2020年8月4日 文教委員会
県立高校バレー部員の自殺事件にともなう
第三者委員会の調査報告書に関する質疑(大要)
・報告書の受け止めと県教委の対応の問題点について
【斉藤委員】
7月22日に報告書が提出され、当日第三者委員会が会見を行い、そのときには概要版であったが、第三者委員会が何を重視してこの報告書をまとめたのかと直接お聞きした。当日の夜は、遺族を含めた実質上の報告集会があり、遺族がどのようにこれを受け止めているのか、今後この調査報告書をどのように生かす必要があるのか、課題などもその場で明らかになったところである。
今回の調査報告書は大変丁寧な報告書だったと思っている。教育長は、具体的にこの報告書の内容をどのように受け止めたのか。一番心に響いたのは何なのか。
【教育長】
7月22日に報告書を受領した。第三者委員会が23回にわたって検討が進められているということで、その推移については委員会に委ねていたが、出された資料等も拝見しながら、そして第三者委員会のご判断に委ねて、報告書の提出を待つということでおりました。
今回の報告書について、私は内容すべてが大変重い内容であり、どの項目というようなことではなく、報告書全体が大変重要な内容であると重く受け止めている。
将来を、夢を持っていた生徒さんが、なぜ自死に至らなければならなかったのか、その過程が丁寧に探られている。そういった心理の解明等も、今後二度とこのようなことが起きてはならないと、先ほど生徒からのSOSの発信もあったわけだが、そういったものが学校現場で受け止めることができなかったというところにも忸怩たる思いがある。
そういったところを今後の再発防止に向けた対応について、しっかり議論させていただきたいと考えている。
【斉藤委員】
第三者委員会の佐々木委員長は「事実経過の確認を重視した」と言っていた。たしかに調査報告書は、事実経過の確認がきわめて丁寧である。
その事実経過を踏まえて、ここでは県教委と学校の対応の問題点も厳しく指摘されている。具体的に、県教委と学校のどういう対応が問題だったと指摘されているか。
【県立学校人事課長】
学校については、「顧問の前任校の事案についての校長の理解が十分でなく、指導も結局十分なものにならなかったこと」だとか、「SOSを受け止めることができなかった」といった問題点が指摘されている。
県教委については、「顧問の前任校の裁判の過程で明らかになった事実を、校長に正確に伝えるなど、県教委として確認・指導・対応を行う必要があったにも関わらず、それを怠ったことが元校長の不十分な監督・指導につながり、結果として本事案につながったことは否定できない」という指摘を受けている。
【斉藤委員】
概要版の15ページのところで、「7月24日付で校長から教育長宛に学校事故報告書が提出されたが、すでに学校が行ったアンケートにより顧問の不適切な言動が確認されていたにも関わらず、その事実は記載されていない」と。とんでもない話である。そして事件が発覚してからすぐに県教委の指導主事が学校に入っている。これはきわめて重大な事実を隠ぺいした事故報告書だったのではないか。どう受け止めているか。
【県立学校人事課長】
それについては報告書の中でも「各種ガイドラインに照らして、元顧問の発言が適切かどうかを判断する識見を有していなかった」ということが指摘されている。そういったことと関連があったあったのではないかと考えている。
【斉藤委員】
その前のページに「7月18日、13日の書面アンケートの結果、『練習中に怒鳴る』『バカ』『アホ』『頭悪い』『それでもJOCか』などの言葉があった。高総体後に『ミドルとセッターのせいで負けた』と発言したなどの事実が出てきたことを報告し、X顧問の暴言というべき不適切な発言や調査が不十分だった」と、遺族に謝罪している。そういうことを分かっていて、事故報告書に書かなかったと。事実経過で一番丁寧に解明されているのは、顧問の暴言・叱責である。それが具体的に書かれていない事故報告書にどんな意味があるのか。
この記述はきわめて重大だと思っている。学校に事実を隠すと。今回第三者委員会の調査に学校は協力的でなかったと言われている。この学校の対応の問題をどのように受け止めているか。私はきわめて深刻だと思っている。
顧問の不適切な言動が確認されていたにも関わらず、その事実は記載されていなかった。これで事故報告書というのはありえるのか。
【県立学校人事課長】
報告書で指摘された通り、ずさんなものであったと判断している。
【斉藤委員】
