2018年9月27日 商工文教委員会
県央部県立高校生徒の自殺事件に関する質疑(大要)


【斉藤委員】
 高校3年生の自殺事件について、私は遺族の方から相談も受け、資料も寄せていただいた。事実の経過がきわめて重要だと感じている。
 そこで最初に、教育長は、いつの時点で報告を受け、どのように対応を指示したのか。今回の自殺事件についての教育長の認識をお聞きしたい。

【教育長】
 7月3日の朝に、この事案が保護者の方から学校に情報提供があったということであり、その日のうちに私のところまで情報が届いたところである。
 この事案の発生を受け、本県の子ども未来、可能性が閉ざされたと。現実的にそういうことであり、きわめて痛ましい事案が発生したと感じたところである。
 またこれは、自死事案というきわめて重大な事案であるので、事実関係をしっかりと学校で調査し、そして保護者に寄り添う気持ちで調査し、そして事実関係をしっかり伝えるべきだということを指導した。
 そういう中で、学校側の調査に対して保護者等から、疑問等がなかなか解消されないということで、教育委員会へ調査をしてほしいという要請もあったので、そういうことも視野にしっかり対応していく必要があるだろうということを、この事案発生時から考えており、保護者からそういう意向が示されたので、教育委員会としても独自の調査を行うという判断をした。

【斉藤委員】
 子どもの自殺が起きたときの「背景調査の指針」というのが文科省から出され、おそらくこれに基づいて調査されたと思う。指針では、「自殺に至る過程を丁寧に探ることで、はじめて自殺に追い込まれる心理の解明や、適切な再発防止策を打ち立てることが可能となる。たとえ、学校や学校の設置者が自らに不都合なことがあったとしても、事実にしっかりと向き合おうとする姿勢が何よりも重要である」と。そして遺族との関わりでは、「遺族の協力が背景調査の実施に不可欠。遺族が背景調査に切実な心情を持つことを理解し、その要望・意見を十分に聞き取るとともに、できる限りの配慮と説明を行う」と。これが学校や県教委が行う調査のときの指針である。
 ところが、この事件が報道された9月6日、岩手日報が最初だったが、「遺族―指導が原因、学校―落ち度がない」と。校長のコメントとして、「若い命を失ったことは重く受け止めたい。部員への聞き取りによると、プレーの厳しい指導があったが、体罰や彼を追い込むような行きすぎた言動はなかった。10年前の事案以降、十分に配慮して指導にもあたっていた」と。
 文科省の指針とも全く違った、まさに遺族にケンカを売るようなコメントではないか。

【教育長】
 この事案が発生したときから、私の思いについては先ほど申し上げた通りであり、詳細のご説明が必要だと思うので、担当からご説明させたいとおもいますので。
【教職員課総括課長】
 校長は、実際に活動等の指導状況を監察していた立場からそのような発言をしたものと思うが、いずれ県教委としては事実関係等について、第三者委員会の調査・検証に委ねることが適当だと考えている。

【斉藤委員】
 実はこれは一度だけではない。9月19日の岩手日報でも、18日のコメントとして、「部員内の聞き取り調査では、教諭の行きすぎた指導は確認されなかった」と。こうなってしまったら、学校は「問題なかった」と断定しているような話である。
 私は、学校が行った調査も見せていただいた。不十分だとは思うが、どういう聞き取り調査の結果になっているかというと、クラスメイトは、「2年の秋頃から『バレーが大変。自分だけが怒られる。国体のバレーの練習も怒られてばかりで行きたくない』と話していた」。男子バレー部員の聴取結果では、「高総体6月3日後(決勝敗退後)、東北大会(6月24日)後、落ち込んでいた」「部活動のことで悩んでいる様子だった」「東北大会が終わり、自分がミスして一人でいると死ぬことしか考えられない」「冗談を言っていると思った」「6月29日に、練習で上手くいかなくて怒られ、『辛いな』『きついな』と話していた」「高総体決勝で勝てなかったことに責任を感じていた」「7月1日、天皇杯県大会のアップ中に、『もしかしたら首を吊って死ぬかもしれない』とつぶやくように言った」―これは学校調査で、クラスメイトとバレー部員が述べたことである。
 クラブ活動に問題があったのではないかと感じるのは当然のことではないか。

