2019年12月6日 文教委員会
教育委員会に対する質疑(大要)
・変形労働時間制について
【斉藤委員】
12月4日の国会で強行採決された、1年単位の変形労働時間制について。この変形労働時間制というのはどういうものなのか。
【教職員課総括課長】
この制度は、国の資料によれば、夏休みなどの長期休業期間中の教員の業務の時間が、学期中よりも短くなる傾向に鑑み、学期中の業務の縮減に加え、かつて行われていた夏休み中の休日のまとめ取りのように、集中的に休日を確保することを可能とするような制度である。
【斉藤委員】
きわめて不正確だった。夏休みにまとめ取りというのはそうだが、一方で「繁忙期」は、1日の勤務時間を最大10時間まで延長すると、ここが大問題である。
岩手県の教育の現場に、そうした条件があるのか。夏休みのまとめ取りというのは、今の制度でもできるし、やっているところがある。この法律がなくてもできるのではないか。
【教職員課総括課長】
この制度についての法案は、まさに可決されたばかりであり、制度の詳細について、今後国の方で検討されると聞いている。そういった状況を確認していきたい。
【斉藤委員】
この変形労働時間制というのは、労働基準法の中にあって、「1年単位の変形労働制の施行の際の通知」(1994年)では、「労働時間短縮の観点から、導入の前提として、恒常的な残業がないこと」を挙げている。まさに、教育・学校の現場は、異常な恒常的な残業を強いられている。だとすれば、導入の前提がないのではないか。
【教職員課総括課長】
国の説明では、勤務時間の上限に関する指針や部活動ガイドラインの順守などで勤務時間を延長しても、在校総時間が増加しない仕組みや、長期休業期間中の業務量の縮減促進などを行うことにより、制度の運用を敢行したいということで説明していると承知している。
【斉藤委員】
今の実態はどうなのかと聞いたので。昨日の本会議で上原委員も質問したが、平成29年度の人事委員会の教育職員の長時間労働の調査だが、月100時間超が668人・19%だったと。異常なことである。まさに、他の部局と比べても異常な長時間労働が蔓延っている。こういうところには、労働基準法から見て、1年単位の変形労働時間制というのは、現時点では導入の前提がないのではないか。
【教職員課総括課長】
労働基準法の解説によれば、「変形労働時間制は、季節などにより業務の繁閑の差がある事業に適用されるものであり、恒常的に時間外労働が行われている事業には適用されない」という解説もある。そのような点も含めて、法案の審議の過程で議論されたものと承知している。制度の詳細や具体的な運用については、これから国が検討するものと承知しているので、そういった状況も注視していきたい。
【斉藤委員】
これは本当に学校現場、教員の実態を見ない悪法である。そしてそういう導入の前提は今の学校現場にはない。
重大なのは、1日8時間労働制を壊すということである。10時間まで認めると。文科省は、繁忙期の定義について「学校行事などが忙しい4月・6月・10月・11月」と。この時期は上限10時間までやると。8時間労働制でさえこれだけ残業があるときに、1日10時間まで勤務させたらどうなるか。残業の短縮にならないどころか、さらに残業が増えることになるのではないか。
【教職員課総括課長】
国の説明によれば、長時間勤務が必要な時期に、勤務時間を8時間ではなく10時間にして、その代わりに夏休みなどに短くするということで、制度によって自動的に勤務時間の実態が変わるものではないのではないかと承知している。
【斉藤委員】
文科省ではないのだから、文科省の代弁をしなくていいので。
1日10時間まで認めたらどうなるか。いま退勤時間は16時45分、これは守られてはいないと思うが。しかしこれが10時間になったら、19時20時になってしまう。子育てしている女性の教員、男性だって子どもを保育園に迎えに行ったりする。保育園はその時間までやっていない。男女共同参画を壊してしまう。今でさえ大変なのに。本当に長時間労働の大幅な削減が求められているときに、さらに働けというやり方は絶対に許されない。
大事なことは、この変形労働制は、都道府県・政令市での「条例制定」が必要になる。条例の制定により「導入することができる」という「できる規定」である。今の学校と教員の実態から見て、岩手県が変形労働制を導入する条令制定の前提はないと思うがいかがか。
