2024年7月2日 文教委員会
再発防止「岩手モデル」〜TUBASAモデル〜に対する質疑(大要)
【斉藤委員】
再発防止「岩手モデル」の取り組みについては、この常任委員会で何度も議論してきました。
5月27日に成案が出たということを半分は評価をしたい。半分と言ったのは、盛岡一高事件の被害者家族の同意・理解は得られなかったというのがありました。
12回にわたって議論されてきた。7人の外部委員を入れた議論でありました。私もほとんど委員会を傍聴してきましたが、12回やったわりには、遺族や被害者家族の思いがしっかり受け止められてそれに応えた審議が十分なされずに終わったというのが私の感想であります。
成案ができたということを前提に、1つは、岩手モデルの「はじめに」というところが一番大事だと読んで感じました。3つめのパラグラフで、「教職員等は、児童生徒一人ひとり人格と価値観を尊重しながらその成長を支援し、児童生徒の声に耳を傾け、寄り添う存在でなければなりません」と。そして下から2つめのところで、「不適切な指導を根絶するためには、まず、教職員等が自身の指導のあり方について意識を改革し、児童生徒一人ひとりを尊重した適切な指導方法を身につけなければなりません」。そして一番下のところで、「また、各校では、教職員等全員で不適切な指導を許さない、見過ごさないという風土を醸成するとともに、管理職が個々の教職員等の児童生徒に対する指導の状況を把握し、適切な人事管理を行うことが求められます」と書いてありました。
今回のような事件を許さない、また、今でも残念ながら不適切な言動・体罰等の事件が収まらないその背景に何があるかというと、児童生徒一人ひとりの人格、価値観を尊重する学校教育になっていないと。ここに一番の根本があると思います。このモデルでも書いていますが、子どもの権利条約を学ばなくてはならないとも書いています。子どもの最善の利益、子どもの意見表明権、これを明記したうえで、実は、国連子どもの権利委員会から5年に1度、日本政府には大変厳しい勧告が出されていると。今の教育の現実・実態はどうなっているか。グローバルな観点から、国連子どもの権利委員会の勧告というのは大変大事なものだと思いますが、ここの「はじめに」のところの精神をぜひ「岩手モデル」徹底のうえでは重視してやっていただきたい。まず教育長にこのことをお聞きします。
【教育長】
「はじめに」の点、この文章をさまざま我々も議論する中で策定してきた部分ですが、委員からご指摘がございました通り、このモデル策定中におきましてもさまざまな不祥事案が発生しているということ。その背景には、やはり人権意識の欠如や指導方法に関する誤った理解があると言わざるを得ないと考えてございます。
「岩手モデル」の最終目的は、すべての児童生徒が安心して生き生きと学校生活を送ることができるようにすることと、当然ながらこのような事態―児童生徒の命が奪われるようなことを二度と起こしてはいけないということを、しっかり我々として過去の事例に学び、反省して、これを徹底して進めていくということでの「はじめに」を整理したつもりでございます。
【斉藤委員】
この「はじめに」の文章はよく出来ていると。そして2ページ目に、簡潔に枠組みにして新たな取り組むべき課題を書いていますから、ある意味「はじめに」を読めば全体の結論がすぐ分かるとなっているのではないかと思います。
2つ目ですが、今度のモデルの特徴は、新谷翼さんの自死の経過、これが比較的丁寧に書かれていると。最初の案、最終案、確定版を見たけれども、確定版でもかなり最終案から修正が加えられていたと。その点は最後まで皆さん努力をされたんだと思います。それでもなお、被害者遺族は納得しなかったということを含めて、いくつかこの経過のことについてお聞きをしたいと思います。
