2018年10月5日 決算特別委員会
保健福祉部に対する質疑(大要)


・北上市での児童虐待問題について

【斉藤委員】
 県議団としても、検証報告書について聞き取り調査を行った。経過の中に、さまざまな問題があるのではないかと感じてきた。
 今年の2月27日に、県南広域振興局による認可外保育施設監査に同行した市の子育て支援課職員が、園長から「気になる子どもがいる」との情報提供を受けた。この内容は、「衣服が尿で濡れた状態で登園」「カバンに便が付着」「翌日も同じ服装で登園」「異常な食欲」「痩せてきている」という通報だった。市は、ネグレクトの疑いがある事案として、当日に「虐待相談通告受付表」を起票した。
これは県南広域振興局による監査だったが、県南広域振興局の担当者はこの話は聞いていなかったのか。

【子ども子育て支援課総括課長】
 お話あった通り、県南広域振興局において認可外保育施設監査を行った。我々の方で聞いているところでは、監査の最中ということではなく、監査が終了した後に、同行した市の方にその旨を施設から聞いたと聞いているところである。
 その後の3月15日に、北上市で要保護児童対策地域協議会実務者会議を開催しており、振興局で把握したのは、ここで報告された時と聞いている。

【斉藤委員】
 県の監査なので、それはきわめて残念なことである。信頼関係がなかったのかと疑われる。
 北上市の対応として、虐待相談通告受付表を起票した場合には、直ちに緊急受理会議を開催することになっている。これは開催されなかったのではないか。

【子ども子育て支援課総括課長】
 現在県において、死亡事例の検証委員会を開催し、8月から検討していただいている。そこでの委員の方々からの確認事項等求められているところと重なるところもあるので、その点については、さらに北上市に確認した上で明らかにするものと思っている。

【斉藤委員】
 北上市の検証報告書では、この会議は開かれなかったとなっているので。県が改めて検証しようとしていることは承知しているが、北上市の検証報告書では、いわゆるマニュアルに基づく緊急の受理会議は開かれなかった。
 実は、この緊急受理会議を開いて、初期調査報告表というのを準備することになっている。いわば、受理して何をするか、これもはっきりしなかった。初動の段階で深刻な情報提供があったのに、初動の段階でミスをしたのではないか。
同時に、2月28日と3月15日に家庭訪問をしている。ところが二度夜に訪問したが不在だったと。当時1歳8ヶ月の子どもを抱えているのに、二度も不在だったとしたら異常な事態ではないか。ところが確認されないままになってしまった。そして、母親は2月中旬から仕事で奈良県に行っていたということが母親の実家の連絡で分かった。25歳の父親が1歳8ヶ月の子どもの面倒をみていたと。これだけでも緊急に支援が必要な子どもになったと思うが、この事態を緊急な事態と受け止められなかったということも重大ではないか。

【子ども子育て支援課総括課長】
 先ほども申し上げた通り、対応がどうだったかということについては、死亡事例の検証委員会で検討していただくわけだが、今の説明の中で、夜間に不在であったということについては、児童虐待等が疑われる重大なサインであったということは考えられる。そういった意味においては、やはり対応に問題があった可能性があると考えている。

【斉藤委員】
 残念ながら北上市は、不在である奈良にいる母親とばかり連絡をとっていた。実際に面倒をみている父親とは全然連絡をとらなかったということも重大なミスだと思う。
 次の大きな山は3月12日。園長先生から電話があり、「足が冷たくて温まらない。食欲がすごくある。登園時に母親の姿を見ていない」と。この通報というのは、体調に異常をきたしていたのではないか。これはもう健康上の危険信号の発信という形で、園長先生が市に情報提供したと思う。これについても機敏に対応しなかった。本当に残念な事態である。
 3月15日に、先ほどお話しがあった北上市要保護児童対策地域協議会実務者会議が開催された。ここで本来なら、虐待について情報共有されるべきだった。なぜされなかったのか。