本当に深刻に受け止めているということが感じられない。最初からそれが出なかったし。県教委の指導で一番の問題はここだったと思う。県教委が学校に入って指導していて出された報告書なので。県教委も一緒になって重大な事実を隠ぺいしたと。そこに県教委の対応の一番の問題点を感じる。
あわせて、今度の報告書では、前任校―盛岡一高におけるバレー部員に対する暴力・暴言について、これは学校がまともに調査しなかった。そのために、本人と家族が裁判に訴えざるを得なかった。しかしその裁判の過程で、教師が否定していた暴言も体罰も認定された。そして県教委の調査でも明らかになった。そういうことをあなた方は、不来方の対応に生かせなかったどころか、同じ教師を顧問に据えてそのままにしていた。本当に県教委の対応が問われると思うがいかがか。
【県立学校人事課長】
報告書の中でも、問題ある指導に関わる正確な情報共有ができていなかったことについて「解明する」ことが提言されているので、そのことについても、小委員会の中で検討していかなければならないと考えている。
・顧問教師の暴言・叱責と自死の関係について
【斉藤委員】
今度の報告書で一番重大なのは、顧問教師の暴言・叱責と自死の関係である。これも丁寧に記述されている。
顧問教師の暴言・叱責はどういう内容で、どの時期から始まり、どのように推移したのか。それが自死にどう関わったのか。調査報告書でどのように解明されているか。
【県立学校人事課長】
暴言・叱責については、2年生の秋頃から厳しくなったということが証言されていると記述されている。3年生の4月頃から次第に強まり、高総体が終わった6月頃からは一層強まったということが記載されている。
具体的な暴言については、「それでもJOCか」「背は一番でかいのにプレーは一番下手だな」「使えない」「セッターとミドルのせいで負けた」といった言葉が当該生徒に向けられたことが記載されている。
これらの暴言・叱責については、「指導の手段としての相当性を欠き、指導としての域を超えるものであり、教員としての対応を逸脱したものであったと言わざるを得ない」とされている。そしてこの暴言・叱責といったものが「当該生徒の絶望感や孤立感を増大させ、希死念慮を増強させる原因となった」と記載されている。
【斉藤委員】
改めて調査報告書の概要版を見て、驚くべき暴言・叱責が継続的に、さらにどんどん強まっていった。そのことが当該生徒を追い詰めていったという経過が丁寧に書かれている。
2年生の秋というのは新チームの主体になる時期である。そして3年生の4月から激しくなり、6月の高総体というのはインターハイの出場権をかけたもっとも重要な大会で、その決勝戦で負けたと。本人も自分の責任だと自覚していたときに、この顧問が「セッターとミドルのせいで負けた」と繰り返し言った。さらに6月29日、天皇杯直前の練習で、7月3日に自死が発見されているのでまさに直前だが、「顧問は『お前はそれでも3年生か。だから負けるんだ。部活辞めろと言っているんだ』とかなり怒られ、語調はかなり厳しく、しかも繰り返し言われた」と。このときに当該生徒は「もうやっていられない」「俺は首吊りしたい。首吊って死ぬかもしれない」と、直後にこういう発言をしている。本当に顧問の暴言・叱責というものが、確実にしつこく追い詰めていった経過というものが報告書で明らかになったのではないか。
・部活動ガイドラインの認識について
【斉藤委員】
もう1つ重大なことは、この顧問教師と学校長が、文科省などの部活動ガイドラインの内容について認識していなかったと。恐るべきことである。なぜこうなったのか。
【県立学校人事課長】
文科省のガイドライン等については、「現場に浸透していない」というのも報告書の中でも指摘されているところである。問題点としては、県教委から学校、校長から教員というトップダウンの流れですべてが伝達されるという流れでは結局浸透しなかったのではないかという問題点が指摘されている。ということで、ボトムアップの形ということを考えていく必要があるというご指摘もいただいている。
そういったガイドライン等をどうやって教職員に浸透させていくかということについての問題点も指摘いただいたところなので、今後の検討の中で考えていかなければならないと考えている。
【斉藤委員】