「岩手モデル」の4ページ5ページには、「当該顧問教諭の前任校勤務時における状況」と。いわば、不来方高校のバレー部の活動の中で、執拗な叱責・暴言で追い詰められて亡くなると。この経過は、実は第三者委員会の調査報告書が本当に丁寧に報告されている中身です。しかし、事件の原点は盛岡一高事件―前任校にあったのだと。盛岡一高で、同じバレー部員がこの顧問教諭から厳しい叱責・暴言を受けたと。体罰は当時顧問は否定をしておりましたが、裁判の過程で認めました。これは原告がバレー部員の証言を出したのです。県教委も調査をしました。そして体罰が明らかになって、裁判の中で訂正するのです。そして一審の判決は、執拗な叱責・暴言は違法だという判断を下したのが裁判の経過でした。私は特に、5ページ6行目の、暴言・叱責によってバレー部員の生徒が不登校に陥った。家族はその理由がまったく分からなかったのです。しばらくして、実は顧問から教官室に呼ばれて激しい叱責・暴言をやられたということが分かって、その事実の究明を求めたのです。いくつか経過があるんですが、この6行目のところは、「被害生徒から顧問教師による長時間にわたる叱責・罵倒・暴力等の証言があったが、被害生徒以外の4名の元部員の証言内容は、『体罰がなかった』というものであった」と。実はこの証言の根拠がないのです。県教委の調査で、同じ部員の生徒に聞いたときに、2人が体罰があったと認めました。本当にその当時4名の部員の調査をやったのかと。被害者家族は「ねつ造ではないか」と言っています。具体的なメモも何もないのですよ。そういう意味でいくと、ここに被害者生徒以外4名の「体罰はなかった」ということで、結局校長は「もう調査しない」となって、必要な当時のバレー部員の調査をしなかった。初動の大失敗です。そして繰り返し調査を求めたことに対して校長は「もうこれ以上しません」と調査拒否の回答を出した。だから刑事告発をして、民事訴訟にいかざるを得なかった。これが盛岡一高事件です。しかしそれは民事訴訟の裁判の中で一つ一つ覆されて違法判決になった。この点で、「被害生徒以外4名の元部員の証言は『体罰がなかった』というものだった」と、これはどう検証されたのでしょうか。私はこの根拠はなかったのではないかと。ねつ造の疑惑もあるのではないかと私自身も思いますがいかがでしょうか。
【教育企画推進監兼服務管理監】
再発防止「岩手モデル」策定委員会の理由の解明チームのところでそういった部分の検証をしたところでございますが、学校及び県教育委員会の組織としての対応について、当時在籍した職員から聴取などを行いまして、その部分の事実関係の確認を進めたところでございます。確認の結果、ただ今委員からご指摘いただきました通り、再発防止「岩手モデル」において、前任校による被害生徒保護者からの訴えを受けてからの初動調査ですとか県教育委員会と学校との連携が不十分なものとなったこと、元部員からの聴取方法や聴取記録が不十分なものとなったことについて「不適切だった」と総括したところでございます。
なお、前任校におきまして、元バレー部員4名から元顧問教諭の部活動指導について聴取を行ったことにつきましては、民事訴訟において判決の中で事実として認定されているところでございますし、県教育委員会としても事実と認識しているところでございます。
【斉藤委員】
実はこの4名のうち2名は「学校から調査された記憶はない」「事実はない」と言っているんです。この2名は「体罰があった」と証言した部員です。二審の裁判では、この文教委員会でも繰り返し取り上げ、このモデルにも書いている陳述書が出ました。当時のバレー部員の被害者の後輩の陳述書です。壮絶な、恒常的な暴力・暴言があったという陳述書です。そこから見たって4名の証言が事実だったという、そういう認識ですか。県教委も調査したでしょう。同じ部員ですよ。その2人の部員は「学校から聞かれていない」と言っているんです。何か根拠ありましたか。
【教育企画推進監兼服務管理監】
ご指摘いただいた部分につきましては、当時の訴訟におきまして、県教育委員会からお示しした資料の中で、4名の部員から県教育委員会において聞き取り調査した結果について、訴訟資料として提出している中においても、2名の部員につきましては、学校における調査については「記憶にない」と言いますか、「覚えてない」ということをお話していたことも記載した上で裁判所には提出させていただいております。
学校におきまして、ご指摘いただいたようなしっかりした元部員からの学校における調査の記録というのは、たしかにございませんでしたが、学校におけるメモといいますか、調査にかかる資料というのは、同じく訴訟において裁判所に提出させていただいたところでございます。
