2024年3月14日 予算特別委員会
農林水産部(第一部)に対する質疑
(大要)


・物価高騰による影響について

【斉藤委員】
 2020年比の肥料、飼料、燃油、その他の農業資材の物価高騰の実態と農家への影響額について示してください。

【農業振興課総括課長】
 国が実施している農業物価統計調査では、令和2年を基準年とした場合の本年1月時点の農業物価指数を見ますと、総合物価指数が120.5、肥料が135.0、飼料が144.5となっております。
 原油価格については、国の調査によると、本年1月時点の東北地方におけるA重油の価格は、1リットルあたり103.0円と高騰前の令和2年と比べて46%上昇しております。影響額につきましては、生産する作物や経営規模などにより、経営体によって生産資材の使用状況が大きく異なり、また、個々の経営努力も加味しますと、影響額全体をお示しすることは難しいものでございます。

【斉藤委員】
 いずれにしても物価高騰の影響が続いていると。農家にきわめて大きな打撃を与えているということははっきりしていると思います。
 決算でも取り上げたんですが、酪農農家の減収の実態と対策を示していただきたい。決算のときに、成牛100頭、子牛20頭を飼育していて、畜産クラスターで規模を拡大した農家ですが、月150万円、年間1800万円の赤字だと。国・県・市町村の補助があって、それを差し引いても1200万円の赤字、結局月100万円の赤字です。そして昨年から畜産クラスターの償還が始まったと。月150万円だということです。本当に大変な事態で、100頭規模の乳牛というのは、岩手の酪農の中でも本当に中心を占める方々だと思うのですが、どのように畜産農家の減収の実態を把握し、対策はどうなっているか。酪農農家戸数の推移も含めて示していただきたい。

【振興衛生課長】
 飲用向けの生乳価格が令和4年11月と令和5年8月に段階的に引き上げられ、1sあたり合計20円引き上げられたものの、配合飼料価格が高い水準で推移しております。こちらの状況を農林水産省が示しております畜産物生産統計で計算してみますと、畜産物生産統計の最新値―令和2年の統計値として、搾乳牛1頭あたりの収支として約25万円と示されております。こちらは、農産物物価統計値の令和5年の数値が公表されておりますので、畜産物生産統計の公表値に、農産物物価統計の公表値を単純にかけ算して出した数値では、搾乳牛1頭あたりの収支が約5万円となっており、20万円の減ということが計算できております。このように、生産コストの増加が酪農家の経営に影響を与えていると認識しております。
県では、これまで酪農家の経営安定に向け、飼料等の価格上昇分を補てんする国事業の活用を積極的に進めるとともに、県独自に累次の補正予算により飼料や肥料の購入費、酪農経営の影響を緩和するための支援を実施しています。
また、先ほど償還のお話があったところですが、県では、畜産経営の資金繰りに重大な支障が生じないよう、日本政策金融公庫盛岡支店ほか県内の金融機関にたいし、適時適切な貸出や既往債務の返済猶予など実情に応じた十分な支援を行うことを、令和4年から繰り返し依頼しているところでして、金融機関からは「可能な限り相談に応じて対応している」と回答をいただいているところです。
 県内の酪農家戸数については、国の統計によると、令和5年2月1日時点で728戸と、資材高騰前の令和2年と比べ約100戸の減少となっております。

【斉藤委員】
 令和2年と令和5年の収支、1頭あたり20万円減少していると。100頭あたりだと2000万円の収支が赤字になったと。これはだいたいリアリズムだと思います。この打開、たしかに国・県・市町村も対策をとっていますが、おそらく半分も補てんされていないと思います。昨年の段階だと、100頭規模の農家で合わせて600万円程度なんです。農業の専門家の論文を見ましたが、1頭あたり10万円の支援策がないと酪農はもたない。1頭あたり10万円というのは、総額だと740億円で、国レベルで考えればそれほど途方もない額でもない。本当にそういう規模で支援策を講じないと、いま全国の岩手の酪農はもたないと思いますがいかがですか。

