2018年9月28日 次期総合計画特別委員会
長期ビジョン(中間案)に対する質疑(大要)
【斉藤委員】
すでに中間案についての提言を提出しているので、そのエッセンスをここではお聞きしたい。
1つは、理念のところで、岩手における背景に関わって、「過去10年、日本が、世界が解決できなかったさまざまな課題を岩手の地で解決していくことが大切」と記載されているが、これはどういう課題か。具体的に長期ビジョンではどう提起されているか。
【政策監】
第1章の理念の中の「岩手における背景」の中で、「復興の実践で培われた一人一人の幸福を守り育てる姿勢と、つながりを大切にする岩手県の強みを、復興のみならず、県政全般に広げ、過去10年、日本が、世界が解決できなかった様々な課題を、岩手の地で解決していくことが大切」としている。
具体的には、復興において、被災者一人一人が幸福追求権を保障することを原則の1つとし、例えば、住宅再建において市町村と連携し、国の制度では補えきれない支援策の創設、新たな仕組みによる土地収用手続きの迅速化等の国への制度提案など、被災地の人々の暮らしや仕事を起点にした取り組みを進めてきた。
また、国内外から多くの支援をいただく中で、新たなつながりが生まれ、さらにボランティアをはじめとしたさまざまな場面での女性や若者の力強い活躍など、多様な主体の参画のもとで復興を進めてきた。
このような、人々の暮らしや仕事を起点としたさまざまな社会形態活動の現場としての、地方だからこそできる政策の展開や、多様な主体の参画やつながりを生かした取り組みなどを県政全般に広げていこうとするものである。
例えば、岩手の復興教育の実践、大震災津波の教訓の伝承と防災文化の醸成、復興を通じて得られた多様なゆるやかなつながりの活用とネットワークの拡大などの施策を長期ビジョンに盛り込んでいる。
【斉藤委員】
少し文脈が違うのだと思う。「日本が、世界が解決できなかったさまざまな課題を岩手の地で解決していく」と。今の回答はズレているのではないか。
【政策地域部副部長】
政策監が答弁した中で、例えば、岩手の復興教育の実践、大震災の教訓や防災文化の醸成は、まさに世界においても重要な課題となっている。岩手では大震災で大変な被害を受けたが、それを通じて復興教育の実践が進められている。そういったものも世界に対して岩手が取り組んでいるものを発信していく、生かしていくということができると考えている。
また、さまざまな民間団体、企業、行政との関わりといったものが、なかなかマッチングがうまくいかない。それぞれやってほしいこと、やりたいことがあるが、そこがうまくいかないというのがさまざまな地域振興の場面である。大震災の中で、そこをうまくコーディネートしてつなげていくといったことも実践されているところであり、こうしたことについては本県の取り組みも踏まえて、日本各地でのこれからの復興に向けた取り組み、地域振興の中にも生かしていくことができるのではないかと考えている。
【斉藤委員】
残念ながら、大上段に書いたわりには率直に言ってあまり中身がなかったと思う。
大震災の中でいろんな成果があったが、いろんな課題も残されている。
例えば、避難所においては途上国以下の水準で、西日本豪雨災害でも北海道地震でも続いている。そういうことを解決するというのなら意味があるが。
大上段に掲げるのなら、それにふさわしい中身がなかったら説得力に欠くと指摘しておきたい。
国連サミットに関わって、SDGs(「誰一人として取り残さない」という理念と目標)の精神を入れていくと。この理念と目標というのは、率直に言えば岩手の計画よりも具体的ではないかと思っているが、この精神は具体的に今度のビジョンやアクションプランではどのように生かされているか。
【政策監】
2015年の国連サミットで採択された、持続可能な開発のための「アジェンダ2030」に盛り込まれた2016〜2030年度までの国際目標である。この目標は、「地球上の誰一人を取り残さない」を理念とし、「全ての人に健康と福祉」「質の高い教育をみんなに」など17のボードを掲げており、次期総合計画の「お互いに幸福を守り育てる」とする考え方に相通ずるものと認識している。
