2024年3月18日 文教委員会
教育振興計画(最終案)に対する質疑(大要)
【斉藤委員】
前回12月7日の文教委員会で、10項目程度問題提起をしました。一部取り入れられたところがあることは評価をしたいと。改めて全文を精読してきましたので、必要なところをお聞きします。
3ページのところで、「岩手の教育のあゆみ」のところで、「国の新たな教育振興計画では…基本方針として2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の担い手の育成と日本社会に根ざしたウェルビーイングの向上を抱えています」と。「ウェルビーイング」という言葉はほとんど県民は分からないと思います。下に(注)が書いてありますが、もっと分かりやすい日本語で記述すべきではないのかと。圧倒的多数の県民が分からない用語では伝わらないのではないか。私はこの2つが正確かということについても意見がありますが、それは後でお話をします。
第二点は、5ページで、県内就職率が73.6%で高いと書いていたのは無くなりました。高くないので。向上させてきたということはあるけれども、岩手県の目標は84.5%なので。目標から見たらまだまだ大きな乖離があるし、全国的にも高い方ではないので。
6ページで、いじめの問題のところで、「いじめの認知件数や不登校児童生徒数が増加傾向にあることから、アウトリーチ型の支援やICTの活用等による相談支援体制の一層の充実、関係機関と連携した教育機会の確保」ということで、アウトリーチ型の支援ということが挿入されたと。これは評価したいと思いますが、本当にいじめや不登校は急増していて、やはりその要因に対して場当たり的な対応ではない、そもそもの問題を解決しないと、結局いじめや不登校が出たら対応するという対策なんですよ。いじめや不登校が出ないような学校にどうするかということが一番大事なことが欠落しているのではないかという感じをいたします。
とりあえずこの点についてうかがいます。
【教育企画室長】
3ページのところですが、国の計画の方針の紹介ということで、ウェルビーイングという言葉をそのまま使わせていただいております。ウェルビーイング、さまざまな理解が定着していないということはご指摘の通りで、審議会のときも委員の皆様から、ウェルビーイングというのは教育界では定着してきていると。例えばスポーツ界でも広がっているけれども、一般の県民の方ではまだまだ理解できないなというところは、委員からもお話があり、県の方には、県の取り組み、目標、方針などのところには使っておりません。ただ、今の流れとして国でもウェルビーイングというキーワードでもって、さまざまな施策を取り組もうとしておりますので、国の方針の紹介の中で使わせていただき、また、やはりそれについては注釈が必要であろうということで付けさせていただいたところでございます。
5ページの就職率のところですが、ご意見をもとに修正いたしました。今後も商工労働観光部などとも連携し取り組みを進めていきたいと考えている部分でございます。
6ページのいじめ・不登校のところですが、そもそもいじめ・不登校を生み出さないような学校の取り組みが必要ではないか、その大前提のところというお話ですが、そのご意見は実は総合教育会議で教育委員の方からも出されています。そもそも生み出さないような学校づくりが必要ではないかと。心の教育だったり子どもの自主性を尊重するような、今回は例えば、校則の見直しをどんどん図っていこうという取り組みも一例に、そのような取り組みもつなげながら、学校の子どもの居場所、生徒の自主性、不登校・いじめを生みださない学校・風土をつくっていく必要があると考えており、それ自体ははっきりしているものではないのですが、さまざまな取り組みのところから学校の風土づくりにつなげていきたいと考えております。
【斉藤委員】
いじめ・不登校については、国連子どもの権利委員会が繰り返し日本政府に勧告をしているんですね。極度に競争的な教育システムによって子どもたちの発達が障害を受けていると、大変厳しい指摘を繰り返し受けて、そういう競争教育、端的に言えば全国学力テストですよね。できる子できない子をつくって、学校の序列をつくって、それによって子どもたちが辛い思いをしている。これは不登校になった子どもたちのアンケート調査でもそういう懸念の声がたくさん出ているので、これは指摘だけにしますが、本当にいま日本の教育、岩手の教育が問われている大変大事な中身です。
