2019年3月15日 予算特別委員会
農林水産部(第一部)に対する質疑(大要)


・東日本大震災津波からの復興状況について

【斉藤委員】
 農地の復旧状況と耕作面積はどうなっているか。
 大船渡市のトマトや陸前高田市のイチゴなど、新たな取り組みもあるが、復旧の特徴はどうなっているか。

【農村建設課総括課長】
 東日本大震災津波で被災した沿岸部では、2月末までに復旧対象農地面積545ヘクタールのうち513ヘクタールの復旧が完了している。残る32ヘクタールについては、主なものは陸前高田市の高田沖地区であり、この地区は、仮置きされていた市街地のかさ上げに利用する盛土が昨年3月に撤去されたことから、その後圃場整備工事を実施しており、本年春の営農再開の見通しが立ったところである。
【農業普及技術課総括課長】
 耕作面積について。県では、毎年5月末時点の復旧農地について作付状況を調査している。30年度は、この時点で復旧が完了した511ヘクタールのうち94%となる481ヘクタールで、水稲・麦などの主要作物等が作付されている。
【農産園芸課総括課長】
 東日本大震災津波の被害を受けた沿岸地域では、夏期冷涼で冬季温暖な気象条件を生かし、高規格ハウスなどの園芸施設でのトマトやイチゴの生産や、ワイナリーの設立を契機とした醸造用ブドウの生産が新たに開始されるなど、園芸品目を中心に産地化に向けた取り組みが進められている。
 県では、これまで国の交付金等を活用しながら、これらの取り組みに対してさまざまな支援を行ってきたところであり、引き続き、沿岸地域の特性を生かした園芸産地の形成に取り組んでいきたい。

【斉藤委員】
 3月13日付の岩手日報の論説だが、陸前高田市横田町で、大きなイチゴハウスをICT=情報通信技術を活用して取り組んでいると。若手農業者に呼びかけて、「陸前高田 食と農の森」ということで、若者が一緒になって農業振興に取り組んでいるという動きを大事にして、本当に「復旧」から「復興」へということで、県としても大いに取り組みを強めていただきたい。
 農業就業者の推移、経営体経営規模はどうなっているか。
 原発事故による放射能汚染の被害総額と賠償、復旧の状況はどうか。

【担い手対策課長】
 平成27年の農林業センサスで、沿岸12市町村の農業経営体数は4386と5年前の平成22年と比べ25%の減となっている。
 経営形態については、個別経営4277、法人経営109となっており、5年前比で個別経営26%減となる一方、法人経営では38%の増となっている。
 経営規模については、経営体1戸当たりの経営耕地面積は2.1ヘクタールとなっており、5年前比で11%増となっている。
【企画課長】
 農林水産関係の損害賠償協議会における東京電力への損害賠償請求額については、31年1月末現在で、農畜産物関係431億1000万円余、林産物関係が14億6000万円、水産物関係33億8000万円余で、総額479億5000万円余となっている。請求額に対する支払額は、農畜産物関係では422億円余、林産物関係14億6000万円、水産物関係33億8000万円余で、総額では約470億4000万円余、支払い率98%となっている。
 出荷制限の解除状況については、昨日、クロダイが解除になり、これを含めると、ソバ・大豆・マダラなど13品目が出荷制限の解除がされている。一方、出荷制限の指示が継続されているのは、山菜類・野生キノコ・原木など19品目となっている。原木シイタケについても、3月12日現在、生産再開の意向を持っている生産者316名中204名の生産者が生産制限が解除されている。

【斉藤委員】
 原木シイタケの復旧はまだまだで、出荷制限も19品目にわたっているということで、この取り組みはぜひ進めていただきたい。

・TPP11・日欧EPAの影響と対策、日米FTAについて

【斉藤委員】
 TPP11、日欧EPAの影響を具体的にどう把握しているか。

【企画課長】
 TPP11については昨年12月30日、日欧EPAについては2月1日に発効したところだが、国では、発効後における牛肉の輸入量についてデータで交付している。
 TPP11発効国からの輸入量は、31年1月が約33000トンで前年同月比155%、2月が約52000トンで前年同月比101%となっている。EUからの輸入量については、2月は102トンで前年同月比約14倍となっている。
 輸入量の増加について国では、TPP11の発効にともなう関税の引き下げのほか、為替の影響等により、輸入業者は昨年12月から本年1月に繰り越したという特殊要因もあるのではないかという考え方も示しているが、県としては、これまでも国に対して農林水産業への影響について十分な情報提供をするよう、あるいは「総合的なTPP関連政策大綱」に基づく施策を十分に多岐に実施するよう要望してきており、今後も国の責任による万全な対策を行うよう要望していきたい。