【教育長】
学校現場を見ると、長時間勤務が実態としてあるということで、参議院の文教科学委員会の参考人質疑でも、現場の教員が意見を述べられていたが、「繁忙期の定時が延長されると、その分業務負担が増える」ということ話されており、夏休み中のまとめ取りについても、西日本であれば8月いっぱいまであるが、本県のようにお盆過ぎから学期が再開する実態もある。そうした地域の実情も、学校現場の実態というのも、やはりこれはきちんと加味していかなければならないのではないか。その前提は、やはり長時間労働を早期に削減していかないといけないわけで、昨日も労働安全衛生の関係でも答弁したが、根本的なところは、働き方改革で長時間労働を減らしていくことをまず優先的に取り組んでいかなければならないと申し上げた。
こうした変形労働時間制の導入も、国では決めたと。これから省令で細部が詰められて示されてくると思うが、そうした省令の検討の中にも、全国教育長協議会等の現場を熟知した団体でもって、しっかり実態を国に伝えながら、省令の検討や作業を進めていく中にはしっかり我々が現場の声を伝えながらやっていかなければならない。本県の状況ということであれば、まさに今の長時間労働の実態を、昨年働き方改革プランをつくったわけなので、それを着実に実行し、教員の負担軽減を着実に進めていかなければならないと。まず最優先はそこではないかと考えている。
【斉藤委員】
大変大事な答弁があったと思う。あまりにも今の学校と教員の実態というのは深刻で、1日8時間を10時間に延長するような状況に全くない。
文科省は、恒常的な時間外労働がないことのハードルとして、「月45時間」「年間360時間」ということを上限のガイドラインにするということも示している。全国的には、小学校では6割、中学校では7割が上限を超えて働いている。岩手県の実態はどうなっているか。
【教職員課総括課長】
私ども、働き方プランに、80時間以上の勤務を減らしていきたいという目標を掲げており、その80時間以上の教員の割合は、昨年度は平均で9.6%である。
【斉藤委員】
これはきわめてずさんな調査で、人事委員会の調査を示したように、これは実数ではない。四半期の平均で出しているので。人事委員会の調査だと、月100時間を超えた県立学校の教員は実数で668人・19%である。県教委の数字は、80時間でもっと低く出ているというのは全く精度が曖昧な統計だと思う。もっと精度の高いものを出すべきである。少なくとも、人事委員会の調査と整合性がとれるように出すべきである。
残念ながら45時間の基準を超えている数字は出なかったが、全国では出しているので、きちんと示していただきたい。それだけでも導入の条件はないということが明らかになると思うので。
大事なことは、県の条例制定によって「導入ができる」と。国会で注目すべき答弁は、「教員の同意なく押しつけることがあってはならない」という質問に対して、「学校のみんなが嫌だというものを、条例ができたからといって動かすことはできない」と。これは萩生田文科相の答弁である。だから、学校の中でも教員の同意なしにできないというのが国会答弁なので。こういうものは絶対に導入させないように、現場の実態を踏まえてやっていただきたい。
・教員の長時間労働是正の取り組みについて
【斉藤委員】
関連して、教員の長時間労働是正の取り組みについて、働き方改革プランも出したが、具体的にどういう課題、分野で成果が上がっているのか。今後どう取り組むのか。
【教職員課総括課長】
働き方改革プランを策定し、教職員の負担軽減、健康確保等に重点的に取り組んでいる。ワーキンググループを設置し、学校・教員が行っている業務についての改善の検討を行ったり、外部人材の活用ということで、部活動指導員やスクールサポートスタッフの配置などに取り組んでいる。
今後についても、プランに基づき着実に取り組みを進めていきたい。
【斉藤委員】
具体的にどういう成果があがっているかは残念ながら示されなかった。
このプランは積極的な目標を掲げている。平成30年度は、月80時間以上は3割減、2019〜2020年度にかけては、さらに3割減、100時間以上はゼロにするという目標である。年次を区切ってこうした目標を掲げているので、思い切った対策をとらなかったら目標と乖離した取り組みになってしまう。