10ページで、いまも議論になって報告もありましたが、「自分らしい生き方の実現に向けた新たな時代の岩手の教育」と。これは教育の基本目標で書かれているんですね。スポーツ振興計画も、目標は何かというと、スポーツ基本法の目標で示しているんですよ。私は教育基本法の教育の目的をここに据えるべきだと。教育基本法における教育の目的は「人格の完成」なんですね。子どもたちの能力の全面的な発達を保障するというのが変わらない教育の目標です。大きな見出しは「学びと絆で夢と未来ひらく社会を創造する人づくり」になっています。教育の目標は人づくりじゃないんですよ。それは結果なんですね。ここは大変大事なところで、教育基本法は1947年に制定されて、世界的にも先駆的だった。その後、世界人権宣言では「教育は人格の完全な発展ならびに人権および基本的自由の尊重の強化を目的としなければならない」と。子どもの権利条約(1989年)では、「締約国は子どもの教育が次のことを施行すべきことに同意する―児童の人格、才能ならびに精神的および身体的な能力をその可能な最大限度まで発展させること」と。だから教育基本法で教育の目的を明記した。それは、国際的な条約、宣言にも同じように明記されているんです。だから、教育の目標は「人づくり」と矮小化しないで、子どもたちの人格の完成、あらゆる能力を発展させると。そして教育基本法では「平和、民主主義の担い手となる」ということも書いています。それは戦前の教訓からそういう規定になっています。そういう意味では、単純な「人づくり」ではない、教育の崇高な目標を基本計画でも位置づけるべきではないかと思いますが、この点はどのように検討されたのでしょうか。
【教育企画室長】
現在の計画においての目標を継続させていただくわけですが、現在の計画も、いわて県民計画2019−2028の長期ビジョンとの整合性を図りつつ、教育の本質である人づくりを基本目標に掲げました。まさに県民、特に岩手の子どもたち一人ひとりの夢の実現を支え、岩手の未来の創り手として社会全体で育てていくということを掲げさせていただきました。
まさに長期ビジョンの中での教育振興計画ですので、まずは長期ビジョンとの整合性を図った方が良いと考え、また今回の計画策定にともない、子どもたちの意見聴取を実施しました。その意見聴取で多くの回答や意見があったのは、「夢や目標をかなえたい」という意見でした。それが第一点。そして、昨今のコロナだったり海外の情勢の不安定さといった変化の激しい社会の情勢や人口減少になっている本県の状況を鑑みて、岩手の教育としてどうあるべきかということを考えた際、象徴した目標が現行計画であるのではないかという結論に至り、現行計画を継続することといたしました。
【斉藤委員】
一番の基本になるのは教育基本法です。改悪された経過もあるけれども、教育の目的だけは変わらなかった。だから教育基本法で教育の目的はしっかり定められている、こことの関わりで基本目標は位置づけられるべきだと思うけれども、その関係はどのように議論されているのですか。
【教育企画室長】
本計画も、教育基本法の規定に基づき、岩手県教育委員会として策定するものでございますので、教育基本法の目的は当然岩手県の教育振興計画の上位目標としてあるものだと認識して策定しております。
【斉藤委員】
私はやはり教育の目標は、人格の完成であり、子どもたちのあらゆる能力を発展させると。そこに本質があると思うので、「人づくり」に矮小化すべきではないということは指摘をしておきます。
14ページのところで、ギガスクール構想が明記をされております。このギガスクールというのは、コロナの中で情報教育が遅れていた、ICT教育が遅れていた側面があって、1人1台の端末が整備されることになったということは評価をしたいと思います。しかし、ICT教育には光と影があるんです。いま世界で進んでいるところで、ICT教育が学力の向上に結びついていない問題が指摘をされています。そして健康にもさまざまな障害を与えていると。だから学校ではスマホ禁止という国もあります。ギガスクール構想というのは、遅れているために一直線で遅れを取り戻すという感じになっているけれども、世界的な取り組みの現状を踏まえて、この問題についてはプラスの面とマイナスの面もありますから、すでに健康上の問題で言うと、子どもの視力が急速に落ちています。特に低学年で急速に悪化していると。そして脳にも影響を与えるということも、世界的な国のレベルの調査研究でも明らかになっていますが、ギガスクールをどのように進めるか。どんな議論でここに書かれているのか示してください。