【斉藤委員】
 1月は1.55倍に牛肉の輸入量が増えて驚くべき増加で、2月は101%ということでもう少し推移は見る必要があると思うが、直後から影響が出始めている。これはきわめて重大だと思う。
 日欧EPAについて国会でも論戦があったが、EUが試算をした。加工食品の対日輸入で1.5倍・約1300億円輸入額が増えると。うち乳製品は215%・984億円増やせるというのがEUの試算である。日本の試算は、乳製品で生産額が203億円減少と4.5倍も開きがある。デタラメな試算ということが明らかになったと思うが、どのように見ているか。

【企画課長】
 EUの試算が公表されたことは承知しているが、計算方法の詳細については把握していないところであり、その部分についてコメントすることは難しいと考えている。

【斉藤委員】
 EUとの関係では、乳製品の輸入増というのはきわめて大きな影響を与えるのではないか。12月議会でも北海道の大学院の先生の試算を示して、約1000億円程度の影響があるというものだった。だいたい一致すると思うが、すでに酪農家は、主要戸数・頭数が大幅に減少しているのではないか。岩手における実態はどうなっているか。

【畜産課総括課長】
 全農県本部で受諾している酪農戸数については、だいたい毎年度30戸程度ずつ減少してきている。ただ、規模の小さい方々が出てきていたので、ここへきてある程度減りは少なくなってきている。頭数についても、データの傾向とすれば減ってきているが、戸数ほどではない傾向である。

【斉藤委員】
 全面自由化を前にして、どんどんやっていけなくなって縮小している。だから生乳不足で輸入を増やしたりしている。ここで一気に輸入が増えたら、本当に致命的な打撃になりかねない。
 こういう中で、日米FTAの本格的な交渉が1月から進められている。日米FTAはTPP以上、まさにダブルパンチになるのではないか。これに対する県の対応はどうなっているか。

【企画課長】
 日米物品貿易協定については、昨年9月の日米首脳会談において、協定の交渉を開始することが合意され、今後、交渉結果によっては農林水産業への影響がさらに拡大されることが懸念されると思っている。このため県においては、機会あるごとに国に要望してきたが、去る3月11日にも、部長等が上京し、交渉における協議内容について十分な情報開示と説明を行うとともに、国益をそぐわない交渉は決して行わないことや、地域経済や国民生活に影響が生じると見込まれる場合には、交渉からの撤退も含め断固たる姿勢で臨むよう要望してきた。
 今後においても、国の動向を注視しながら必要な対応を検討していきたい。

【斉藤委員】
 安倍政権の農業政策というのは「全面自由化」。国内の農業・食料をすべて明け渡すような、亡国の農政ではないか。
 2年前の農業新聞、JA組合長アンケートで、安倍政権の農業政策「評価せず」が93%である。いわば、農家の先頭に立っている組合長アンケートの結果である。これについてどのように受け止めているか。

【企画課長】
 28年1月4日の農業新聞と承知しているが、同紙が行った全国の組合長に対してのアンケートだが、県以外の組織が実施したアンケートであるので、意見を申し述べることは差し控えたい。

【斉藤委員】
 農家・農民の痛烈な安倍農政に対する批判の表れだと指摘しておきたい。
 実は今年の1月4日も、農業新聞が組合長アンケートを行った。「低迷する食料自給率の向上策」で、第1位は「中小規模の農家を含めた多様な担い手を対象とする所得政策の実施が必要」というのが65%だった。

・国連家族農業の10年の意義と取り組みについて

【斉藤委員】
 来年度から、国連家族農業の10年が始まるが、この取り組みの意義をどうとらえ、県としてどう取り組もうとしているか。

【農業振興課総括課長】
 国連が家族農業が食料生産等に果たす役割を周知するため、2014年に提唱した「国際家族農業年」について、10年間延長したものと承知している。家族農業の果たす役割の重要性を広く世界に周知する意義のある取り組みととらえている。
 家族農業に関わる事業について。国連は2017年の総会において、2019〜2028年までを国連家族農業の10年と定め、加盟国等に対して「各国が家族農業にかかる施策を推進するよう求めた」と承知している。本県の農業経営は97%が家族経営体となっている。本県の農業振興施策全体が国連家族農業にかかる事業ととらえている。