第一義的には、あまりにも教員の業務が多すぎて忙しすぎると。大幅に教員を増やすことと、業務を大幅に削減する以外にないと思う。人員を増やすことは国の責任なので、本当に国が教員増を図ると。業務の削減で、この間一番何が増えたかというと、「授業時数の増加」である。文科省が行った2006年と2016年の教員勤務実態調査を比較すると、小学校で授業時間が増えたというのが1ヶ月で9時間で最高だった。2番目は、学年学級経営で3時間20分、全体で22時間20分月に増えたとなっている。中学校の場合も、授業が5時間、授業準備が5時間増え、計10時間増えている。だから、業務の改善という点でいけば、どんどん授業時数を増やして、一番教員の仕事の根幹を増やしている。
高田一郎県議が一般質問でも取り上げたが、来年度から小学校は、英語科を導入し、これで32時間増えると。とんでもない話である。どんどん授業だけ増やして、だったら残業が増えるのは当たり前である。ここを抜本的に改善しなかったら、業務はただ増えるだけになってしまうのではないか。これについてどう受け止め、どう改善しようとしているか。
【義務教育課長】
小中学校における授業時数への対応だが、委員ご指摘の通り、小学校では外国語が増えるので、授業時数そのものについては増えることは事実である。その際、全体として業務を削減する必要があるという認識はしている。そのためにどうするかということについては、やはり先生方一人一人の資質向上ということで、研修を含め効率的な授業準備ということや、職場全体としてお互いの仕事を補っていく―例えば、外国語の指導に優れた先生が他の学級の外国語の授業に入るとか、そのような教科担当の交換などを通じて、職場全体でカバーし合っていく方法もあろうかととらえている。
【斉藤委員】
残念ながら効果的な対応にはならないと思う。異常な長時間労働を押し付けている国が、さらに授業時数を増やすということが本当に大問題で、英語科の導入については専門家からもいろんな意見があった。しかも教員も増やさず、特別の手立てもとらずに強行した国の責任が重大だと思うが、しかしそういう中でも、大幅に業務を削減すると。県教委から模範を示すと。
・県版学力テストについて
【斉藤委員】
今年の2月県議会で高田一郎県議が、岩手県版学習状況調査=県版学力テストと言ってもいいと思うが、この見直しを提起し、私も9月議会の一般質問で提起した。全国では、小学校で実施しているのは30都府県、中学校は32都府県で、全国でやっているわけではない。これまで何度も私も小西委員も指摘してきたが、「試験をやること自身が子どもたちにも教員にも負担」だと。特に県版学力テストは教員が採点をするので、岩教組の調査では、採点と入力にだいたい10〜15時間かかると。これだけ仕事を増やしている。さらに、そのための事前学習が小学校で85%、中学校で36%でやられている。全国学力テストのときは小学校で63%、中学校20%となっている。県版学力テストの方が事前学習が多いというのはどういうことか。県教委はガイドラインで「特別に事前学習をしなくてよい」と言っているにも関わらず。二重三重に学校現場にも子どもたちにも負担を押し付けているのではないか。
全国で実施していない県も少なからずあるので、思い切って見直すべきではないか。
【学校教育課総括課長】
県の学習状況調査については、本県の児童生徒の学習上の課題を踏まえ、身につけるべき学力を具体的な問題の形で示し、調査の有効活用によって授業改善を推進していく、これはまさに効果的・効率的に推進していくということで実施しているところである。
一方で、教員の負担等に関するご指摘もいただいているところであり、県教委としては、調査の効果的・効率的というところをさらに周知・指導していくとともに、国や市町村の調査もあるわけなので、市町村教委の取り組みの実態把握を行っている。そうした状況を踏まえて、具体的に意見交換を進め、調査の全体的なあり方について検討していきたい。
【斉藤委員】
