2019年10月31日 決算特別委員会
ILC推進局に対する質疑(大要)


・高エネルギー加速器研究機構の提言について

【斉藤委員】
 ILC推進局が新たに設置されたので、質問に立った。
 日本共産党の立場は、ILCに対しては、科学技術の進歩・発展に寄与するという立場で、基本的に賛成である。同時に、8000億円近くの経費のかかる巨大な国際的・国家的プロジェクトであるので、そのためには、国民的・県民的な理解を踏まえて進めるべきだと。その際、日本学術会議の提言・所見というものを尊重して進めるべきだというのが私たちの立場である。
 その立場に立っていくつか質問したい。
 1つは、10月2日の高エネルギー加速器研究機構の「国際分担等に関する提言」が出された。この提言というのはどういう性格の提言なのか。その提言の中身について示していただきたい。

【計画調査課長】
 高エネルギー加速器研究機構が本年5月に、欧州・北米・アジアの7名の研究者からなるILC国際ワーキンググループを設置し、運転経費の国際分担、ILCを実現するための組織のあり方などについて議論が行われたものであり、ILCプロジェクト実施に関する提言として、10月2日に公表されたものである。
 この提言は、今後のILCに関するさまざまな議論の場で役立たれることを期待し、研究者の観点で取りまとめられたものである。

【斉藤委員】
 KEK(高エネルギー加速器研究機構)が設置した国際ワーキンググループの議論を踏まえて、KEKが提言を出した。これはILCの国際機関が出したというものではなく、あくまでKEKが。ここに参加した科学者というのは、個人の資格で参加している。だから、KEKが今後の国際的議論、政府の議論を進める上で出した提言という性格のものではないかと思うがいかがか。

【計画調査課長】
 その通りであり、提言では、経費の国際分担として「トンネル等の建築はホスト国の負担」「加速器物品はILC研究所に参加するメンバー国での分担」「電気・機械設備等のインフラは主にホスト国の負担」としており、「運転経費は参加メンバー国で分担することを政府間であらかじめ合意しておくべきであること」としている。組織のあり方としては、準備期間においては、「世界の研究機関の間による覚書にもとづき、ILC準備研究所を設置し、KEKがホスト研究所としての中核を担うこと。政府間合意が成立した段階では、準備研究所がILC研究所に以降し、ILCの建設・運転において長期的に責任を負うこと」などが挙げられている。
 この提言を参考に、国際的な経費分担や組織運営の議論が深まることを望んでおり、今回提言されたものである。

【斉藤委員】
 いま仙台で国際会議が開かれているので、KEKの提言がILCに関わる研究者の国際機関の合意になるのか、ならないのか。そういうことも議論されているのかどうか。
 それから、具体的なものは、ILCの土木建築費は最大1290億円で日本の負担ということを打ち出した。昨年7月4日の政府のILCに関する有識者会議では、見直したILC計画の概要で費用額が出された。最大約8000億円というものだったが、そうすると土木建築費はホスト国の日本が負担、インフラも日本が負担すると。今まで8000億円かかる経費について、世界と日本で半々の分担ではないかと議論してきたと思うが、違ってくるのではないか。残ったものの分担が最大でおそらく2分の1だと思う。4000億円ではなく、5000億円余が日本の負担になってくるというKEKの提言ではないか。

【計画調査課長】
 今回提言があったが、研究者間の会議ということで、今後政府による経費分担の議論が深まるということを望んでいる。
 経費については、加速器本体のかかる費用が4000億円を超えており、この部分については各国の分担ということになると思う。そういうことで、土木建築費は1290億円と示されていたが、加速器本体等がかなりの額になる。日本の負担についてはまだ分からないということである。
【ILC推進局長】
 この国際ワーキンググループの報告書、KEKの提言というのが分かりにくいというのはその通りである。
 まずもって改めて整理すると、3月7日に政府が初めての関心表明を出した。しからば、どういった形で国際協議が進むか、そういったもののたたき台というものをまずは研究者の「あるべき論」で議論しようということで、組織にとらわれない各国圏域の研究者が、どういった形の分担がいいかということで議論をまとめたのが報告書になる。まとめた報告書については、ぜひとも各国、国際的な議論を深める資料として使ってほしいと研究者から出されている。
 アメリカのディスカッショングループにおいては、この国際ワーキンググループの報告書を「注視する」という議論のプロセスが4月にあったところである。ヨーロッパにおいてもディスカッショングループの設置が合意されているので、こういったものが議論されて、国際的な役割分担というものが深まるものととらえている。
 おおむね半分ぐらいがホスト国負担というのが、これまで大きなプロジェクトの暗黙のルールのようなものだと言われている。今回はまさに、ホスト国が土木建築の部分、これはまさに直接のところがやるのが効率的であり、メンテナンスにも有利であるという見方をされているようである。そうしたことも含めて、全体としてどれぐらいの負担になるのかというのがこれから議論されるものととらえている。

【斉藤委員】
 KEK、ある意味1つの研究機関の提言なので、これは国際的な合意になったわけではない。ただその中で、土木建築費は日本が負担すべきという具体的な提言をすれば、あとの部分は折半ということになりかねないのではないか。そういう問題を指摘したので。

・科学者間の合意形成について

【斉藤委員】
 ILCを推進する上で、日本学術会議が昨年12月19日に出した、文科省の諮問による回答「国際リニアコライダー計画の見直し案に関する所見」―この所見がとても大事だと思う。この所見で示された具体的な課題は何か。対応はどうなっているか。

