2020年3月16日 予算特別委員会
農林水産部(水産部門)に対する質疑(大要)
・危機的な不漁の現状と対策について
【斉藤委員】
サケは前年比22%、震災前比で9%、サンマは前年比33%、震災前比15%、スルメイカは前年比73%、震災前比11%という答弁であった。
不漁の要因と今後の対策について、これまでの研究成果を含めて示していただきたい。
【漁業調整課長】
秋サケの不漁については、震災による稚魚放流数の減少や、採卵時期の遅れ、放流時期である春先の海水温の上昇等が要因と考えられている。
また、スルメイカやサンマの不漁については、国の研究機関によると、産卵場所である東シナ海の環境変化や、海流変動による稚魚の減少が要因とされているほか、国が参加する国際会議では、外国船による乱獲なども指摘されている。
このため県では、資源の回復に向けて、サケについては、計画的な種卵の確保や健康的な稚魚の育成、適切な海水温での放流など。スルメイカ・サンマについては、魚海況情報等の迅速な提供や、資源管理の推進などに取り組んでいる。また、近年資源量が増加しているマイワシの小型漁船を活用した試験操業や、波浪の影響が少ない低温な海域を生かしたサケ・マス類の海面養殖を推進している。
【斉藤委員】
私も研究者のさまざまな報告会やシンポジウムなどに参加してきた。湾内でかなり減耗しているのではないか、オホーツク海まで行っていないのではないかという指摘もあった。もう1つは、岩手県は、北上川のサケは比較的海水温が高いところに戻ってきているということで研究テーマにしているが、先ほどの答弁を聞くと、岩手も宮城も前年比2割前後だった。北上川だけは帰ってきているのか、帰ってきていないのか。
【漁業調整課長】
北上川の遡上状況については、今年度の捕獲尾数は前年比21%にとどまっているところである。
湾内の減耗については、近年、放流時期に海水温が急激に上がり、成長できる期間が短くなってきているということで、生残率が減少していると考えられている。ただ、どの程度そこで減耗が起きたかということについては調査しているところである。
【斉藤委員】
北上川のサケも前年比の21%ということになると、単純に海水温の変化に対応できるということは簡単には言えなくなるのではないかと危惧している。
サケの問題はずっと議論しているが、以前に、耳石解析をしてサケがどのように戻ってくるかという研究もあったと記憶しているが、耳石解析はどうなっているか。
【漁業調整課長】
サケの耳石温度標識の調査状況は、平成26年、27年ぐらいから放流する一部のものに、卵の時期に水温を変えることによりバーコードのような模様を入れて標識を付ける方法だが、それが帰って来始めており、帰ってきた個体から耳石を取り上げて調べることを始めたところである。その結果については、もう少しデータを集めなければ解析がまだ不十分な状況だと聞いている。
【斉藤委員】
いずれ、海水温の上昇だとか海洋環境の変化とか、今の気候変動の影響が背景にあるとすると、簡単に打開できるような課題ではないのではないかという感じがする。そういう点で、大学や県の機関が協力・共同してさまざまな研究をされていることは承知しているが、そういう対策は本来なら国が温度をとって本気でやっていく必要があるのだと思う。
危機的不漁ということは先ほど部長もお話になった。漁業共済による補償、漁民の経営状況をどのように把握されているか。
【漁業調整課長】
漁獲金額が不漁等で減収した場合に、損失を補償する漁獲共済は、直近5ヶ年の漁獲実績を基に基準額が設定され、漁獲金額が基準額を下回った場合にその8割を上限に共済金が支払われる仕組みとなっている。不漁難が続いた場合、この基準額が下がり、支払われる共済金が減少することから、県では、漁業共済の支払額が減少しないよう共済制度の柔軟な運用を国に対して求めていく考えである。
平成30年度の支払い実績は、総額で10億5千万円となっており、支払い額の多い種目は、アワビを採る漁業が6億2千万円、ホタテ養殖業で2億3千万円となっている。
・ワカメ・アワビの生産量の実態と対策について
【斉藤委員】