そもそも全国学力テスト自身が文科省の実施要領で「学力の一部」だと言っていた。だから全国学力テストだって本来事前学習は必要ないのに、しかし都道府県の成績が出されるとなると目の色を変えて競争せざるを得ない。そういう状況に追い込んでいる。そして輪をかけて県版学力テストもやる、市町村もやる。全学年で学力テストがやられている。こういうのを「テストづけ」と言うのです。「学力の一部」なのに、その学力テストをやらないと安心しないと。そこまで歪んできているのではないか。一人一人に行き届いた教育というのなら、子どもがどこでつまづいているか、担任が一番分かっている。そういう教員が現場でゆとりを持って子どもたちに指導できる、授業ができる、それを保障するのが一番の学力向上の道である。テストをやらないと、点数をつけないと落ち着かない。本当に重大な誤解だと思う。
PISAのテストが3年に1回やられ、今回日本は「読解力」が15番目まで落ちたと。専門家が指摘しているのは、「スマホは使うがパソコンを使いこなせない。新聞や長大な文章・論文を読む力がなくなっている」と。根本は、そういう子どもたちが、学ぶことが楽しい、学ぶ喜びを培えるような授業が大事である。ところが「授業の準備ができない」というのが皆さんが教職員にとったアンケートの回答である。全ての学年でテストをしなければ気が済まないという体質を根本から打開すべきではないか。
1つ強調したいのは、今年3月5日に、国連子どもの権利委員会が約10年ぶりに勧告を出した。「学校における競争的な教育システムにより子どもたちの成長が阻害されている」と改めて指摘された。世界から見たら、日本の競争主義は異常である。その改善が何度も勧告されている。この勧告を県教委の皆さんがしっかり受け止め議論して、そしてそれを現場の教育に生かしていただきたい。
本会議の答弁で、県版学力テストについて「市町村の実態を把握していきたい。これから意見交換する」と。テンポは遅いと思うが。市町村の実態はどうか。どういうテンポで意見交換を進めるのか。
【学校教育課総括課長】
現在、各市町村にたいし書面で調査を行ったものの集計をしているところであり、過去に答弁した通り、市町村の独自の学力調査の実施状況は、平成30年度で小学校全33市町村、中学校28市町村で実施している。今回の集計・集約を通じ、例えば、何年生で調査をしているか、どういう教科でやっているかということ、県の調査は小5と中1中2で実施、国は小6と中3だが、そうした全体を踏まえて調査のあり方について慎重に検討を進めていきたい。
今後の方法等については、現時点では具体的な計画は立てていないところだが、市町村教委を訪問して、1つ1つ、学力調査や授業改善の取り組みとその方向性等について、学力向上の全体的なところについてもきちんと意見交換していきたい。
委員ご指摘の通り、学ぶことが楽しい授業づくりがもっとも大事であるというのは我々も同じ考え方であるので、そうした取り組みを進めていきたい。
【斉藤委員】
皆さんが教員に行ったアンケートで、「職場でもっとも改善してほしいもの」の第1位が「業務の全体量を減らしてほしい」49.3%、第2位は「非効率的な業務の多さ」24.3%だった。思い切って業務の削減に取り組むということをぜひ進めていただきたい。その中心的な課題の1つが、テストづけからの脱却である。県版学力テストは、いろんなところから検討していただきたい。
【教育長】
他県の状況も参考にしつつ、また市町村教委の意見もうかがいながら、調査内容や実施方法等についても、しっかり議論していきたい。
過度な競争という面よりも、今回のPISAの結果の中で文科相のコメントの中に、デジタル機器の利用について、OECD加盟国と比較して低調だという話もあった。今般、国でも小中学校に一人一台パソコンといったものの導入についても検討されているということもあり、我々ICTの活用ということに着目して、そこに力を入れていくと。そこには、働き方改革にもつながる部分もあるのではないかと思う。いわゆる教材の準備や授業の準備のために多くの時間がかかるということであれば、大型表示装置等プロジェクターを使って、そして共通の教材等を活用すれば、それは一人一人の教員が準備することも省けるとか、そういったものにも活用できていくのではないかということも、いま学びの改革プロジェクトの中で検討している。子どもたちの方がどんどん最先端のICT機器など使いこなして、大人の方が遅れているという面もあり、本県の場合地理的に条件の不利なハンデもあり、それを乗り越えるのはICTを活用しての学びということもあると思うので、そういったところも今後検討を進めていきたい。