない。北海道の牛乳はかなりが加工向けである。加工乳があふれてしまい、それが国内に流通したら大変な暴落になる。
 実は、TPP11でキロ当たり8円下がるとなっている。しかしキロ当たり下がるというのは関税で下がる。277万トン増えたら暴落になる。それでやっていける酪農家はどれぐらいいるのか。岩手の酪農家が持ちこたえられると思うか。

【企画課長】
 輸入量が生乳換算277万トンというのは、2016年度における参加国の輸入量として表しており、国においては、価格が低下することにより輸入量がどれだけ増えるかということまで試算は示していない。

【斉藤委員】
 277万トン輸入量が増えるという話ではなかったのか。答弁が違っていたのか。

【企画課長】
 2016年度におけるTPP11参加国からの現在の輸入量が生乳換算277万トンということである。

【斉藤委員】
 私は、TPP11でいくら輸入が増えるかと聞いた。生産額が減ると試算されているので、生産額が減る根拠は何なのか。

【企画課長】
 生産額が減る根拠については、国の説明によると、価格が低下することにより生産額は減少するものの、国内対策により生産量は維持されるという説明を受けるにとどまっている。

【斉藤委員】
 先ほどの答弁、牛肉が約32万トン、豚肉が約29万トン、牛乳・乳製品は生乳換算で約277万トンというのは、増える輸入量ではなく現在の輸入量だと。質問に答えていない。
 輸入量がどれぐらい増えて生産量がどのぐらい減るか分かるか。

【企画課長】
 TPP11等の発効された場合に輸入量がどれだけ増えるかということについては、国から説明を受けておらず詳細について説明することは困難である。

【斉藤委員】
 輸入量は分からずに生産額だけ減る。そんな試算はない。
 以前のTPPの枠組みのときに、以前のTPP合意と今回の枠は変わっていないので、乳業大手メーカーが、国内で生乳換算50万トン、北海道の加工乳があふれてしまうと試算した。これはかなり正確なものだと思う。50万トン余っても大変な事態である。
 日欧EPAは、2万トン〜3万1千トンに製品の量で増える。生乳換算でどのぐらい増えるか。

【企画課長】
 国からの具体的な説明は受けていないところである。

【斉藤委員】
 そういうことも分からずに県が試算したことに驚きを感じる。根拠がない。計算すれば分かることで、製品で2万トン〜3万1千トン、生乳換算では40万トンである。
TPPで50万トン、日欧EPAで40万トン、90万トン増える。どうしてこれで国内生産量が維持されるのか。所得が維持されるのか。されるわけがない。
 1月19日付の河北新報の社説では、「これほどまでに現実味を欠いた試算では、農林漁業者らが抱える不安は解消されるどころかむしろ深まるばかりだ。そう言わざるをえない」と。何の根拠もない。
 裁量労働制のデータ改ざん、森友文書も改ざん・ねつ造された。同じ手法である。TPP11、日欧EPAをごり押しするために、都合のいいデータを作っただけである。何の根拠もない。
 だいたい95%近く農林水産物の関税が撤廃される。これでどうして食料自給率38%の日本の農業が守られるのか。こんなデタラメな試算を許していいのか。こんなことを許したら、どんな農業政策を使っても対応できないと思う。

【農林水産部長】
 県ではこれまで国に対し、十分な情報提供を行っていただきたいということ、国民的な議論を尽くしてほしいということを繰り返し要望してきた。
 国からは、そういった中で、体質強化対策による生産コストの低減、品質向上や経営安定対策など国内対策により、生産や農家所得が確保され、国内生産量が維持されるとの説明しか受けていない。
 試算についても、本県のみならず、北海道においても同じような試算の仕方でもって限られた情報の中で試算してきた。我々においても、そうした中で、それに頼るしかないわけであり、それに基づいて試算したところである。

【斉藤委員】
 デタラメな試算で岩手の農業が守られるのかと聞いた。あなた方はただ国の手法で試算しただけである。もちろん責任は県にあるとは言わない。国の試算で、こんなデタラメで、農林水産業を全面的に開放して、生産量も所得も維持できる、農業を守りますというごまかしが通用したら、岩手の農業は守れないと聞いた。

【農林水産部長】
 そういったことから我々としては、TPP・EPAに限らず、体質を強化して、岩手県の農業を守っていこうということで、今回の補正予算も認めていただいたわけであり、また30年度当初予算案にもいろいろと盛り込んで対策を講じようとしている。
 また、本県への影響額が全くないとは私も知事も言っていない。実際の本県への影響額がより大きくなることが考えられるということで、どのぐらいの影響額になるかは分からないが、少なからず影響が出てくるものということでお答えしているところである。

【斉藤委員】
 「少なからず」程度ではないということを指摘しておきたい。
 当初TPPが出されたときの影響額は4兆円だった。それはあまりにも大きいというので修正して3兆円になった。その次は1200億円である。影響額をこんなに恣意的に動かして、TPP11をやっても日欧EPAをやっても、中身を示さずに「影響はない」という安倍政権のやり方は、いまの森友問題や裁量労働制の問題と同じではないか。そういう点で危機感を持ってやっていただきたい。
 たしかに補正予算が出された。国の補正予算は3170億円、県もそれに基づいて行われたが。これは実際に、生産量を維持できる、所得を維持できるようなものか。

【企画課長】
 2月に成立した国の農林水産関係補正予算では、TPP等の関連政策大綱に基づく政策として3170億円が計上された。
 特に畜産については、畜産クラスター計画に作られた、地域の中心経営体に対し、畜舎の整備や省力化機械の導入等を支援し、飼養規模の拡大や飼養管理の改善等、生産コストの低減、販売額の増加、所得の向上を図る対策となっている。