【教職員課総括課長】
 学校調査の状況をまずご報告申し上げると、文科省にもとづく指針により、延べ154名の関係者・教職員・同じクラスの生徒・バレー部員、それから無記名アンケート34名であるが、この結果の中で、いま委員からもご指摘があったが、さまざま調査の中で、バレー部における活動、顧問の指導―それが例えば教育的な指導の範囲を逸脱したような指導であった、あるいは行きすぎた指導だったことについては、今後、練習の内容でこれらの状況等を踏まえながら判断すべきものと考えており、そのためにも今回第三者委員会において専門家の検証・考察をいただきたいと考えている。

【斉藤委員】
 第一の問題として質問しているのは、学校の調査とそれに基づく学校長の対応に問題があるのではないかと聞いている。学校の調査でさえ、重要視しなくてはいけない聴取があった。しかし、学校には責任がないと二度にわたりコメントしている。校長はこのようにも言った。「顧問の先生を信じています」と。こんなことを言ったら公平な調査はできない。そしてこの顧問は6年目だから次は異動させると。そんなことで解決する問題ではない。そういう学校長の対応にまず問題があるのではないかと聞いている。

【教育長】
 学校側において独自の調査を行い、そして先ほどお話があったようなことも確認しているが、一方で、指導者に対するさまざまな肯定的な意見も多く出されている。それらを総合的に判断して校長としての見解を取材という形で発言したのではないかと。それを踏まえつつ、そういう状況でなかなかご理解いただけないということで、県教委としての調査等に踏み出したということである。

【斉藤委員】
 私が言っているのは、文科省の子どもの自殺が起きたときの背景調査の指針からいっても学校長の対応は問題があるのではないかと。これで公平な立場で真相究明する立場なのか。
 具体的な事実経過に入る前に、福井大学の子どもの心の発達研究センターの友田明美教授は、「暴言も軽視できません。『お前のせいで負けた』『死んでしまえ』などの怒声は暴言は、身体的な暴力より深刻な影響を及ぼしていることが分かっています。それは周囲の子どもにも及んでいるのです」「子どもは鬱になりやすいのです。2つの鬱の敏感期があります。1つは5歳から7歳、もう1つは15歳から17歳。この時期の脳はストレスに弱く、容易に心が折れ、自殺が多い。スポーツ指導者は、そうした特性も踏まえて指導すべきです。特に今の子はストレスに弱い」と。そして「ストレス三原則」というのがあり、1つは「要求度の高低―仕事や成績に対する高い要求はストレスを高めます」と、まさに県内屈指の強豪校でエースだった。しかし高総体で負けてしまった。誰に言われなくても責任を感じていた。2つ目「融通性や自由度の有無―仕事でその人が任されている部分、裁量権がどれだけあるか」、ほとんど裁量権はこの生徒にはなかった。3つ目「上に立つ人の理解やサポート」、会社の上司が下の人を理解し守れるかどうか、「お前が失敗しても俺が責任を取ると言えるかどうか」「人は上司に求められないだけでボロボロになるほどその影響は大きいのです」と。これが専門家の指摘である。そのことを踏まえて。
 県教委は詳細な調査をした。どういう項目で調査したか。「亡くなった原因として思い当たることはないか」―男子バレー部員の聴取では、「高総体決勝6月3日での敗戦に責任を感じていた」「顧問から『負けたのはミドルの責任が大きい』と言われた」「高総体後の練習でミドルとセッターの3名の部員が顧問から『お前らのせいで負けたことを本当に自覚しているのか。お前らが頑張らないと勝てないんだぞ』と厳しい口調で言われた」「顧問に東北大会前にきつく言われて追い詰められていた感じはあった」「亡くなる3日ぐらい前の練習で、同じミスをした本人を顧問は怒っていた。『だから部活辞めろって言ってんだよ』」と。いわば、亡くなった要因として思い当たることということで、こういう聴取がされている。これは本当に先ほど言った専門家の指摘とピッタリ合う、彼を追い詰める顧問の指導があったのではないかと推測される。
 教育長もこの調査を見ていると思うが、どう感じているか。

【教育長】
 具体的に聴取に入る段階から、どういう項目について聴取するか、これは保護者のご意向も踏まえながら調査したところであり、その内容については全て目を通している。
 先ほども申し上げたが、強い指導があったということもあり、一方で、その発言の前後の関係もあり、さまざまな観点から教育委員会として検討した結果、これは断定的なことは言えないということで第三者委員会に委ねるということにした。

