2018年9月4日 次期総合計画特別委員会
京都大こころの未来研究センター・広井教授に対する質疑(大要)


【斉藤議員】
 幸福度の指標の意義は私もその通りだと。特に岩手の場合は、東日本大震災津波復興の基本方針として、一人一人の被災者の幸福追求権を掲げた。ただ、東日本大震災津波の場合も、復興計画は3つの柱―「安全の確保」「生活の再建」「生業の再生」で、計画はきわめて具体的だった。今回、幸福度指標というのは、総合計画と関連させて問題提起されている。一般的な幸福度指標であれば、先生言われたように、課題の発見という点で荒川区の話もされたが、それはそれなりの意義があると。しかし県の10年後を見据えた総合計画を幸福度指標でやるというときに、それで十分なのかというとリアリズムに欠けるのではないかと。
1つは、今の経済問題でいけば、貧困と格差の拡大というのが一番の大問題。いろんな県民意識調査の分析をしているが、平均値になっていて、平均値ではなく、困っている人たちの立場に立って、それを底上げするというのが行政の責任ではないのか。そこをどう浮き彫りにしていくのか。そういう点で荒川区の取り組みなどは参考になると思うが、それは幸福度指標にこだわらなくても出てくる経済問題だと思う。
 それから、環境の問題や福祉の問題は、今までも重要な県政課題として位置づけられてきた。その点で、幸福度指標を全てでやろうとすることと、今までの取り組みというところがスムーズに移行しないのではないか。
 もう1つは、産業振興の問題が不十分だと思う。というのは、県の計画というのは広域行政である。市町村では提供できない広域行政としての計画・中身の1つが産業振興だと思う。交通ネットワークもそうだが、広域的に取り組むと。そういう県政に課せられた広域行政の課題、産業振興の課題というのを県としてもっと具体的に押し出すべきではないのかと。そういう意味で、この幸福度指標を生かすことと、広域行政としての県の役割を発揮することというのがもっと統一されるべきではないのかと考えるが、先生のご意見を。

【広井教授】
 私は県の総合計画を説明する立場ではないので、あくまで個人的な見解だが、おっしゃることはよく理解できる。
 前半で言われた貧困の問題、これはまさに荒川区などの例も挙げたが、荒川区が最初に取り組んだのがまさに子どもの貧困で、幸福度は何ぞやということを論じて行政が終わるというものでは決してなくて、まさにリアリズムと言いますか。先ほどリベラリズムなど理屈っぽい話もしたが、個人の生活保障をしっかりさせていくと、そういう性格の幸福度、まさに幸福追求権の保障を持っているので、それは決して矛盾するものではないと。
 もう1つは、課題発見ということはもちろん重要だが、人間というのは、こういう課題があるということだけでは満足できない部分があり、もっとポジティブに、自分たちの地域はこういうものにしていくという方向性のようなもの、コミュニティとしての連帯意識のようなものなどが出てくるのではないかと思うので、リアリズム的なものはしっかり抑えた上で、同時にポジティブな理念を提供するものとして幸福度指標というのは一定の意味があるのではないかと。ただ、それで全て説明できるかというと、必ずしもそうではないかと思うし、産業振興の話もあったが、今日は特に地域経済・コミュニティ経済の話を強調させていただいたが、そういうことも含めて産業振興が重要であることはその通りだと思うし、それが人々の生活や雇用にもつながるし、それが幸福と矛盾するものではないと思うので、その辺をどうまとめていくかということかと思う。

【斉藤議員】
 平成30年度版の県民意識調査結果を見ると、これは幸福度を意識して質問しているが、「幸福かどうかを判断する時に何を一番重視するか」という問いに、「健康状況」「家族関係」「家計の状況」などとなっている。「健康状況」というのは、きわめて広い概念ではないのかと。ここには「必要な時に医療・介護のサービスが受けられる」といったことがかかってくると思う。
そういう意味でいくと、なかなか幸福を判断するといったときに、県は12の指標という報告書をまとめているが、医療でいけば、県民意識調査もそうだが重要度が第一位になっている。ただ、これは満足度も若干高く、ニーズ調査でいくと少し下がる。ここにはトリックがあると思う。盛岡地域は医療機関が充実しており満足度が高いが、それ以外の地域は格差が大きいのだと思う。だから健康の指標というのも平均で見てはいけないのではないかと。そういうことも含めて、社会保障というのは地方自治法で「住民の福祉増進が自治体の使命」と。この観点から見れば、県民の命・健康をどう守るのかというのがもちろん計画の柱に据えるべきことになるのではないかと思うので、やはり幸福の指標という問題と、県政・自治体の役割というのは、私は統一した立場でバランスよくやるべきではないかと思うが、先生のご見解を。

【広井教授】
 それはその通りで、デンマークの話をしたが、デンマークは言うまでもなく福祉国家で、経済も一人当たり所得も高く、まさに幸福度が高いと。それが決して社会保障や経済と矛盾するものではなく、幸福そのものの格差や健康の格差は非常にいま大きな課題ですから、その点も含めて、行政のメニューを羅列するような評価ではなく、受け手の側に立った政策の評価や優先順位付けというのが幸福度指標の1つの思想にあると。そこは矛盾するものではないと思う。