2018年12月10日 商工文教委員会
教育委員会に対する質疑(大要)


・学力テストの問題について

【斉藤委員】
 一般質問で、学力テストの弊害と、総合計画の指標に使うべきでないと指摘し、これは総合計画の最大の問題だと指摘した。
 1つは、文科省自身が、学力テストの実施要領でも「学力の特定の一部である」と。そして「絶対に競争を激化させてはならない」と指摘されており、本来指標にしてはならない。
 もう1つは、国連子どもの権利委員会が、子どもの人権・権利という側面から見て3度にわたり「日本の教育は過度の競争的な教育制度で、子どもたちの健やかな成長が脅かされている」と指摘されている。
 そういう意味で学力テストの結果というのは、絶対に指標にしてはならない。一人一人の子どもたちの教育の支援に使うべきであり、総合計画の指標にしたり目標にすることは絶対にあってはならないと思うがいかがか。

【学校教育課総括課長】
 教育の意義については、本県の学校教育において、知徳体からなる生きる力をバランスよく育んでいくということは議論を待たないと思う。その確かな学力の定着という視点から、全国学力調査をさまざまな形で活用しているわけだが、児童生徒の身につけるべき学力について、具体的な授業、場面、教育活動を想定して、この調査を有効に活用することによって、児童生徒の学習上の課題・つまずきといったものを明らかにし、学習条件の改善や意欲の向上につながるととらえている。
 指標に設定するに当たっては、こうした考えの下で、各学校が児童生徒一人一人に向き合い、寄り添っていくと。一人でも多くの児童生徒に全国水準以上の力を身につけてもらうという願いのもと、平均正答率ではなく、平均以上、一定の目安として平均以上の児童生徒の割合というものを設定した。
 あわせて、学力というのはそれだけではないということはその通りと考えており、学びに向かう姿勢、学習意欲ということを育んでいくためにもう1つの指標「主体的に学ぼうとする児童生徒の割合」というものを設けたところである。

【斉藤委員】
 私は2つ聞いたので。文科省の実施要領に反するのではないか、国連子どもの権利委員会の3度の指摘にも反するのではないかと。この2点について簡潔に。

【教育長】
 実施要領に反しているのではないかということだが、全国順位を争うとかそうした競争を煽るような使い方ということであれば実施要領に抵触するということだと思うが、実施要領の中で、本県のような指標設定が適当でないということはなく、いずれ岩手の子どもたちにしっかりとした学力を定着させたいという思いであり、多くの親御さんも将来的な進路等を考えれば、しっかり学校で勉強してそれが力になるということを望んでいると思うので、そうしたこと等を含めてこのような設定がいいのではないかという現段階の案である。
 委員からも厳しいご指摘があったが、今後、パブコメ等も行うこととしているので、それらの状況等を踏まえて指標のあり方を検討していきたい。
 子どもの権利委員会の3度にわたる勧告については、過度の競争を煽っているという趣旨のことだと思うが、そういう趣旨の使い方ではなく、また全国の状況を申し上げると、全国ではこの学習指導要領の一定の活用というのを、31県がその指標を設定しているという状況にあるので、各県の状況等も踏まえて案として設定したものである。

【斉藤委員】
 実施要領から見たら、学力も特定の一部なのだから、これを指標することが正しくないし、指標にしたら序列化や過度の競争になると。世界から見ても異常な過度の競争的な教育制度だと言われている。
 学力テストによりどういう弊害が起こっているか指摘しておきたい。これは全日本教職員組合が4月〜6月に行った全国調査で、626校の小中学校が回答した。その中で、全国学力学習状況調査について、「事前の特別な指導を行った」が小学校で52%、中学校32.9%、「事前の特別な指導の内容は過去問題の指導」が小学校で73.7%、中学校72%、「学テの結果の活用、学校での独自採点・分析を行った」小学校で37.8%、中学校30.7%と。自己採点というのは、解答用紙をコピーして行った。これが全国の3割である。まさに異常なことである。そんなことをしてはならないのに。全国ではこれが実態である。
 異常な競争的な教育をさらに悪化させているのではないか。県内で、いま指摘したような「事前の特別な指導」などの実態調査をしているか。

