2019年2月27日 商工文教委員会
教育委員会に対する質疑(大要)
・盛岡一高損害賠償請求事件訴訟の控訴審判決について
【斉藤委員】
仙台高裁での判決は、県にとって大変厳しい判決になったと思う。
判決の内容、特に違法性が認定された3つの点があるが、その判決文に示された具体的な内容を示していただきたい。
【教職員課総括課長】
1点目。平成20年11月下旬、体育教官室での叱責があった。これは、第二審判決でも違法行為として認定されている部分があったが、今般の高裁判決においても、このような言動は、教員としての裁量を逸脱した違法な行為ということであった。
2点目。いわゆる「平手打ち」の部分、これは、練習または試合において、元生徒が平手打ちをされた事実が認められた。
3点目。当該教諭が言動について、いわゆる「でくのぼう」だとか「駄馬だ」というような、元生徒を含む元部員に対して発せられた言葉は、元生徒に向けられたものではないとしても、いわゆる人格を否定するものであって、これも裁量を超えた違法行為ということで、判決が下された。
【斉藤委員】
判決に基づいて正確に答弁いただきたかったが、正確ではなかった。
判決では、「『お前のような人間が大人になると社会をダメにする』との発言は、控訴人の人格を否定し、もしくはこれを貶めるものであるから、指導としての域を超えるものであり、また、右手に持っていた鍵を壁に投げつけ、机をペンで何度と叩く行為は、感情的になされたものに他ならないから、指導とは程遠いものである。したがって、これらの言動は、教員としての裁量を逸脱した違法な行為である」と。
第2点は、「前述の通り、被控訴人が、練習または試合において、控訴人の頬を平手打ちしていた事実が認められる。控訴人の上記行為はその理由の如何を問わず、許容されるものではない。したがって、被控訴人の上記行為は違法である」と。この体罰が認められたのは高裁判決である。今まで否定していた。
3点目は若干紹介されたが、「『駄馬がサラブレッドに勝てるわけねぇんだ』『でくのぼう』『お前は駄馬だ』と怒鳴りつけているが、このような言動は専ら控訴人に向けられたものではないとしても、控訴人を含む部員の人格を否定し、もしくはこれを貶めるものであるから、教員としての裁量を超えた違法な行為である」と。
この3点が違法な行為として認定され、一審の20万円から40万円という損害賠償請求の判決になったと。
私は、控訴人からもお話をお聞きして、この場でもかなりリアルに取り上げてきた。それが最終的に、残念だけれども裁判を通じて認定されるということになった。
この裁判の経過を通じて、この高裁判決はきわめて重要だということと、この教諭が、学校の調査に対しても真実を語らなかった。そして、裁判の過程でやっと体罰を認めるようになってきた。体罰については全てではないが。本当にこれは二重三重に学校のあり方、教師のあり方が問われる裁判ではなかったか。これだけ長期間にわたって争わなければならないような事件に本来すべきではなかったと思う。
この3つの違法行為の認定、裁判の経過を含めて、教育長はどのように受け止めているか。
【教育長】
今般の高裁判決については、一審段階で違法だと認められた部分については、県が控訴しないという判断をし、それについては争わなかったという前提がまずある。そして、控訴審における証人尋問等において、原告に対し、平手打ちをした蓋然性が高いというような、他の生徒にやったという、気合いを入れるつもりでやったということについては、これは当該教諭も一審段階で認めていたので、高裁としてそういう判断をしたということで、それに対する反論の証拠が準備できなかったということで受け入れざるを得ないというようなこと等もある。
それから、高裁段階でさらに明らかになったこととしては、「お前のような人間が社会をダメにする」というような発言をした前提として、県外の練習試合に無断で欠席したことにより、他の生徒に迷惑をかけたということに対して「叱責した」という事実認定はされており、ただ、そういう状況の中でも、人格を否定するような発言は違法性があるというようなことである。
この判決については、しっかり我々は真摯に受け止めなければならないし、重く受け止めなければならないと思っている。