【斉藤委員】
 学校の調査でも県教委の調査でも、文科省の背景調査の指針通りにならなかった重大な点は、「情報を時系列にまとめて整理すること」となっているが、残念ながら学校の調査も県教委の調査も時系列の調査がなかった。どのように彼が追い詰められていったのか。
 直接的なきっかけとなった言葉はあると思う。6月3日の高総体の決勝で、その前の春高の新人戦も勝っていて、それで残念ながら負けてしまい、一番責任を感じているときに、「お前のせいで負けた」と。これは繰り返し言われている。同時に、こういう証言もある。「去年の秋頃から、彼に対する厳しい指導が目立った」と。去年の秋は2年生がチームの主体になった時である。ターゲットにされて厳しく指導されてきた。
 最後に彼が書き残したものがあるが、そこでは、「高校生になると、仲間から怒られ、先生からも怒られ、バレーボールも生きることも嫌になりました。点を取るまでは有利でも、ミスをしたら一番怒られ、『必要がない』『使えない』と言われました。高校でこれなら大学で生きていけるはずがない」ということを書き留めていた。
 2年生の秋からチームの主体となって、エースアタッカーで、期待を一身に担って頑張ってきた。そして有力な大学の推薦も決まっていたと。しかし本人は、本当に大学に行ってやっていけるかどうかということを悩みながら頑張ってきた。だいたい高校生で自殺を考えない子どもはいない。高校はそういう時期である。ましてや強豪校で、いつでも勝つことを求められて、そのエースとして頑張ってきた。それが「お前のせいで負けた」と言われる。
 その後も厳しく指導され、東北大会の前に足を捻挫して十分な練習ができなかったときも、練習を休ませることなく、「なんでこれができないんだ」という厳しい叱責を、亡くなる3日前にも行っていたというのが周りの生徒の証言である。
 そういう意味では、時系列的に、彼がどのように追い詰められていったのかということを、どの時期に顧問のどういう言動があったのか、しっかり本来なら文科省の指針通りにやるべきだったと思う。なぜ指針通りの調査をしなかったのか。

【教職員課総括課長】
 文科省の自殺が起きたときの背景調査の指針にある通り、基本調査については、事案発生認知後すみやかに着手するということ、学校がその時点で持っている情報を迅速に整理する、これが基本調査となっている。
 今回行った県教委の調査については、基本調査をもとに、その次の詳細調査をもって時系列でまとめていくということが定められているが、基本調査の段階でまず把握できる事実を速やかに把握するという目的で行ったものである。その実施にあたっては、ご遺族に、県教委の調査については、調査の対象、方法、結果の報告時期を説明して調査を行わせていただいたものである。

【斉藤委員】
 私が聞いたことに答えていない。「時系列に整理して調査すること」と、学校の調査も県教委の調査もそうである。しかしそういう調査がされていない。
 例えば時期的には、子どもたちの証言から、4月後半から5月前半に「そんなんだからいつまでも小学生だ幼稚園児だ」と怒鳴っていた。練習や練習試合でミスしたときに「お前はバカか。もうバレーすんな。脳みそ入っていないのか」と。一般の高校生に対してもこんなことは絶対に言うべきではない。これは人権侵害、人格破壊の攻撃である。高総体で一番ナーバスになる時、それ以前にも、このような人権侵害の指導がされていた。だから時系列的に事実経過を検証しなければいけないと指摘している。
 それからもう1取り上げたいのは、実はこの顧問は、私が議会でも取り上げた盛岡一高の暴力・暴言事件と同じ教師だった。本当に衝撃を受けた。この盛岡一高の事件については、昨年11月10日に判決が言い渡された。全てではないが、不法な行為が認定された。どういう不法な行為があり、どのように認定されて、どのように慰謝料の支払いが命じられたのか。

【教職員課総括課長】
 昨年11月の判決においては、顧問から受けた厳しい叱責が原因で不登校になり精神的苦痛を受けたとして、顧問と県を相手に約200万円の損害賠償を求め、「指導として社会的正当性を欠いている」として、県に計20万円の支払いを命じた。

【斉藤委員】
 この事件については、この委員会でも取り上げて議事録にもあると思うが、教官室に呼ばれた時の暴言というのが認定されている。どういう暴言かというと、実は、盛岡一高はその前年は大変優秀な成績をバレーの大会で挙げた。しかし次の年は4人しか部員がいなかった。これではチームが作れないというので、5人目でバレー部に誘われたのが被害者だった。その被害者に対して、教官室に一人で呼んで、1時間にわたり激しい口調で「でくのぼうだ」「お前は駄馬だ」「駄馬がサラブレッドに勝てるわけねえんだ」「ばかやろう、何やってるんだ。お前のせいで負けたんだ」。こういう暴言があり、これは認定された。そして10万円の慰謝料が判決で下された。
 原告は不服だといって控訴した。しかし県教委は控訴しなかった。県教委はこれは認めたということですね。

