2018年10月11日 決算特別委員会
農林水産部(農業部門)に対する質疑(大要)
・東日本大震災津波・台風10号災害で被災した農地の復旧状況について
【斉藤委員】
東日本大震災津波・台風10号災害で被災した農地の復旧状況、耕作状況について示していただきたい。
【農村建設課総括課長】
東日本大震災津波で被災した沿岸部は、復旧対象面積545ヘクタールのうち、8月末までに511ヘクタールが復旧している。残り34ヘクタールの主なところは陸前高田市高田沖地区だが、市街地のかさ上げに利用されるために仮置きされていた盛り土が撤去されたことから、本年3月から本格的に圃場整備工事に着手するなど、平成31年春の営農再開を目指し復旧工事を進めている。
台風10号災害については、復旧対象農地206ヘクタールのうち、8月末までに197ヘクタールが復旧し、残る9ヘクタールについては、他事業との調整を終えたことから、同じく平成31年春の営農再開を目指し復旧工事が進められている。
【農業普及技術課総括課長】
東日本大震災津波から復旧した農地については、例年10月に利用状況を調査しており、平成29年度については474ヘクタール・94%で営農が再開されている。
台風10号災害で被災しその後復旧した農地については、現状は被災以前の状況の活用となっており、中でも米や野菜については、担い手集積が進み、若い農業者がそういった農地を活用して営農に励んでいる。
【斉藤委員】
台風10号災害の関係で、復旧した197ヘクタールはまだ耕作されていないということか。
【農業普及技術課総括課長】
被災以前の利用状況に戻っていると、活用されているということである。
復旧した197ヘクタールで営農を開始している。
【斉藤委員】
少し信じられないところがあるが、台風10号災害については、私も現場を見てきたが、とてもではないがそういう状況ではないと思ったので。
・日欧EPA、TPP11の本県農林水産物への影響について
【斉藤委員】
TPP11については、7月の国会でどさくさ紛れでまともに審議もせず、批准と関連法案の強行採決が行われた。3月の予算特別委員会でも影響試算について取り上げたが、これは国会でも審議され、その明確な根拠が示されなかった。
日欧EPAで輸入量はどのぐらい増えるのか、これは示されているか。
【企画課長】
国の試算においては、「価格の低下により影響額は減少するものの、国内対策により生産量は維持される」ことを前提にしており、輸入量の増加や国内生産の減少については考慮していない。
【斉藤委員】
ごまかしもここまでくると、ばかばかしくなってしまう。
改めて国の影響試算結果を見ると、「関税削減等の影響で価格低下による生産額の減少が生じるものの、体質強化対策による生産コストの低減、品質向上や経営安定対策などの国内対策により、引き続き生産や農家所得が確保され、国内生産量は維持される」と。「影響がない」と先に結論ありきで試算をしている。
貿易協定というのは、EUにしてみれば輸出を増やすためにやる。そしてその見返りに自動車の関税が100%なくなる。自動車の関税は100%なくなるがEUからの農産物が入らないということはあり得ない。
こういう試算はおかしいとは思わないか。
【農林水産部長】
国においてこういった試算があるというご説明は課長が申し上げた通りだが、こうしたやり方について、あるいは試算の方法等については、さまざまな方から「説明が不十分ではないのか」というご意見があることは私も承知している。
そうしたことを受け、県ではこれまで国に対し、農林水産への影響を十分に分析すること、丁寧な説明を行うこと―を要望したところである。
今般、日米の個別の交渉が始まろうとしているが、ここにおいても今までと同じようなやり方については、生産者をはじめとして不安を感じる可能性もあるので、そうした中身についてはきちんとした情報を開示して、説明等も丁寧にやるようにということで、引き続き国に対して働きかけていきたい。
【斉藤委員】
前の部長よりは丁寧な答弁だった。
