2022年4月13日 地球温暖化防止対策特別委員会
千葉商科大・田中准教授に対する質疑(大要)
【斉藤委員】
ありがとうございました。長野の取り組みを勉強したいと思っていました。信州のエネルギーシフトも勉強させていただいて、特に去年の6月に、長野県のゼロカーボン戦略、大変分かりやすくて、目標もはっきりしていて、本当に参考になるなと思っておりました。
それで、岩手県は東日本大震災がありまして、今年で11年目なんですけれども、どうしても県政の最重点課題がこの10年余は「復興」ということになって、私は長野と比べると10年遅れたなというのが私の率直な感想で、ただ今年岩手県はグリーン社会の実現というのを県政の重点課題に据えまして、体制も強化をして、そして新しい新年度予算でもいくつか芽だしの施策も出ました。例えば、県の公共施設200施設の調査をやって、可能なところから太陽光発電とか再生可能エネルギーを公共施設からやろうという取り組みが始まりましたし、いま住宅の改修出ましたけれども、これはリフォームですけど、高断熱のリフォームの補助というので、診断と設計と改修セットで補助するという、仕組みそのものは素晴らしい仕組みで、ただ対象件数が数十件という形なので、まだ芽だしなんですけど、そういう形で岩手県もやっと本腰を入れて、地球温暖化防止の取り組みを進めようとしています。
そこで、長野県の取り組みで一番知りたいのは、前の計画も読ませていただいたんですけれども、やはり10年前からしっかり環境対策を県政の重点課題に位置づけて、去年のゼロカーボン戦略というのはその集大成だと思うんですけれども、知事の熱意というのが原点にあると思うんですけれども、県の行政としてはどういう体制で環境対策、地球温暖化対策を進めてきたのかと。私は、岩手県はやはり「室」ぐらいの体制をとって、各部局横断の取り組みになりますので、そういう体制をとらないと進まないのではないかと。1つは行政の体制、どのように長野では構築されてきたのか。
もう1つは、長野県内各地で、市民電力の取り組みとかいろんな市民運動がありますよね。実際に実行するのは県民ですから、そういう市民が主役で地球温暖化に取り組むうえでの市民レベル、県民レベル、そして市町村レベルでの取り組みをどう進めるのかと。その点での長野県の取り組み・教訓を教えていただきたい。
【千葉商科大・田中信一郎准教授】
ありがとうございます。まず体制につきましては、2010年度、つまり今の知事が就任したときなんですけれども、そのときはですね、環境部環境政策課の中に「温暖化対策係」というのがありまして、その係1係だけ、5〜6人いました。2011年度から「温暖化対策課」に昇格させて、環境部温暖化対策課というのをつくって、それで12〜13名の規模になりました。その中に「温暖化対策係」と「新エネルギー係」ができたということです。そしてたしか2014年だったと思うんですが、その頃から「環境エネルギー課」と名前を変えて、係も3係体制に拡張して強化しました。しかしやはり環境部の中です。現在は、数年前に環境エネルギー課が改組されて、もともとあった環境政策課、主幹課なんですけれども、主幹課を環境エネルギー課が実質的に飲み込む形で統合しまして、現在は「環境政策課」、いわゆる主幹課なんですが、主幹課で計画とかをつくると。そしてゼロカーボン推進室という、長野県の場合「課」の下に「室」があるんですけれども、その課に準じるんですが、室をつくって、さらにその室の下には2係あるということで、この企画部門が実質的に主幹課の企画に成り代わったので、環境部全体の考え方が環境エネルギー課の考え方によって、先ほどの「経済は成長しつつ環境負荷を抑えていく」という考え方で、その前から実質統一はされていたんですけれども、さらにそれが強化される形になっています。
とはいっても、他の部との縦割りは残っておりまして、当然長野県も岩手県庁と同じく、もしくはそれ以上縦割りが厳しい縦割り文化の行政組織ですので、別に縦割りがなくなったわけではないんです。ただ、この縦割りの中でも、職員同士がけっこう議論をするということが非常に多くあると。それから、幹部、知事・部局長の認識がそこは共有されていて、議会も含めて共有されておりまして、やはりこうした施策というのは地方創生にもなる、地域の課題を解決していくんだと。地域活性化につながる、地域経済にプラスになるんだというところで、本当に全体が共有しておりますので、そうするとですね、大前提を共有した上で、あくまで進め方とかの手法での縦割りの議論ですので、そこは折り合いがつくんですね。方向性がまったく違うと折り合いがつかないんです。でも方向性は一緒なので、あくまで技術的に解決する、あるいは行政は最後知事・副知事で裁定すれば何とかなるというレベルで、実際そこまでいくことはなく、担当レベルで話をして、だいたい決着はつくと。むしろ先ほど建設部の例で話をしたように、こういうことをやっていくと、重点予算となって、予算もつきやすいというメリットが結構確認されてですね、むしろ他のところも結構やり始めているということになります。ということで縦割りは依然として強力に残っておりますが、むしろ縦割りを前提にしつつも協力しうる体制ができたということになります。