【振興衛生課長】
 先ほども答弁いたしました通り、県独自に累次の補正予算により飼料等への購入費等酪農経営の影響を緩和するための支援を実施しているところであり、まずはこれまで措置した支援を迅速かつ確実に実施するよう取り組んでまいりたいと考えております。また、県では、化学肥料の使用量を低減する堆肥等の活用や、飼料基盤を積極的に活用した自給手段の生産拡大を推進するとともに、乳量の増加や乳質の改善等の生産性向上に向けた取り組みを支援しており、農業普及センターの職員が酪農家を個別に訪問して、経営の状況をお聞きしながら、例えば経営計画の見直しや資金繰りの相談に応じているほか、生産性向上に向けた技術指導などにも相談に応じて対応しているところであり、このような形で生産者の声を聞きながら寄り添った支援をしていきたいと考えております。

【斉藤委員】
 立ち入って言いますが、乳価がたしかに20円上がりました。1.8リットルあたりのパックでいま250円を超えているんですよ。ですから、昨年は牛乳の使用量が一番減りました。価格転嫁は大事なんだけれども、しかし価格転嫁をすれば需要が減るのも現実なんです。だから価格転嫁とあわせて消費者に負担がかからないような支援策でないといけない。そしていま足りないのはチーズなんです。いま畜産クラスターをやって生産量が増えている。ところが牛乳は余っているというちぐはぐした対策になっているので、いま不足しているチーズを国産に転換すれば、かなりの程度いまの余っている生乳の利用はできると専門家が言っています。そういう対策、これは輸入を減らさなければならないので、輸入のチーズを減らしてそういう対策をとれば、いまの需要と供給の関係では解決できるのではないかと思います。
 もう1つ、政府がやったことは、バターが足りなくて生産増大だといって、余ったら乳牛を殺せと。1頭あたり15万円だと。こんなことをやっているんです。しかし規模拡大した農家は、減らしたら借金を返せなくなる。本当にこれはお粗末な対策で、岩手県ではどのぐらいの農家が15万円の申請をしたのかも示してください。

【振興衛生課長】
 酪農経営改善緊急支援事業についてのご質問だと思いますが、本事業は、生乳の需要と供給の差である需給ギャップを改善するために、生産者が早期に乳用の経産牛―お母さんになった牛をリタイアさせて、一定期間生乳の生産抑制に取り組む場合、生産者団体等の一定の負担というものを要件に奨励金を交付する事業となっております。
 本県では、令和5年3月から9月までの第一次取り組み期間には、32頭に対して奨励金が交付されたところですが、令和5年10月から令和6年3月までの第2次取り組み期間に対する要望はなかったと聞いております。

【斉藤委員】
 国の施策は受け入れられていないということだと思います。そうではなくて、安心して牛乳が生産できるような施策こそ必要だということを指摘しておきたいと思います。
 12月議会で、経済対策に対応して酪農家への支援策をやりましたが、これは昨年度の半年分なんですよ。今まで議論があったように来年度の対策はないわけです。せめてこれまでの取り組みは継続して、さらに拡充しないともたない。
 そういう点で国の責任が一番問われている。これを本当に実現させないと、来年度は何もありませんということでは、農家を見殺しにしてしまうので、部長さんその点いかがですか。

【農林水産部長】
 担当課長が答弁している通り、これまで肥料・飼料価格の上昇分については、国事業の活用とともに県独自に累次の補正予算を組みながら、肥料・飼料の上昇分の購入費の支援、あるいは生産コストの低減に向けた機械導入や省エネ対策といったものを進めてきたところであり、昨年度の実績を見ると、飼料の方で30億円弱ぐらいの交付金を措置してきており、これについては、令和5年度の第4四半期分については、令和6年度の6月までに支払うという形で動いておりますので、資金繰りとすれば6月までは何とか生産者に一定程度の資金が届く形で支援できるものととらえております。
令和6年度の対策については、従来より国の交付金等を活用しながら県独自の支援も組んできたところであり、現在の生産者の状況も踏まえながら国にしっかりと対策を求めていきたいと考えております。

