2019年3月12日 予算特別委員会
保健福祉部に対する質疑(大要)
・高すぎる国保税の問題について
【斉藤委員】
国保加入者の所得と国保課税額の推移はどうなっているか。
【健康国保課総括課長】
最新の国の公表データである平成28年度を基にお答えすると、本県の国保被保険者の1世帯当たりの総所得額の平均は124万3000円で、基礎控除33万円を差し引いた課税所得額は91万3000円、平均国保税額は13万9000円となっている。これを、後期高齢者医療制度が導入され国保制度が現在のものになった平成20年度と比較すると、平均課税所得額が2万3000円の増、平均国保税額は8000円減となっている。
なお、1世帯当たりの人数が減少しているので、1人当たりの平均国保税額でみると、平成20年度が8万2042円にたいし、28年度は8万5712円と3670円の増となっている。
【斉藤委員】
平成28年度は、負担率でいくと課税所得に対して15.22%と大変重いもので、一人当たりでみればやはり負担が増えていると。
12月議会の一般質問でも聞いたが、中小企業の労働者が加入する協会けんぽと盛岡市の国保を比較した場合、所得400万円で4人家族・片働きだと、協会けんぽは20万円、国保は40万円だった。加入する制度によってこれだけ格差があっていいのか。せめて国保も協会けんぽ並に引き下げることが必要だと思うが、県はどういう認識で、引き下げるためにどういう手立てが必要か。
【健康国保課総括課長】
ご紹介あった通り、協会けんぽとかなりの差があるという状況である。この背景には、国民健康保険の被保険者の年齢構成が高く医療水準が高いこと、所得水準が低いといった構造的な問題があるものと認識しており、こうした構造を踏まえた財政措置が必要だと考えている。
今般、国保制度改革があり、制度改正においては、国の財政措置が拡充され、一定程度の財政基盤の強化が図られた。これに伴い、保険税負担の伸びの抑制が図られたところだが、一方で、今後も医療費の増加が見込まれており、県としては、国の財政責任のもと、将来にわたる持続可能な制度の確立、協会けんぽなどと比較した場合の保険料の均てん化・平準化等も踏まえたさらなる財政措置が必要ではないかと考えている。
【斉藤委員】
大変重要な答弁があった。「国保の構造的問題」と。所得は低いのに保険税は高い。協会けんぽの2倍にもなっている。これはどういう問題かというと、住民のくらしと健康を守るうえでも重大な問題で、国保制度の構造的な問題を解決するという点でも重要な問題だと思う。
その点で、全国知事会が協会けんぽ並の引き下げを求めている。そして1兆円規模の財政投入が必要だと。私たちは全面的に賛成である。都道府県化にあたって3400億円の国庫負担を増やした。しかしこの程度では、全国で一般会計から繰り入れしている額と変わらず、新たな引き下げにならない。そういう点で、全国知事会が求めた1兆円規模の国費の投入と、協会けんぽ並の引き下げに強力に取り組まないと、まともな国保の問題の解決にならないと思うがいかがか。
【保健福祉部長】
国に対しては、国保制度の構造問題を踏まえた将来にわたる持続可能な制度の確立、そのためにも必要な財政措置ということを強く要望しており、十分な措置が図られるよう、県としても全国知事会等とも連携しながら継続的に求めていく考えである。
【斉藤委員】
継続的に、強力に。これなしでは国保の問題は解決できない。
来年度の国保の納付金額と一人当たりの保険税額はどうなるか。どのぐらいの市町村が値上げになる試算となっているか。
【健康国保課総括課長】
31年度において、市町村が県に納付する国保事業費納付金の総額は322億5900万円余であり、被保険者一人当たり保険税額は96433円と試算している。昨年度算定時の92402円と比較して4031円・4.4%増となっている。
実際の国保調停額については、市町村において県が示す納付金額だとか標準保険料率を参考としつつ、前年度からの繰越金、経営所得者に対する減免措置、一般会計からの繰り入れなどを勘案して決定するものであり、これより低くなるのが一般的である。
