2019年2月27日 商工文教委員会
商工労働観光部に対する質疑(大要)
・岩手県の契約に関する条例(公契約条例)について
【斉藤委員】
岩手県の契約に関する条例が丸3年を迎えて、見直しの検討がされていると思うが、どういう見直しの検討がされているか。
この条例に基づいて、どういう成果が現れているのか、いないのか。3年間の検証がどうなされているか。
【労働課長】
この条例については、平成27年4月1日について施行され、29年4月1日から3年施行となっており、当初の27年4月1日から当面3年を目途として、社会情勢の変化等を勘案しつつ、この条例の施行状況について検討を加え、そして結果に基づいて必要な措置を講ずるという付則規定があり、ちょうど3年後が30年度ということで、現在審議会を2回開催している。
条例の成果については、第8条に基づき、特定県契約―工事契約で5億円以上、委託契約だと3000万円以上と規定しているが、最低賃金や社会保険の加入状況というものを報告を求め、現在のところ法令違反という報告はなかったところであり、そういったところでクリアされている。
【斉藤委員】
審議会で、どういう課題が出て見直しが検討されているか。
条例の成果で、最低賃金や社会保険の加入状況の報告と。これは条例がなくてもやるべき課題であって、この公契約条例は理念条例にとどまったという問題点があるのではないか。
例えば、建設労働者の場合、公共工事設計労務単価が、大工さんの場合25000円、しかし実際に支払われている報酬は12000円である。半分にもいっていない。全国、特に県レベルでは理念条例が多いが、川崎市など岩手県より大きい規模の政令市を含めた区市町村で見ると、公共工事設計労務単価の8割とか9割と決めているところもある。そのようにしないと、結局末端の労働者の待遇改善に結びつかないのではないか。はっきり言って、この3年間建設労働者の待遇が改善されてこなかった。この問題を解決することが求められているのではないか。
【労働課長】
審議会では、第1回において、条例全般を1条1条、社会状況の変化や、意見交換で出された意見も踏まえ、どういったところを論点を深めていくかということで、第2回の審議会で詰めており、4つほど論点を定めて、第3回に向けて準備を進めている。
具体的には、@条例で規定する特定県契約の範囲が適切かどうかということ、A受注者の責務として法令順守を求める範囲が適切か、B特定受注者からの報告事項は適切か、C受注者等の責務として報酬下限額を設けるかどうか―といった点を論点として設定した。
このほか県の取り組みとして、県が締結する契約に関する条例の基本理念の実現に図るための取り組みということを県で定めており、こちらは28年4月1日に策定し、随時改定しているが、直近の項目110項目に取り組むとしており、現在108項目が改善されたという取り組みになっており、県の取り組みではあるが、事業者から見れば改善されたというところで、こちらも成果の1つとして挙げられるのではないかと考えている。
【斉藤委員】
建設労働者は高齢化し、建設労働者の確保は深刻な課題で、次期総合計画でもそういう現状が率直に指摘されている。建設労働者の確保が進まない最大の原因は、待遇が改善されていないことである。それなりの魅力ある仕事だが、一人親方で12000円の日当だったら食べていけない。設計労務単価が震災の影響でどんどん引き上がって25000円まできた。以前は20000円を割っていたので。
全国の進んだ公契約条例では、設計労務単価の8割と決めているところがたくさんあるわけで、そうした先進事例をしっかり研究する必要があるのではないか。
国会図書館が全国の公契約条例を整理している。全国の公契約条例の取り組み状況と、報酬の下限を決めているところはどのぐらいあるか。具体的にどういう決め方をしているか。
【労働課長】
国会図書館のリファレンスということで、論題としては「公契約条例の現状」というレポートが作成されている。そちらについては、県・市町村・特別区含め、47自治体で公契約条例が制定されている。そのうち、賃金条項が設けられているのが21自治体となっている。下限額の決め方としては、労務単価をベースにするもの、地域別最低賃金をベースとするもの、生活保護水準、実態給与というさまざまな自治体の条件に応じて制定されている。ただ、賃金条項を設定されているのは、都道府県レベルではまだない。
【斉藤委員】
都道府県レベルで賃金条項が盛り込まれていないというところに限界と問題点がある。
市区町村といっても、政令市でもすでにやられており、川崎市や相模原市など、岩手県より人口の多いところでもやっている。だから、成果のあるところで、岩手県も先駆的に盛り込むぐらいのことをやらなかったら、何のための幸福かということになる。
岩手県の契約に関する条例の基本理念に「適正な労働条件の確保」とある。適正な労働条件の確保がされていないことを具体的に指摘したので、条例の基本理念からいっても、適正な労働条件の確保をどう実現していくか。全国の実例もあるとすれば、それを盛り込むというのは当然ではないか。