【子ども子育て支援課総括課長】
 情報共有は全くされなかったわけではないとうかがっている。実務者会議であるので、北上市において対応しているケースについて、どういう状況かということを報告する会議である。その中で、100件を超えるケースが一度に報告されたと聞いているので、細かい1件1件についての報告ではなかったと。そういったところから、その会議においては、リスクがある事例だという認識には至らなかったと聞いている。

【斉藤委員】
 実はこの協議会には156件のケースが一覧表で出され、その中の1つだった。情報共有はその程度であった。具体的に報告されなかったのはなぜかと言うと、いわば家庭環境の確認ができなかったからである。そして本来すぐやるべき初期調査報告表が作られていなかったため、具体的に報告できなかった。本来ならきわめて重大な虐待のケースを、情報共有すべき要保護児童対策地域協議会実務者会議が機能しなかった。ひとえに北上市の責任が大きいと思うが、そうした点では実務者会議のあり方というのも大変教訓になったのではないか。
 マニュアルでは、要保護児童対策地域協議会を活性化させるために、市に調整機関を設けるとなっている。ここには、児童福祉司などの専門家を配置してきちんとした議論をできるようにそうした調整機関が必要だと。北上市はこの調整機関がなかったのではないか。

【子ども子育て支援課総括課長】
 調整機関については、要保護児童対策地域協議会を設置しているところについては必置の機関なので、設置されていたと認識している。

【斉藤委員】
 専門家は配置されたのか。結果的には機能しなかったということになるが、なぜ機能しなかったのか。

【子ども子育て支援課総括課長】
 北上市においても、要保護児童対策地域協議会、そして調整機関というのは主張されているところであり、担当者の方もいらっしゃると聞いているが、我々が聞いているところでは、マニュアル通りの対応がなされていなかったというところが問題点・課題として北上市では考えていると聞いている。

【斉藤委員】
 1歳8ヶ月での虐待の通報だったので、1歳6ヶ月検診も受けていなかった。ここが重要なシグナルだったと思う。繰り返し受診するよう促したが連絡が取れず、結局は受診せずに亡くなってしまう。
 最後の大きな山場は3月27日。別件で園の保育士が市役所を訪れたときにたまたま状況を聞いた。そのときに「昨日も足に便が付着していた。相変わらず手足が冷たく、父に理由を尋ねても答えない」と。実はこれ以降連絡が途絶えてしまう。保育園からも連絡がない、市役所からも連絡を取らなかった。実際には3月30日から登園せずに、まともに食事も水も与えられずに亡くなってしまった。
 2月27日から4月8日に亡くなるまでわずか40日間。そして3月27日に、たまたま市役所を訪れた保育士からの情報を知っても、まともに対応されずに事件が起きてしまったというのは、本当にいろんなところで本来真剣になって取り組まなくてはならない。
虐待通報というのは、全国的なルールで48時間以内に安全を確認する。ネグレクトだったら家庭環境を把握しなければならない。それが40日間も放置され最悪の事態を招いてしまった。
 さまざまなところで1つ1つ見過ごされて、知事は「この事件は防ぐことができた。防がなければならなかった事件」」と述べた。いま県の機関で再検証されているので、徹底的な検証を求めたいと思うが、現段階で把握されている問題を各市町村に徹底して、こういう事件が絶対に起こらないようにやるべきである。

【保健福祉部長】
 児童虐待が疑われるサインがあったにも関わらず、児童を救えなかった結果となっており、ご指摘の点も含めて対応に問題があったと考えられるが、そういった点について検証委員会で今後検討を行っていきたいと思う。
 この事件を受けて市町村にたいし通知を行っている。緊急度のある案件として、早急に児童相談所等に通知する案件等を具体的に示し、そうした対応について通知を行った。

