2020年10月9日 文教委員会
教育委員会に対する質疑
(大要)


・盛岡市内中学校の陸上部顧問におけるパワハラ問題について

【斉藤委員】
 昨日の一般質問で、県立不来方高校バレー部員の自死事件について、第三者委員会の調査報告書に基づいて取り上げた。
 今日は、盛岡市内の中学校における陸上部顧問による不適切な指導によって退部に追い込まれ、きわめて重大な精神的打撃を受けた事件について、すでに県教委に学校事故報告書が提出されているので、この不適切な指導の中身をまず示していただきたい。

【小中学校人事課長】
 当該市町村教育委員会から事故報告書の提出を受けており、それによると、「陸上部に所属していた被害生徒に対し、大会直前に理由を言わずに帰宅させ、被害生徒を一人だけ練習させなかったり、練習に参加させていないにも関わらず『さっぱり練習に来ない、サボっている』と、事実とは異なる内容を伝え、他の教員や生徒に間違った印象を与えたりしていた」とされている。また、「大会の時に、被害生徒一人だけ移動バスに乗せなかった」ことや、「『指示に従わない』と言って、幾度となくみんなの前で大きな声で叱責した」とされている。

【斉藤委員】
 この生徒は、スーパーキッズ出身で、陸上部の活動でも県大会1位2位など、将来を本当に期待された生徒だった。しかし1年生の時期に、陸上部顧問から、いま話があったような不適切な指導、これは被害者の家族は「虐待とも言えるものだった」という指摘をしている。盛岡市教委も「虐待と言われても仕方がない事態」だと。本当に驚くのだが、肉離れをしている時に「走れ」と。県中総体、盛岡市中陸上、東北大会―この大会に参加するときに、一人だけ選手が乗るバスに乗せない。市中陸上のときには応援団のバスに乗せて、その種目だけ走らせると。本当に考えられないような対応をしていた。それはなぜかというと、この生徒はいわば「友達と付き合うことができない」ということを振りまいて、人格も傷つけるというものだった。
 この件について父母が訴えたのは、3年生の卒業間近の時期だった。学校というのは人質にとられているようで、その時にはすぐに訴えられない。しかし卒業間近で「この問題を学校に調査してほしい」と。2年間にわたって調査された。この被害家族は弁護士も立てて、徹底した調査を市教委と協力して行った。2年間の調査を踏まえて出されたのが学校事故報告書である。
 被害者と私は8月7日に、この事故報告書が提出されたことを踏まえて、厳正な処分を県教委に求める要請も行った。そのときに家族の方は、「陸上部活動でも県大会1位か2位で、スポーツ活動に希望を持って臨んでいました。しかし、この教諭によりその夢と可能性を奪われました。陰湿・悪質な教諭のハラスメントは、執拗に継続に行われ、(当該生徒が)カウンセリングを要するほど精神的に追い込まれ、陸上競技を辞めるに至ったばかりでなく、大好きだったスポーツもできなくなりました」と。事故報告書の中には、退部に追い込まれたということまで書かれているが、その生徒が受けた打撃というのはそういうものだった。
 そういう意味で、この事故報告書では、なぜこういう顧問による陰湿で悪質なハラスメントが継続して行われたのか、その要因・背景はどのように書かれているか。

【小中学校人事課長】
 事故報告書によると、「当該教諭の指示や指導を、被害生徒が素直に受け入れないことで、否定的な見方をするようになり、不適切な指導に及んだ」とされている。また「部活動指導の把握や管理監督が不十分であったとのことであり、上司への報告・連絡・相談体制が徹底されておらず、適切に行われていなかったことに加え、学校としての情報共有や組織的対応が十分に機能していなかったことが要因である」とされている。

【斉藤委員】
 今の答弁で不正確なのは、「顧問の指示に従わなかった」というのは根拠がなかった。この生徒はスーパーキッズで、専門的な練習メニューを学んでいるので、例えば、肉離れで走るなんてことはやらない。指示に従わないのは当然である。
 事故報告書にも書いているが、この顧問教師が気に入らない生徒に対して排除する、差別する、それが事実である。
 事故報告書の中に、この教諭の行動特性が指摘されているが、どういうものか。

【小中学校人事課長】
 事故報告書によると、「被害生徒の心身の状況や思いに寄り添うことなく、自分のこれまでの指導の実績、そういったもののおごりや過信、傲慢な、そういった誤った認識があった」ということが報告されている。