先月中旬に県が行った各市町村への聞き取り調査によると、県が示した31年度納付金や標準保険料率を踏まえた保険税率の改定を予定している市町村は、把握している限りで、未定も含めて5市町村となっている。
【斉藤委員】
5市町村が引き上げの可能性があるのか、引き下げも入っているのか。
【健康国保課総括課長】
4市町村については、各市町村議会に条例議案を提出していると聞いている。1市町村については鋭意検討中と聞いている。
【斉藤委員】
それは値上げということですね。
県からいただいた資料で、今年度の一人当たりの調停額は平均して82169円だった。岩手県が示した激変緩和措置後の保険税額は96433円と、単純に今年の調停額と比較すると14264円上がってしまう。ただ今の話を聞くと、これは上げられないということになり、5市町村が上げるということになっているのだと思う。
国保の都道府県化をやって値上げになったら困るということで、実は30年度は上げないように国は指導した。激変緩和措置の期間は上げないようにということも指導している。今でさえ高すぎる国保を抑えるために、29年度は14市町村が一般会計からの繰り入れを行った。これは当然の措置であり、これからも高すぎる国保を値上げさせないという点で、市町村が一般会計から繰り入れるのは積極的な措置だと思うがいかがか。
【健康国保課総括課長】
一般会計からの法定外繰入については、昨年度市町村と協議しながら策定した運営方針があるが、この中において、「国保制度の安定的な運営のためには、国保財政の健全化が必要という共通認識のもとに、決算補てんを目的とした法定外の一般会計繰入の解消に努める必要がある」と定めて取り組みを進めている。
一方で市町村においては、それぞれ運営上の課題もあり、その判断により法定外繰入を行うことは可能と考えており、県としては一律に解消の方向で求めているところではない。
【斉藤委員】
一律に解消を求めていないのは当然で、市町村の自治権である。ましてや、高すぎる国保税で困っている人たちの値上げを抑える措置なので、県の国保運営方針は間違っていると思う。
国保には、所得が低いのに他の制度よりも倍も高い国保税が押しつけられている。こういう中で、市町村が防衛的措置で値上げを抑えるのは当然である。それを解消の対象にすることは被保険者の立場に立っていない。歪んだ制度の中で、その制度を守ることしか考えていないとなってしまうのではないか。
【健康国保課総括課長】
やはりこれは国民皆保険を支える重要な制度であり、永続的な運営をしていくために国保会計の健全化が必要だという認識は全市町村で共有して取り組んでいる。そういった認識に立った取り組みであるので、それぞれの状況に応じた対応はあろうかと思うが、基本的に健全化に向けた取り組みとして、基本的な考え方として取り組みを進めていかなければいけない事項と考えている。
【斉藤委員】
国保に構造的な問題があるということは健全ではないということである。それは、国庫負担がこの間どんどん減らされてきた結果である。だから全国知事会もその歪みを正そうと、国保の都道府県化にあたって1兆円の国庫負担が必要だと。加入する保険制度によって倍も保険税が違うということは、こんな社会的不公正はあってはならない。
いま国保に構造的な問題があるということは、歪んでいるということである。その問題の前提にして、国保の財政基盤だけ維持しようとしたら、加入者は犠牲になる。そこは正しくないと思うがいかがか。
【保健福祉部長】
国保制度改革の前後で、被保険者の負担の変化に十分配慮した対応をするということで、ご指摘あったように、平成31年度の国保被保険者一人当たり保険税は96433円だが、28年度は97013円なので、県としてもさまざまな激変緩和措置を講じて、市町村と一緒に行っていると。また、各市町村において適切な措置について判断しながらやっているところである。
一方で、国保制度の構造的な問題があって、そこは持続可能な制度を確立するように国に求めていくということは先ほど述べた通りであるので、そこは国で十分な財政措置が行われるように市町村とも一緒になって国に求めていきたい。
【斉藤委員】
