2019年11月6日 決算特別委員会
農林水産部(第一部)に対する質疑(大要)
・台風19号による農林水産業の被害状況について
【斉藤委員】
東日本大震災津波からの復興、台風10号からの復旧・復興の中で、台風19号で大きな被害を受けた。県内の農林水産業の被害状況はどうなっているか。
農業の復旧の取り組みについて、国や県の特別の支援はどうなっているか。
【企画課長】
11月5日現在の農林水産業関係の被害額は、91億1753万円となっている。
このうち農業関係では、パイプハウスなどの破損や白作物等の冠水、リンゴの落下、農地への土砂流入や畦畔崩落、水路などの農業用施設の破損などにより、被害額は17億9197万円。
林業関係では、林道や作業道の路肩決壊や治山施設の法面崩壊、山腹崩壊などにより、被害額は47億3333万円。
水産関係では、サケ・マスふ化場などの浸水・破損、定置網やサケ採捕場などの破損、カキ・ホタテなどの落下被害などにより、被害額は11億6384万円。漁港施設では、漁港施設への土砂流入やケーソンの滑動などより、被害額は12億2839万円となっている。
現在、農地・農業用施設の復旧に向け、被災市町村と連携し、国の災害復旧事業の査定に向けた準備を進め、復旧工事の進め方などの技術的な助言を行っている。国の特別な支援については、10月25日に農林水産省が支援対策を公表した。この内容については、災害復旧事業などの実施にあたり、農業用ハウスや農業機械の導入の事前着手や共同利用施設の修繕の事前着工、机上設定限度額の引き上げによる災害査定の効率など柔軟に対応することとされている。また、10月29日には激甚災害に指定され、農地・農業用施設や農業協同組合等が所有する共同利用施設の災害復旧事業について、補助率のかさ上げが講じられることとなっている。
県としては、こうした国の事業を活用しながら、被災した施設等の早期復旧に向けて市町村や関係団体と連携して支援を行っていく。
【斉藤委員】
度重なる大きな災害で、特に農作物では、果樹・リンゴの落下、倒木等が2億4600万円余の被害ということで、これは主には内陸の被害のようだが、これに対する支援・対策はどうなっているか。
【農産園芸課総括課長】
県では、農作物災害復旧対策事業というものの中で、気象災害により著しい被害を受けた被災農家の経営や生活の安定を図るため、被害を受けた農作物の生育回復や被害の拡大防止にかかる経費を支援することとしており、この要望調査を行っている。
【斉藤委員】
災害復旧で必要なことは、やはり再生産を支援すると。そのためにも、収入の確保策。収入確保が断たれれば、それだけで続けるかどうかということになってしまうので、再生産への支援と所得確保策はどうなっているか。
【農政担当技監】
私からは、離農者を出さないような形でのきめ細かな対応状況についてお話したい。
台風19号による農作物被害への被害が懸念されたことから、台風襲来前に、冠水した水田などの排水対策や病害虫防除対策について、臨時の農作物技術条項を発行するなど、まずは技術対策の徹底を呼びかけた。
台風通過後においては、被害の状況を踏まえ、時間を置かずに共済金の早期支払いや、経営再開に向けた相談窓口の設置のほか、国に対して支援策の要望などを行っている。
今回、断水や道路の水没などで、生乳を廃棄せざるを得なかった酪農家が15戸・約9500キロに及んでいるが、ただちに生産者団体に対して互助会制度での補償について要請している。
さらに、被災した生産者の早期経営再建に向けて、越冬用の粗飼料確保や、農業施設・機械のほか、国庫補助事業に該当しない小規模な農地の復旧などの支援策について、現在本議会に追加議案を提案する準備を鋭意進めており、県としては台風19号災害により離農者が出ることのないよう全力で取り組んでいきたい。
【斉藤委員】
全国的にも2000億円を超える被害だと言われているので、国に対しても大震災並の支援策が講じられるように強く求めていただきたい。
・TPP11、日欧EPAの影響と日米貿易協定について