例えば日本体育協会の、全国高等学校体育連盟などの連盟で平成25年4月に「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」が出されている。何度も文教委員会でこのことを紹介してきたが、「殴る・蹴る・突き飛ばすなどの身体的制裁、言葉や態度による人格の否定、脅迫・威圧・いじめ・嫌がらせ、さらにセクシャルハラスメントなど、これらの暴力行為はスポーツの価値を否定し、私たちのスポーツそのものを危機にさらす。フェアプレーの精神やヒューマニティの尊重を根幹とするスポーツの価値とそれらを否定する暴力とは互いに相容れないものである。暴力行為は、たとえどのような理由であれ、それ自体許されないものであり、スポーツのあらゆる場から根絶されなければならない」と。5年以上前に明確なものが出されている。これが現場に徹底されていないことは、深刻な実態が浮き彫りになった。先ほど千葉委員からも事例があったが、私ももっと深刻な相談も受けている。本当にこの問題は体質と言ってもいい。それを根本から打開していくことが必要ではないのか。
・顧問教師の前任校での事件と処分の問題について
【斉藤委員】
そこで県教委の対応として、今度の報告書でも指摘された盛岡一高事件の対応がやはり正しくなかったと。裁判の中で明らかになった事実を生かせなかった。これを重く受け止めるべきだと思う。その結果、安易に今の不来方高校に赴任し、第二の事件を起こした。このことについて県教委はどのように受け止めているか。
【教育次長】
たしかに当時、訴訟対応としては、一審で、「体育教官室での叱責等は社会的相当性を欠き、違法行為当たる」であるとか、「PTSD等の罹患との関係は認められない」等々ととらえていたが、要点・概要については、県教委内や当該学校と情報共有は行っていたが、そのことが今回の調査報告書により「『PTSDとの因果関係が認められなかった』という判決の一部のみを強調し、実際に行われてきた当該顧問の指導の内実を軽視し、再発防止に生かそうとする姿勢に欠けていた」と指摘されたところである。この指摘はしっかりと重く受け止め、再発防止、岩手モデル策定に生かしていきたいと考えている。
【斉藤委員】
重要な要因は、これまでこうした教師による体罰・暴言によるさまざまな事案、これは生徒にとってみたら人生を台無しにするような、大学進学もだめになるとか、本当に大きな影響を受けているものである。ところが、この盛岡一高事件での裁判の結果、どういう処分だったのかというと、たった「減給1ヶ月」である。こんな甘い処分をしているから、真剣に厳しく受け止められない。これは県教委の懲戒処分の基準にも反するものだと思う。県教委の懲戒処分の標準処分例で、「不適切な言動、対応が特に悪質もしくは常習的または児童生徒が重度の精神的苦痛を与えた」と。これは免職もしくは停職である。これが減給1ヶ月で済んでいた。こんな甘い処分を、あなた方の基準にも反してやってきた。
今度の事案は本当に厳正な、またこれから出される事案についても厳正・厳格に処分の基準に基づいてやられるべきだと思うがいかがか。
【教職員課総括課長】
本事案についての懲戒処分の検討にあたっては、事情聴取を行うなどし、児童生徒や保護者等に与えた影響などを参考にしながら、総合的に判断していきたいと考えている。
【斉藤委員】
官僚的答弁で真剣さが伝わらないと思う。厳密にあなた方の基準があるのだから、客観的に見たら厳格な処分が必要だったと思うし、今回は本当に厳しくやらなければならない。
・再発防止「岩手モデル」策定委員会(仮称)について
【斉藤委員】
策定委員会は9月までに設置すると。1つは、遺族が「遺族推薦の人も入れてほしい」と要望している。これはやはりそういう当事者の声を反映させる必要があるのではないか。遺族の要求をしっかり受け止める必要があるのではないか。
それから、9月に設置するというのに、その下に置く小委員会がすでに明らかにされるということはどういうことなのか。本来、設置される委員会で必要な小委員会は検討される必要があるのではないか。策定委員会がつくられる前に小委員会の中身が示されているのは順番が違うのではないか。県教委はこう考えているというのはいいが、策定委員会がどういう形で策定を進めるのかということでは、順番が違うのではないか。特に今回の最大の要因の顧問教師による暴言・叱責、こういうものを文字通り岩手の学校から一掃すると。そういう対策をしっかり位置づけてやってほしいと思うがいかがか。
【教育長】
はじめに、今回の報告書等をいただき、その内容等も踏まえながら、処分者である県教委として、しっかり事実関係を確認した上で厳正に対処していきたい。
「岩手モデル」策定委員会はまだ仮称であるので、ただちに対応が求められるということで、現段階での案をお示しさせていただいたところである。実際に委員会を立ち上げて、その中でいろいろ小委員会についてもこの内容でよろしいかどうか、あとはご意見をうかがいながら適切に対応していきたい。
【教職員課総括課長】
遺族の方ということだが、外部の意見も取り入れるようにということで考えているので、その中で対応していきたい。