国保の構造的な問題があって、中小企業の労働者が加入している協会けんぽと比べても、所得によっては2倍の違いがあるということは異常なことであって、是正しなければならない。そういう立場で国保運営をする必要がある。
・均等割の問題について
【斉藤委員】
なぜ国保が高くなっているか―。最大の理由は「均等割」である。これは他の保険税にはない。他の保険税は所得にかかるが、国保税は家族の人数にかかってくる。子どもが多ければ多いほどかかる。0歳の赤ちゃんにも同じようにかかる。まさに「人頭税」と言われるような前近代的な課税制度になっている。だから、少子化対策を考えても、この均等割の是正が必要である。これも全国知事会も要求している。
高田一郎県議も一般質問で紹介したが、宮古市が来年度から0歳〜18歳までの均等割を免除するという画期的な方向を示した。私たちが把握しているところでは、25の市町で均等割の免除・減免が実施される。仙台市は3分の1減免など。宮古市のように全額免除は3市ある。この均等割の減免は緊急の課題ではないか。全国知事会が求めている取り組みを岩手県でこそ、宮古市に続いて進める必要があると思うがいかがか。
【健康国保課総括課長】
均等割の減免については、国保税の標準課税総額に対する標準割合というのが地方税法で定められているが、具体的な課税にあたっては市町村が地域の実情に応じて適宜割合を変えられるという取り扱いになっている。
岩手県において、均等割の国保課税総額に占める割合が大きく、約3割を占めている。これを賄えるだけの財源を確保せずに均等割の減免を行うことは、被保険者間の負担構造を大きく変えることにつながってしまうという大きな課題がある。市町村においては、そういったことについて十分な議論を行いながら慎重に検討を行っていただきたいと考えている。
県としては、こうした措置は、現行制度の中で個別の市町村が財源負担を行いながら導入するものではなく、各自治体の財政力の差によらずに、全国どこの地域においても平等な水準で行われるべきものという認識であり、全国知事会を通じて国に要望している。引き続き国に求めていきたい。
【斉藤委員】
全国一律にやられるべきである。
それで、1兆円の国庫負担があれば、実はこの国保会計の3割に相当する。だから均等割をなくして、そうすると協会けんぽ並に近づく。ここに一番の基本方向があると思う。同時に、国がまだそこまでいかない段階で、宮古市のように一般財源から投入してでも、子どもの多い世帯に子どもの均等割はなくしていこうという姿勢は当然の方向だと思う。宮古市はふるさと納税を使って、年間1800万円程度で済むそうだが、0歳から18歳まで免除する。決して多額の財源ではないと思う。宮古市が大胆にそういう方向を岩手から示してくれたと。この方向を広げて、国に1兆円の国庫負担を求めていくことが必要だと思うがいかがか。
【健康国保課総括課長】
宮古市の取り組みは、ふるさと納税を使って「市長におまかせ」という財源だが、一般財源よりは多少ハードルが低い取り組みだったのではないかという感じもしている。しかしながら、1800万円は多額の金額で、なかなか全市町村で取り組めるような金額ではないかと思っているが、いずれ県としては、国がしっかり財政措置をするというのが基本だと思っている。
近年、国保制度改革の議論が先行しており、残された課題について議論していく機会がどんどん増えてくると思うので、そうしたことを国に提案しながら議論を進めていきたい。
【斉藤委員】
国を変えるためには、県・市町村からその動きを広げていくことが大事だと思う。宮古市が決断したからこそ、岩手からその動きを広げる必要があるのではないか。
・国保税滞納者へのペナルティの問題について
【斉藤委員】
高すぎて払えないために滞納者が出ている。高すぎて払えないのに二重のペナルティをかけている。短期保険証の発行、資格証明書の発行、資産の差し押さえ―こういうやり方はすべきではないと思うが、実態はどうなっているか。
【健康国保課総括課長】
県内市町村における平成29年度の差し押さえは3815件、差し押さえ金額は約12億4000万円。年度末における滞納世帯数は15687世帯となっている。
平成31年2月1日現在における短期被保険者証の交付世帯数は5115世帯、資格証明書の交付世帯は133世帯となっている。