【教育企画室長】
新学習指導要領においても、情報活用能力などの育成ということが、ICTを日常的に活用した学習活動の充実をもとに進めていくとされているところです。
ICTの活用については、ご指摘の通りマイナスの面というのはたしかにあるところですが、一方プラスの面として、特別支援学校の生徒などさまざまな可能性を広げるという部分もあり、学びに新たな可能性をもたらしていることも事実だと思っております。ですので、私どもは、必ずどちらかでというものではないと思っております。リアルによる授業、課外活動、体験活動という役割も絶対不可欠な要素だと思っております。デジタルとアナログ、遠隔とオンラインと対面のようなものは、二項対立ではなく、良いところ取りというか、最適な組み合わせで進めていくべきものだと思っております。それを組み合わせ、一人ひとりの可能性を伸ばしていくというのがギガスクール構想の目指すところだと考えており、その考え方のもと進めていきたいと思っております。
【斉藤委員】
どのような議論がされたかというのがよく見えませんが、実は2023年7月に国連のユネスコが、200を超える世界各国からの報告と研究成果をもとに、ICT教育について分析した「グローバルエデュケーションモニタリングレポート2023」というのを発表しました。これは話題になったでしょうか。そういうことを踏まえてギガスクール構想を進めようとしているでしょうか。
【教育企画室長】
ご紹介があった件は、審議会等での議論などにはなっておりません。
【斉藤委員】
国連のユネスコがそういう現状を踏まえて、大変大事な報告書を出していると。ユネスコの事務局長が羅針盤として2つ強調しました。一つは、「生徒の最善の利益が他の考慮事項、特に商業的考慮事項よりも体系的に優先されるべきであること」。二つ目は、「テクノロジーは手段と見なされるべきであり、決して目的ではないこと」と。いま日本の教育DXというのは、教育のあり方まで変えようとしています。個別最適な教育と出ていますが、これは経済産業省が進めてきたんですよ。AIで一人ひとりの学習の到達状況に応じた教育の課題を提起すると。だから教育をAIに任せるという話です。それは決して効果的ではないと。
例えば、スウェーデンでは、「デジタルツールが学習を妨げる明確な科学的根拠がある」と声明を出しました。教育大臣が中心となって、紙の教科書と手書きに回帰する取り組みを進めていると。オランダでは、「2024年1月、学校でのスマホなどの使用を法律で禁止」と。AIやテクノロジーにコントロールされるのではなくて、しっかりコントロールできる力を身に付けると。
私も現場の先生から聞きますが、ICT教育は良いんだけれども、先生の側にそれをコントロールする、特に子どもたちにそれを教えるそういう研修は全然遅れていると。物が先にありきで。だからきちんと基盤を一つ一つつくりながら。
もう一ついま大問題になっているのは、このICT教育を通じて個人情報の管理がどうなっているかということです。インターネットは個人の情報が全部筒抜けです。この個人情報を守る体制はとられていないと思います。だからICTを活用するためには、その前段ということがあるわけで、それを無しにやったら大変なことになります。
スマホにしてもタブレットにしても、1日3時間以上使っている子どもの学力は低下しているという日本の調査もあります。
そういう意味で、このギガスクール構想、個別最適な教育というのは、クエスチョンマークを付けて、慎重に、活用するところはしっかり活用することが大事だけれども、AIに利用されるような教育であってはならない。いま世界でそういう動きが起きているということも踏まえてしっかり対応していただきたい。
【教育企画室長】
ICT教育、ギガスクール構想によるさまざまな学びのあり方、いま委員ご指摘いただきましたデジタルリテラシーのお話、また昨今他県でも話題になっているクラウドで学習ドリルをやってそのデータの活用の部分での個人情報の問題など、さまざまな課題が併せて出てきているというところでございますので、そのようなところも他県の状況や先進事例なども把握しながら、注意しながら取り組んでまいりたいと思います。
【斉藤委員】