また冒頭総括課長から申し上げた通り、それ以外の日常的な体罰だとか、PTSDの罹患については、二審判決通り明確に否定が決定いたしているので、それは県がしっかりと受け止めて、再発防止や当該職員に対する責任の所在等をしっかり果たすということが役割だと思っており、いずれにしても、今回裁判という形で決着することになったということについては、県としても、議会の先生方にもご心配をおかけし、何とかその前に解決できないかというようなプロセスもあり、そういうことで何とかそちらで解決できれば良かったが、結果的にこのようにいかざるを得なかったということで、これは事実にしっかり向き合うということが大事だと思うし、これを他の学校の教職員に関しても、他山の石とすることなくしっかり情報提供した上で、そういうことがないように努力していかなければならないと思っている。
【斉藤委員】
この判決が示すものは何か。1つは、学校の調査がきわめて不十分だった。教師の言い分を基本的に鵜呑みにした調査で対応してきたということも反省すべき問題である。
もう1つは、判決が確定した段階で3つの違法性が指摘された。ただちに控訴人に対して、教育長が謝罪するとか、そういうことがあってしかるべきではないか。
【教育長】
まず、判決がなされたのがついこの間である。なかなか原告側、こちらの方は直接申し入れを受けていないが、なかなかその背景等、PTSDとの罹患とか、根本的な問題が解決していないという強い気持ちを今持っており、今回の判決が出された部分について、県の責任とされた部分については、それはしっかりと謝罪をしていくべきだと思っている。これは賠償金の支払いもあるので、適切な時期をとらえて適切に対応したい。
学校の調査が不十分だったかどうかということを含めて、なかなか事実関係が明らかにならない中での訴訟という中で、いろんな事実関係が争われたものであり、学校側としても、教育委員会としても、できる限りの聴取を相当重ねたので、そういう中で事実関係を掴もうという努力はしたが、結果的にこの判決になったということは、そういう面では結果的に足りない部分があったのではないかと思っている。
【斉藤委員】
私は、裁判の前までに県教委の本格的な調査まで至らなかったと思う。ただ、学校の調査は形的にはなされた。しかしそこでは解明されなかったからこのようになったので、途中で県教委にきちんとした調査を求めるかということで、超党派で控訴人と相談した経過もあったが、最後はやはり裁判でということだった。
それで、控訴人から要求されて謝罪するという性格のものではない。3つの違法性が認定されて、2月16日に確定しているので。それだけでも直ちに誠意を持って謝罪するということが本来の姿ではないか。控訴人もそれを納得して控訴していないわけなので。いろいろ思いはあったとしても。それを1つ1つ丁寧に誠意を持って、こういう問題は、裁判が決着した段階では対応すべきである。
もう1つ複雑な問題は、この教諭が不来方高校の自殺事件にも関わっていると。それで今第三者委員会で調査されている。これはきわめて重大なことだと思う。一審判決のときに、適切な対応をしていれば、不来方の事件はなかったというべきものではないか。
ここで指摘されている人格を否定する暴言について、これは不来方でも行われていた。本人に対する体罰ということはなかったようだが、やはり人格を否定する暴言は暴力行為である。そして今この暴言で自殺に追い込まれるケースが少なくないのも事実である。
そういう意味で、すでに第三者委員会の調査になっているので、県教委に現段階ではどうこう言わないが。しかし県教委は、今度の判決を受けて、反省すべきことがあったのではないかと思うがいかがか。
【教育長】
第三者委員会については、これまで5回開催されており、その中で今後の調査や調査員等を含めた体制の整備がなされたという段階である。それで第1回の委員会の際に、私も出席して、委員さんに委嘱すると同時に、しっかり適切な調査をお願いしている。その委員会に対しては、我々が持ち得ている情報については、つまびらかにさせていただくということで真摯に対応し、これまで5回開催された。