【学校教育課総括課長】
 ご指摘の調査結果については、まだつまびらかに読み切れていないところもあるが、いずれにしても、調査問題を子どもたちの実態を踏まえつつ…。
 事前練習という言葉の指すところは一義的ではないと考えているが、諸調査の適切な活用については現在県で調査を行っているので、そうした結果も踏まえて、学校現場で子どもたちの実態に対応した活用の仕方については、学校・市町村とも共通理解を図りながら進めていきたい。

【斉藤委員】
 調査をしているというのなら中身を示していただきたい。
 だいたい事前学習をやればいくらか点数は上がる。そういうことを子どもたちは学ぶ。点数競争=学力となってしまう。

【学校教育課総括課長】
 調査中であるので結果はお示しできない。

【斉藤委員】
 調査結果も出ないのに、学力テストの結果を今後10年間の総合計画の教育の主要な指標に使うということはナンセンスである。
 1961年〜1964年の4年間、全国学力テストが行われて廃止になった。なぜ廃止になったか分かるか。

【教育長】
 承知していない。

【斉藤委員】
 それは大変残念なこと。
 1960年代に全国的な教育の荒廃が起きた。それこそ全国一を目指す過度の競争、カンニングが行われ、成績が悪い子どもはテストを受けさせないなど、とんでもない状況が起きた。
 そしてこの学力テストは裁判にもなった。札幌高裁の判決では、「教師の自由な創意と工夫による教育活動を妨げる。一般的危険性を持つものであり、現に一部においてそれが現実かしている」と。最高裁は、旧学テを「不当な支配に当たるとは言えない」としたが、それには3つの理由があった。@試験問題の程度は全体として平易なものとし、特別の準備を要しないものA個々の学校、生徒、市町村、都道府県についての調査結果は公表しないことB教育の自由の創意と工夫による教育活動を妨げる危険性について、教師自身を含めた教育関係者・父母・その他社会一般の良識を前提とする限り、それが全国的に現実化し、教育の自由が阻害されることとなる可能性がそれほど強いとは言えないこと―と。この最高裁の3つの理由は、今の学力テストで全部やられている。

【学校教育課総括課長】
 3つの点についての本県の状況について。1つ目の「試験問題が平易、特別な準備を要しない」というものについて、全国学力調査においては、これまで子どもたちのつまずきに応じて授業改善を促すという趣旨から問題を作っているので、ある程度難しい問題もあると認識している。ただそれは、事前の準備を要するのではなく、そこで明らかになった子どもたちのつまずきに応じて、子どもたちの問題解決に沿った授業を先生方に進めていただきたいという趣旨を問題が作成されていると認識している。また、昨年度「適切な活用に関するガイドライン」を県として周知しており、先ほどの実態調査にといてはこのガイドラインを踏まえて実施しているところであり、この結果も踏まえつつ、真に資するものにしていきたい。
 2つ目の「個々の結果を公表しない」点については、国においては、国の責務として全国的な水準の維持向上という一定の責任を果たすという趣旨から、都道府県別の正答率等は公表されていると理解しているが、あわせて、数年前から整数値での公表となったと聞いている。本県においては、個々の市町村の結果を公表するということはしていないということである。
 3つ目の「教員の創意工夫による教育活動を阻害しない」といった趣旨だと理解するが、この全国学力調査については、活用のあり方如何だと考えている。個々の調査問題を参考にして、先生方の創意工夫にむしろ生かしていただきたいという趣旨でとらえている。