そういった資料を踏まえての裁判所における事実認定において、学校における調査というのはあったということでの事実認定をされているというところも踏まえながら、県教育委員会としては、そういった学校の調査はあったものということで認識しているところでございます。
【斉藤委員】
いまの答弁は、県教委の調査でも2名は「学校の調査の記憶がない」と。だったら学校が4名調査して「体罰はなかった」という事実が否定されているじゃないですか。県教委はそれは認識したわけでしょう。被害者家族がこだわっているのはここなんですよ。こういう隠蔽が許されていいのかと。こういうことがずっと認められてこなかった。今回のモデルの中には、ずっと読めば4名の証言はおかしいとなるのです。ただわざわざこう書いたところに私は少し問題があるのではないかと思います。
次に、第二章のところで、「前任校勤務時の暴言・暴力への学校と県教委の対応」というのが事件の原点だと思います。学校は必要な調査をしなかった。調査を拒否した。4名の元部員の証言のねつ造、これも私は明らかになったと思うけれども、一審で違法判決が下されたにも関わらず、顧問教師は異動した不来方高校でバレー部の顧問を続けた。そして一審判決の直後に、保健体育課、競技団体と一緒に、「こうした事件が起きたら顧問は部活動から外す」という宣言が出された。これも無視されて、不来方高校でこの教師は顧問を継続するのです。ここには、学校の対応だけではなくて、県教委の対応がきわめて不適切であったということが示されていると思うけれども、民事訴訟への対応、第一審、第二審とも有罪になった。暴力・暴言の事実・実態に背を向けてきたというところに、私は県教委の最大の問題があるのではないかと思いますがいかがですか。
【教育企画推進監兼服務管理監】
訴訟対応の過程で明らかになった事実への対応についてでございます。再発防止「岩手モデル」では、当時の県教育委員会の対応に関し、訴訟対応に終始し、いじめ事案調査や訴訟対応の過程で明らかになった暴力・暴言の情報等を踏まえて、顧問を外すなどの対応について、学校に対する具体的な指示や情報共有を怠ったことについて、不適切であったと総括したところでございます。
この総括結果を踏まえ、教職員等による不適切な指導が判明した際に、迅速な対応を行うということで、今般服務管理監を設置したところでございます。今後服務管理監を中心に、学校や県教育委員会事務局関係室課と情報共有を図るとともに、迅速な事実確認を行い、適切に対応していきたいと考えております。
【斉藤委員】
実は一審判決を受けて、被害者家族が教育長・教育委員一人ひとりに徹底調査を求めた。これは教育委員会議で議論になったのでしょうか。
【教職員課総括課長】
被害者家族からの所感が3回訂正をされておりまして、その取り扱いについて教育委員会内部での議論をしたところでございます。その当時の判断としまして、訴訟が継続中だということもあり、まず訴訟の中でさまざまな、家族からのご意向は、公正中立な第三者による事実の究明というご要望でございましたが、裁判の中で事実が明らかになるものということで、裁判の対応に注力するという結論に至ったものと承知をしております。
【斉藤委員】
二審までやりましたが、一審の判決は出ているわけです。二審はもっと厳しい判決になった。
だから結局、あなた方が反省しているように、裁判の過程で明らかになった暴力・暴言について、県教委は1回も正面からまともに立ち向かわなかった。無視した。事件が起きた7月3日というのは二審の最中なんですよ。
そして陳述書が出された。これが一番リアルな証言だったと思うけれども、後輩の部員が恒常的に大変厳しい叱責・暴言がバレー部であったという陳述書は、自死事件が起きる数日前でした。今回のモデルには、この陳述書のそういうことも書いていた。しかしそれも無視したのです。だからそういう意味では、学校の責任もそうだけれども、やはり教育委員会に直接直訴、3回も直訴されながら、最後まで、事件が起こるまで県教委自身がこれに正面から対応しようとしなかったのではないか。これは教育長に聞きましょう。
【教育長】