今回の不来方高校での対応等、教育委員会のこれまでの対応も含めて調査をお願いしたいということでやっているので、我々とすれば、第一審の判決を受けたのも、当該教諭に対する指導だとか、それは当該教諭もしっかりそれに向き合ったというような認識は持っているが、遺族側にはそういう気持ちは受け取られないという状況であるので、やはりこれは第三者委員会の中でしっかり調査していくということで、今後調査を通じながら明らかになっていくのではないかということで、真摯にその第三者委員会の要請等には向き合っていきたい。
【斉藤委員】
盛岡一高事件の最後に、教訓にすべきは、「人格を否定する暴言というのは、教員としての裁量を逸脱した違法行為」」という認定を深く受け止めていただきたい。これを徹底していただきたい。体罰だけでなく、人格を貶める、否定するような暴言というのは違法行為だと。これは大変重いものだと思うので、しっかり判決を受け止めて、全体の教訓にするという点で、ぜひ徹底していただきたい。
・教員の超過勤務問題について
【斉藤委員】
今年からタイムカードが導入されたが、第3四半期は昨年度と比べてどういう実態になっているか。80時間、100時間を超える県立学校教員の実態を示していただきたい。
【教職員課総括課長】
昨年8月にタイムカードを導入し、それに伴い時間外勤務の実績を確認しているところだが、直近の数字で第3四半期(10〜12月)で、80時間以上100時間未満が5.8%、100時間以上が5.4%である。タイムカードによる客観的な把握が進んだという面もあるが、昨年同期比で増えている状況にある。
【斉藤委員】
リアリズムで答弁していただきたい。
80時間〜100時間未満は5.8%・216人で昨年同期158人、100時間以上が5.4%・204人で昨年同期175人だった。過労死ラインを超えている県立学校の教員が420人と大変な数である。
本当にこの解消は緊急の課題で、高田一郎県議が本会議でも質したが、客観的な問題として、これは小中学校だが、標準時間数は小学校980時間、その標準時間数を守っているのはたった2.1%、中学校では22.9%。小学校の場合は、980時間を100時間以上年間で超過して授業をやっているのが44.2%。標準時間数を100時間も超えて仕事をしていたら超過勤務になるのは当たり前である。それでなくても標準時間数は多い。県立学校の標準時間数と実態は分かるか。
【高校教育課長】
高校においては、標準時間数というものはない。
【斉藤委員】
標準時間数自体が多く、それを100時間も超えているのが44.2%にも達している。この改善が必要だと思う。
文科省は1月25日付で、公立学校教師の勤務時間の上限に関するガイドラインを出して、業務の具体的な削減を指示している。標準時間数を超えているところは見直すべきだと。業務の適正化に真剣に取り組む管理職を強化しなさいと。いわば、業務削減に取り組まない管理職ではいけないと。この点で、標準時間数を超えているところは当然見直すべきだし、県教委指定・市教委指定・文科省指定などの研究指定校でも見直していくと。
もう1つ、教員の一番の超過勤務の要因になっているものは、岩手県が実施している学習状況調査である。岩手県版学力テストである。文科省の学力テストも大問題だと思うが、それに輪をかけて岩手県も学習状況調査をやっている。国の学力テスト以上に問題なのは、採点も先生自身が行う。国の学力テストより負担が大きい。ある学校では、「学年の先生ではない先生が採点する」と。記述式の質問もある。これを自分の授業以外でやらされている。全国で、県独自にこのような学力テストをやっていないところはどのぐらいあるか。
【学校教育課総括課長】
文科省の専門家会議が昨年夏頃に公表したものによれば、平成30年度実施予定の都道府県については、「実施しない」と表明したところは、小学校の調査においては17、中学校は15となっている。
【斉藤委員】
小学校で17県、中学校で15県あり、来年度は中止するというのは6県あったというのが本会議での答弁だった。これは今見直しの過程にある。こういうところから見直しをしていく必要があるのではないか。そして、学校の中で教職員の話し合いで削減すべき業務、県や市が押しつけているこういう業務の削減、それぞれのところで責任を持ってやるべきだと思うが、取り組み状況はどうなっているか。