【斉藤委員】
 いじめ自殺事件も今回の虐待死の事件もそうだが、大事なのは、徹底した事実に基づく解明・究明である。きわめて不十分だとは思うが北上市の検証報告書は、全ての市町村の担当者が見て、自分のところで本当にまともに対応できたのか検証も必要だと思う。事実に基づいて教訓を生かすと。単なる文書の通知だけではいけないと思う。そういう精神でしっかりこの問題に対応していただきたい。
これは児相に届く前の段階でこういう事件が起きた点でも重大である。児相に届いていれば必ず48時間以内に対応したと思う。そういう点でも、連携、市町村の役割が厳しく問われる問題なので、その点をしっかり踏まえた対応を再検証待ちにならずにやっていただきたい。
 関聯して児童相談所の体制と対応について。中央児童相談所からも児童虐待への対応を聞いてきた。全県的には昨年1088件の相談件数。児童福祉司の虐待相談件数は一人当たり200ケースだと。国の基準というのはだいたい40〜50ケースにするとなっている。岩手県の場合は、虐待は複数で対応しているというのはあるが、それにしても200ケース抱えていたら、どんどん新しい虐待の通報もくるし、継続して対応しなければならないケースもある。本当に過酷な状況ではないか。国の基準に向けた改善が必要だと思うが、実態をどう把握して改善に取り組もうとしているか。

【子ども子育て支援課総括課長】
 福祉総合相談センターの児童福祉司におけるケースの持ち数だが、たしかに委員も同行された視察の際にはそのようなご説明があったと聞いている。ただ、福祉総合相談センターにおいては、ケースの担当というのは、いわゆる1人で1ケースを担当しているということではなく、いわゆる2人ないし3人の複数でケースを担当しているという状況なので、1人の方が複数のケースを持っているということになるので、全体とすると200ケースになるという方もいると聞いている。ですが、いわゆる主として担当しているケースの数から申し上げると、これはあくまで暫定的な数字ということだが、福祉総合相談センターにおいてはおおむね70ケース台だと聞いている。

【斉藤委員】
 それにしても国の基準を上回っている。
国はこれから児童福祉司を2000人増員する方向も示しているが、この改善に向かってどう取り組もうとしているかということも先ほど聞いたので。

【子ども子育て支援課総括課長】
 国の方では、緊急総合対策を示しており、詳細についてはまだ示されていないが、法律の改正事項は進んでおり、暫定的な経過措置として人口5万人に対して1人の児童福祉司となっているが、来年度からは4万人に1人となる。
 今回国の方で緊急総合対策を示しているが、おそらくそれよりもさらに基準がしめされるのではないかと思っている。それはお話あった通り一人当たりの児童福祉司で、いわゆる虐待件数以外のところも含めて40ケースと。ですが具体的なところはまだ国から示されていないので、いずれそれに従い、県としても児童相談所の児童福祉司の増員等について検討していきたい。

【斉藤委員】
 本当に命に関わる緊急性・重要性をもった仕事をされて、過酷な仕事に携わっていると思うので、ぜひ国の増員の方向も示されたので、必要な児童福祉司・児童心理士をしっかり増員・確保するよう強く求めていきたい。

・子どもの貧困問題について

【斉藤委員】
 県政の緊急重要課題だと思っているが、岩手県における具体的な取り組みはどうなっているか。
 全国の取り組みの特徴、先進的な経験をどう把握しているか。

【子ども子育て支援課総括課長】
 県では、いわての子どもの貧困対策推進計画に基づき、福祉部門はもとより教育部門・労働部門など庁内各部局が連携し、教育支援・生活支援・経済的支援等、総合的に子どもの貧困対策に取り組んでいる。具体的には、スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーの配置、放課後児童クラブや放課後子ども教室といった子どもの居場所確保、就職支援のための就業支援員による高校訪問などを実施しているほか、今年度新たに生活困窮者自立支援事業により、生活困窮家庭等の子どもに対する学習支援事業について、実施地域や対象者を拡大したほか、5月には、子どもの居場所ネットワークいわてを立ち上げ、居場所づくりに取り組む団体を支援することにより、子ども食堂や学習支援などの取り組み拡大を図っている。また、県内小中学校に通う児童生徒を対象とした「子どもの生活実態調査」を8月に実施したところであり、この結果をもとに今後の具体的な支援施策を検討し、岩手の子どもの貧困対策推進計画の見直しに反映させることとしている。
 全国の取り組みだが、県においては、他の都道府県担当者あるいは先進的に子どもの支援に取り組んでいる全国の民間団体等との情報交換、内閣府においてはホームページにおいて事例紹介等も行っているので、そうした民間団体が発行しているガイドブックなどと合わせて全国の取り組み状況を把握している。特徴的・先進的な取り組みとしては、東京都足立区や福岡市で実施している学校での朝食の提供の取り組み、東京都江戸川区で取り組んでいる食事支援ボランティアということで、家庭を訪問して、買い物から調理・片付けまでを行ういわゆる「お家食堂」と言われているもの、大阪市では、課題のある児童が見つかった段階で、学校と区が情報共有し、生活保護だとか児童扶養手当の受給、就労支援などの行政サービス、子ども食堂のような地域のサービスにつなげる取り組みといったような活動を行っている。
 県としては、子ども生活実態調査の結果をもとに、全国の取り組みについても次期の計画の中に反映させていきたい。