一方、ゴールの中には、「安全な水のトイレを世界中に」や「人や国の不平等をなくそう」など、発展途上国などを主眼としたものや、国際間の国のレベルの取り組みが重要なものなども掲げている。
こうしたことから次期総合計画では、計画の理念において、SDGsを関係づけながら、こうした観点も含めて、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを岩手から進めていくとしている。
【斉藤委員】
持続可能な社会はそれはそれで良いが、SDGsは17項目の開発目標を掲げており、その第一は「貧困の打開」である。しかし、今回のビジョンもアクションプランも、格差と貧困の打開というものはほとんどない。これは世界でも日本でも一番の課題だと思う。
6ページに「グローバル化の進展」とあるが、グローバル化の進展で何が起きたかというと、世界的な貧困と格差の拡大である。そして今日本でも貧困と格差の拡大が一番大きな課題である。そういう意味で、貧困と格差の問題が今回のビジョンやアクションプランで位置づけられていない、提起されていないというのは重大な欠陥ではないか。
【政策監】
格差と貧困については、SDGsにおける「誰一人取り残さない」という理念や開発目標の考え方が相通ずるものと考えている。
こうした考えの下、例えば、10の政策分野においても、生活困窮者の支援や高齢者をはじめとする県業務などの取り組みも盛り込んでおり、そういう観点からの取り組みも計画の中には盛り込んでいると考えている。
【斉藤委員】
その程度の数行である。
以前、広井教授を招いて学習会を開いたが、広井教授は「私なりの整理だが、幸福度指標の策定や関連の調査等を行うことを通じて、課題の発見や政策の優先順位を見定めることに役立つ」と提起している。具体的には、荒川区の場合46項目の目標を策定している。残念ながら、政策の優先順位や課題が見えない。
そういう点でいけば、なぜ幸福度の指標をやっているのか。指標を並べただけではないかと。そこにどういう課題の発見や政策の優先順位が示されているのか。
【政策監】
たしかに政策の優先順位づけや新たな政策の発展と考えているが、こうしたことについては、アクションプランの素案の中に項目を掲げている。それから、幸福の実感をもとにする10の政策分野にしている。
こうした取り組みを進める中で、分野横断的な課題だとか貧困問題を含めたいろんな課題が発見されてくるものと考えている。
【斉藤委員】
熟読したがそうしたものは見当たらない。
広井教授が紹介した荒川区の基本計画を見たが、平成29年度〜38年度のもので、どういう構成になっているかというと、分野別政策は6つに整理されている。「生涯健康都市」「子育て教育都市」「産業革新都市」「環境先進都市」「文化創造都市」「安全安心都市」と。基礎自治体としては大変分かりやすい提起で、ここでは、子どもの貧困打開もきちんと提起されている。
残念ながら岩手の計画では、そういう課題の発見、重点化、優先課題というものが見えず、今まで取り組んでいる課題を10項目に分けたという印象である。
具体的な問題についてお聞きするが、9ページのところで、「多様な働き方が可能になる働き方改革」「いわゆる1億総活躍社会の環境づくり」と、多様な働き方が後でもたくさん出てくるが、この使い方は間違いである。多様な働き方で何が起きたかというと、非正規雇用が拡大したので、こうした表現は正確ではない。「安定した雇用の確保」ということを中心に提起すべきである。
【政策監】
多様な働き方については、今般の計画においては、若者や女性、高齢者、障がいのある方などの活躍の仕組みが整っている岩手の実現を目指すこととしていることなどを前提に、多様な働き方の表現を計画全般に用いている。
ご指摘の第2章については、基本目標やそれにつながる政策に掲げるものにあたっての時代の潮流を外郭的にまとめたものである。
【斉藤委員】
今の雇用問題の最大の問題は何かというと、非正規雇用が拡大し、実質賃金が下がっていることである。若い世代がそれで一番苦しんでいる。だから政府が言うような表現ではなく、県民の立場に立った伝え方を考えるべきだと。