【教職員課総括課長】
 県としては、一部の行為を除き日常的なそのような暴力は認められない、PTSD発症にかかる因果関係は認められないという主張をして、一審判決においても、先ほど申し上げた教官室での厳しい叱責等との認定もあったが、それ以外の日常的な暴行、あるいはPTSDの発症については、一審判決においては県側の主張がおおむね認められたところである。

【斉藤委員】
 全部認められなかったから原告は控訴した。しかし、そういう判決の中でも、「被告の本件教官室指導における原告に対する言動は、その対応に照らし、それ自体として原告に精神的苦痛を与えたと解するのが相当である。被告の本件教官室指導における言動は、原告に対する不法行為を構成する」と。そして10万円の慰謝料が判決された。あなた方はこれを認めた。
 教官室での言動と、今回のバレー部員に対する言動は瓜二つではないか。
 暴言というのは、身体的な暴力以上に深く心に突き刺さる。ましてや、一身に責任を担って、他人に責任を絶対に転嫁しないで頑張ってきた。
 不法行為を認めながら、なぜこの教師は別の学校でバレー部の顧問をすることができたのか。そこに適切さを欠いたのではないか。

【教職員課総括課長】
 訴訟までになった事実を踏まえて、学校としてはいろいろ適切な指導を行うことについて、校長等から指導を行ってきたものである。あわせて、校長が職員会議等で部活動における体罰の禁止等コンプライアンスの徹底を指導するとともに、校長自身が部活動の指導を見て、状況を逐一確認していたという状況である。

【斉藤委員】
 私は県教委の責任を問うている。学校長の責任もある。いわば一審判決では、あなた方は不法行為を認めた。控訴しなかった。そういう不法行為を認めた顧問を、そのまま現場に就かせて良かったのか。やらせるにしても、厳格な監視と指導が必要だったのではないか。
 本来、クラブ活動・スポーツ活動というのは、将来もスポーツを楽しむためにやる。そしてそのことを通じて人間的な成長、自立・自治の精神を培う。顧問が厳しい汚い言葉で指導することは今のスポーツ界にあってはならない。人格を否定するような指導は絶対にあってはならない。それがずっとやられてきたのではないか。校長の管理・監督不行き届きではないか。ましてや県教委がそれについての必要な指導責任が欠けたのではないか。

【教育長】
 盛岡一高の訴訟の関係については、一部の行為について不法だと認めたということはお話のあった通りである。この問題については、当常任委員会の皆様にもさまざまご心配・ご意見等いただき、この場やそれ以外の場でも意見交換させていただいた。この問題で一定の責任、大きくは県の主張は認められたので、この不法行為の一部について認めるというのはそれはそれとして判断するということで、それ以降、部活動の顧問として当該校に勤務していたところだが、この裁判所での判決等も踏まえて、暴言等を含めてしっかり対応するようにという指導をしていたところであり、できる限りの指導をしていたと思っているが、こういう自死事案が起きたということに至る生徒の思いというものを察知することができなかった、またそれができなかったというのは、大学進学や高校で部活を一生懸命やりたいというような生徒を育てようという中で、これは密室での指導ではなく全体の中でプレーに関しての指導を強くやったと、流れの中で出た発言ということであり、それが自死と関連があるか等を含めて、客観的な評価をいただきたいということで第三者委員会を設置して、しっかりと検証したい。

【斉藤委員】
 この顧問の指導でもう1つの問題は、「無視する」ということがある。助言を求めても無視する。先ほど専門家の話を紹介したが、大変大きなストレスを与えると。これは亡くなった生徒だけでなく、別の部員も無視されて、「部活動を辞めたくなった」と証言している。そういう点で時系列的に、どういう顧問の問題とすべき言動があったのかということを正確につかむべきである。第三者委員会に委ねられるかもしれないが。
 第三者委員会の設置だが、遺族の方は、ぜひ県外の弁護士と専門家も入れてほしいという要望をされている。やはり岩手県にある意味しがらみのない、こういう問題について詳しい専門家・弁護士をと。「遺族に寄り添う」と新聞報道では書かれているので、基本的にはそういう遺族の要望に応えて、できるだけ早く第三者委員会は設置されるべきだと思うがいかがか。

【教職員課総括課長】
 第三者委員会の調査内容等も含めて、ご遺族とも調整中であり、ご要望も踏まえつつ、中立かつ公平な調査・検証・考察という観点から人選を行っていくものと考えている。