2018年の雑誌「牧草園芸」1月号に、北海道大学大学院の教授が、「日本欧州連合経済連携協定―日本の酪農に及ぼす影響とその意味」という論文を出している。特に酪農への影響ということで限定されているが、「特に影響があるのはバターと脱脂粉乳。国産ナチュラルチーズは82.3%を占めるハード系が輸入に置き換わり、残りのソフト系は残存する。脱脂粉乳はヨーグルト用途以外の用途の半分、すなわち国産の25.3%が輸入に置き換わる」というもので、影響額を試算すると、北海道では、脱脂粉乳バター等向けが29.9%、チーズ向けが69.2%減少すると。その結果、飲用向けは43.3%増加する。これが本州に流れてくるということである。それでも、北海道の生産量が19.2%減少、都道府県の生乳は54万2千トン減少だと。私も予算特別委員会で40万トン影響を受けるということを指摘したが、似通っている。北海道はその結果、生乳生産量で最大477億円、最小でも391億円の減少だと。それで本州に回った生乳によって、本州はどのぐらい影響を受けるかというと654億円もの生乳生産量が減少すると。合計で1045〜1132億円。
これも科学的な試算というべきものではないかと思うが、どのように考えるか。
【企画課長】
TPP11の影響試算については、さまざまな意見が出ていることは承知しており、特に国においては、6月28日の参議院内閣委員会において、「農林水産物生産額の影響試算を含むTPPの経済効果分析については、より精緻なものになるよう見直しに努めること」という付帯決議があげられている。そのような状況も踏まえ、国の動きも踏まえながら本県としても必要な対応を検討していきたい。
【斉藤委員】
日欧EPAの影響試算で1000億円を超える影響ということを専門家の試算で紹介した。この方は、TPP11を加えると、さらに200億円程度の影響が出るという指摘もしている。だから、政府の試算をそのまま受け止める人はいないのではないか。それを真に受けて対策をとっていたら大変なことになる。
・日米FTAの問題について
【斉藤委員】
もっと深刻な問題が9月26日の日米首脳会談で、実質日米FTAの交渉が開始される、合意になったと。日本農業新聞は「実質的なFTAだ」「目標はTPP以上だ」と。一般新聞でも「白旗をあげた」など、政府の発表を鵜呑みにした報道はほとんどなかった。実質、日米FTA交渉の開始という受け止めが、マスコミの特徴である。
事実上のFTA交渉ということになったら、TPP11+日米FTA、結果的にTPP交渉以上の輸入が見込まれるということになるのではないか。
【企画課長】
さまざま報道がなされているが、日米物品貿易協定だと、本県の基幹産業である農林水産業をはじめ、さまざま幅広い分野に大きな影響を及ぼすことが懸念されていることから、交渉にあたっては、農林漁業者が安心して経営を継続できるよう国に対して強く求めていくことが必要だと受け止めている。
このため県では10月4日に部長が上京し、国に対して「十分な情報提供を行い、国民的議論を尽くすなど適切な対応を」するよう要望したところであり、今後においても国の動向を注視しながら必要な対応を検討していきたい。
具体的な影響については、交渉が開始されていない現段階においては困難である。
【斉藤委員】
部長がいち早く上京して要望したことは評価したい。
許せないのは政府の発表である。「TAG=日米物品貿易協定の交渉を開始することにした」というのが政府の発表。ところが共同声明には、アメリカの文書には一言もない。日本語訳にもない。TAGという文言がないのに、FTA交渉ではないというごまかし、ねつ造と言ってもいい。こういうやり方は本当に許されないことではないか。
【農林水産部長】
国・政府の見解を見ていると、報道機関での報道と若干の差異があると感じている。県としてそこについてどちらが正しいのかという判断は難しいものがある。
今後、交渉なり、そのための準備等が始まってくるので、その中で内容が明らかになり、国会等の場面で議論が繰り広げられると思うので、そこを注視していきたい。
【斉藤委員】
決して難しい問題ではない。翻訳の間違いである。アメリカの文書にTAGという文言はないのだから。そしてアメリカ政府は日本語訳を出して、その中にもない。