「岩手モデル」を策定する中で、理由の解明チームにおきまして、前任校事案まで遡り調査する過程の中で、学校のみならず教育委員会にも不適切であったと言わざるを得ないような事実を確認したということは、いま委員から指摘があった通りでございます。一方で、我々もこの「岩手モデル」策定を進めることと並行して、そこに職員の非違行為がある場合はしっかり措置するということで、当該顧問、懲戒免職となりましたが、それ以外にも学校の管理監督者、教育委員会以外の担当者も処分したということでございまして、我々としてもそこは過去の事例ではございますがしっかりと我々として対応すべきところは対応してきたという風な認識でございます。
【斉藤委員】
だから、教育委員一人ひとりに3回直訴されているんですね。3回とも無視されたと。教育委員会・教育委員の対応も問われたのだと。合わせてしっかりそのことも明らかにしてほしい。
陳述書の問題について私はこの場でも何回か取り上げたけれども、あなた方の回答は「改めて調査したけれどもその事実は確認できなかった」というものでした。あなた方は確認して「岩手モデル」に書いたのですね。陳述書の中身は事実だと確認して書いたということでいいですか。
【教職員課総括課長】
陳述書も踏まえて調査し、あとは懲戒処分を行う段で、さまざま当時のバレー部員からも体罰・暴言の事実があったことを確認をいたしまして、処分を行ったものでございますので、陳述書の内容については事実だと受け止めております。
【斉藤委員】
それは認識が発展したのだと思います。私はこの委員会で取り上げたときには、県教委の調査では「その事実は確認されなかった」と言っていたので。それは重大なことです。ただここに書かれたことはあなた方の認識が調査を踏まえて発展したのだと思います。
それで、実は12回の策定委員会が開かれましたが、10回目が終わって7人の外部委員のうち5名の外部委員が連名で「調査検証委員会設置を求める要望書」を10月31日付で教育長宛に提出しました。これは「岩手モデル」はしっかり作ってもらいたいと。しかし盛岡一高事件の検証は、10回やったけれども十分解明されないと。それは内輪の調査にとどまっているからだと。県教委内部の調査にとどまっているからだということで、第三者の調査委員会設置を求める異例の要望書が出されました。これについて県教委はどう対応しているか。要望された方々はどうなっているか示してください。
【教育企画推進監兼服務管理監】
調査検証委員会設置を求める要望書への検討状況についてでございますが、要望書では、「『岩手モデル』を早急に完成させることを大前提とした上で、盛岡一高事案についての調査・検証は、モデルの策定から完全に独立させ、新たな調査検証委員会を立ち上げ実施することが望ましい」などと述べられたところでございます。
この要望書も踏まえ、「岩手モデル」策定に注力するとともに、並行して要望書への対応について慎重に検討を行ってきました。検討の結果、民事訴訟の過程において、事実認定が行われているほか、県教育委員会としても再発防止「岩手モデル」策定の過程において、当時の学校及び県教育委員会関係者に対し、可能な限りの調査を行っており、当時の事実は相当程度明らかになっていること、事実関係の部分で見解等に相違がある部分について、被害生徒、保護者様のご認識を再発防止「岩手モデル」の資料編に併記して整理していること、事案発生から相当期間が経過していることから、当時の関係者の記憶が定かでない状況であり、調査を第三者に委ねた場合においても、新たな事実が明らかになることが期待できないと考えることから、県教育委員会としては調査検証委員会を設置しないこととし、先般5名の外部委員に対し回答したところでございます。
【斉藤委員】
7名の外部委員のうち5名がこういう要望書を出したことに大変重大な問題があると思います。
モデルでは、専門家による検証を行うと。この専門家の選任、検証は、「岩手モデル」策定委員会に関わった専門家が適切だと思うけれども、いつ、どのように選任して、どのような検証サイクルで進めるのか示してください。
【教育企画推進監兼服務管理監】
学校及び県教育委員会における「岩手モデル」の推進状況や事案への対応状況等についての自己点検と外部専門家による点検等の具体的な方法については、外部専門家の選定も含め現在検討を進めているところでございます。
将来にわたってモデルの実効性を維持することができるよう、継続的な点検と不断の見直しを行ってまいります。