【斉藤委員】
 試験問題の程度はどうなっているかというと、これは特にB問題、中学校の数学の正答率が10.9%、小学校の国語13.5%と、こういう難易度の問題が出されている。とても平易なものとはいえない。
 個々の学校・生徒・市町村・都道府県についての結果の公表について、2014年に文科省はこれを認めてしまった。だとしたら最高裁判決から見ても、この学力テストは違法だとなりかねない。
 この学力テストというのは毎年悉皆調査をやる必要は全くない。専門家も皆そう言っている。3年や5年に1度に全体の状況を把握したいというのなら分かるが。毎年60億円もかけて、教員に負担を押しつけてやるようなものではない。
 学力テストは中止することこそ今求められている。この学力テストに悪乗りして、これを指標にすることは絶対に許してはならない。
 アクションプランの教育のところで、63ページに「授業内で学習をふり返っているとともに、授業の内容が分かると答えた児童生徒の割合」で、2017年は小学校48%、中学校40%、2022年の目標は小学校で52%、中学校で44%だと。これこそ指標にすべきである。授業の内容が分かる児童生徒の割合が2022年もこの数字だったら、半分は分からないということではないか。教育が成り立っていない。その状況を解決しようともしないと、それで教育が成り立つのか。この現実の打開こそ、学力テストではなく、きちんとしたアクションプランの目標にすべきではないか。

【教育長】
 これは過度の競争を煽るとか、かつての学テ闘争のようなことを繰り返すというような思いでは一切なく、本県の子どもたちの力をしっかり身につけさせるという思いである。
 指標の設定だが、ご指摘いただいた指標のほかに、県が取り組む具体的な推進方策として、いま委員からご指摘いただいた指標については策定をすることとしている。

【斉藤委員】
 私が言ったのは、私が指摘した指標こそ指標に設定すべきだと。そしてその目標はあまりにも低すぎる。半分の子どもは分からなくていいというような数字である。
 もう1点、学力テストがどんな弊害をもたらしているか。昨年3月に、福井県池田中学校で、中二男子生徒が校舎3階から飛び降り自殺をした。この原因は、「教員の指導が適切でなかった」と調査報告書が出された。それに対して福井県議会が意見書をあげた。「学校の対応が問題とされた背景には、学力を求めるあまりの業務多忙もしくは教育目的を取り違えることにより、教員が子どもたちに適切に対応する精神的ゆとりを失っている状況があったのではないかと懸念するものである。痛ましい事件の根本の背景をとらえた上で、命を守ることを最優先とし、今日本に必要な教育、真の教育のあり方を再考し、今後二度とこのような事件を起こさないために、福井県の教育行政のあり方を根本的に見直すように求める。発達段階に応じて、子どもたちが自ら学ぶ楽しさを知り、人生を生き抜いていくために必要な力を身につけることが目的であること再認識し、過度の学力偏重は避けること」という中身である。
 この事件は教育長は把握しているか。

【教育長】
 この事案については、「しんぶん赤旗」にも大きく取り上げられ、その中でこのようなことがあったと把握している。

【斉藤委員】
 福井県は、学力が全国トップクラスである。トップクラスのところでこういう事件が起きている。全国で起きているし、起きかねない。それが学力テストの実態である。この状況をしっかり踏まえて対応すべきである。

・教員の多忙化の実態について

【斉藤委員】
 今年からタイムカードが導入されたが、実際にどれだけの超過勤務の実態になっているか。80時間を超える実数を示していただきたい。

【教職員課総括課長】
 8月から全ての公立学校において、自己申告からタイムカードに切り替えている。
 第二四半期の県立学校教員の一人当たり時間外勤務は34.2時間となっている。月80時間を超えた教員の実数は、延べ400名弱となっている。

