2024年7月4日 6月定例県議会最終本会議
高田一郎県議の発議案に対する反対討論


持続可能な農業・農村の実現と食料安全保障の強化を求める意見書

 日本共産党の高田一郎でございます。
 発議案第3号、「持続可能な農業・農村の実現と食料安全保障の強化を求める意見書」に反対の立場で討論を行います。
 ただいま提案されました意見書案では、先の国会で成立した「『食糧・農業・農村基本法』に沿った『基本計画』の具体化を図る」とともに、「食料供給困難事態対策法」について、国民の理解が得られるよう国に万全の対応を求める意見書となっています。
 今回の食料・農業・農村基本法は、第一に、これまでの基本法の唯一の目標としてきた食料自給率の向上目標を「その他の目標」の一つに格下げし、そして国政の課題としてまともに追及する姿勢を投げ捨ててしまいました。さらにこれまで、食料の安定供給は国内生産の増大を図ることを基本とし、輸入及び備蓄を適切に組み合わせるとしていたものを、今回の改定では「輸入」について「安定的な輸入の確保」に置き換えてしまいました。この間義務でもないミニマムアクセス米は毎年毎年77万トン(国内生産量の1割)カレントアクセスなど乳製品の輸入に対して、農家に生産調整、乳牛の淘汰などを求めてきましたが、さらに輸入依存あるいは拡充する「輸入継続宣言」となってしまいました。
 食料・農業・農村基本法見直しに乗り出した背景には、深刻化する気候危機、コロナ禍、ウクライナ戦争など新興国の食料の増大、飢餓人口の増加など近年の世界の食糧事情があるいます。新しい基本法の改定は、そうした世界の食糧情勢が求める方向とも、消費者、農家の求める願いにも逆行するものとなりました。
 第二に、今日の危機を招いた農政に対する検証と反省がないまま、これまでのその基本路線をさらに進めるもので、危機打開どころかさらに深刻にさせる基本法となっています。
 いま国の農政に求められているのは「再生産可能な農産物価格」の実現であります。肥料、飼料、燃料など資材価格がかつてなく高騰する一方、農畜産物の価格は低迷し、農業経営の破たんが急速に広がっているからであります。実際、稲作経営でいえば農家の平均所得は実に時給10円、酪農は餌代高騰で絞れば絞るほど赤字、2022年の所得は全国平均マイナス49万円という悲惨な事態であります。日本から酪農の灯が消えかねない事態となっています。1961年施行の基本法では、「農業は他産業に比べ自然的、社会的、経済的に不利がありその格差を埋めるのは国の責任」と明記しました。それが都市勤労者並みの所得を保障する政府買い入れ米価の根拠にもなっておりました。しかしそうした理念を投げ捨てて、農産物を市場原理にゆだねて価格下落を放棄してきたのであります。
 政府は国会審議の中で、価格保障・所得補償は「農業者の生産向上の意欲を注ぐ」として拒否し、今回の基本法には「国は食料の持続的な供給に要する合理的な費用が考慮されるよう関係者の理解の増進、合理的な費用の明確化」が盛り込まれました。結局、消費者、食品加工業、流通業界などの考慮・理解にゆだねるだけであります。
 農業の担い手政策についても、これまでの大規模化路線を一段と加速しょうとしています。これまで小規模農家は、非効率だといって淘汰してきましたが、新しい基本法では「効率的・安定的な農業経営が農業生産の相当部分を担う農業構造」―これを「望まし農業構造」に位置付けています。しかし、「望ましい農業構造」は破たんし、農業基幹従事者は2000年の240万人から2023年には116万人と半減し、農村が維持できない危機的事態であります。
 三菱総研が昨年7月、我が国の中長期的な穀物の見通しを示しました。農業経営体の激減で2050年には主食用米が最大156万トン不足する、コメと麦などを200万トン追加輸入する事態になると警告しています。三菱総研の描くシナリオは絵空事といって無視することはできません。そしてその期に及んで従来路線に固執し、自給率向上を投げ捨てるところに新しい基本法の行き詰まりがあります。
 加えて、意見書では「食料供給困難事態対策法」の周知やこれに対する財政措置を求めています。新しい基本法では「不測時における措置」を新設し、これの具体化を図るものが「食料供給困難事態対策法」で戦時食料法とも言える法律となっています。不測の事態に備えるというのであれば、政府がやるべきことは、平時から国内増産に取り組み食料自給率を向上させることです。自由である作付けの増産や転換を強要し罰金まで科すことは、自己の従事する職業を決定する自由の保障を含む憲法22条を侵害しかねません。岸田政権の戦争する国づくりを目指す安保3文書と軌を一にしたものであります。「十分な制度周知や財政措置」ではなく、廃止こそ求めていくべきものです。新しい食料・農業・農村基本法では国民の食の安定的確保ができません。食料の安全保障というのであれば、歯止めなき輸入自由化、市場任せの農政を転換し、価格保障・所得補償で農業の持続的な発展や農村の振興を図り自給率を高めるべきであります。
 以上が反対する理由であります。ご清聴ありがとうございました。