【教職員課総括課長】
現在、働き方改革プランに基づき、さまざまな業務の見直しだとか行われているが、ご指摘の学校内における業務のあり方・見直しについては、昨年9月からワーキンググループを立ち上げ、作業を進めている。業務の効率化、業務自体の見直し、業務の質の観点から、市町村教委や職員団体からも意見をうかがっており、先ほどの3テーマについて、学校でできる取り組み、制度レベルで県教委等で解決できるもの、それから法令レベルの問題だと中長期的な課題だということで、実現のステージをある程度整理しながら、作業を進めている。
【斉藤委員】
あまり姿が見えず残念だが、学校の先生が異常な超過勤務を強いられている最大の理由は、学校5日制が導入されたときに、授業時数が変わらないまま6日間でやっていた授業を5日間で、しかも先生を増やさないでやった。そうすると、一日の授業時間数が増えるのは当然である。そしてその後、いろいろな学校改革や教育改革の新しい業務が国から増やされてきた。さらには、いじめ・不登校の問題、貧困問題、さまざまな問題への対応も増えてきた。これは異常な超過勤務を増やしてきた要因である。
根本的には、教員を増やすことが一番の課題で、私たちは週休5日制前に戻すためには9万人の増員が必要だという提案をしているが、残念ながら国は背を向けて、増やさずに業務削減と。まったくの責任回避だと思う。やはり教員の増員を強く求めていくということと、同時に、できる削減は、学校でも、県教委・市町村教委レベルでも真剣に取り組んでいくと。その焦点として、学習状況調査がある。県版の学力テストは全国でやっているわけではないので、見直しを始めている県も出ているので、これは見直すべきではないか。
【教育長】
教員の時間外勤務の増大というのが年々大きくなってきたというのはご指摘の通りである。根本的な原因については、さまざまな議論があるが、私は基本は給特法にあると思っている。給特法の中で、多様な働き方、8時間という教職調整額をやったと。ところが、それ以降、社会の変化にともない教員の業務が増大してきている中で、しっかり頑張ったことに対する評価がしっかり出されないというところが教員の大きな不満になっていると。ただ一方で、教育の重要性ということについては、本県の教職員は本当に一生懸命取り組んでもらっており、それに応えるような働き方改革をしっかりやっていかなければならないと思っている。
その中で、今回の文科省から示されたプランだが、一昨年の緊急提言、中教審の中間答申があったが、それを踏まえて本県は6月に働き方改革プランを、そういう危機感のもとで、できることをまずやっていこうということで、学校閉庁日だとかタイムカード、部活動指導員などできる限りのことをやってきたつもりだが、それが目に見える形で全体的な業務量の低減になっていないと。校務文書の見直しや部活の見直し等も必要だと思う。なおそうやっても、なかなか苦しい状況の中で、教職員定数の抜本的な改善はきわめて大事だと思っており、これまでも県として、さまざまな機会を通じて強く国等に対して要請してきており、これから子どもたちが減少してきて、一人一人の力を伸ばして、岩手・日本を背負っていく子どもたちを育てていくためには、教育はやはり未来の投資というのが、これが本当に必要なときだと思っているので、そういう働きかけをやりながら、我々ができる改革をしっかりやっていくということで努力していきたい。
【斉藤委員】
給特法の問題はまったく教育長が言う通りで、1971年に全国で裁判が起こされた。超過勤務をしているのに手当が出ないと。そういう裁判を踏まえて、当時の給特法は、実態の超過勤務に対応する4%の調整手当と。今はまったくそれから実態が変わってきたので。これは労働基本権を無視する憲法違反の状態だと思う。
同時に、つい最近、国連子どもの権利委員会の最終見解が出た。「過度に競争的な教育制度の是正」ということが改めて指摘された。そういう点で、やはりテスト漬けにする日本の教育の打開・改善も切実な課題となっているということで、県版学力テストの問題を取り上げたので。