【斉藤委員】
高すぎて払えずに苦労しているときに、資産を差し押さえたり、まともな保険証を出さないと。これはあってはならない。「幸福」をキーワードにすると言っているときに、こんなことはやってはならない。
どんな事態が起きているか。これは全国民医連が3月6日に発表した全国民医連管内の病院における実態では、1年間で77の死亡事例が発生した。経済的理由による受診困難で。すべての医療機関で見たら何十倍という規模になると思う。保険証を取り上げられた、保険証があっても医療費が払えなかった方々が「手遅れ」で亡くなっている。
例えば短期保険証は5115世帯に交付され、うち未交付世帯は974世帯・1346人。この人たちには保険証が届いていない。人権侵害である。滞納しているということだけで保険証が届かなかったら病院にかかれない。10割負担である。こういう事態は人権侵害という立場でただちに改善すべきである。
滞納処分のことが言われたが、3815世帯・12億4100万円余。このうち、給与まで差し押さえしているのが29市町村もある。生活ができなくて国保を滞納している人に、わずかの給与を差し押さえたら、生活費がなくなる。これは国税徴収法で「生活の費用は差し押さえしてはならない」となっている。この給与の差し押さえは、生活を破壊する、命を脅かす深刻なものだと思う。宮城県で裁判になったが、給与が差し押さえられて収入が全くなくなったと。裁判は勝利すると思う。こんなことはやってはならないと思うがいかがか。
【健康国保課総括課長】
給与の差し押さえについては、国税徴収法の規定により、1ヶ月につき本人分として10万円、同一生計親族がいる場合は一人当たり45000円を超えた額までは差し押さえができないこととされており、基本的にこれをもとに生活費が確保される範囲でという解釈で運用がなされているところであり、それ以外に、病院を受診したい状況があるにも関わらず、短期証等が交付されない状況にならないようにというような運用の工夫、的確な運用については、各市町村の担当者会議だとか各市町村の実地の検査等もあるが、そういった場面を活用してさまざま助言を行いながら適切な対応を行うよう促している。
【斉藤委員】
問題は、滞納を「生活困難のシグナル」という立場で、滞納者の生活再建を支援することこそが本筋ではないか。滋賀県野洲市の紹介をしたが、2月24日の河北新報で「許されない過酷取り立て」という社説があるが、多賀城市役所では、生活困窮者を支援する民間団体のスタッフが常駐して、納税の義務を果たせるレベルまで自立させる支援をしているという紹介もされている。
12月議会の一般質問に対して知事は「やはり自立して、そして滞納を解消していただくことが一番であります。社会的にも困窮している人たちの実態にもうちょっと踏み込んでやってもらおうと、そういう流れを岩手でも、遅れをとらぬようにつくっていきたい」と前向きの答弁を行った。この知事答弁を踏まえて、そういう対応が岩手県内で行われているか。
【健康国保課総括課長】
野洲市の事例をご紹介いただいたが、知事の答弁の中でもお話ししたと記憶しているが、県内市町村においても、それぞれ実情に応じた対応を行っていると承知しており、中には、野洲市のような生活困窮者にかかる私債権等の徴収停止や債権放棄ができることを想定した債権管理条例を制定している例、それから庁内横断的に徴収困難な債権の情報を管理し、状況に応じて生活再建の視点を踏まえた納付指導を行うなど、滞納者の個別事情に寄り添った支援を行っている例など、工夫した対応も見られる。
県としては、こうした事例の共有を図りながら市町村に対して適切な対応を促していきたい。
【斉藤委員】
知事も踏み込んだ答弁をして、県内にもそういう動きがあるということで、それを主流にしていただきたい。滞納者に対して機械的な保険証の取り上げや資産の差し押さえは止めるべきである。滋賀県野洲市は「滞納してもらってありがとう」「滞納は生活困難のシグナル」という姿勢でやっている。そういう流れでこそ滞納はかえって解消されているのが実態なので。岩手県が「幸福」をキーワードにするのなら、ぜひそういう方向で取り組んでいただきたい。