【斉藤委員】
昨年来の日米首脳会談を経て、日米貿易協定が調印された。いま国会でこの協定についての承認の審議が行われているが、TPP11、日欧EPAによる農林水産物の輸入の実績と影響はどうなっているか。
【企画課長】
国が公表した資料によると、TPP11発効後の平成31年1月から令和元年8月までのTPP11発効国からの輸入量は、牛肉24万5千トンで前年同期102%、豚肉21万8千トンで前年同期108%、チーズ10万6千トンで前年同期105%、林産物である合板9万3千立米で前年同期74%となっている。
日欧EPA発効後の平成31年2月から令和元年8月までのEUからの輸入量は、牛肉1400トンで前年同期507%、豚肉22万1千トンで前年同期113%、チーズ6万3千トンで前年同期114%、林産物である構造用集成材が43万2千立米で前年同期98%となっている。
食肉の輸入量の増加については、国では「近年の景気等を背景に、外食産業を中心に需要が旺盛だったことが主な要因」だとしており、「TPP11や日欧EPAの発効後に輸入量の増加が加速しているということではない」との考えを示し、「引き続き動向を注視していく」としている。
【斉藤委員】
「輸入が加速しているわけではない」というが、実態は輸入が加速している。EUからの輸入量は、牛肉で5倍、豚肉113%、チーズ114%と。これにさらにTPP11でも増えていると。まさにダブルパンチである。
「需要が増えた」というのは、関税が低くなって安く入ってくるからである。政府の言い分をあなたがオウム返しで言ってはいけない。
こういう中で、日米貿易協定が調印をされた。この協定で、影響額は600〜1100億円の生産額の減少だと。TPP11を加えると2000億円。これは暫定版の試算で根拠は全く示されていない。ペーパー2枚のみ。本格的な試算は年末=国会で協定を通してからだと。こんなばかな話はないと思う。やはり徹底した根拠のある試算を示すべきだと思うがいかがか。
【企画課長】
今回の暫定値としての公表については、TPP11のときには暫定値ではなく公式に発表したものがあった。それについては、専門家の検証を踏まえた上での正式な公表だった。今回は専門家の検証を踏まえていない中での公表だったということで暫定値だが、年末に国のTPPの関連政策大綱の見直しがあるので、それに向けて公式な影響額を発表すると聞いている。
【斉藤委員】
なぜこんなことをするかというと、トランプ氏の米大統領選挙のためである。そのために、根拠がないが暫定版で試算を出す。根拠がない中で日米貿易協定だけを国会で承認させると。こんなデタラメなやり方は許せない。
日本農業新聞10月30日付では、日米貿易協定とTPP11の影響試算について「従来通り、国内対策により農家所得や生産量への影響はゼロになると説明するが、その根拠や国内対策の内容は、今後の国会審議の論点になりそうだ」と。国内対策で農家所得や生産量への影響はゼロだということが前提である。あり得ないことである。国内対策は示されていないのに影響はゼロだと。その上での試算であって、これは試算と言えるのか。
【農林水産部長】
今回の暫定値の公表にあたっては、これまでの経緯や委員からお話のあった、暫定値を算定したときの推算根拠が一切示されておらず、早急にそうしたものを公表し、国民的な議論に付されるべきものと考えている。
【斉藤委員】
まったく根拠のない試算でさえ、日米貿易協定とTPP11を合わせると、最大2000億円の生産額の減少だと。これも軽視できないものである。まじめに試算したらいくらになるのか。
トランプ大統領は「アメリカからの輸入を72億ドル(7200〜7600億円)増やせる」と。日米首脳会談のときに、アメリカの農民団体を呼んで「アメリカ農民の勝利だ」と言った。7000億円を超えるようなアメリカ農産物の輸入を許したのが協定の中身ではないか。
【農林水産部長】