【斉藤委員】
 これはTPP11がなくても日欧EPAがなくても当然やられるべき、今までの政策の延長線上だと思うがいかがか。

【企画課長】
 県においては、2月補正や30年度当初予算案において、約108億円を計上しているところであり、こうした予算を活用しながら本県農林水産業の競争力強化、対策を打っていきたい。

【斉藤委員】
 いま農林水産業予算は2兆3000億円で、軍事費の5兆1191億円と比べれば半分以下である。農林水産業予算を倍ぐらいに増やすというのならまだ分かるが、この程度の補正予算で全面自由化に対応するなどというのは全く根拠がない。
 TPP11、日欧EPAの問題を取り上げたが、国の試算を取り上げた。これには本当にまったく根拠がなく、輸入量が増えて関税は撤廃されても生産量は維持して所得も維持されるなどという、誰が考えても手品以上のマジックである。データの改ざん、試算に値しない。それもまったくの秘密交渉で進められ、国会でもほとんど議論されていない。これから法案として審議されると思うが。
 やはり食糧供給基地岩手を標榜しているので、具体的な影響をいろんな形で研究して、そして岩手と日本の農業を壊滅に導く全面自由化・関税撤廃の道を阻止すべきではないか。

【農林水産部長】
 これまでどの道県よりも数多く国に対して要望してきたのは我が県である。その上で、これからも十分な情報提供を行っていただきたいということ、国民的な議論を尽くすよう繰り返し要望していきたい。
 今後協定の発効には、国会承認手続きを経る必要があるということであるので、我々とすれば、国策でやられようとしているわけで、国会を中心にさらに議論を深めていただきたいということを期待したい。

・本県農業の実態と課題について

【斉藤委員】
 直接支払い制度が来年度から廃止されるが、農家の所得が大幅に減少するのではないか。
 コメ生産農家の赤字はどのぐらい増えるか。

【水田農業課長】
 平成28年度の本県へのコメの直接支払い交付金の交付額は30億2000万円で、交付件数は31904件となっている。経営規模別では、水稲作付20haの経営体では約150万円、100haの経営体では約750万円が交付されていたところであり、交付金の廃止は大規模な経営体ほど影響が大きいと考えている。
 直接支払い交付金が廃止された場合の試算だが、29年産米の相対取引価格は、主力品種のひとめぼれで60キロあたり15122円で、直接支払い交付金を加えた10aあたりの収入は13万507円と見込まれる。一方、全国の平均的な規模の全算入生産費では、10aあたり12万9585円となっている。これらをもとに、収入から生産費を差し引くと、10aあたり922円となり、直接支払い交付金を除くと−6578円となる。

【斉藤委員】
 米不足で米価をいくらか取り戻しつつある。それでも6578円の赤字になる、赤字は拡大すると。ますます農業がやっていけなくなる。決算特別委員会で聞いたときには、2ヘクタール以下の農家(全体で86%)は赤字だと。この生産費と比べても全部赤字である。本当に大変な農業つぶしではないか。
 そういう中で、農業就業者、耕地面積、耕作放棄地の現状とこの間の推移はどうなっているか。

【農業振興課総括課長】
 農林業センサスによると、平成27年の農業就業人口は70357人で、22年からの5年間で19636人減少している。
 耕作放棄地は17428haで、5年間で3495ha増加している。
 国の作物統計調査では、平成28年の耕地面積は、15万800haとなっており、23年からの5年間で1900ha減少している。

【斉藤委員】
 岩手の農業の現状も、農業就業人口が減少して、耕作放棄地が5年間で3495ha増加と。これは農業の荒廃である。一番肝心なのは、コメを含めて、生産費を償う価格保障・所得補償である。これなしには、どの手立てをとっても本当の農業の再生にはならない。
 いま取り組まれている集落営農について、取り組みと法人化の状況はどうなっているか。

【担い手対策課長】
 これまで県では、法人化を目指す組織に対して、経営ノウハウ習得のための講座や、経営計画の作成を支援してきている。こうした取り組みにより、法人化した組織は、平成23年から30年1月末までに57組織から189組織へと3倍以上になるなど、着実に法人化が進んでいる。

【斉藤委員】
 集落営農の実態を農家に聞いたが、法人化を目指す人たちは、いわば圃場整備と一体で、法人化すればほとんど農家の負担がなくなるというので進められている。しかし一方で、一部の担い手に生産を集中すると、その他の農家はほとんど農業に関係なくなってくる。年配の担い手がぽっくりいったら、その法人は見通しがなくなってしまうという危機感を持っている。それで、家族農業を基本にして集落営農を維持しているというところが多数ではないか。
 先ほど、国連の家族農業10年というのが、2019年から2028年に展開される。世界の8割の生産量を占めているのは家族農業である。この家族農業を守って、集落営農を支えていくということが一番現実的だと思うがいかがか。

【農業振興課総括課長】
 国連の方で、小規模家族農業の果たしている役割の重要性を広く世界に周知するために提唱した「国際家族農業年」というのがあったが、小規模家族農業という小規模の取り組みといったものも、農業生産や農村の多面的機能の維持などに大きく貢献しているものと認識している。
 このため県では、小規模農家や兼業農家も参画した地域特産の産地化、地域の特色ある農畜産物の加工・直売などによる6次産業化、地域資源を活用した都市住民との交流などを支援している。
 今後においても、こうした集落でまとまってという取り組みは非常に有効だと思うが、そういう方々が一緒になった生産活動を通じて、豊かさを実感できる農業・農村の実現に向けて取り組んでいきたい。