12の幸福度の指標を8つにまとめて、10の政策課題にした。ここに無理がある。幸福度の指標が政策目標に全てなるのかというと、決してそうではないのではないか。ここは、幸福度の指標と政策的課題は関連があるが全くイコールではないと思う。そのことはもう少し吟味すべきではないか。例えば、「健康と余暇」を一緒にすること自身が問題がある。余暇というのは、本来労働に付随した概念である。
一番の問題は、経済的土台であるべき「仕事」「収入」の課題が6番目に出てくる。これは違うのではないか。一番の暮らしに関わる土台、生活の土台が最後にきていて、中身も貧困である。ここに一番の欠陥があるのではないか。
【政策監】
順番自体は、優先順位という形で整理したものではないと考えている。その上で、人の暮らしに着目した上で、それに近いものを基本として、県民意識調査における順位などを総合的に判断して設定したものである。
【斉藤委員】
そういう順番と見られるので。
県民の暮らしを考えたときに何が一番の土台か、経済的暮らしである。そして今まさに格差と貧困が拡大しているとなれば、なおさらこの暮らしをどう守るのか。平均ではなく、困っている人、SDGsの立場で、県民一人一人の暮らしを守る課題を提起すべきである。それが一番幸福の土台になるのではないか。
【政策監】
仕事・収入の分野について申し上げれば、委員ご指摘の趣旨も踏まえていると考えているが、今回指標項目に仕事・収入の分野も掲げさせていただいた。その中には、安定した雇用を前提にした正社員の有効求人倍率、完全失業率を代表的な指標に組み込んでいるので、そういった意味では、ご指摘と考え方が通ずるものがあるのではないかと考えている。
【斉藤委員】
仕事・収入のことは一番大事だと思うのでお聞きするが、正社員の有効求人倍率の指標というのは、正社員化の指標にならない。労働局の指標を見ると、就職した件数の中で正社員は3割である。一番正確な指標は、正社員比率、非正規雇用の率である。これが最新の平成29年度の就業構造基本調査で、岩手県は36%程度である。これだけ非正規雇用になっているというところに、生活の不安定や暮らしの困難がある。
広井教授の講演で共感したのは、若者についての指摘だった。「地域のこれからを考えていくにあたって、若い世代の支援というのが非常に重要。しかし全体的に若い世代の生活や雇用の不安定が非常に顕著になっている。これに対する支援が必要」だと。いわば、非正規雇用で一番の影響を受けているのは若者である。だとしたら若者を支援する、若者の正社員化を推進する積極的な施策が必要ではないか。
広井教授は、岩手県の県民意識調査を見て、「30代などで生活満足度が相対的に低く、幸福の判断において家計の状況を重視する傾向が高い。経済的にやや厳しい状況に置かれている。若い世代の政策的な支援というものが非常に重要な課題であることは、こういったところから示唆される」と。せっかく県民意識調査をやっているのなら、こういう分析と課題の提起がされるべきではないか。具体化されるべき課題ではないか。
【政策地域部副部長】
次期総合計画の10の分野において、「仕事・収入」という項目を掲げた。この項目の名称については、さまざまご意見あるところだが、「幸福」という切り口で次期総合計画をつくるときに、「仕事・収入」は避けて通れないということで、10の政策分野のテーマとして掲げて取り組みを進めていこうとしたところである。
ですので、案を作るにあたっても、「仕事・収入」がきわめて重要であるとの問題意識で、そしてまた若者の幸福度が低いということで、「仕事・収入」の中での若者の支援、そして参画の中においても若者のということで、特に若者が岩手において活躍できる環境づくりを進めていこうということを大きな柱に、これは人口減少対策にもつながるものだが、ここはしっかりと盛り込んでいるものである。その盛り込む位置といったものについては、さまざまご意見をいただいたところだが、また広くご意見をいただきながら今後検討を進めていきたい。
【斉藤委員】