国の公表している資料で、2018年における米国からの輸入額が164億ドル、うち関税が撤廃、先ほどの品目の輸入額は72億ドルであり、その割合は44%あるが、72億ドルの根拠はそれかと思うが、これについては今回の措置が発動された場合での影響額ではなく、対象となる貿易額全体を指しているものということである。
影響についてだけコメントすると、国から詳細な資料はまったく提示されていない。例えば、県として影響を調べることは現時点では困難である。
【斉藤委員】
72億ドルの関税が撤廃されるということである。
安倍首相は「ウィンウィン」と言っているが全くそうではなく、一方的な譲歩である。ある新聞では「脅しに屈した」と書いた。一方的な譲歩、対米追従の交渉だったのではないか。
特に重大な問題として、一番影響があるのが牛肉で最大786億円。いま、肩・バラ肉の100gの国産牛は380円台、輸入肉は関税引き下げると198円。岩手県は有数の畜産県なので、この影響はきわめて大きいのではないか。
もう1つは、どさくさ紛れにトウモロコシを275万トン輸入すると。アメリカで余ったからである。余った農産物の輸入である。額にすると550億円分。これは飼料用作物とバッティングする。これまた重大な影響を日本や岩手の農業に与えるのではないか。
【農林水産部長】
畜産に関しては本県の場合、農業算出額の畜産に占める割合は約6割であり、本県農業に関しての畜産の占めるウェイトは非常に高くなっている。その中で公表された、試算値ではあるものの、国全体での数字ではあるが、TPP11等で県の影響額の試算を我々やったが、そのことを勘案すると、相当な県の畜産業に関しての影響はあるのではないかと思っている。
ただ残念ながら、国から試算の詳細についての資料提供がないので、本県への影響を詳細に試算することは困難である。早期に国においてそうした資料を提示していただきたいと考えている。
【斉藤委員】
部長も答弁しているように、暫定版の根拠のない試算で分からないと。こうした中で、国会で協定だけ通すということはあり得ないのではないか。
そういう状況だったらなおさら、日米貿易協定は撤回するということを求めていく必要があるのではないか。
【農林水産部長】
国会での審議に入っているので、国会の審議に委ねるものであるが、国際貿易のルールが変わった場合に、本県の農畜産物に与える影響は非常に大きい可能性が高いと思っている。このため国に対してはこれまでも、日米貿易協定交渉にあたっては、地域経済や国民生活に影響が生じると認められた場合には、交渉からの撤退も含めて断固たる姿勢で臨むよう要望してきた。
現在開会中の国会においては、日米貿易協定の承認案が審議されている。十分に議論を尽くしていただきたいと考えている。
・種子条例制定の取り組みについて
【斉藤委員】
全国的にかなり種子条例の制定が広がっているが、全国の取り組みをどう把握しているか。
2月県議会では請願が採択され、当局も真剣に条例の制定に向けて取り組みを進めていると思うが、どういう内容で準備を進めているか。
【水田農業課長】
現在13道県で条例を制定している。
これまで県では、他の道県で制定された条例について、制定の目的や規定の範囲がそれぞれ異なることから、すでに条例制定した長野県や埼玉県を訪問し、法令に盛り込んだ内容と、その考え方について調査・研究してきた。
また種子条例の制定にあたっては、岩手の特徴を反映させた岩手らしい内容とするのが適当と考えられることから、本県の伝統野菜である「安家地大根」「暮坪かぶ」「琴畑かぶ」などの生産状況を確認するなど、必要な情報の収集等の作業を行っている。
今後こうした調査を踏まえながら、条例の対象品目の範囲や県が担うべき役割などについて、スピード感を持って検討を進めていく。
【斉藤委員】
全国的に急速に種子条例の制定が広がっている。この背景には、国会でまともに議論もしないで、皆さんにもまったく相談せずに種子法が廃止されてしまった。いま本当に地方から、地元の種子を守っていくという流れが起き、この取り組みは大変大事だと思うので、これから策定するメリットを生かして、素晴らしいものをつくっていただきたい。