【斉藤委員】
 私が正式に答えると、「この教諭については次のような行動特性があり、そのことを基に不適切な指導が行われたととらえております」と。7項目あり、
@「自分の思い通りの練習をさせようと一方的で威圧的な行為を行い、生徒の状況や思いやりに寄り添わない」
A「自分の意に沿わない態度をとる生徒に対して否定的な見方をし、教育的指導をとることなく、一方的に排除する」
B「周囲にたいし、実際と異なる生徒の良くない情報を吹聴する」
C「生徒本人や保護者の思いを聞いたり、自分の考えを説明したりしない」
D「反省する様子は示しながら、言動・行動が伴わない」
E「上司や同僚に相談したり、意見を取り入れたりしない」
F「自身の行為に対する認識・反省に欠けている」
 事故報告書では、このように教諭の行動特性がはっきり書かれている。そして「今回の一連の行為は、差別・虐待行為であると指摘を受け、実際に確認できた複数の行為は、そういった指摘を受けても否めないものであります。また多くの行為が、経時的に連続して行われていることから、当該教諭による不適切な指導は、日常的に行われていたことも判明しております」と。本当にこの生徒の悩み、苦しみの深さ、そしてこの陸上部顧問の異常な、異様な対応―。
 そこで、この顧問教師というのは、実は実績のある教師という風に見られていた。優秀な選手を輩出したのも事実である。しかしその中身は、スポーツ医科学の到達点に立ったものでは全くなく、我流だった。だから、自分の指示を聞かなかったら排除すると。
 この陸上部で、こうした威圧的な指導によって辞めた部員は何人いたか。

【小中学校人事課長】
 当該市町村教育委員会の事実確認によると、「不適切な言動により退部に至らせた生徒は、この被害生徒以外に3名いたと認めている」とされている。

【斉藤委員】
 本当に被害者は少なくなかった。深刻である。
 これは校長の管理監督が問われる問題である。この教師は10年間同じ学校にいた。10年間いて、そういう状況を把握できなかった、しなかった。そして、体育の教師、スポーツ関係、こういう人たちもそうした状況を見ながら、率直に言えば加害者の側に立ったというのが実態である。正すのではなく、加害者の立場に立った。構造的に誰も助けてくれなかった。その点についてどう受け止めているか。

【小中学校人事課長】
 報告書によると、「この事案を認識していた教員は数名おりましたが、このことを管理職へ報告することはなく、管理職が事案について認識していなかった」とされている。

【斉藤委員】
 「管理職が認識していなかった」という言い方ではいけない。管理職はそれを把握しなければいけない。この顧問教師は10年もいたのだから。そして、分かっている範囲で、本人以外に3人が退部せざるを得なかった。本当にこれは深刻な問題だと思う。
 不来方高校の顧問の場合にも、実力のある教師だったと言われていたが、実態は、スポーツ医科学の到達点を全く踏まえていなかった。第三者委員会の報告にもあるが、「文科省・スポーツ庁のガイドラインを正確に理解していなかった」と厳しく指摘している。この盛岡市内の中学校の顧問教師も、部活動のガイドラインを全然分かっていない。校長も分かっていないと思う。この問題は本当に根が深い。だから第三者委員会は、「ボトムアップで県教委の方針は練り上げなければいけない」と指摘している。

・部活動のあり方について

【斉藤委員】
 部活動というのは、学習指導要領でも、スポーツ庁のガイドラインでも、「生徒の自主的・自発的な取り組み」と明記されている。岩手県の中学校において、部活動が強制されている、強制していない実態はどうなっているか。

【保健体育課総括課長】
 部活動の加入については、「任意加入とする」という学校が今年度は150校中28校で18.6%となっている。

【斉藤委員】
 私が9月25日にいただいた資料では、157校中4校となっているが、今のデータは違うのではないか。

【保健体育課総括課長】
 今申し上げたのは、今年度=令和2年度の状況であり、ご指摘の4校は昨年度=令和元年度の数字である。

【斉藤委員】
 部活動が生徒の自主的・自発的な活動であるというのは、学習指導要領にも明記され、実は不来方の事件があったので、岩手県の県民計画の策定の際にも、教育の分野できちんと明記すべきと提起し、明記された。しかし、去年は157校中4校、今年は150校中28校しか任意加入になっていない。逆にいけば残りの学校は強制しているということになる。圧倒的に県内の中学校は、部活動を強制加入にしている。強制加入というのは、生徒一人一人の選択権がないということである。人権を無視しているといってもいいが、なぜこれが徹底されないのか。