こういう形で、自動車の関税を引き上げることだけは阻止するが、諸手を挙げて日本の農林水産物を差し上げるような交渉というのは絶対に許してはならない。
・コメの直接支払い交付金の廃止について
【斉藤委員】
コメの直接支払い交付金が今年から廃止になった。昨年度の件数と交付額、農家と集落営農組織に対する影響はどうなるか。
【水田農業課長】
平成29年度の本県への交付額は30億2000万円で、30353件に交付されている。
経営規模別では、水稲作付20ヘクタールの経営体では約150万円、100ヘクタールの経営体では約750万円が保護されるというところであり、交付金の廃止により大規模な経営体ほど影響は大きいと考えている。
【斉藤委員】
一方で事業化を進めながら、一方で今まで農家が頼りにしていた直接支払い交付金を廃止すると。本当に踏んだり蹴ったりである。
平成29年産米の相対取引価格と生産費について示していただきたい。どの規模の農家が採算がとれるのか。赤字の農家の実態はどうなっているか。今年の概算払いの状況も含めて。
収入保険の加入者数・率はどうなっているか。
【水田農業課長】
平成29年産ひとめぼれの出回りから30年8月までの平均の相対取引価格は、60キロあたり15171円となっている。29年産米の生産費は未公表であるため、28年産米の自己資本利子や借地代を含む全算入生産費の作付規模別では、60キロあたり、1〜2ヘクタールでは16292円、2〜3ヘクタールでは13796円であることから、2ヘクタール以上の規模で相対取引価格が生産費を上回っている。
規模別の作付経営体数は、2ヘクタール未満が29773で86%、作付面積は20893ヘクタールで42%となっている。
全農岩手県本部が公表した平成30年産米のJA概算金は、60キロあたりひとめぼれで12900円、あきたこまちで12700円、いわてっこ・どんぴしゃりが12300円となっており、いずれも昨年比100円増額となっている。
【団体指導課総括課長】
収入保険制度は、平成31年1月から開始されることになっているが、加入申請の受付は今月から開始されている。岩手県農業共済組合では、2900経営体を目標として加入推進を行っている。
現在の加入申込み数は400件程度と聞いているが、今後は農業共済組合で実施した意向調査において、加入の意向を示した約2600件の農家を対象に、個別訪問等を行い加入推進することとしている。
加入率については、収入保険は青色申告者が加入の対象になるわけだが、29年度の青色申告の農業者数は13185人であり、目標の2900の農家が加入した場合には22.0%となる。
【斉藤委員】
昨年の生産費は、2ヘクタール未満の農家は赤字で86%を占める。農地面積でも42%。だから全体とすれば、規模が小さいということもあるが、赤字で農業をやっているというのが岩手の農業の実態であるということをリアルに見て、農業・農家を守る手立てが大切だと思う。
収入保険は目標が2900で、加入の意向が2600ということなので、ほんの一部の農家しか収入保険の対象にしない、ならない。ほとんど効果を発揮しないのではないか。だとすれば、共済制度というのが引き続き重要な意義を持つと思うが、共済制度はきちんと維持されるのか。
【団体指導課総括課長】
これまで自然災害の被害を補てんしてきた共済制度だが、それについては若干内容が変わる部分もあるが、基本的には維持されるものである。
例えば、米や麦というのは当然加入ということで、これまで必ず一定面積以上の農家は入らなければいけないということで90数パーセントの高い割合だったが、収入保険との選択制となったことで、当然加入という形ではなくなったので、農家によっては理解した上で入らないという方がいるかもしれないが、いずれ無保険者がないように進めていきたい。
農業新聞にもあったが、米だけを作っている農家だと、むしろ今までの共済の方がいいという試算も載っているが、一方で、園芸や野菜などやっている方は収入保険もいいということで、今の農業共済の方では個人個人の農家の経営の内容を細かくやりながら、どういう形の保険がいいのかということについて詰めていると。