【斉藤委員】
 岩手県の事業を見て、残念ながらいわて県民計画にも、同じ10年間なのに国連家族農業10年の取り組みがなかった。県予算を見ても、従来通りの事業しかない。すべての事業が規模拡大が条件になっていて、本当の意味で家族農業を支援する施策になっていない。

・種子条例の制定について

【斉藤委員】
 種子法が果たしてきた役割をどうとらえ、廃止の理由と県の受け止めはどうか。

【水田農業課長】
 主要農作物種子法は、稲・麦・大豆の優良種子の生産・普及を促進するため、都道府県が種子生産圃場の指定、種子等の審査、原種・原原種の生産、奨励品種決定のための試験等を行うことを定めていたものである。
 法廃止の理由は、国の資料によると、種子法に基づき普及すべき優良な品種を奨励品種として指定するための試験を都道府県が実施し、稲の奨励品種として全国で合わせて444品種が指定されていたが、民間企業が育成した品種は指定されていなかった。こうしたことから、民間活力を最大限に活用した種子の開発・供給体制を構築するため、民間の品種開発意欲を阻害している種子法を廃止したものとされている。
 県は、水田農業の振興上、米・麦・大豆の優良種子の安定供給はきわめて重要であると考えており、主要農作物種子法は廃止されたが、引き続き県が関与し、優良な種子を安定的に生産・供給する体制を維持した。

【斉藤委員】
 この種子法廃止は異常なものだった。農業新聞では、「唐突な廃止劇だった。廃止法案が閣議決定された2ヶ月後には、わずか12時間の国会審議で成立した」と。今までの日本の農業にきわめて重要な役割を果たしてきた。まともな審議もしないで、規制緩和の推進委員会の報告を受けて強行してしまった。今述べたように、民間活力最大限である。
 これはあまりにも大変な事態ということで、いま都道府県で種子条例の制定が広がっているがどう把握しているか。
 県が種子条例の要綱を制定したが、要綱における法律や条例の根拠がないのではないか。これだったら種子は守れないのではないか。

【水田農業課長】
 都道府県における種子条例制定については、すでに山形県・埼玉県・新潟県・富山県・兵庫県の5県で条例をすでに施行、31年4月1日からは北海道・福井県・岐阜県・宮崎県の4道県、今後条例の制定を予定しているのは長野県となっている。
 なお、種子生産を行わない東京都を除く本県を含む36府県では、要綱・要領等により対応している。
 県の要綱については、種子法の廃止にともない、同日付での要綱を制定し、種子生産を維持していくとしたものである。

【斉藤委員】
 急速にと言ってもいいぐらい、都道府県で種子条例が制定されて、種子法を復活させる法案も国会には出されているが、この動きが大事だと思う。
 たしかに県は要綱を設置したが、しかし要綱の根拠がない。しっかり条例制定し、岩手の貴重な米・麦・大豆を守ると。北海道は独自の品種も守る対象にしているが、そういうことが必要ではないか。
 県における種子条例制定の研究と取り組み状況はどうなっているか。

【水田農業課長】
 現在本県においては、要綱等にもとづき、県が種子の生産・供給に関与しているが、一方で、他の道県で制定された条例について、それぞれの条例制定の目的や規定の範囲が異なることから、その考え方について整理・研究が必要と判断し研究している。
 また、専門家からは、廃止された法律の規定により生じていた効果について、条例を制定し、所要の規定を設けることにより、これと同等の効果が生じさせようとする場合において、行政法学的観点から、検討する事項はないかというご意見をうかがっており、現在そのご意見を参考に研究を行っている。
 県としては、県における種子の生産等への関与のあり方について、どのような規範の形式がふさわしいかさらに研究していきたい。

【斉藤委員】
 今議会には、種子条例の制定を求める請願が提出されており、確実に採択される見通しだと思う。そこも踏まえながら、部長の決意をお聞きしたい。

【農林水産部長】
 種子の生産・供給等については、引き続き県が主体的に関与していきたいということについては、おそらく異論がなかろうと思うし、それは継続していきたい。
 それを決める規範形式については、現在は要綱でやっているが、他県の状況を見ると条例制定という動きもあり、さらに請願が提出されているということも承知している。
 どういったあり方が正しいのかについては引き続き検討させていただきたいし、さまざまなご意見があろうかと思うので、研究を進めていきたい。