市民の動きについて、やはり重要なことは、先ほどの「自然エネルギー信州ネット」、あるいは2011年につくられまして県は積極的にコミットしているんですけれども、市町村も全ての市町村ではないですがやる気のある市町村も、それから信州大学の先生とか、地元の関係する企業の人たち、そして市民・NPO、いろんな人たちが入って、日常的に情報共有をやっています。例えば、県の審議会があると、その人たちもたくさん傍聴に来たりとか、そういう人たちとも行政の人たちも日常的に意見交換したりしています。ということで、行政も、大学の先生とかも、企業も、市民も、市町村も、けっこうやる気のマインドがある人たちはですね、認識は共有されている、情報は共有されている、これは非常に大きいことで、あまり県のやることとかも含めてですね、「おかしいぞ」という感じではなくて、むしろ議論とか情報共有をした上で、県が提案していきますので、スムーズに動いているというところがあると思います。
【斉藤委員】
地球温暖化防止対策というのは、ある意味専門的な分野もあるわけですよね。行政に決して地球温暖化の専門家が採用されているわけでもないと思うので、そういう意味でいけば、専門家と学習しながらといいますか、専門家の力・知恵を結集しながら行政も学んでいくという、そこがすごく大事なのではないかというのが1つで、その点長野はどうだったのかということ。
ゼロカーボン戦略で私も学んだ1つは、実は省エネルギーを考えるときに、住宅の断熱化と合わせてですね、家電製品のCO2排出の方が実は暖房より多いということで、先ほども紹介ありましたけれども、いわば家電のお店で説明義務という、そういうことを徹底されていると。住宅と同じで、家電もピンからキリまであって、性能の良い物を使えば大幅に省エネできるという、この取り組みというのは、実態をよく分析して出している政策なのではないかと。この点でも大きな成果を挙げていると思いますけれども、今どうなっているか。
あとは、EVシフトですね。これもゼロカーボン戦略で目標が掲げられましたよね。2030年で10%でしたか、増やすという。やはり車でいえばEV化をどのように本気で進めるのかということが、そのためには充電スタンドが圧倒的に足らないと。岩手は私ちょっとズレているんじゃないかと思うんだけれども、水素ステーションを8000万円かけてつくって、3台購入するという話になって、それよりもEVじゃないのかと。2050年は燃料電池車も視野に入ると思うけれども、2030年までと考えたら、やはりEVシフト化というのを、そういう点で長野県はEV化の問題でも具体的な目標を掲げたと思いますが、そういう点での考え方、実績などを教えていただきたい。
【田中准教授】
まず専門家につきましては、家電の話とも共通してくるんですけれども、やはり大前提を共有して、その共有できる専門家が一緒に動くということが大事になってきます。その大前提というのは、やはり経済が発展しつつ環境負荷が減っていく。この考え方を共有しない専門家も結構いますので、そうした専門家にはご遠慮いただくという形で、長野県では動いています。
家電についてもやはり同じで、家電の省エネ統一ラベルというのが経済産業省で設定しているんですが、これ掲示の義務がなくて努力義務なんですね、家電量販店で。ですから、県の独自で掲示の義務をかけて、年に1回抜き打ちで、地域振興局の環境課の職員が家電量販店を見てまわって、それを本庁に報告するという体制を今でも継続しています。それによって、やはりトータルコストで安い物を選ぶというのは県民にとってプラスになりますので、いわば県民が損をしないような仕組みをつくるということが常に大事なことですね。
最後に、運輸・自動車・EVについてはですね、長野県では自動車については、2012年・2013年の段階では、人もお金もないので、実はまったく後回しにしていました。経産省の方が、このEVの充電スタンドを普及するんだという時に、それにお付き合いと言いますか、それに合わせてスタンド整備計画をつくったという程度でして、実は今まで何もやってこなかったに等しいわけです。それが結果的には、当時は水素になるのかEVになるのか分からなかったですが、今はEVの方が上がってきているんですが、水素が悪いわけではなくて、単純に長野県ではその点でも遅れていたというだけの話だったということで、それもあえて後回しにしていたんですね。あえてというのは、要は人も時間もないので、職員も少ないんですね。予算も少ないので、そこに回せるものがなかったということで、集中していたのが事業者の対策、住宅・建物ですので、それは結果的にそうなったということでございます。