この指標項目でも、例えば「一人当たりの県民所得」というのは指標になると思うが、企業所得と雇用者所得と一緒になっている。本当に県民一人一人といったら雇用者報酬額や実質賃金で比較するのが正確である。
指標で一番の問題は、農林水産業である。農業は「販売農家一戸当たりの農業算出額」、林業も「一人当たりの林業算出額」、漁業も「一経営当たりの漁業算出額」となっている。こういう指標になると、農業・林業・漁業の総生産額が縮小しても、働き手が少なくなったら一人当たりは増える。そうなると岩手の産業は前進しない。総生産額をどうやって発展させるかという目標を持たなければいけない。
【政策監】
一人当たりの算出額に着目した理由だが、今回の政策の中で、算出額を増やして、それが実際に生産者の所得にどう結びつくのかというのを表していきたいというのが念頭にあった。その中で、総生産額だけが伸びても、それが実質の所得に結びつかないような形にならないような指標がないものかと検討した中で、一戸当たりというものに着目して、結果的に今つかめる数字として出しているが、さらに指標があれば我々も採用していきたいと思っているので、ご意見をいただきながら検討していきたい。
【斉藤委員】
一人当たりの算出額はあってもいいが、全体の生産額が減少しても一人当たりは上がることがあるので、岩手の産業政策にはならないと。
幸福度に取り組んでいる高知県では、産業振興政策という立派なものを出している。毎年チェックしながら更新している。
産業振興というのは、雇用にとっても地域づくりにとってもコミュニティにとっても土台である。それがあまりにも中身がないと指摘しておきたい。
アクションプランの「健康・余暇」のところで、指標項目についてだけ指摘するが、この項目で行政として一番重要なのは、「必要に応じた医療を受けることができる体制の確保」だと思う。その点では、やはり医師や看護師の確保で、不足数というものがはっきり出ているので、それをどう克服するかという目標を持たなければ、地域の医療は守れない。健康寿命というのなら、禁煙率を目標に掲げるべきである。
「家族・子育て」のところでは、子どもの貧困の解消の目標がない。岩手県の子どもの貧困対策はきわめて貧困なので、あれでは解決にならないので。待機児童については書いているが、特養の待機者は書いていないのできちんと明記すべきである。
「教育」の分野では、「学力が全国平均以上の児童・生徒の割合」ということは絶対に指標にしてはならない。学力テストを煽ることになってしまう。今大問題になっている。朝日新聞は「学力テストを毎年やる必要があるのか。子どもの役に立ってこそ必要。抽出調査でも、数年に1回でも十分だ。これに年間60億円使うなら、教育条件の整備にまわすべき」と正論を言っている。今、過去問題をやっているところは、全教の調査で44%。授業そっちのけで過去問をやっている。こんな指標を掲げたら、県が音頭をとって学力テストをやることになってしまう。掲げるのなら「平均以下の子どもを減らす」という目標を掲げるべきではないか。遅れている子どもをどう底上げするか。これがフィンランドのやり方である。そして全国最低クラスの大学進学率がなぜ入らないのか。進学率を上げる目標を当然掲げるべきではないか。そして、子どもの学力と満足度を見るときには、自己肯定感がどう高まっているかということ指標にすべきである。
幸福をキーワードにして基本方針に据えることは大賛成である。しかし、幸福度の指標が全て県政の10年間の総合計画の政策目標になるかはもう少し吟味すべきである。広域行政としての県の役割が発揮されるような計画にすべきである。
やはり「仕事・収入」という位置づけを抜本的に高める、高知県のような産業振興政策にするというようなことも合わせて、盛り込むのか、別枠にするのかということも含めて検討していただきたい。
【政策地域部長】
さまざまなご指摘をいただいた。
今回、アクションプランでも指標項目ということでお示ししたが、これが非常に重要になるものだと思っている。
これからまたお示しする具体的な推進方策にかかる指標ということとどう絡めていくか、またいろいろ検討していく予定であるので、その際に合わせてまたご説明させていただければと思う。