【保健体育課総括課長】
 「岩手県における部活動のあり方に関する方針」を昨年度8月に改定し、9月にそれに基づく取り組みを県立学校および市町村教育委員会に通知している。そこで各学校や市町村教育委員会では、それぞれの活動に関するガイドラインだとか方針を策定している。
 現在、市町村教育委員会においては、ガイドラインあるいは方針の中に、「自主的・自発的な参加とする」という文言をすでに盛り込み済み、あるいは令和2年度中に盛り込む予定であるという改定作業を進めているので、それにともなって各中学校では任意加入といった方針に合わせて仕組みを変えると思われ、今後増えていくものと考えている。

【斉藤委員】
 不来方高校の事件があって、私は本当に部活動のあり方の原点に返るべきだと繰り返しこの場でも強調してきたし、県民計画にも明記された。もちろん学習指導要領にも書かれていることである。それが徹底されないというのは、おそらく校長先生が認識していないのだと思う。校長先生の認識・受け止めが全く遅れているのではないか。だからさまざまな事件があっても、まともに対応できていないのは、そこに問題あるのではないか。
 「自主的・自発的な活動」というのは、子どもたちの自主性・自発性によって、クラブ活動を通じて自治能力を養うということである。ところが強制加入になってしまうと、自分の意思とは関係なくどこかに属さなければならない。それを支配するのは教師・顧問になってしまう。本来、生徒の自主的・自発的な活動で、知恵を出し合って、協力し合って、自治能力を高めながら楽しく活動するというのが部活動の本来の姿だと。これは強制とは相容れないと思う。強制加入よりもレベルの高い、そういう活動がある意味求められているんだと思う。だいたい強制加入の発想というのは、「部活動をさせていればいじめは起こらない」などという昔の発想である。そうではなく、子どもたちの自主性・自発性を最大限やると。だから顧問教師というのは、専門的なアドバイスはやるが、子どもたちが自分で考えて、活動の計画や練習の計画を立ててやると。それを支援・援助する、専門的に指導するのが本来の顧問のあり方だと思うがいかがか。

【保健体育課総括課長】
 改めて県の部活動のあり方に関する方針について徹底を図るとともに、昨年度から中学生のスポーツ・文化活動に関する研究会を立ち上げており、実質の検討に今年度入っている。その中にも「教師の適切な指導」というテーマと、「自主的・自発的な活動」という大きなテーマを掲げて議論している最中である。
 将来、学校の部活動での自主的・自発的な参加も含めて、生徒のニーズ・要望に合わせた活動がどのように提供されるかという辺りをしっかり議論していきたいと思うので、提言をまとめながら周知するという段取りも予定しているので、そうした中でも適切な部活動が進められるように進めてまいりたい。

【斉藤委員】
 実は第三者委員会の調査報告書の本文を読むと、この提言の深い意味というのがよく分かった。概要版ではよく分からなかった。3つ提言している。
 1つは「悩みや苦しみを抱えた生徒が、援助・希求できる体制の構築」と。いわば学校が安全でないところがあるという、こういうSOSを生徒は発していたが、誰もそれを受け止めることができなかった。「死にたい」と周りに言っていた。それも受け止められなかった。いま私が取り上げたこの事件も、訴えたのは卒業間近の時期だった。困った時の訴えではなかった。だから、困った時にそうしたことが受け止められるような体制というのは真剣に考えていただきたい。
 2つ目は「生徒の主体性を育む指導体制の構築」である。この観点が大変大事だと。ここでは問題点も指摘しており、「不来方高校では、スポーツ推薦の生徒は3年間部活動をしなければならない」と。これは事件後に見直されたと言っているが、生徒会規則にはまだ残っていると。こういう校則は見直さなければいけない。いろんなことがあって、部活動を辞めざるを得ないということはあるので、この規定でいけば学校を辞めなければいけない。こういう生き方を拘束するようなものは、きちんと是正される必要があるし、「生徒の主体性を育む指導体制の構築」というのを真剣に、今回の私の問題提起も含めて受け止めていただきたい。
 実はこの事故報告書の中では、「何卒この件につきましては厳正なるご措置をお願いいたします」と。県教委の処分の基準案に照らすと、「不適切な言動―対応が特に悪質もしくは常習的な、または児童生徒が重度の精神的苦痛を受けた場合」。これは免職もしくは停職である。不来方の顧問教師の前任校・盛岡一高の第一審判決を受けて、減給1ヶ月だった。これはきわめて軽く、みなさんの対応が間違ったから第二の悲劇が起きた。盛岡市の教育長は「厳正な処分を」と。これはきちんと受け止めてやるべきではないか。

【小中学校人事課長】
 提出された事故報告書をもとに、報告内容の精査や事情聴取など、現在事実確認を行っており、関係職員に対する措置についても検討している。
 いずれ、確認した事実をもとに、適切に対応していく。