【斉藤委員】
 ぜひしっかり国にも求めてやっていただきたい。

・米価の問題について

【斉藤委員】
 先ほどの答弁で、令和5年度の生産費も独自に試算して、3ヘクタール以上のところは成り立つという答弁がありました。独自試算したことは評価したい。しかしこの試算は、本当に正確なのかという疑問符がつきます。販売額となっていますが、相対取引価格ですね。これが農家にストレートに入るのですか。

【水田農業課長】
 相対取引価格については、すべて農家に入るというものではなく、流通経費等も含まれたものとなってございます。

【斉藤委員】
 そうすると、販売額と生産費を比較するのは正確ではないですね。流通経費は何%ぐらいになっていますか。それを差し引かないと比較できないではないですか。

【農政担当技監】
 米の部分については、概算金がだいたいそのぐらいございまして、それとの部分が流通経費としても含まれているという形で考えてございます。

【斉藤委員】
 せっかく試算するなら、流通経費があるというんだから、その流通経費が何%あるかだいたい分かるでしょう。それを差し引いて生産費と比較しなかったら、それだけでも正確ではないと思いますよ。
 決算のときにも紹介しましたが、令和5年産米で、農業新聞が10月24日付で集落営農法人調査というアンケートをやりました。「コスト高騰に見合う農家手取りの米価は60sあたり14000円以上でないともたない」と。集落営農法人というのは大規模農家です。大規模農家でさえ14000円以上ないともたないというのが農業新聞のアンケートだった。14000円ということになったらどうなりますか。

【担い手対策課長】
 県では、昨年12月から本年1月にかけて、主食用米の生産を中心とする集落営農法人13経営体でございますが、農業普及員による聞き取り調査を行ったところでございます。令和5年産の10アールあたりの生産費を見ますと、2年産と比較して肥料費が平均で約4割、農薬費が約1割増となっている実態がつかめたところでございます。調査した経営体においては、令和5年度の所得で見ますと、令和2年度と比べ減少となる見込みの経営体がある一方で、米価が上昇したこと、産業の効率化による労働費の削減に一生懸命取り組むなどして、いわゆる個々の経営努力により令和2年度と同等以上の所得を確保できる見込みの経営体もあるとつかんでいるところでございます。

【斉藤委員】
 私はしっかりした資料に基づいて聞いているので、そんな抽象的な答弁では答えにならないでしょう。大規模農家を実態調査したらすぐに分かることです。もう税金申告しているんだから。

・食料・農業・農村基本法(案)について

【斉藤委員】
 食料安全保障というのが最大の目玉です。ところが食料安全保障の定義が「国民一人ひとりが良質な食料を安定的に入手できる」と。国内の生産で国民の安定した食料を確保する―食料自給率を向上させるという立場が消えてしまった。これは一番の大問題だと思いますが、新たな基本法案、何が問題か答えていただきたい。

【農林水産部長】
 今般の基本法の改正については、前基本法の制定から20年以上が経過し、食料自給の増加あるいは供給の不安定化、カーボンニュートラルといった状況変化をとらえ、食料安全保障の確保、環境と調和のとれた食料システムの確立、農業の持続的な発展のための生産性向上、農村における地域社会の維持等を図るため―というような形で見直すというような動きになったところで、見直しするというところは評価できるととらえておりますが、先ほど来ありました通り、国内生産を拡大するというようなことを謳っておりますので、農業者が将来にわたって意欲をもって生産活動できるといった施策の充実を図っていただきたいととらえているところでございます。

【斉藤委員】
 国内生産を拡大するというのは一言だけで中身がない。そうでなくて、「歯止めなき輸入自由化」「価格保障・所得補償の削減・廃止」「市場任せの農政」―これでは今の深刻な日本の農業、国民の食料が確保することができない。この点でしっかり岩手県もものを言うべきだということを指摘して終わります。