委託関係でいくと、これは本当に低額で落札する例が岩手でもかなりあった。これも、きちんとした基準・下限を示してやらないと、結局は業者と労働者にしわ寄せがいってしまう。そういう意味で、岩手県が発注する事業で、ワーキングプアをつくってはならない。この立場が大切ではないか。
政令指定都市の賃金条項の中身と、県の条例の理念を実現するために、岩手県が幸福をキーワードに今こそ踏み込んだ見直しをすべきではないか。
【雇用対策労働室長】
ご指摘のあった点については、審議会の場もそうですし、今年度労働問題懇談会というものも実施しており、その際に、岩手県建設労働組合の会長さんも出席し、建設業協会からも代表者が出席し、さまざま議論があった。組合の方からは、委員ご指摘のようなお話もあった。そういったものも審議会の場で情報共有しており、先ほど4つの論点を示したが、その中にきちんと賃金条項や下限額、目黒区の先進事例なども共有し、そういったことは研究している。その中で、どのような議論があるかというのは第3回の審議会で十分議論いただきたいと考えている。
【斉藤委員】
目黒区の先進事例を詳しく紹介していただきたい。
【労働課長】
実際に訪問し、時間をとっていただき聞いている。条例は29年12月7日に公布され、30年10月1日施行ということで、できたての条例ということで訪問した。
公契約の経緯については、自主的に外部有識者で構成されている入札監視委員会等での議論を通じて条例制定に至ったと。
条例にかかる措置規定ということで、岩手県でいう公契約の範囲というところだが、県と同じく一定金額を公契約の範囲として設定している。
いわゆる規制型の条例の内容については、契約に関する法令の順守に加え、報酬下限額以上の支払いを規定し、違反があった場合は契約を解除できるという規定にしていると聞いている。
30年5月に審議会を開催し、報酬範囲について審議・決定したと聞いている。
【斉藤委員】
目黒区は賃金条項を定めていると。その賃金条項の中身を紹介していただきたい。
岩手県の契約に関する条例は、おそらく県レベルでは1番か2番だったと思う。長野県も同時期に制定した。県の公契約条例のレベルを決めるのは岩手だと思う。先導的に条例を制定したので。スタートは理念条例だといっても、3年後の見直しで、先進事例と言われる市区町村の中身を県でも盛り込むと。そうすれば「さすが『幸福』をキーワードとした岩手県だ」となると思う。残念ながら岩手の理念条例が、県レベルの条例のベースになってしまったと思う。市区町村では賃金条項を定めているところは多い。そして実効性を持たせているし、人口レベルでは岩手を超えるような政令指定都市でも実施しているので、今こそ「幸福」をキーワードにする岩手県が踏み込むべきではないか。そうすればさらに県レベルの取り組みを引き上げる、発展させる原動力に岩手がなるのではないか。
【労働課長】
目黒区の賃金下限額の定め方について。工事については、「公共工事設計労務単価を勘案して決定される金額」とされており、委託等については、「職員給与条例に定められた額を勘案して決める」とされている。
県レベルでの制定状況については、岩手県のほか、奈良県・愛知県・沖縄県・岐阜県・長野県で制定しており、いずれも賃金条項は規定されておらず、理念型条例である。もっとも早い時期に制定した長野県が26年3月に公布されており、次が奈良県、岩手県ということで、全国3番目のスタートというところで、制定時の検討においては、長野県・奈良県も参考にさせていただき検討した。
【商工労働観光部長】
賃金条項に関しては、労使をはじめさまざまな意見があるところであり、この条例が制定された際にもさまざまな意見があり、まとまりきらずに条例の中には盛り込まれず、3年間の施行状況を見ながら改めて検討するとしたものである。
最低賃金制度がある上に、さらにこの条例で下限額を設けるということであるので、一方では、労使によって賃金は定められるべきだという原則的な意見を持っている方もいるし、労働条件を向上させて人材確保につなげていくべきだという意見もあることは承知している。さまざまなご意見があるので、条例に基づいて設置された審議会において議論がされており、労働政策的な意味に加え、経済政策的な意味合いが強くなってくると思うので、審議会でしっかり議論していただいた上で県としても判断していきたい。
【斉藤委員】
例えば公共工事であれば、公共工事の設計労務単価で事業の設計価格は決まる。本来なら、設計労務単価で人件費を払うことは基本である。それが5割前後にとどまっていると。これを7割8割で設定しても企業は損をしない。それ以上の設計労務単価で積算されているので。これは本来労使が対決する問題ではない。そのようにしてこそ、下請けや末端で働く労働者の待遇が改善されて、消費にまわって、地域経済は潤う。そして建設労働者の確保の力にもなっていくという関係なので、労使の誤解を解く徹底した審議を求めると同時に、意見がまとまらないから改善できなかったということにならないように、県がそれなりのリーダーシップをとって、県レベルでは全国初と言われるような見直しに踏み出していただきたい。