【斉藤委員】
 タイムカードでリアルに把握できると、超過勤務時間も増えたし、過労死ラインと言われる80時間を超える教員が延べで400人だと。本当に深刻な事態である。
 日本共産党は、教職員の働き方を変える提案を行った。後で教育長にもお届けするが、異常な長時間労働を生み出した3つの根本問題―。1つは、「国が教員の授業負担を増やした」と。週休5日制の前は、小学校で4コマの授業だったのが、5日制になったら6コマになった。そうすると、勤務時間外の授業準備時間は25分しかない。これでは授業準備ができない。2つ目は、「業務の増大=学校のかかえる課題の増加+教育改革による負担の増大」。これは、不登校やいじめの問題、名ばかりの教育改革による負担がさらに増えてしまった。全国学力テストもまさに教師の負担を増やした。3つ目は、「残業代ゼロの法律が長時間労働を野放しにした」と。残業代ゼロで働かせられたら歯止めがきかない。だいたいこれは全国で1兆円規模だと言われている。
 こんな異常な事態というのは解決される必要があると思うが、どのように超過勤務の実態を認識しているか。

【教職員課総括課長】
 働き方改革の推進にあたっては、人員体制は非常に重要だということもあり、これまでも新たな定数改善計画を早期に行い、加配措置の充実等を国に強く要望してきており、今後とも進めていきたい。
 業務の状況については、現在働き方改革プランのもとでさまざまな取り組みをしている中で、業務についてアンケート調査をしたところ、部活動だとかさまざまな行事への対応等の業務が増えているという結果もあり、業務改善のワーキンググループを立ち上げ、その内容について、さまざまな皆さんに入っていただきながら検討・分析を進めている。
 超過勤務については、先般国から出された働き方改革の公告でも、今回は特に直接大きく変えるという方向性のものはなかったが、いずれ法令レベルの話なので、引き続き教職員の多忙な状況については、国への要望等も通じて法令レベルの活用がなされるよう要望していきたい。

【斉藤委員】
 学校のさまざまな問題に対して教員は頑張っていると思う。しかし頑張りきれない。25分しか授業準備の時間がないと。これは政府が教員を増やさずに週休5日制をやった、学校改革・学力テストもやった、業務だけ増やしてきた。
 私たちは、10年間で9万人の教員を増やすべきだと提案しており、業務を増やしている一番の大きな原因はやはり学力テストである。こういうものは止めると。本来教育というのは、教員が教員自身の裁量権を持って子どもたちを育てるというところに教育の本質がある。学力テストの結果でああだこうだ言うべきものではない。そういう意味で、教員の状況の抜本的な改善を図るべきだと思う。
 先ほど千葉委員はいろんな本を紹介し、議会図書室に行ったら「教師のブラック残業」という本があった。教師が今どういう問題を抱えているか、5つの問題があると。@授業準備の時間がないA休憩時間がないB年間1兆円もの不払い残業がないC意に反して部活の顧問が強制されるD労務管理が機能していない―と。これは現場の教師の声である。
 根本は教師を増やす以外に打開の道はないと思うが、本当に何を見直せば、現場はゆとりを持って子どもたち一人一人と接しながら教育を進めることができるのか。そのことを考えていく必要があるし、特に教員を増やす問題については、岩手はもとより全国知事会でも本気になって国に求めていかなくてはならないと思うがいかがか。

【教育長】
 学校に期待する役割が年々大きくなってきている中で、教職員に大きな負担になっているということについては、まさにその通りだと認識している。一方で、教員が教育に携わるということに対して、高い誇りとやりがいを感じながら、大変な仕事を務めていただいているということも実態としてあり、そういう面では本県の教職員の意識はきわめて高いと思っている。
 現実的にそのような教員の多忙化ということが顕在化してきている中で、これを一歩ずつ着実に改善に向けて進めていくということがきわめて大事であるという観点から、6月に働き方改革プランを策定して、現在鋭意努力をしている。さらに、これを強力に実現していくためには、やはり教職員体制の充実ということはきわめて重要だと認識している。県議会においても、国に対する意見書の提出をいただいているところであり、県としても、国に対する政策提言、都道府県教育委員会連合会等と一体となった要請活動を国に対して行っているところであり、人口減少が進む中で地域を守っていくということで、子どもたちをしっかり育てていくことはきわめて大事なので、十分ご意見等も頭に入れさせていただきながらあたっていきたい。