遅れているところから出発しているから、それを取り戻そうという取り組みは当然であり、必要なことだと思います。しかし、いま世界で進んでいるところで対話と紙の教育に復帰しているというのも新しい動きで、負の部分が顕在化しているというのが現状ということもしっかり見て、特に個別最適な教育というのは私は正しくないと思っているので、AIに任せる教育になりかねませんので。
18ページのところで、指標で、これはいわて県民計画と言われれば仕方ありませんが、「将来の夢や目標を持っている児童生徒の割合」、小学校で82.6%、中学校で73.3%、これを84.0%、76.0%にすると。子どもたちの夢・目標というのは、そんなに早く決めなくちゃいけないのかと。いろんな学習や体験を通じて夢はつくられるんだと思うんです。夢や目標を見つけるのが教育なのではないかと思いますよ。それを数値化するのが適切かどうかと思います。
24ページの目標で、「意欲を持って自ら進んで学ぼうとする児童生徒の割合」、これは全国学力テストで調査するわけですよね。全国学力テストで調査すれば、成績に関わるので皆前向きな答えするんですよ。これはつくられた81%とか83%とか、そういう目標になっていないのではないか。
Cのところで、「諸調査結果や日々の授業から明らかになった児童生徒のつまづきに着目した授業改善を行っている学校の割合」、50%、40%、51%ですね。学力テストがあまり力になっていないことを示しているんですよ。県の学習状況調査だって、前向きの回答でも半分しか使われていない。ここをしっかりよく見る必要があると思います。このデータはきわめて重大だと思います。
29ページで、「本県の児童生徒の読書率」、全国と比べておおむね高いと。1ヶ月で小学校17.1冊、中学校4.8冊、高校2.2冊と。なぜ中学・高校とこんなに激減するんだということを以前指摘しました。ここに教育の歪みがあるのではないかと。本当なら中学・高校になってもっと読書好きになるということが必要なのではないかと。その答弁は「読んでる子どもたちはいます」と。冊数がこれだけ激減しているということを問題提起しているので、これはどのように分析されているのか。
【学校教育企画監】
学力関係の指標について、意欲を持って自ら進んで学ぼうとする児童生徒の割合は、全国学調の指標ですけれども、成績に関わるから前向きに答えるのではないかというご指摘ですが、実際に児童生徒が意欲を持って回答していた場合….。
2点目の、諸調査の結果つまづきに着目したというところは、ご指摘の通りまだ不十分なところもあると思いますので、我々もずっとやってきていますが、改めて力を入れてやっていきたいと思っております。
【斉藤委員】
30ページのところで、主権者教育との関わりで、「児童生徒校則の見直し、学校の行事の企画運営などに主体的に参加」と。この校則の見直しは大変大事な課題だと思います。
新聞報道で、性的マイノリティの子どもが3.5%―これは国立社会保障人権問題研究所です。性の多様性に対応したものでなければならない。一つ問題になるのは制服です。これは男性・女性しかない。だから住田高校などでは男性でも女性でも履けるスラックスにしようという動きが出ていますけれども、この制服のあり方というのもそういう形できちんと性の多様性に対応して改善されているのかどうか。制服の問題では、価格に最大6倍の差があると。2万円から7万円ぐらい。専門家は、制服はブレザーだけにして、あとは自由にすべきだという提起もしています。高い制服を押し付けるのは財産権の侵害とも指摘しています。そういう意味で、一部県内の高校でも見直しをされているところです。
それから、これは止めた方がいいと思うのは、38ページで「部活動の暴力・暴言、セクシャルハラスメント等の不適切な指導のない部活動の適切な運営」と。「指導」という言葉を使わない方がいいと思います。暴力・暴言、セクハラは指導に当たらないんです。不適切な「言動」。「指導」はまったく不適切な表現だと思います。人権侵害そのものですから。
学校図書館の中身で、「すべての児童生徒にとって安全安心な居場所づくりと魅力ある学校図書館の機能の充実」と。突然セットにさせられた。学校図書館というのはそういう位置づけじゃないのではないかと。急に安全安心な居場所と図書館を結合するのはいかがなものか。
時間がないのでこれで終わりますが、教育委員会議で議論されるでしょうから、最後までしっかり議論して良いものにしていただきたい。