日本一と言われるワカメも前年比で76%、震災前比で48%と大変低迷したことは残念である。アワビも前年比85%、震災前比35%と。先ほども答弁あったが、ここまで落ち込んでいる要因、特にワカメは価格はかなり高値安定していて、ここを打開する1つのきっかけになるのではないかと期待しているが、今後の対応策を含めて示していただきたい。
【水産担当技監】
ワカメの生産だが、これだけ生産が減ってきたのは、震災以降生産者の減少、それにともなう養殖施設数の減少ということで、養殖施設は震災前に比べて復旧率が7割程度という状況である。これが直接的なワカメの減少要因となっているような状況である。現在、地域再生営漁計画―漁場の復旧について協議するような計画を漁協さんにつくっていただいているが、その漁場利用とか、規模の拡大、意欲ある生産者に対しての規模の拡大と、漁協自営の養殖の推進、省力化機器の整備ということを進め、家族経営体であっても、一経営体が生産規模を拡大して生産を上げるよう取り組んでいる。
アワビについては、冬場の水温が高まり磯焼け状態になっているというところであるので、美しい海環境保全対策事業というもので、まずはウニの密度管理―ウニを駆除するようなこと、海中林を造成するということで、漁業者の活動を支援していくということで、藻場の再生やアワビ資源の増大というところに結びつけると。さらに、栽培漁業推進対策事業という事業があり、これによりアワビの種苗放流経費を支援するということで取り組んでいく考えである。
【斉藤委員】
生産者が減少しているという話があったのでお聞きしたいが、担い手育成にかかる岩手水産アカデミーが2年目を迎える。この成果はどうなっているか。来年度はまた人数が増えたようだが、その状況も含めて示していただきたい。
【漁業調整課長】
1期生は7名が研修をしており、3月で1年間の研修を終える予定となっている。研修終了後の就業先だが、現在、実践研修としてそれぞれ大船渡市・洋野町・陸前高田市等で研修を積んでいる先にそのまま就業する予定となっている。
来年の研修生については、いま定員の10名が入校する予定となっている。
・新漁業法への県の対応について
【斉藤委員】
新漁業法は、企業の参入を目的に知事の権限が強化された。その内容と県の対応について示していただきたい。
【漁業調整課長】
平成30年12月に、水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化を目的として、漁業法等の一部を改正する等の法律が公布されている。
改正の内容を項目別に整理すると、新たな資源管理システムの導入、漁獲割り当ての導入、漁業許可制度の見直し、漁業経営制度の見直し、沿岸漁場制度、密漁のための罰則強化、海区漁業調整委員会の委員選出方法等の見直しとなっている。このうち、都道府県知事の所管する主なものは、漁業権・漁業許可制度・沿岸漁場制度・海区漁業調整委員の選出となっており、県では、国の政省令や技術的助言の内容が示されるのを待って必要な手続きを進めたいと考えている。
【斉藤委員】
冒頭で言ったように、新漁業法というのは、漁民の要求から出たものではなく、規制委員会から提起されたものをまともに審議もしないで通してしまったという希代の悪法だと思うが、漁業権の免許で、漁協の優先順位が廃止され、企業が参入できるようになった。これは戦後に漁業が民主化されたときに、企業が勝手にやっていたものを変えて、漁民共同の管理になった。それで今まで漁場・漁業の民主的管理がされてきた。こうした漁協・漁民の優先順位は守られるべきだと思うがいかがか。
それから、資源管理と言われているが、新漁業法では漁船のトン数規制が撤廃され、大型船がどんどん造られる。そうすると、大型船優遇で漁獲制度が割り当てあれる。そうすると、沿岸漁民がますます虐げられる危険性が高いのではないか。
特に、魚種がどんどん広げられると、他魚種を漁獲している中小零細の漁船に一番影響があると思っている。
そして、海区漁業調整委員会の公選制をなくすことは、まったくの改悪であり、前回の海区漁業調整委員会の選挙で、漁協に属さない漁民の代表が2人も当選したと。こういう前回の選挙結果をしっかり尊重し、踏まえた海区漁業調整委員会の任命にならないと、知事が都合の良いところを任命してしまうことになりかねないのではないか。この懸念にどう応えるか示していただきたい。
【漁業調整課長】