【計画調査課長】
 所見では、「経費が大きく、長期にわたる大型計画であり、学術界全体の理解や支持が必要なこと」「ILC計画に関して、地域振興や環境への影響など、地域住民との対話が肝要であること」などの指摘があった。
 「学術界全体の理解や支持」については、現在マスタープラン2020の策定、研究者が他分野の学会等で説明を行うなど尽力していると聞いているが、ILCに対する他分野を含む研究者コミュニティのコンセンサスが必要になっていくものと考えている。県においては、関係団体と連携し、ILCの国民的理解の増進を図るとともに、建設候補地として行っている調査の結果を提供するなど、研究者コミュニティの取り組みに協力している。
 「地域住民との対話」については、県ではこれまで各地で行っている講演会等において、ILCを契機とした地域振興について説明してきているが、現在は7月に策定した地域振興ビジョンにより、より具体的な説明を行うとともに、関係団体や研究者と連携し、ILCの最新の動向や計画内容について地域住民に解説する対話型の解説セミナーを開催している。さらに、住民からいただいた質問への回答を全てホームページで公開するなど、地域住民の理解増進に取り組んでいる。

【斉藤委員】
 日本学術会議の所見では、学術的意義を認める一方で、「ILC計画は、標準模型を超える新物理の方向性を探索するものだ。標準模型を超える新物理の探索には、加速器・非加速器とともに、さまざまな実験的アプローチがある。その中で、ヒックス結合の精密測定という研究課題がきわめて重要なものであることについては、合意が得られている」と。「さまざまな実験的アプローチがある」という指摘をしている。また、「所要経費が格段に大きく、かつ建設開始から研究終了までの期間が30年と長期にわたる超大型計画であることから、学術界における広い理解と支持が必要だ」とされている。「この点では、諸分野の学術コミュニティとの対話が不足している。他の諸学問分野の大型研究計画も含めたILCの位置づけに関しては、さらに広範な議論が必要だ」と。マスタープランでの議論というのは、ある機関での研究だと思うが、密室の協議である。広い議論にならない。広い研究分野、科学者間の検討が行われておらず、もっと行われるべきである。
 そして、「学術的意義の説明に加えて、地域振興の文脈で語られている、事故および土木工事や放射化物生成の環境への影響に関する諸事項について、国民、特に建設候補地と目されている地域住民に対して、科学者コミュニティからの正確な情報提供に基づいて、一層充実した対応がなされることが肝要である」と。これは議論もされているし、そういう取り組みもされていると思う。
 さらには、「研究者・技術者は日本の現状では不足しており、『新たな人材育成、海外からの参画によりまかなう』と説明されているが、不確定要素は多い」と。
 こうしたことを指摘した上で、総合所見として、「巨額の経費の主要な部分を日本が負担することに十分に見合うものであるとの認識には達しなかった。現状で提示されている計画内容や準備状況から判断し、ILC計画を日本に誘致することを、日本学術会議として支持するには至らない」というのが結論である。
 そういう意味でいくと、日本学術会議の提言を踏まえて、学者間でもっと広範な議論がされる必要があるのではないか。いまILC研究者というのは、素粒子物理学の中のもっと集約された方々で、ここで一致しているのはまったくその通りで、だいたい素粒子物理学の研究者も大方一致していると思うが。それ以外の研究者の合意形成というのは、まったくこれからではないか。
 こうした課題が国内的にも、県内のレベルでも、さらに積極的に取り組まれる必要があると思うがいかがか。

【副局長】
 学術分野や国民全体で広範な理解ということはその通りだと認識している。
 学術界全体の理解や支持については、マスタープラン2020のプロセスの中でも、KEKが中心となってやっており、また他分野の学会等での説明も行っていると聞いており、そうした活動でコンセンサスが広がっていくものと期待している。

【斉藤委員】
 私と認識がずれているが、国内の世論を見ても、岩手・東北は加熱しているが、全国的に見てそういう世論形成というものはないのではないか。そして学者間の議論というのは、まだ残念ながらなされていないのではないか。マスタープランの協議だけでは科学者間の合意形成はできないと思う。

・財源の問題について

【斉藤委員】
 それで、財政問題というのがもう1つの大きなネックになると考えているが、そういう意味では、いま1100兆円を超える財政赤字を抱えている中で、日本の財政そのものを、ムダをなくして、科学技術にもっと国家財政を投入していく姿勢が政府に見られなければ、学者にも国民にも理解が得られないのではないか。
 先日、岩手大学70周年の祝賀会で、県立大の鈴木学長にこのことを率直に聞いたが、鈴木学長は「あるところにお金はある」と。いろんなムダなプロジェクトはたくさんあって、見直せばILCの年間の200億円、300億円というのは難しいことではない」と。鈴木学長はかなりグローバルに、科学技術の研究のさまざまな実態を見ている方なので。そういうムダをなくすということがなければ、財源は出てこないと思う。本当に財源問題も正面から議論していかなければいけないのではないか。

【ILC推進局長】
 財源問題は、ご指摘の通り課題と見れば課題かと思うが、そのまま日本に対する投資でもあり、その投資がどう生かされるか、あるいはいろんな機器をつくる際に、日本の投資が新しい産業を起こすという投資とも性格的にはとることもできるのではないかと思うので、いかに日本の経済が潤い、またイノベーションによって新しい価値を生んでいくか、そういった視点も総合的に考えて、ILCそのものをとらえていければいいのではないかと思いながら、国への要望だったり、国の関係者もそのように思っている方々が多いと思っているので、ILCの実現に向けて一生懸命取り組んでいきたい。