【斉藤委員】
 ぜひ全国の取り組みをしっかり学んでやっていただきたい。県内でも、盛岡市や陸前高田市などかなりの市町村で実態調査をやって、盛岡市は新たな計画も示している。
 沖縄県は2015年に実態調査を行い、どういう計画になっているかというと、2030年までに子どもの貧困を解消すると。沖縄は29.9%という最悪の貧困率だったが、これを10%まで下げ3分の1にするという目標を掲げて、例えば子どもの居場所づくりでは、27市町村135箇所で行われ、114箇所で食事支援、105箇所で生活支援、122箇所で学習支援が行われている。就学援助の拡充・徹底に県は1000万円をかけて、テレビコマーシャルも含めてやっている。
 全国ですでにそうした先進的な取り組みがあるので、岩手としても来年の総合計画と噛み合うように具体化しないと、総合計画ができた後に実態調査の結果出て、その後の計画ということにはならないと思うので、ぜひ今の長期ビジョンアクションプランに子どもの貧困問題がしっかり位置付くように作業を進めるべきではないか。

【保健福祉部長】
 子どもの貧困問題については、きわめて重要な課題だと認識している。
 次期総合計画に掲げる「生まれ育った環境に左右されることなく、子どもが健やかに成長できる環境整備」のために、経済的な支援や教育の支援のほか、心身の健康も含めた支援が必要と考えており、その施策を展開して早急に対応していく。
 総括課長から説明があった子どもの生活実態調査において、支援ニーズというものが寄せられているが、支援を希望する世帯に対して、すでに順次市町村や児相の関係機関が個別に指導を行っているところであり、それらも含めて子どもの貧困対策に迅速に対応していく。

【斉藤委員】
 先ほどの虐待死でも問題になったが、1歳6ヶ月児検診、3歳児検診の未受診者の実数、その後の対応はどうなっているか。

【子ども子育て支援課総括課長】
 平成28年度のデータで、1歳6ヶ月児検診が対象者8961人にたいし未受診児284人で受診率96.8%となっている。3歳児検診は対象者9448人にたいし未受診児433人で受診率95.4%となっている。
 未受診児に対するその後の対応について。市町村において、電話・文書・家庭訪問等により受診の勧奨を行い受診に結びつけるように努めている。具体的な例としては、ある市では、検診終了後1週間を目途に未受診者を把握し、担当保健師が次回検診日までに母親等に連絡を取り、受診勧奨を行うとともに、未受診理由や幼児の状況を把握している。また連絡が取れない場合には、保育園や託児所等の様子を確認し、保育園等に診断書を依頼する場合もあると聞いている。その後も連絡等がない場合には、電話や家庭訪問で個別にフォローを行うとともに、児童福祉担当課との情報共有も図っていると聞いている。幼児検診については、子どもの健康状態だとか母親の育児の悩みなどについて確認できる有効な機会でもあるので、市町村に対してはこれらの機会を通じて積極的に子どもや家庭の状況把握に努めるとともに、反応等がない場合には市町村の母子保健担当課と児童福祉担当課が連携し、関係機関から情報収集しながら安全確保、児童の状況把握に努めるよう助言している。