漁業権免許の優先順位については、新漁業法では、漁業権を免許する際の優先順位を廃止し、漁場を適切かつ有効に活用している希望の漁業権者を優先して免許することとしている。漁業権免許の手続きや運用については、政省令や国の技術的助言で示されることとなっており、現在のところ企業を優先するような意図というのは明らかになっていない。
漁船のトン数規制の撤廃については、資源管理の取り組みが進んでいる漁業のうち、個別の漁獲割り当ての導入が進んだものについては、船舶が大きくなっても漁獲量は増えないことから、船舶の規模に関する制限を定めないこととしている。また、これまでの国の説明では、漁船を大型化しても漁獲量が増えないことが前提であり、沿岸漁業者との調整については、国が責任をもって資源管理の実施や紛争の防止を行い、他の漁業に支障がないことを確認した上で大型化を認めるとしている。
海区漁業調整委員会の公選制の廃止については、海区漁業調整委員会の委員について、漁業者または漁業従事者の公選制が廃止され、知事が議会の同意を得た上で委員を任命することとされている。委員の任命に当たっては、過半数が漁業者または漁業従事者であることのほか、地区や漁業の種類等に著しい偏りが生じないよう配慮することなどが規定されている。
【斉藤委員】
この新漁業法は、漁民に相談も説明もされず、数時間の審議で強行してしまった、歴代の悪法である。その目的は企業の参入である。いま、実際に企業が参入できるが、漁協と協力したり漁協の許可を踏まえてやっている。これがいらなくなってしまう。そして、そこに企業が勝手に漁協にお金を払うことも相談することもなく、漁業権を獲得すればいつでもできるというのが新漁業法である。今までの方式で漁場の管理に何か不都合があったのか。なかったと思う。しっかり漁民が共同で管理してきているのではないか。
そして漁船のトン数規制が撤廃されて大型船ができたらどうなるか。今までより獲りたくなる。諸外国は大型船で割り当てを超えて獲っているのが実態である。そうでなかったら大型船を造る必要はないのだから。そしてそういう大型船に結局は漁獲割り当てが優先される。これも目に見えていることではないか。
海区漁業調整委員会の公選制の廃止については、海の県議会議員選挙と言われる海区漁業調整委員会、漁業権の管理についての重要な権能だった。それが知事の任命になったときに、本当に漁民の声が反映されるのか。少なくとも、直近の選挙の漁民の審判ということを最大限考慮してやられるべきではないかと思うが、改めて答弁を求めたい。
【水産担当技監】
漁場利用については、漁協が実質の漁業権管理者であるので、そこでしっかり漁業者と協議しながら、ワカメやカキを生産してきているのがこれまでの漁業法である。国が改正漁業法で謳っているところは、免許の優先順位は付けないということだが、その運用の中で国は既存の漁業者をしっかり優先するということを言っているので、これから政省令の中で具体的な事務手続きが進められるが、それにしっかり基づきやっていくという考えである。
漁船の大型化については、国がなぜ漁船を大型化するかというと、やはり漁業界全体に人材確保が非常に厳しいという現状も1つはある。船が大型化するとたくさん魚を獲るのではないかということを懸念されるが、国はいわゆる漁獲枠ということで、船が大きくなってもしっかり一定程度の漁獲に収めるように管理していくということを謳っている。ですので、国が漁業法に取り入れて管理していくといっているので、我々はそれを順守していくと。それから、漁船に乗る方々の居住空間や若い人が乗りやすいような船に改革していくという視点も重要だと考えており、居住スペースや鮮度管理、最新の漁具・漁法も含めて改革船という形で漁業の担い手をつくっていくという視点も合わせて考えているようなので、しっかりそこは監視しながら、沿岸漁業者が不利にならないような形で考えていきたい。
海区漁業調整委員会の公選制については、国では公選制を止めると言っているが、知事が任命して議会の承認を得るという手続きをしっかり入れているので、我々もしっかり議会の方々に、知事にどういう方々が適任だということで選任していったかということを説明しながら、理解を得て、委員会の人選をしていければと考えており、まだ具体的な内容が国から示されていないので、そこをしっかり見極めたうえで議論していきたいと考えている。